ジョイポリスで璃奈ちゃんの初ライブが控えているのに、作曲担当のコウくんのパソコンが壊れちゃった!一体全体どうなっちゃうの~!?
「―――と言うわけなんだ」
コウ先輩による衝撃のカミングアウトから数分後。
事の経緯を話してくれたコウ先輩は話を締めくくるようにそう言い、申し訳なさそうに私たちを見回す。
「突然パソコンの電源が付かなくなっちゃうなんて災難だったねコウ君」
「……まあでもここ最近はずっと
心配そうにそう言った歩夢さんにバツの悪そうな表情で答えるコウ先輩
―――”酷使し続けていた
少なくともこの場にいる全員がその理由について察しが付いていたし、それが彼一人のせいだとは誰一人思っていない。
「だから決して璃奈ちゃんの曲を作れないとか、そうことじゃなくて……」
「大丈夫、分かってる」
申し訳なさそうに話すコウ先輩に私もそう答える。
先ほど話を聞いた時は驚きもしたが理由が分かれば納得も出来る。むしろそれだけ私たちの為に頑張ってくれているのは嬉しいことだ。
「それでは今日の同好会の参加が遅れると言っていたのも……」
「ああ、壊れたパソコンの修理を依頼しててそれでな」
「もう修理の依頼はしたんだね、いつ頃までかかるとかは言ってたの?」
「……うん」
せつ菜さんと侑さんの問いかけに気まずそうな表情を見せたコウ先輩。そのせいか全員の視線は自然と彼に集まってしまう。
視線を泳がせていたコウ先輩だったが、逆に注目の的になっていることに気づいたのか、数秒沈黙した後にゆっくりと顔を上げ、口を開いた。
「―――来週の土曜日」
彼の口から告げられた日程は奇しくも私がジョイポリスでライブを行う日取りと同じ日程であり、同時にそれはその日まで曲を完成させるのは難しいということを意味していた。
「コウのやり方ならさ、その日までに曲を作ってパソコンが戻ってきたらすぐに曲の打ち込みに取り組めば……」
「……出来なくはないけど、ライブが日中であることを考えると間に合うかギリ、かな」
侑さんの意見に賛同するように数名が頷き、コウ先輩もそう答える。しかし―――。
「それはダメね。いくら何でもリスクが高すぎるし、何よりコウ君への負担が大きいわ」
その考えを否定するように果林さんが口を挟む。
確かに作曲自体、無理をすればそういった方法もなくはないが、果林さんが言う通りリスクが高い。
第一にパソコンを修理に出したとなれば、修理にかかる日数を考えるとお店から専門の修理工場に運ばれた可能性が高く、そこで修理を行いお店に帰ってくるという一般的な修理方式なのだろうが……。
「コウさん、修理に出された時にパソコン内のデータについて何かおっしゃられていませんでしたか?」
私の考えを代弁するようにせつ菜さんがコウ先輩に問いかける。
「えっ?えっーと……あっ!確かに店員さんがデータが消える可能性について話してた気がする……」
「それなら尚更ね。戻ってきてからデータがあるかないかの博打をするより別の方法を模索するべきだわ。と言っても私も何か良い方法が思いついてるわけではないけど……」
「必要なデータはクラウドに預けてあるから大丈夫って思ってたけど、確かにデータが消えてた場合、作曲ソフトから何から入れ直す必要があるから、少し難しいかも知れないな……」
そうして話は振り出しに戻る。
頭を悩ませる私たちだったがパッと何か妙案が思い浮かぶわけでもなく部室に沈黙が流れる。
―――皆、困ってる。
部室の空気にそう感じ取った私は、そもそもの根本が私が急にライブをお願いしたことが原因であることを思い出し、少し考えた後ゆっくりと手を挙げた。
「おっ、りなりー。何か良い案思いついた?」
私の挙手に真っ先に気づいてくれた愛さんが、皆にも伝わるように応え全員の視線が私を向く。
「その、やっぱりライブの日程をズラしてもらった方がいいのかなって……」
私の発言に僅かな動揺が部室に広がるのを感じる。だけど皆に迷惑をかけるぐらいなら。
「元々は私が勝手に言い出しちゃったことだったから、クラスの子たちにもちゃんと説明して次の機会にでも……」
「でも、昨日聞いた時にもたまたま空いてたのが次の土曜日だけって話だったよね?」
「そうだよ、ジョイポリスのステージ人気みたいだから次に取れるのがいつかも分からないんじゃ、璃奈ちゃんのステージもいつになるか……」
侑さんと歩夢さんがそう言ってくれるが、今は状況も状況だ。
ただ私のタイミングが悪かっただけであり、クラスの子たちにも誠心誠意謝っていつかのステージに来てもらうようお願いすれば……。
「―――いや、それはナシかな」
ハッキリとした言葉で私の考えを否定する声。
その声の主の方を向くと、彼も私と視線を合わせるように身体の向きを変え、向かい合うように座り直した。
「……コウ先輩」
コウ先輩は私と視線が合うと、柔らかく微笑み言葉を続けた。
「璃奈ちゃんさっき言ってくれたよね。頑張ってみたいって、皆にステージ見て欲しいって」
コウ先輩はそう言いながら席を立つと、視線を合わせたままゆっくりとした足取りで私の元へ歩み寄り、片膝をついてしゃがみ込んだ。
「―――だったら俺はそれを叶えるだけだよ。璃奈ちゃんは何も心配せず俺を信じてくれればそれで良い。ね?」
「コウ先輩……」
私の手を優しく握り微笑んでくれたコウ先輩。
だったのだが―――。
「……にしてもそれはちょっとカッコつけ過ぎじゃない?」
不意にそんな言葉が投げ付けられ、その声の主―――侑さんにギョロっとした視線をぶつけるコウ先輩。
「ゆ~う~……お前今良いとこだっただろうが……」
「いやコウは昔からそうなんだけどさ、今のだって座り直したんならそのまま言えばいいのに、わざわざ璃奈ちゃんのそばまで行って手を取るなんてさ……フフッ」
「高咲ィ、お前には後で話があるからちょっと残れ……」
「……た、確かに言われてみればそうよね……フフッ、何で立ち上がったのかしら」
「ちょ、ちょっと朝香先輩まで、わ、笑わないでくださいよ……」
クスクスと笑う二人に羞恥心を感じてきたのか小刻みに震えるコウ先輩
「わ、私はそんなコウくんもカッコいいと思ってるよ!」
「歩夢ちゃんの言う通り、私の時のコウくんもすっごくカッコ良かったよ?」
「うんうん、かすみんもコウせんぱ……ちょっと待ってくださいエマ先輩、私の時のってそれどういう意味ですか?」
「もうやめてよぉ!俺が何をしたっていうのよ!」
どっと湧き上がる笑い。思わず赤くした顔を覆ったコウ先輩。
そのおかげか少しだけ部室の空気が柔らかく、和んだ気がした。
◇
「それで実際のところ曲作りはどうするの、しもみー」
少し和らいだ空気の中で、変わらない問題を問いかける愛さん。
コウ先輩自身ああは言ってくれたが、現状の問題が解決したわけではない。どこかしら曲を作れる環境を見つけなくては先には進めないのが今の現実。
「そうだな、ちゃんと考えなくちゃってのは勿論あるんだけど」
「やっぱりさっきのカッコつけじゃん」
「ちょっと高咲さんうるさい」
そう言いつつ、何か考える素振りを見せるコウ先輩。
「せつ菜、相談があるんだけど、学校にあるパソコンって少しの間だけ借りられたりしないかな?」
「え?ど、どうでしょう。授業で使うデバイスであれば貸出用のものはありますが、パソコンまで貸し出していたかは分かりませんね……」
「まあーそりゃそうだよな……」
コウ先輩の意図を察する。
確かに虹ヶ咲学園で利用しているパソコンは多岐に渡る学科の授業にも対応出来る様、スペックの高いパソコンが導入されており、コウ先輩が使っているようなDTMソフトは勿論、動画編集や3Dを駆使した作業も行うことが出来るパソコンだ。
期間が限られている中で、身近にあってDTMソフトを簡単に動かせるパソコンと考えれば白羽の矢が立つのも頷ける。
「同好会にあるパソコンをこっそり持って帰るって方法もなくはないが、そもそも
「……ごめんなさい、例えコウさん相手であっても無許可で学校の備品を持ち出すのは、生徒会長として見過ごすわけには…」
「せつ菜さんの立場としても難しいですよね……」
しょんぼりとするせつ菜さんに同情するようにしずくちゃんもそう言う。
「大丈夫だよ、せつ菜の表の立場もあるしそこは分かってるつもり。とりあえず玉砕覚悟で聞いてきてみるしかないかなー……」
難しそうな表情を浮かべるコウ先輩。他の皆も代替出来る案がないか考えてみるが。
「あ、コウ!それならさ、私の家にあるパソコンで作業したらどう?あのパソコン今は誰も使ってないし、私の家なら作業が遅くなってもお家の方で寝泊まりすればいいと思うし、どうかな?!」
そんな中、不意に立ち上がった侑さんが意気揚々とそう言い、コウ先輩へと笑顔を向ける。
しかし―――。
「……気持ちは嬉しいけど、侑の言うパソコンって
侑さんの言葉に聞き覚えがあったのか恐る恐るといった様子で聞き返したコウ先輩
「そうそう!昔、私と歩夢とコウでさ、ピンボールとかエアホッケーとかしてたじゃん!エアホッケー、途中まで順調に進んでたんだけどいきなり相手がめちゃくちゃ強くなっちゃって、私も歩夢も途中で諦めちゃったけど、コウだけは全然諦めなくて最終的には勝ったんだけど夜遅くなっちゃって、そのままお泊り会したやつ!」
「あったね。あの時のコウくんの真剣な表情カッコ良かったな~」
早口でまくし立てる侑さんに、その真剣な表情と言うのを思い出しているのか恍惚とした表情を浮かべる歩夢さん。
だけど本題はそこではなく―――。
「コウ先輩、侑さんの言うパソコンって……」
「え、ああ、うん……かなり昔のやつ」
ピンボールとエアホッケーがあって、かつ途中から相手が強くなるゲームが入っているパソコンと言われれば何となく察しが付く。恐らく侑さんの言うパソコンと言うのは、今より10年以上前に主流だったシステムが入っているパソコンだろう。
エアホッケーは最近復刻されたりもしているが、今のを聞く限りそんな最近の話でもないだろう。
「それで、どうかなコウ!もし遅くにお家に帰るのが難しいんなら最悪私の家で泊まればいいしさ!いい案だと思うんだよね!」
そんなことはつゆ知らず、嬉々として話を進める侑さん。
「案自体は悪くないと思うけど、あのパソコンじゃちょっと性能不足かな」
「ええー!?あのパソコン買った当時は一番高かったし大丈夫だよー!」
「そりゃその当時はな……」
一歩も譲らぬといった様子でコウ先輩に詰め寄る侑さん。
そんな彼女をなだめながらも、何故かいつもより押しの強い侑さんに押され気味な様子のコウ先輩。
その周りでは先ほどの侑さんの話で何かを思い付いたのか手元のスマートフォンで調べものを始めた様子のかすみちゃんとエマさん。
他のメンバーも皆一様に今の問題を打破する解決案を考えているような様子であった。
しかしその中で私はふと違和感を感じ、隣に座る―――愛さんに視線を向けた。
愛さんはコウ先輩と侑さんの様子を見ているようだったが、違和感を感じたのはその姿。
いつもの愛さんであればかすみちゃんやエマさんと一緒にDTMソフトが使えるパソコンについて調べていたとしても何らおかしくはない状況。
しかし彼女は隣に座ったまま、まるで何かを待っているような、そんな様子にも見えた。
「―――愛さ……」
そう言いかけた時、不意に目が合う。
愛さんは優しい表情のまま、私のことを見つめゆっくりと頷いた。
一瞬、その行動の意味が分からなかった私だったが、微笑むように見つめる瞳に一つの考えが頭を過ぎる。
「……あ」
察した様子の私に笑顔を浮かべ、
私もそれに遅れるように前を向く。
不安もある―――だけど。
『だったら俺はそれを叶えるだけだよ』
“そう”言ってくれた彼に―――。
『璃奈ちゃんは何も心配せず俺を信じてくれればそれで良い。ね?』
“こう”言ってくれた彼に―――。
「あ、あの―――!」
椅子から立ち上がった私に全員の視線が向けられる。
突然のことだったせいか呆気を取られた様子のコウ先輩。そんな彼に向け、口を開く。
「わ、私―――!」
―――
お久しぶりの投稿!
前回投稿からまだ1年経ってないのでエタってないよ!
もうちょっとで6thBDも出るし、9月に映画もあるし、7thライブも初日当選済ですし楽しみがいっぱいだ!!