虹を繋いで   作:うめ茶漬け

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06 けじめ

「―――終わりにしましょう、私たちの関係も」

 

 せつ菜―――菜々から廃部にするというメッセージが届いた翌日の放課後

 夕日に照らされる生徒会室で俺と菜々は生徒会長のデスクを挟んで対峙していた。

 

 この場所で記憶に新しいのは完成したばかりの「CHASE!」を披露したあの日。

 だけど今はあの時は違ってソファに腰かけて話をする余裕なんてなかった。

 

「―――終わりにしましょうって、だからなんでそういう話になってんだよ!!」

 

 自分でも頭に血が上っているのか熱くなっているのが分かる。

 女子に向かって声を荒げるとかだせえな俺。

 

 自己分析は出来ても冷静になんかいられない。それほどに菜々からのメッセージは衝撃だったのだ。

 

「……かすみさん達から聞いてないんですか」

「かすみは教えてくれなかった、しずくからはせつ菜と話してくれって言われたよ。それに俺も菜々の口から直接聞きたい」

 

 菜々の意向でせつ菜の正体が生徒会長の中川菜々ということは俺以外知らない。練習以外でのせつ菜との連絡は基本俺を通して送ることになっている。

 

 だからこそ彼女たち(しずくたち)は俺を頼ったのだ。少なくとも俺はそれに答えたい。

 

 夕日に照らされ影を落とした菜々は重々しく口を開く。

 

「……ただ私が皆さんを傷付けてしまったんです」

「だからそれはこの間みたいにちょっと熱が入っちゃっただけだろ?」

 

 菜々の肩が小さく震える。どうやら彼女にとっても記憶に新しいようだ。

 

 先日、練習終わりに差し入れに向かった時の一幕。

 練習場所であるテラスで見たせつ菜の姿。確かにあの時は驚いたが、一生懸命頑張っている練習の中で思わず熱が入りすぎてしまうのなんて当たり前のことだ。

 

「……それが、どうしてこんなことに」

 

 その場にいたわけでも、練習も見ていたわけでもない俺が、今更とやかく言えた義理じゃないことは分かってる。それは分かっているけど。

 

「私が……私が皆さんのやりたいことを否定して、自分のことばかり押し付けてしまったんです」

「だからそれは仲間内でちょっとぶつかっちゃっただけだろ!お互い頭を冷やせば考えだって変わって……」

「いえ、多分根本的なものだと思います。私は熱くなるとどうにも周りが見えなくなってしまうみたいなんです」

 

 そう言い何かを諦めたように視線を落とす菜々の瞳は、苦しそうで悲しそうで。

 これが彼女なりのけじめだとしても、それをどうにかしたくて俺は言葉を探していた。

 

「それなら俺がそばで見てるよ!間違ってたら教える!言い過ぎたら叱る!それなら―――」

 

 だけど絞り出てきたのはそんなその場しのぎの言葉だけで。

 

「私のわがままでここまで付き合ってもらったのに、これ以上コウさんに迷惑はかけられません」

「俺がやりたくて提案してんだ。別にお前を見てるぐらい、一か月前まで当たり前のことだっただろ!」

 

 菜々から優木せつ菜の計画について聞かされてから、新入生歓迎会までのおよそ半年、生徒会室をはじめ色んな菜々のことを見てきたんだ、今更負担なんてことはない。

 

「それでも一度生まれた溝は埋まらない。私はそれだけのことをしたんです」

 

 こちらに背を向け、生徒会室の窓から沈みゆく夕日を見つめ菜々は言葉を続ける。

 

「自分のことだから分かるんです、こんなんじゃラブライブ!なんて夢のまた夢です」

 

 あの日、スクールアイドル同好会が発足した日。

 笑顔のせつ菜が掲げた目標―――ラブライブ!が今のままでは叶わない夢なんだと、半ば諦めたように呟く菜々の姿に胸が締め付けられるような感覚に襲われる。

 

「でも、それでも、やってみねえと分かんねえだろ……」

 

 伝えなくちゃいけないことがある筈なのに、言葉にしなきゃ伝わらないものがある筈なのに。

 いつもは真っ直ぐと見れる彼女の瞳も今は合わせることすら叶わない。

 

「それに今の同好会を廃部した後、もう一度同好会を作ることまでは禁止していませんよ。……また一から頑張ればラブライブ!の出場だってきっと」

 

 菜々の口から出たその言葉に思わず目を見開く。

 

「……ダメだろそれは、そんなの―――そんなのお前がっ!」

 

「ええ、優木せつ菜だけが消えてすべて元通りの同好会です。次は部長でもやってみたらどうですか?向いてるんじゃないですか私よりずっと」

 

 聞きたくなかった分かりたくなかった、今の言葉が菜々の―――せつ菜の口から出ただなんて。

 彼女の言う通りだったとしても、例えそうだったとしても、それは彼女の―――俺たちの優木せつ菜の全否定になる。

 

 彼女の“大好き(優木せつ菜)”を否定してまでも成したい目標などはない。

 

「―――やらないよ。せつ菜が辞めるなら、俺も活動は続けない」

 

「……そう、ですか」

 

 俺の言葉に一瞬だけこちらを向いた菜々だったが、すぐに視線を外し背を向けた。

 嫌な静けさがその場を支配する。いつもはなんてことない静寂もその日は今すぐにでも逃げ出したいほど嫌で。

 

「……お披露目ライブはどうすんだよ」

「明後日は私が出ます、このままパフォーマンスしても意味がありませんから」

 

「……そうか、分かったよ。俺も見に行くよ必ず」

 

「ありがとうございます。そうですね、あなたと私とで作った優木せつ菜の卒業ライブですからね―――どうかあなたも楽しんでいって下さい」

 

「ああ、そうするよ―――せつ菜」

 

 君と俺とで作った彼女(優木せつ菜)の名で応え、生徒会室の外へと歩き出す。

 生徒会室の扉がいつにも増して重く感じて。扉が閉まる数秒が何時間にも感じられて。

 

 扉の閉まる最後、その隙間から見えた菜々の頬に光った何か(・・)を拭う方法を俺はまだ知らなくて。

 

 そんな自分が不甲斐なくて、無力で。

 強く噛み締めた下唇からは鉄の味がした。

 

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