虹を繋いで   作:うめ茶漬け

9 / 44
09 可愛い後輩

「……」

「……」

 

「ゆ、侑先輩、なんであの二人あんな気まずそうなんですか……?」

「あはは……ちょ、ちょっと昔に色々あってね」

 

 お台場の商業施設から少し離れた潮風公園―――そこで俺は予期せぬ再会を果たした。

 

 高咲侑、そして―――上原歩夢。

 同じ虹ヶ咲学園に通う同級生。

 とは言えど、クラスも学科も違う為学校で出会うことなんて今まで一度もなかった。

 

 いやー――俺は避けてきたのだ。

 彼女たちと会うことを。

 

「―――かすみ」

 

「ひゃあ!は、はい!」

 

 かすみはびっくりしたように肩を震わせ、恐る恐るといった表情でこちらを見る。

 そんなかすみの手を掴み、少々強引にその場から離れ、人目の付かない場所へと移動するのだった。

 

 

 ◇

 

 

「聞いてないぞ他にも人がいるなんて……!」

「え、えっと、先輩を驚かせようとかすみんなりの可愛いサプライズを……」

 

 驚かせようと、という点では彼女の計画は成功しているが。もっと別な良いリアクションの取れる驚かせ方もあるだろうが。

 なんて思わず怒ってしまいそうだったが、先日のこともあり強くは言いずらい。

 

 しかしまあ先ほどの話を聞く限りでは歩夢にフラれたことはバレてないみたいだし、その点は安心していいだろう。

 

「で、何でかすみがあの二人と一緒にいるんだよ」

「新入部員なんですよ。侑先輩も歩夢先輩も」

 

 彼女の言う新入部員というのは“スクールアイドル同好会の”という意味が付くのだろうが。

 

「帰る」

「えええ!!ちょ、ちょっと待ってくださいよコウ先輩ぃ!」

 

 端的にそう告げ、背を向けた俺の腕にしがみ付き移動させまいと粘るのだが。

 

「と言うか他の同好会メンバーはどうしたんだ、今日は一緒じゃないのか」

「……しず子は演劇部に行っちゃって、彼方先輩とエマ先輩には連絡が付かなくて…」

 

 落胆したように肩をがっくりと下ろし、弱々しく呟いたかすみ―――それで俺に白羽の矢が立ったというわけか。

 

「お願いしますぅ先輩っ、かすみんにはもう先輩しか頼れる人がいないんですよぉ♡」

 

 正面に向き合ったかすみは、胸元でこぶしを作り、潤んだ瞳でそう懇願をする。

 彼女の甘え声は正直男心をくすぐられる。見た目が可愛いこともあってかその威力は想像以上だ。

 

 しかし、だからと言って全部が全部やること成すことに寛大になれるほど、俺は人間として出来ていない。それに先ほどかすみ自身から言われたようにあの二人と―――特に歩夢と一緒にいるのは単純に“気まずい”のだ。

 

「いや、でもな……」

 

 こちらの事情が事情と言うこともあって、かすみのお願いに二つ返事で答えるわけにもいかない。内容次第と言いたいところだが、俺としてはすぐさまこの場を離れたい気分なのだ。

 それに先ほどの朝香先輩のこともあり、脳みそが少々オーバーヒート気味なのだ。

 

「……何か手伝えそうなことがあったら(・・・・・・・・・・・・・・・)力になる(・・・・)って言ってくれたじゃないですか」

 

 そう頭を悩ませていると、ポツリとかすみの口から出た言葉

 そちらを見ると、先ほどの演技(潤んだ瞳)とは違い、目いっぱいに涙を溜めこんだかすみがこちらを見上げおり、震える声で言葉を続ける。

 

「かすみんもコウ先輩に頼りすぎてたんだって分かりました、同好会のこと、せつ菜先輩のこと。だから―――今度はかすみんが頑張りたいんです」

 

 真っ直ぐと見つめる視線から目を離すことはが出来なかった。

 それほどに真紅に輝く瞳は綺麗で美しく、彼女の熱意がこもっていて。

 

「先輩にまた同好会に戻って来て欲しいなんて、かすみん達には言える資格ないです。でも―――でもっ」

 

 気付けばポロポロと涙を流すかすみがいて

 彼女は真っ直ぐと俺を見つめて、涙声ながらも思いを伝えてくれた。

 

「あ˝のまま……終わりなんて嫌だから…っ!」

 

 あの日、最悪の形で俺たちの虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会は幕を下ろした。

 

 せつ菜の“大好き”を守れず、エマ先輩に悲しい顔をさせて、彼方先輩にも辛い思いをさせ、しずくには最後まで気を使わせて、かすみの笑顔を守れなかった。

 

 そんな最後だったということもあり、あれから彼女たちとまともに話してこなかった。そんな資格、俺にはないと逃げていたんだ。

 

 だから宮下の練習相手にも付き合ったし断らなかった、時間をズラして会えない口実を作っていた。そう考えると昔から何一つ変わってないな俺って。

 

 それでも、そんな俺との関係を大切に思ってくれる子がいて。

 繋ぎとめようとしてくれる子がいるー――これを幸せ者と言わず何というか。

 

 そう思うと、目の前で一生懸命に話す彼女が途端に愛おしく感じた。

 

「だ、だからお手伝いはほんのちょっとで頑張るかすみんの姿を―――って先輩?」

 

 首を傾げるかすみの髪に手を伸ばし髪を撫でる。

 

 かすみは驚いた様子で撫でる手の流れに、右左と身体を動かされながら「ちょ、せ、先輩!」やら「か、髪が!」などと慌てているが、それでも彼女の姿は何一つ変わっていなかった(・・・・・・・・・・・・)

 

 ひとしきり撫で終わると、かすみは息を切らしながら手ぐしで髪を整え、ジットリとした目でこちらを睨み、口をすぼめる。

 

「も、もうっ!何してるんですか先輩、かすみんの髪が―――」

「―――大丈夫、どんなかすみでも可愛いよ」

 

 綺麗な艶髪を整えていた手ぐしが止まる。

 一瞬キョトンとした顔を見せるかすみだったが、すぐに顔を茹でだこのように赤くさせ、そっぽを向いた。

 

「あ、あっー!さ、さては先輩もかすみんの健気な可愛さに当てられちゃったというわけですか!ま、まったく先輩ってば―――」

「―――うん、本当にそうかも知れない。本気で―――可愛い」

「ふぇっ!?」

 

 畳みかけるように口から出た言葉にかすみの顔は耳まで真っ赤になり、しゃがみこんでしまう。キャラに似合わず言い過ぎたかな、それでも今伝えたかった。

 

 かすみは真っ赤になった頬を冷ますように手でパタパタを仰いでいるが、少し話が長引いてしまったようだ。先ほどの場所で待っているであろう侑と歩夢に申し訳ない。

 

 俺はしゃがみ込むかすみに手を差し伸べる。

 

「それで俺は何を手伝えばいいんだ」

「!!て、手伝ってくれるんですか?」

 

 バッと顔を上げたかすみは真ん丸と目を見開き、驚きとも喜びとも取れる声を上げた。

 

「まあ、可愛い後輩の頼みだ。俺に出来ることがあれば」

「も、もう先輩、さっきからかすみんにメロメロじゃないですか~♡」

 

 差し伸べた手を取り、かすみは立ち上がる。

 立ち上がったかすみは頬に手を当てて、嬉しそうにクネクネと身体を動かしていた。

 

 ん?待てよ、今の状況を冷静に考えると“後輩の泣き落としに堕とされた先輩”みたいな関係になっていないか……?

 

 冷静な分析をしながら、横目でかすみの方を見る。

 彼女は先ほどと変わらず嬉しそうな満面の笑みを浮かべており。そんなかすみの横顔を見たら泣き落としだとか堕とされたとかどうでも良くなっちまった。本当チョロいなあ俺って。

 

「じゃあ戻りましょうか、侑先輩と歩夢先輩たちの元へ!」

 

 

 可愛い後輩の頼みだ、気まずいけど頑張りますか。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。