――私があの人のことを知っていることなど微々たるものだろう
あの人、と表現するのは私の中で完結出来る呼称が見つからなかったからだ。彼と言えばいいのか、彼女と表現すべきなのだろうか?どちらもしっくりとはしなかった。
――性別は二つに一つしかないのだが、あの人にはそれがないように思えた
一人称は私、話し方も中性的でどちらとも取れるものを選んでいる。だからこそ性別などあの人にとって些細なことなのだろうとも理解した。……否、そもそもそういうことに拘りがないのだろう。好きに呼んでいいよ、その言葉通り名前を適当なモノを選んでも怒りはしなかった。
――私とあの人と過ごす時間は短かった
会話らしい会話もそれ程多くはない。私が描く川の土手での時間があの人との会う時間になっていた。会う日にちも不定期で私の気分が乗った時に描くものを眺めにたまに来る程度。知人以上友人未満といった関係だった。
――そんな関係であったからか、不思議と関係が続けられた
私はその距離感が居心地よくあの人を好ましく思っていた。何せ偏屈と称される程に人に無関心な私だ。余計な口を挟まぬあの人もそれを察していた節もあったようでそれもまた関係が続いた理由になっていた。何より、それ程長く続けていこうと思っていない意図も見えているから私もそれに倣うだけだった。
――互いに興味があるものがあったのもまた事実だ
打算的なものがあることも知っていたからこそ二人の共有する時間を長く続けていた。あの人も私の絵を眺めることもあったが決してそれだけをしている訳ではない。あの人自身何かすることがあるようで古めかしい書物を読んで互いに思い思いの好きな時間を過ごしていた。
――その時に、私は初めて呪術師という存在を知る
呪力から始まり呪霊、術式それから呪術師。嘘みたいな隠された裏の世界の現実を包み隠さずに話してくれた。この時私は何も知らぬことを自覚するが何も恥じることはないのだとあの人は笑った。
「一般の家でも呪術師が出ることは珍しくはないからね」
そう穏やかに言われてしまえば、私もそれ以上の言葉は見つからなかった。やんわりとした物腰と嘘偽りのない物言い、私にも分かりやすく掻い摘んで端的に物を述べるあの人の話は耳に入りやすく記憶できた。独自の見解、学者とも思える博学さは一朝一夕で身に着くことではない。私も絵を学ぶ上でそれこそ年数単位を刻んで知識を身に付けたのだが、あの人の呪術の知識はそれよりも遥かに年季が入っているように思えた。分類は違くとも、その知識量は敬服するに値した。
――私達はあの土手で互いに見解を述べて互いに知識を深めた
初めはあの呪霊は何を考えているのだろうか、ということで始まった会話。勿論私は素人にも同然であるからあの人に助けられた部分もあるが、話を飛躍させて更に深くのめり込んでいく。どんな人の思いでその呪力は呪霊に形を作るのか、力を与えるのか、どう行動するのか。
――総じて言えることは呪霊という化け物は人に害を与えるものだ
憎悪であっても、友愛であっても。人の思いは呪いだ。あの人を殺したいという憎悪が負の感情であるように、正である筈の感情の愛ですらも呪いになり得る。それはあの人と一緒に居たいという執着に成れの果てだ、愛もまた歪んだ呪いなのだ。
――そこに感情があるのならば呪力に変換されていく
非術師の持つ呪力は無意識に垂れ流されて呪いとなり、形となり呪霊となるのだ。呪霊という形となった呪いが人を襲うのもまた道理だった。
「仮に呪霊を無くすのならば君はどうする?」
あの人はそう提起する。まるで授業のようだと思いながら私は少しばかり呪霊について考える。人が生きる営みを行うように、彼らは彼らの在り方であろうしているだけだ。そこで呪術師が祓うという過程がありそこでも人が死ぬのだが、私達の世界はそうやって回っているのである。どうにも血生臭いのだがそれが現在の世界の現実だ。呪力の捻出をコントロール出来る呪術師ならばいざ知れず、非術師になってくるとどうにもならない。水栓のない蛇口をどうこうしようという話になってしまう。
――だったら非術師を全て殺せば呪霊はなくなるのだろうが、それは理想的ではない
それこそ極論だ。世界規模の総勢80億の中から一人一人殺すのは結構な苦労が見て取れる。ましてや人間を一人殺すのだから心の消耗は相当なモノだ。ただただ摩耗する未来しか見えてこない。
――仮に術師だけの世界になるとしよう
世界人口は現代のようになるのだろうか?術師同士で子供が生まれてもその子は果たして術師なのだろうか?疑問ばかりが浮かぶ。間引いてまた残り少ない術師だけを残すのだろうか、それを繰り返せば見える未来は人類の衰退と穏やかな滅亡しかなかった。
――食物連鎖が崩れぬように努めて、維持することしか出来ない
それが現状ではないのかと言えばあの人は手を叩く。パチパチと、素晴らしいとまるで子供を褒めるようにあの人は拍手喝采してみせた。
「確かに、今の人類ならばそうするしかないだろうね」
何にせよ、人類は一つ上の段階に進める必要はある。くつくつ、あの人は喉を鳴らし笑う。まるで笑いのツボに嵌ったように腹を抱えて笑う素振りを見せる。あの人の感性は掴み切れない私だがあの人はある程度笑い落ち着けば話を続けた。
「何故君は非術師を全て殺すことを考えたのかな?」
「そっちの方が簡単だから」
呪霊の発生は止められるものではない。どうやったって呪力が出るのならばコントロールが必要になってくる。全人類呪力をなくすか、使いこなすか。結局この二つに手段が絞られるのだ。だが呪力をコントロールさせる方法は非術師には難しいことなのだと思う。私は物覚えが悪いように、教えても分からないことはどうしたってあるのだ。感覚で覚えるのならきっと得意不得意は出てしまうのは明らかだ。
――出来ないなら仕方ないね、無理はしないでいいよ
呪霊が出るのならばそう言って優しくは出来ない、生死が関わっている。いっそ呪力が使いこなせる人間を残す方がいいのだ。呪術師を全て殺したらどうなるのか分からないのならばそっちの方が簡単だと答えればまたあの人は噴き出して笑う。……どうやら笑いの沸点が低くなっているようだ。
「いや、すまないね」
君の言い方が余りにもね、しかめっ面を見せる私にあの人は謝罪してきた。僅かに気が晴れた私に更に話を続けた。
「つまり私の言いたいことはね、全ては人間という呪力の可能性の形なんだ」
【非術師】、【術師】、【呪霊】。持たぬ者、持つ者、それから呪いそのもの。可能性だと表現するあの人の言葉は酷くしっくりと来た。形はどうあってもそれは人間が作り出すものだった。
「だがまだまだ、こんなものではないハズだ。人間の可能性は」
そうポツリと呟くあの人の声だけが耳に残った。
【私】は呪術の基礎を学んだし更に見解を広げた。
【あの人】の目的って人間の可能性の探求なのだろうか、実に気になりますわね。
夏油君の目指した世界って小説の【新世界より】だなってコメントを何処かで見て納得した。
あの小説の世界観凄いからおすすめだしアニメがおすすめだ。最後まで見ると凄く気持ちが良くなる。前半の意味不明な感じの解き明かされる謎の快感という感覚を感じれるしその後原作読むと補完が更に深まるよ。