イメージとして、この主人公の術式は絵に描いた思いを呪霊に変換するものだと考えて下さい。その願望にそって動くので基本的に主人公に準じて願いを叶えます。その手から離れれば……。まあ、ねぇ……?
――私が街中を歩いていた時のことだった
人通りの多い、繁華街の地下。ぞろぞろと人混みに紛れながら、私は散歩をしていた。散歩というのは子供たちとの散歩のことで、いつも戯れでしていることだった。大きめの子は目立つので深夜にしか連れ回してはいないのだが、街中で一人歩くのも寂しい時はいつもそんなことをする。
――今日も、そんなことをしていた
勿論目立たないように。人に寄生するような、小ぶりな子を傍らに連れて歩いていた。それは日課であったし、子供たちに外の世界を見せるために始めていたことだったのだが。自然と呪力を流すことが淀みなく出来るような気がする。絵画に流す呪力は滑らかに、飛び出す質量は確実に高まっていくのを日に日に自覚する。
――だったら、このまま続けてもいいのだろう
呪力の維持、出力量の調整。きっとどちらも重要で、私も必要なトレーニングであろうと思った。トレーニングの一環でもあるのだが、少なくともこの子達にも良いことにも思えた。この子達も外の刺激に影響されているようで、楽しげにも見えるのだ。それが嬉しくて、自然と子供たちを連れ出す時間と日数は伸びていった。痛む足、もつれる腿。既に靴は擦り切れて足の裏にタコが出来たが、彼らを思えば嬉しい悲鳴だ。
――だって、こんなにも楽しい
私の世界に居た子が出て来てくれて、一緒に歩く。これほど楽しい現実はかつてない程だ。色のない生活だが、この時間は描く時間以上に充実していた。連れ歩く子が多くとも、人混みが多ければそれほど目立つことはない。周囲に歩く人々の呪霊の群れに紛れるからだ。
――ハロウィンが過ぎて、既に11月
間もなくクリスマス、人の感情が溢れ始めて呪いが吹き溜まりとなる頃だ。冬季憂鬱、自律神経の乱れ、環境の変化、五月病。そんな人の陰気を経て、呪いとなる。あの人はそう言って話していた時があった。初夏が呪霊の繁忙期で、学校や病院なんて場所も嫌な記憶の受け皿となる場所は呪霊が多いのだと。確かに、呪霊は確実に増えている。見えずとも見える人間にとってそれは酷く煩わしいのだが、それでもこの子達にとっては絶好の隠れ蓑だった。木を隠すなら森の中だと言うが、正しくその通りの有様が眼前に広がっていた。暫く歩いて回り、街中のベンチに座る。
――少し、疲れてしまった。
眼鏡を外し、眉間を指で揉みほぐす。ほぅ、と息を吐き出せば少し気が楽になった。どうやら疲れているらしい。眠気を堪えて目蓋を擦れば、私の傍に居た子供の一人が転んでベンチから落ちてしまった。頭を振って右往左往する姿はとても幼く、可愛らしい。私を探しているらしいが、見当違いの方へ足を向けてしまった。向こうへ行けば私はそれを追いかける。こっちだよ、そう手を振ろうとすると目の前に誰かが立っていた。
「やあ、こんにちは」
ありきたりでよくある、基本的な挨拶で男は言葉を発した。にっこりと優し気に笑む。まるで張り付けたようにも感じて、何処か胡散臭く感じさせる。そう思わせるのは服装のせいなのだろうか、その男は黒衣の僧衣と袈裟を身に纏っていた。
――男はおもむろに膝をつく
その手は私の子に伸びていた。それを合図だと言わんばかりに私の子が崩れ始める。まるで形成していたモノが、そこから分解していくような光景だった。それが掃除機のように男の手に吸われて。それが黒い玉に変換されていく。
――あ、と私の声が漏れる
思わずその手が黒い玉に伸びる。だが私の動作よりも、男の方が早かった。黒い玉はあっさりと男の口の中に入って、喉が上下する。ゴクリと、喉仏が上下して凹凸する玉は胃の中に消えてしまった。この胸の中にある感傷は喪失に違いはなく、ただただ頭が真っ白になった。
――私の中に居たあの子が消えてしまった
これは感覚的なモノなのだが、嫌でも分かる。間抜けに手が伸ばしたまま、呆然とただ時間ばかりが過ぎた。どうしたんだい、そう問いかけて男は心配した様子で私を窺っていた。
「あー!見つけた夏油様ァ!!」「目の前に居る子は、誰?」
明るい髪と、黒髪の少女たちが男の傍に走る。男の名は夏油というらしい。だが、そんなことはどうでもいい。私は夏油という男の肩を掴む。高身長とも言える男の肩は高く、私の腕に多少の重力が掛かるが、私はそれでも言わなければならなかった。
「……お願いします。……どうか、私の子を返して下さい」
切実に、率直に。私は言葉を選んで頭を下げる。からからと枯れる喉から絞る言葉は震えて酷く無様だ。双子の片割れらしい少女はウケると言って笑っていた。
「奈々子、失礼」
そう片割れに諫められるも少女は、私の隣りに立ちスマートフォンで写真を撮っている。私は必死で、乞うしかない。私の世界にある子をもう一度生み出す。そんなことは出来なかったし、私には考えられなかったのだ。兎にも角にも私に出来ることは媚びへつらうことしか出来なかった。
「ううん、そうだね……」
友達だったのかな?夏油は暫く考え込んだ素振りで、腕を組む。
「ごめんね、だけど私には戻すことが難しいんだ」
ごめんね、とまた一つ言葉を発して夏油は返すだけだった。そんなことよりも、肩を掴んでいた私の手を掴み、握る。少し話さないか、夏油は笑う。
「私はね、大いなる力は大いなる目的のために使うべきだと考える」
これは大儀だ、大げさに手を伸ばした夏油が語る。まるで新興宗教団体のそれだった。私の今の心境では酷く煩いものであるのに、夏油は更に続けた。
「だから、君にも手伝って欲しいわけ」
何を、訳が分からない。思わず問えば、夏油は周囲を見渡した。周囲に居る人間、つまり非術師を、汚物でも見るように。少なくとも私を見る時にはその眼にそんな感情は見受けられなかった。だが今は確かにそんな変化が見える。言いたいことを理解するが、夏油は続けた。
「非術師を殺して、呪術師だけの世界を作るんだ」
冷たく重たい言葉が、ズシリと私の胃の臓腑に圧し掛かってきた。
【私】はまた新しい出会いをした