同じ空間で生活をしていると変わらない日課というものがある。
元の世界とは違う、ロドス・アイランドという場所でもそれはあった。
朝が訪れてからいつも通りの時間帯に部屋から出て、仕事場に向かっている通路の途中で出会う。
「おはようございます。アブサントさん」
前を歩く人に声を掛けると、こちらを振り向いて微笑むように返事を返してくる。
「おはようございます」
アブサント。
目元が少し黒ずんでいる少女で、以前にあった出来事をきっかけに交流を持つようになった。
朝から艦内のパトロールをしていて、たわいもない世間話をしながら仕事場に向かうのがここでの日課の一つになっていた。
「新メニューですか」
「うん。はじめて食べたけど、美味しかったよ」
「それは気になります」
今日の世間話は食堂の新しいメニューが出来たという内容。
しかし、食堂。いつから行っていないだろう。
ロドスにたどり着いた最初の頃は利用していたが、最近では行くこともなくなった。
機会があればまた行きたいな。
「どうしたの?」
そんなことを思いふけっていたら、アブサントさんが心配そうな声で問いかけてきた。
それを聞いて、少し慌てながら言葉を返す。
「ああ、えっと、最近食堂を利用していないと思い、また行きたいなと考えていました」
「そういえば、食堂で姿をみたことがないね。いつもはどこで食事をしているの?」
「仕事場のデスクでいつも食事をしています」
そうやって世間話をしていると、仕事場の近くまで到着した。
「いつもパトロール、ありがとうございます」
いつもの変わらない感謝の言葉を伝えると同じように変わらない言葉を返してくれる。
「お仕事、頑張ってね」
「はい」
アブサントさんからの応援の言葉に返事をしてから仕事場へと入っていく。
デスク上に置かれた昨日の仕事の残りである少量の書類を視界に入れながら、椅子に座り込んで背もたれに深く掛ける。
天井を見上げながら、一度だけゆっくりと深呼吸をしてから気持ちを落ち着かせる。
そうして見上げていた顔を前に向ける。
今日も頑張ろう。
始業よりも早い時間だとわかりながら、デスクに置かれた書類を片付けていく。
そのあとは黙々と作業を進めていき、休憩がある昼時まで続いていった。
始業時間の時にはいた人達は休憩時間になれば食堂に向かって部屋を出ていく。
そうして数分後に部屋に残っているのは一人だけになった。
食事でもするか。
デスクの棚からクロージャさんの購買部で買い貯めていた携帯保存食を取り出す。
両手で袋を空けてから片手で持ちながら食べて、もう片方の手でキーボードを打ち込んでいく。
打ち込まれた内容がパソコンのモニターに表示されていく。
少し時間が経過した時、次の仕事内容に移ろうとしたときに静かな空間に扉が開かれる音が聞こえた。
まだ休憩時間が始まったばかりなのに珍しい。
気になって部屋の出入り口がある方向に視線だけを向けるとそこには珍しい人がいた。
「どうしてここに」
部屋を見渡しながら誰かを探しているような素振りをしているアブサントさんを見つけて、思ったことが口から出てきてしまう。
その声に気が付いたからだからなのか分からないが、こちらに顔を向けて視線が合う。
すると、こちらに向かって歩いてきた。
「こんにちは。あれ、もしかして食べ終えた?」
「こんにちは。えっと、食べ終えた所です」
「そうなんだ……」
「何か困りごとでもありましたか?」
用事のために来たのかを確認するとアブサントさんは慌てた様子で否定した。
「別に大したことはないよ。休憩中に邪魔をしてごめんなさい。それじゃ」
その時にアブサントさんの手に持たれたビニール袋に入っているサンドイッチが目に入ってくる。
早足で去ろうとする少女を止めるように声を掛ける。
「待って」
仕事場にある小さな休憩スペースの椅子に座っているアブサントさん、そのカウンターの上に買ってきた缶ジュースを置く。
「こちらをどうぞ」
「あ、ありがとうございます」
「それにしても意外でした」
「何がですか」
「一人で寂しいから会話でもしよう、なんて言うとは思っていなかったから」
笑いながらそう言うアブサントさんを視界に入れながら空いている隣の席に座る。
「可笑しかったですか」
「いえ、ただ可愛らしいところがあるんだなと思って」
「可愛らしい……?」
まさか可愛らしいと言われるとは思っていなかったため、唐突な恥ずかしさを紛らわせるために手に握る飲料水を飲む。
喉に流れる冷たい水に恥ずかしさで熱くなった身体には心地よくちょうどよかった。
実際は一人で寂しいというのは嘘で、会話をしたいというのは本心であった。
サンドイッチを食べるアブサントさんを横目に、初めて会ったときのことを思い出す。
今でも顔色は悪く見えるが、初めて出会った時と比べれば元気よさそうに思えてしまうほどに。
立っているのが不思議に思えてしまうほどに顔色が悪かったから、心配になってこちらから声を掛けたのが交流のはじまりだった。
そこから交流を続けていき、その過程でアブサントさんが悩んでいたことも聞くこともあった。
もしかしたら、今日は聞いてほしい悩みがあって来たのではないのか。
そんな考えが頭の中で浮かび、引き留めて今に至る。
「最近はどうですか。何か悩み事でもありますか?」
休憩時間にも限りがあるため本題に入ろうとしたが、アブサントさんはサンドイッチの最後の一口分を食べて口を動かしながら不思議そうな顔で見てくる。
「悩み事なんてないよ」
「え、そうなの」
口に含んでいた食べ物を呑み込んだアブサントから出てきた言葉はそれだった。
「しっかりと眠れて、他のみんなも良い人たちばかりで、それに」
視線をこちらに合わせてきた。
「守るということがどういうことなのかも、少しわかってきたから」
「そうですか。それは良かったです」
休憩時間が終わるまで朝と変わらない世間話で楽しい時間を過ごしていった。
あれ? 悩みは?
普通に会話を楽しんだだけで終わってしまったぞ。
人通りのない静寂が包み込んだ真夜中の通路を一人の少女が歩いていた。
艦内の業務は一部を除いて、終わっていた。
私の業務的なパトロールも終わっているけれど、個人的なパトロールはまだ終わっていない。
艦内の端にある一室。そこは他の場所から切り離されいるかのように存在していた。
理由がなければ行くこともない場所に私は理由があって、そこに向かっている。
そこには彼が眠っている一室があるのだから。
装備を整えた状態で彼がいる通路にたどり着いた時に、違和感を感じて足を止める。
通路を観察してみたけれど、いつもと変わらない光景があった。
それでも、不安のような違和感を感じてしまう。
私は早歩きで彼のいる一室へと向かおうとしたとき、静寂を破るかのように通路の奥から何かが倒れたような物音が聞こえてきた。
ここは誰も通らず、来ることない場所。
先程の物音も誰も気がつかないだろう。私を除いて。
その奥には彼の部屋がある。
私は駆けた。
全速力で彼の部屋の前に到着するが、そのドアは開かれていた。
いつもならドアに耳を付けて、奥から聞こえてくる彼の寝息を聞いて安心してから睡眠に入っていた。
けれど、今見えてきたのは彼の上に誰かが覆っていた。まるで襲うかのように。
私は彼に被害が被らないように素早くアーツユニットを相手に標準を向ける。
迷うことはなかった。
彼を如何なるものから守ると決めたのだから。
いつもならしている警告をせずに、引き金を引いた。
このあと主人公が怪我をしながらも止めに入ったため部屋が荒れただけで、特に問題なし。