ピンチベック   作:あほずらもぐら

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過去編第四幕 : 戦場にて蠍は蘇る 後編

 

 

 

 

 

『死ね……死ねぇっ!』

 

エルフの冒険者は大型の連装クロスボウを構え、素早く移動しながらボルトを連射する。連射性の代償として魔力を込める時間は少ないが、それを補って余りある程の弾幕で、例え単独でも複数の敵を押し込めるのだ。

 

『ボルトはまだある、このまま蜂の巣に……』

 

しかしそれは並の冒険者が相手の場合のみ!キャナーは拳の乱打で大量のボルトを焼き砕いて敵に迫る。溶けた鏃が地面に落ち、炭化した木屑と灰が辺りに舞う……

 

ドォン

 

『えっ』

 

キャナーの背後で爆炎が発生し、赤熱するゴーレムの破片が周囲に撒き散らされる!男は反射的にクロスボウを構え、それを的確に射抜いた……いや、射抜いて”しまった”。爆風の衝撃波を蹴り、キャナーが間合いに入る。

 

『あ……?』

 

激痛と同時に視界が直角に曲がり、右の視界が歪む。そこでようやく自分の首が折られたらしいと気づいた……

 

『馬鹿な、たった数分で………二人もやられたのか!?』

 

「雑魚は何人揃っても雑魚、悪人と狂人には勝てねぇ。居るんだろ?お前以外にも……俺はそういうのが斬りたいからここに来た………出せよ。」

 

ストゥーピストはスタースパーダの背後を睨むと、血に染まった二刀を振り抜いて赤い風を起こす……一瞬で剣に付着した血糊が蒸発し、斬れ味を取り戻した。

 

 

「やっぱ金だけはあるな、あのガキ。しかし殺意高い面子だなァ………並の女より興奮するぜ……」

 

『噂通りの狂人か、盗賊砂サソリ。或いはエル・スコルピオ、もしくはストゥーピスト……幾ら親父の頼みとはいえ、あんなドラ息子に襲名権までやっちまうとはな………』

 

鴉めいた覆面の男が腰に下げた軍刀を抜く。その刃は青錆色に濡れ、常に瘴気を放っていた。他にも数人の冒険者が斧や剣を構えて背後で待機している……

 

「俺はただ人を斬れれば良い、それに箔がつき過ぎて喧嘩を買ってくれる相手がいないんで困ってたんだ………もうスコルピオを名乗らなくて良いってのは逆に好都合だったね。同業者なら分かるだろ?名前出しただけで敵がビビるのは辛くてなぁ……」

 

『だが、あの男は逃げる奴の背中を斬る……俺もそうだ。このご時世、もう仁義なんか流行らねぇ……アンタも雇われだったなら分かる筈だ。冒険者はもう英雄じゃない、代理戦争の駒なんだよ。』

 

 

「どう思われるかではなく、どう在るか。」

 

『何だぁ……マフィアの癖して説教垂れるつもりか?』

 

「昔、赤の他人の為に地位も名誉も、何もかも捨てた大馬鹿が居たっけ……血だけに赤の他人ってな………その人が死ぬ前に遺した言葉だよ、気にすんな。」

 

『そういやお前は元々坊主だったか……俺は坊主が大嫌いでね、悪いが全員死んで貰う!』

 

男は軍刀を下段で構え、地面を引き裂いて火花を散らしながらストゥーピストに斬り掛かる!回避した先に青錆色の飛沫が飛ぶ……

 

「疫病の術……文字通り汚い手って訳だ。普通の奇跡じゃ治せない上に、自然発生の病原菌より回りが早いんだってな?怖い怖い……」

 

乾いた地面に飛沫が染み込み、運悪くその場にいたミミズがめちゃめちゃに膨れて動かなくなり……破裂した。

 

『お前もそうなりたくなければ、さっさと田舎に帰る事だ。』

 

「お前みたいな田舎者がいる時点でここは田舎だ、土に還れ。」

 

 

両者は剣を構え、同時に走り出した。

 

……………………………………………………………

 

 

 

 

『それで、その後はどうなったの!?』

 

「子供にはまだ早い。それにもう家だ……早くしないと兄貴が心配するぜ。」

 

青年は分厚いドアの鍵をロックピックで解錠して静かに部屋に入り込んだ。酸素供給に使うマスクや錠剤がテーブルに常備されており、ベッドは温度調節用の器具が取り付けられた特注品……この部屋の全てが、”教団”の技術力に依るものなのだ。

 

「………何だ、これは?」

 

『私の部屋……変だよね。』

 

 

 

花粉の飛散や疫病の流行に備えた、完全に密閉出来る構造の窓。

 

全てが錫で作られた洗面台。

 

治療に使う特殊な薬品を保存する為の冷却装置。

 

薬剤投与の時間を完璧に管理する為に作られた、内臓発電機で半永久的に正確な時刻を表示出来る時計。

 

遺伝子改造した藻を大量に培養し、新鮮な酸素と殺菌成分を常に吐き出し続ける大型の水槽。

 

真空状態で保存されたクローン血液を定期的に体内で循環させるポンプ。

 

 

仮に彼女がこの部屋から一歩でも出た場合、その命は半日と持たずに消えてしまう。大掛かりな回復の奇跡に、彼女の身体は恐らく耐えきれない………

 

 

行方不明になってから10時間、あと数分遅ければ助からなかったかも知れない……流石にアイアンクロスは話を盛っているだろうと、彼は内心馬鹿にしていた。

 

 

青年は、自分の身体中が夜の砂漠よりも冷たく凍りつくのを感じた。もう、薬の事などどうでもよくなった。

 

 

 

……………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

選バレシ者ヘ

 

新タナ 天啓ヲ 下ス

 

 

 

アヴァ商会系列組織 

 

プラネタリウム 首脳構成員 兼

 

Aランク冒険者「メテオリット」ノ 粛清ヲ命ズ。

 

 

無実ノ民間人ニ対スル攻撃、殺害ノ嫌疑アリ。

 

又、ソノ後ノ証拠隠滅ヲ 自治領高官ト共謀シ行ッタ可能性アリ。

 

来月Aランク昇格後、配属予定デアッタ冒険者「ビッグバン」ハ 粛清対象ト類似シタ能力ヲ持チ、Bランク上位相当ノ実力者。

 

現在ハ自治領ニヨリ、金貨数百枚相当ノ 賞金首トシテ指名手配済。

 

 

我ガ教団ノ出資者

 

グィンマック・アルジャーノン様 ノ 熱心カツ献身的ナ協力ニヨリ、

 

粛清対象ノ実父ニ当タル人物ガ、14月21日 5時24分 ニ 某料亭デ自治領高官ト接触シタ事ヲ 現地ニ居合ワセタ(個人情報編集済)様ノ 証言ニテ 報告ガ事実デアル確認。ソノ後、立チ入リ捜査ニテ当該人物二名ト完全ニ一致スル指紋ヲ検出。上層部ハ証言ノ正当性ヲ認メ、護民官トノ共同捜査ヲ宣言。

 

尚、「ビッグバン」ノ両親ハ 落下シタ隕石ニヨリ死亡ガ確定。証拠品トナリ得ル隕石本体ハ 派遣サレタ憲兵隊ガ接収シタ模様。

 

捜査ニ協力シタ護民官「クラリドン」ガ 証拠品ノ設置地区ヲ特定。以下ノメンバーハ迎エガ到着次第現地ニ向カイ、指令ヲ待テ。

 

 

幹部補佐「ギフトブレイズ」 

 

威力部門所属「スプリントスノー」 

 

独立傭兵「サードアイ」

 

幹部候補生「アイアンクロス」

 

Bランク冒険者「リペアウェーブ」

 

 

焔ノ加護ヲ。

 

 

 

 

過去編第四幕 完

 

 

 

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