ピンチベック   作:あほずらもぐら

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最近は友人に勧められて人理を修復したり、
双子の竜人と一緒にモンスターをハントしたり、
宇宙忍者になって巨悪に立ち向かったりしています。

リアルでやる事が終わったら、一話完結の比較的ヘルシーな物語群を作っていくつもりですのでよろしくお願いします。






第92幕 準備運動 パート4

 

 

 

 

 

『残虐無双、幾百千もの戦を経て屍山血河を築き、今宵我に見えるは黄金の殺戮者……』

 

ローブを纏い、長髪に眼帯をかけた魔族の少年……

彼は油断なく剣を構え、小柄な男を睨みつけた。

 

『我が名はダチュラ……闇を滅する黒き閃光!よく来たな、黄金の殺戮者(ピンチベック)……』

 

「私はただ”喚ばれた”だけだ……”黒き閃光”よ。」

 

ダチュラは嬉しそうな笑みを少しだけ浮かべると、

再びピンチベックを睨みつけ、双剣を抜く。

 

異能(ちから)を使わずに姉上を屠るとは流石の腕前だ。しかし我が闇魔法は黒魔術の基本にして真理、易々と破らせはせんぞ!』

 

「来い……恐怖で足が動かなくなる前にな。」

 

ピンチベックは地面を強く踏み締め、手招きした。

 

『我が闇の力、受けてみよ!』

 

ダチュラは剣を振り翳し、翼を広げて突進!

ピンチベックは斬撃を脚で弾き、腰のベルトから

投げナイフを引き抜いて飛ばす!

 

 キィン!

 

『速い……!』

 

ダチュラの額に滝のような冷や汗が走る……

投擲の予備動作が全く見えない。

光の反射から軌道を読んで何とか防御したが、

素の実力差は明らかだ。

 

「良い動きをする、戦い慣れているな。」

 

彼の装束には大量の血が染みており、

シンビジウムとの戦闘でかなりの深手を負った筈。

しかし特に動きが鈍っている様子は無い……

 

『やるな、褒美に我が666個の奥義……その一つを特別に見せてやろう!』

 

ダチュラは二本の剣を激しく打ち合わせ、

刀身に塗布された油に火花で着火、飛翔して

紫色の炎を纏った二刀でピンチベックを突く!

 

 

漆黒竜ノ聖餐(ファフニール・ヴァイト)!』

 

ピンチベックは刺突を跳躍して寸前で回避!

更に樹木を蹴りで薙ぎ倒し、空中にいるダチュラを

倒壊に巻き込んで体勢を崩す!

 

「コォ……シュ!」

 

その機を逃すピンチベックではない!

すぐさま蹴りがダチュラを弾き飛ばす!

 

『馬鹿な、我の奥義を一瞬で……』

 

肝臓を狙った短刀での追撃を剣で防ぎ、

再び飛翔して距離を取る。

 

「残り665個……全て見切った上で斃す!」

 

『ここまで通用しないとは……!』

 

実際ダチュラの飛翔速度は兄より上、

魔族全体で見ても相当に速い部類だろう……

剣術でも段を取っており、充分な素養もある。

実戦的な決闘でも殆ど負けた事はない。

 

(やはり、実戦経験の差は大きいか……)

 

『ニ、三本は取れるだろうと思っていたが、とんだ思い上がりだったようだな……』

 

「………そうか。」

 

 

彼は無関心に答えた……

そこには軽蔑も同情もなく、

彼は息でもするように短刀を構える。

 

「……まだ天井は遠い、当然だ。」

 

死離滅裂(デッドリー・ジェノサイド)!』

 

ダチュラの翼を覆っていたアーマーが変形し、

大量の刃が現れる!その一つ一つに闇属性が

宿っており非常に危険だ!

 

(確かに速いが、軌道は容易に読める。)

 

ピンチベックが回避の予備動作を取った瞬間、

飛び出た刃が射出され、四方八方に飛び散った!

跳ね返って来た刃がピンチベックの腕に

突き刺さり、脇腹を深々と抉って壁に縫い止める!

 

「成程、こうなるか。」

 

『少々泥臭いやり方だが、これで終わりだ!』

 

ダチュラの全身を黒い炎が包み、

竜のシルエットを取りながら突進!

 

邪竜滅壊斬(ソードオブファフニール)!』

 

竜の尾が巨大な刃となり、

ピンチベックの周囲数メートルを塵に変える!

 

土煙の中、刃で縫い止められた腕だけが

反射で痙攣していた。

 

『………まずった!奴は何処に』

 

背中にべったりとした生温かい感触が広がる。

ダチュラの胸から、真っ赤な刃が飛び出す……

 

『負けたか、俺は……』

 

「普通の決闘なら君の勝ちだ……少なくとも、普通の人間は片腕が無くなれば降伏するか失神する。」

 

『………気絶”出来ない”のか……あまりタフなのも考えものだな……』

 

「慣れれば利点になる、だが慣れない方が良い。」

 

『何故見切れた?後少しで気絶する、教えて欲しい。』

 

「動きが直線的なので、ある程度軌道が予測出来る。壁を蹴って途中で方向を変えるなりすれば改善されるだろう……」

 

『良いアイディアだ、参考にしよう。』

 

そこまで言うとダチュラは気絶し、剣を手放した。

 

 

 

 

 

 

(さて、片腕が欠損した状態でどう戦うか……)

 

アブホースの肉片で止血したは良いが、

繋ぎ直すにしても回復薬か触媒が必要だ。

出血も後から響いて来るだろう……

ピンチベックは空を見上げると、

残った腕でリボルバーに触れた。

 

 

『待って、手当てをしたいだけです。』

 

オイフェは錫杖に古びた白旗を掲げ、

ベルトの付いた籠を背負っている。

ピンチベックは跪き、頭を下げた。

 

「……あの方の体調は如何ですか。」

 

『大丈夫、異常は一つもありませんよ。』

 

「全ては貴女様の御力、感謝します。」

 

『腕を見せなさい。全く彼女の言う通りですね……貴方の身体は使い捨てのゴーレムではないのですよ?』

 

「生憎、私はこのような戦い方しか知りませぬ。」

 

 

『私が言いたいのは、食事の話です!彼女から貴方の食生活を聞きました。朝は何も食べない!昼は何の動物かも分からないような干し肉!夜は冷えた魚の瓶詰め!一番の問題は量です!私の騎士団では、小人の召使いでも貴方の倍は食べていましたよ!』

 

「……私は、あまり食べる方ではない。」

 

『毎日同じようなものばかり、味付けも塩とスパイスだけ、こんなもので食欲が湧くとでも!?命を頂くのなら一番美味な食べ方をしなさい!兵士として殺生を行う身なら尚更です!』

 

「申し訳ないが私は料理には疎い。」

 

『この付近に凶暴な魔物が現れました。ですから私と貴方で討伐に行きます……その魔物が食べられるようなら、その場で解体して夕食にしましょう。』

 

「聖職者は獣肉や虫食を避ける印象があったのですが。」

 

『行軍中に襲って来た魔物を供養として食べる、というのは騎士団で半ば慣習でしたよ。』

 

「……廃れて久しい慣習だ。小さな頃は、王国騎士の守る堅牢な城がこれ以上ないほど頼もしく見えた。城の掲げる旗が自治領のものに変わった時、どこか虚しい気持ちに襲われたものだ……」

 

『祖国を裏切ったのは私も同じです。』

 

「私には大義など無かった……同胞を憎んでいた。」

 

 

自分より生まれも育ちも恵まれ抜いた人々が

無意味に苦しみ死んでゆくのを見て、

笑い声を必死に抑えていた。

 

(無価値な自分が、彼らを誰にも非難されずに

痛めつけ、苦しめ、辱め、殺す事が出来る…

なんと幸せな事だろうか!)

 

この高揚は自分が本来持ち合わせているのか、

それとも”彼ら”に植え付けられたものなのか、

永遠に確かめる事は出来ないだろう。

 

 

「罰する立場にいると、誰も罰してくれないのですね。」

 

『勝利には責任が伴います……せめて殺めた分、誰かの命を繋がなくては。生き残った我々が出来るのはそれだけです。』

 

オイフェは彼の傷を全て塞ぐと、

立ち上がって笑った。

 

『行きましょう、それが我々の役目ですから。』

 

「二本足の魔物なら慣れているが、何が出るか……」

 

『賊に襲われて傷つく心配は無さそうですね、頼もしい事です。』

 

 

過去の幻影を垣間見ながら、二人は深い森の奥へ

踏み込んで行った……この探索で彼らがどれ程の

問題に直面するか、一体誰が予想出来ただろう?

 

 

 

 

 

 

 

ー同時刻ー

 

 

 

『〜♪』

 

『お兄様、そんなにあの方と戦うのが楽しみなんですの?』

 

『殺し合いじゃないからね……僕が彼にどれだけ近づけたか、確かめたいんだ。』

 

『……旅立ちの時、あの方を喰らうとか言ってませんでした?』

 

『だってさ、魔族だって知りながら助けたんだよ?昔の正教では地獄から来たって言われてた。人間と魔族は相容れないって、父さんは言ってたけど……こういう事なんだね。』

 

 

 

本当は彼の魂が消えて無くなるまで、

ずっと喰らい続けたい。

あの辛い思い出から、彼を解放したい。

彼の冷たい魂と、力が欲しい。

 

何度も願い、夢見て来た……

彼の殺戮衝動も今なら理解出来る。

 

 

『彼と会うまで、人間なんて空も飛べない癖に100年くらいで死んじゃう、虫みたいな生き物だと思ってた。でも僕が初めて会った人間の10年間は自分以外の人の為に使われてる……何百年分も重みがある、そんな10年だった。』

 

ペラドンナは軽く焼き上げたパイ生地に

海老と白いソースを詰め、再びオーブンへ入れる。

 

『父さんも母さんも皆に尊敬されてるし……何より僕の事を考えて将来を決めようとしてた。二人が間違う筈なんてないって、無理矢理信じ込んでた。』

 

『私と遊んでくれなかったのも、二人がそう言ったからですの?』

 

『朝起きて、窮屈で悪趣味な服に首を押し込んで外に出て、誰よりも早く学校に着いて、誰よりも高い点数を取って帰る……魔法塾から帰って、夜遅くまで楽器と演技の練習して、シャワー浴びて寝る……休日は剣の稽古、たまに上級生と決闘して、マナーの勉強して……』

 

『無理ですわね、私なら半日でキレて暴れてますわ。』

 

『……シンは気が早いから3時間くらいが限界じゃない?』

 

 

『あっ、蟹が逃げますわよ!』

 

シンビジウムは、縄を斬って逃げようとしていた3メートル近い甲殻類をグレートクラブで殴り倒した。

 

『小さいのに元気だね、その子……彼みたい。』

 

『都会の蟹って、どれくらいの大きさなんでしょう?』

 

『人は襲わないみたいだから、もっと大きい獲物を食べるんじゃない?サメとか砂ワームとかさ。』

 

『少なくとも5メートルくらいですかねー。』

 

『僕を襲ったライカンスロープと同じくらいか……結構迫力ありそう。』

 

『待って、あの方そんなバケモノを私より小さい時に倒してますの!?道理で肝が据わってる訳ですわ……』

 

シンビジウムは泡を吹いて痙攣する蟹から

脚を引き千切り、鍋に放り込んだ。

 

『僕が無意識に放ってた無差別催眠に掛かっても冷静に自分を縛るよう言ってたし、小さい頃から危険に慣れてるんじゃないかな……でも、それって凄く悲しい事だよ。先生はどう思う?』

 

『あぁ……子供があのような重荷を背負うものではないよ。彼は若いのに無茶をすると思ったが、無茶をしないと生きて行けないのかも知れない。昔の私もそうだった……目的と手段が入れ替わって、その所為で死んだ。』

 

デスペラードはボトルに黒い血と赤ワインを入れ、

ゆっくりとかき混ぜて冷水に浸す。

 

『スラムで生まれた時は、金貨があれば幸せになれると思った。金の為なら何でもしたさ……だが貴族に買われた時、地位がなければ幸せにはなれないと気づいた。』

 

『豚のような奴等に必死で媚びて、紹介された貴族と結婚して……最期には愛が必要だと気づいた。老いて捨てられた後、彼の元妻に刺された後でね……いつしか幸せではなく、成り上がる事だけしか頭に無くなってしまっていたのだよ。』

 

 

『……彼は、先生みたいにやり直せると思う?』

 

『私は40からやり直した、彼なら余裕だ……しかし惜しいな。』

 

『何が?』

 

『私が人間だった頃に彼と会っていたならどんなに強引な手を使ってでも必ず私のものにしただろうし、何なら今からだって遅くはないと考えている。』

 

『彼の心を折れると、本気で思ってるの?』

 

『だから惜しいと言っている!君に先を越されなければ、”家族”になれたのに……アブホースの力で始祖様を解放した後は、その器たる彼にも始祖様の血を与えて強化し、世界中の吸血鬼とアンデッドを我らが支配する……素晴らしき闇の時代の到来だ!』

 

『仮に実現したら、自治領や第二帝国と同等の脅威になったでしょうね……サイボーグ連中は半年と保たなかったかも。』

 

『奴等があの娘にやった事を見るに、この城の吸血鬼全員がアブホースの力を手に入れるなんて事も……』

 

『ハハハッ!我ながら怖くなって来たよ……二人が帰って来たら、きっと喜ぶだろうな!少なくとも今はそれで充分だ。』

 

 

 

(……なんかフラグっぽいですわね、二人とも気を付けて!)

 

 

 

 

 

 

 

第92幕 完

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   

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