二人は森を南下し、魔物の痕跡を探す…
辺りに転がる死骸は徐々に増えていき、
血と腐臭が混ざり合った匂いが鼻を突く。
大量の人間が樹木の枝に突き刺さり、
大量の蛆と蝿が集っているのだ。
「人だ、比較的新しいな。早く見積もって3日前、首に一撃で即死。だが単独でデミゴルゴア近辺に来るとは考え難い……」
『竜は賢いですから、縄張りに入り込む者への見せしめにこういった事をしてもおかしくはありません……他は残らず食べられたのかも。』
「城には既にジャバウォックがいる、彼……彼女?この際どちらでも良いが、少なくともあの子は特に不機嫌ではなかった。」
『……人間の仕業だと?』
「私刑、自殺、生贄………理由なら幾らでもある、首の傷は介錯だろう。」
『とにかく降ろさないと……蘇生して話を聞きましょう。』
ピンチベックは音もなく拳銃を抜き、
標的の頭部を狙って引き金を引いた!
『バァァッ!』
死体が叫び、開いた腹部から蝿を大量に放つ!
放たれた弾丸は汚液によって一瞬で錆び、砕ける。
『フン!』
オイフェは腕から白い衝撃波を放ち、
反動で蝿を回避!
『にがしたカァ……イヒッ!』
『よく気が付きましたね、死んで気配を隠していたとは。』
「死者の事は、死者が一番最初に気付く。」
(また我々の真似事か……不愉快だ、殺せ!)
『成程、味方になるとここまで頼もしいとは。私も良い所を見せなくてはいけませんね!』
オイフェは敵に向かって光で構成された輪を投擲!
しかし蝿が盾となって敵に届かない!
『イヒ……死体、俺、俺の、ものだァ……いいだろ!?なぁスネークヒット、いいだろぉ!?』
ピンチベックは弾倉を回転させて再び発砲、更に
二挺構え、銃弾で飛来した矢を全て撃ち落とす!
『勿論よ、ネクロ……』
落ちた筈の矢がピンチベックに向かって再び飛ぶ!
「シューッ……貴様、出来るな。」
ピンチベックが掴み取った矢は毒牙を剥き、
唾液を滴らせる毒蛇そのもの!彼がそれを
握り潰し、溢れ出た血を飲み干すと、蛇は
痙攣して動かなくなった。
「懐かしい味だ、蛇血は強壮剤と同じ効果がある……即効性の。」
残った蛇も頭を踏み潰されて絶命…
溢れた血が乾いた水溜りを満たす。
「文字通り、目が覚める良い一撃だ。」
『かなり高度な召喚魔法と動物操作です、気をつけて!』
ピンチベックは無言で頷き、
腰に手を当てると一瞬で拳銃をリロードした。
「その下品な金装飾の散りばめられた軽鎧……いつ見ても貴族特有の成金趣味には吐き気がする。」
『言ってくれるじゃないの……我々デーモンと違って他の種族の排泄物無しでは生きられない、腐れインキュバスのペットにしては。』
「エクトプラズムは誰も傷つけずに摂取出来る、合理的だとは思わないのか?」
『夢魔は捕食対象のアドレナリン分泌量を増やす為に殺人までする!エクトプラズムの質の為に、自分達の贅沢の為に!』
「夢魔が全員そうだと?貴様とてたった今殺人をしようとしている、それも利益の為に……戦争に加担している自覚はあるのか?」
『他国のテロリストを殺すのは社会正義だ!貴様の死によって齎される利益は、我々に対する正当な報酬だ!人々は平穏を願っている!』
「民意でしか物事を語れんのか?貴様は自らが闘争を行う理由を弱者に委ねるのか?そして負ければ弱者に責を問うのか?」
『よく吠える犬だ、ベラドンナにもそうして尻尾を振っているのか……おっと、貴様の背には尾が無かったな、腰の間違いだったか!』
「そう慌てるな……すぐに撃ち殺してやるよ。」
空のローダーが地面に落ちると同時に両者は構え、
互いに引き金と弦を激しく弾く!
『遅い遅い遅い遅い遅い遅いぃ!襲え襲え襲え襲え襲え襲え襲えぇ!』
「蛇に火でも吐かせてみたらどうだね?それなら私は撃てないだろう。」
射られた蛇と赤熱する鉄鋼弾とが飛び交い、
時折隠れていた齧歯類や昆虫を撃ち抜いた。
スネークヒットの射撃はやや粗いものの、
蛇が翼膜のようなものを広げて軌道を修正し
確実に急所を狙って飛んで来る。
更に撃ち漏らした蛇は再び彼を狙って跳び、
矢筒に戻ってゆくのだ……
『私の召喚魔術は最強だ……誰にも負けない!』
「一対一でここまで面倒な相手を差し向けて来るとは、上も本腰を入れて来たな……」
今の所攻撃の対処自体は出来ているが、
次々と放たれる蛇の矢が集中力を削ぎ、
生じた僅かな隙に致命の一撃を狙って来る。
『非才の身でどこまで耐え切れる!?』
「それを今試している……分かるか?貴様は私の踏み台だ!貴様をこの世で最も残虐な方法でこの世から消した後、ミストハンドもメテオリットもクラリドンもタングステンも、アイアンクロスも、あの司祭も、奴等に連なる人間は全て殺す!」
『地獄でほざいていろ、毛無し猿が!貴様ら人間は畜生らしく射られていれば良い!』
「今より此処が地獄となる、貴様は亡者めいて私に殺してくれと心から願う事だろう……」
ピンチベックは遅い来る蛇の頭蓋を
回し蹴りで砕き、背後から飛んで来た蛇を
ファニングショットで挽肉に変える!
『無駄だ、血肉が残ってさえいれば……ネクロ!』
『分かっタ……ヒ、イヒッ!』
ネクロの裂けた腹部から瘴気が漏れ、
蛇に触れるとその蛇は再び目を開いて
千切れた身体を引き摺りながら牙を剥く!
『矢は折れるまで何度でも使い潰す……そっちの銃弾は何発残っている?人間如きの獣めいた力技では私に勝てん!』
「では獣らしく行こうか。」
彼の脳天目掛けて蛇が飛ぶ!ピンチベックは
仮面を外し、包帯に覆われた顔で牙を剥く!
ガリィッ……ブチョン!
蛇の骨が砕け、肉が飛び散る!
潰れた胴から流れ出た血が口から溢れ、
包帯を真っ赤に染め上げた。
「ガリッ!ゴリィ……ガリ、ガリガリ!」
骨を噛み砕き、肉をすり潰して飲み込む……
体内の毒素と共に、飛来する矢を次々と喰らう。
「……瘴気は私の胃の中まで入ってこれまい。」
『狂人め、全て食べ切る前に胃袋が弾け飛ぶぞ!』
「挽肉からならまだしも、胃酸が混入した吐瀉物から蘇生は出来ん。」
『チッ…そこのクズから狙え!』
ネクロは素早く這いずり回りピンチベックの背後に飛び出すと、両腕からブレード状に変形した
骨を展開して斬り掛かる!
『痛イヒッ!痛イヒヒヒヒヒヒヒッ!』
「コシューッ!」
ピンチベックの首が180度回転しネクロを睨んだ。
後ろ蹴りがネクロの脚関節に突き刺さり、
嫌な水音が聞こえる。
『馬鹿な!奴には何の能力もない筈!?』
「そうだ……だから弱点もない。」
彼は脚を砕かれて動けないネクロの首を掴み、
開いた腹に手を捻じ込む。
「まともな冒険者なら耐久力に難儀するだろうが、お前の身体は我々の一部が使われている……」
ネクロの腹に棲みついていた蛆や蝿が落ち、
ピンチベックの目が赤く染まる。
『アガッ!?アバ……』
ネクロの身体から次々と骨が飛び出し、
鋭く研がれた歯が抜け落ちてゆく……
「カス以下の器だな、あの子の方がまだ耐えた。」
彼はネクロの真っ黒な血に塗れた心臓を取り出し、
まだ脈打つそれに歯を立てて喰らいついた。
片腕の古傷が開き、そこから瘴気が漏れる……
『そんな、私の作品がこんな簡単に……!』
「自分で前線に出ず、後陣で震えているようなクズに使われてさえいなければそれなりに厄介だった。」
盾を失ったスネークヒットに、
ピンチベックが一歩ずつ距離を詰めてゆく。
『魂なき戦士よ、今一度我に』
詠唱はそこで途切れ、ネクロが起き上がる事は
なかった……一瞬で距離を詰めたピンチベックに
首を掴まれ、苦悶の声も出ないのだ。
「黙れ……貴様に死者を貶める権利はない。」
ピンチベックは彼女を地面に激しく叩きつけ、
片腕を槍に変形させる……
「6年前、修道院に魔物を寄越したのは貴様か!?言え!」
『ちが……私じゃ……』
「誰がやった……誰が子供達を殺した!?あのネズミを逃した後すぐに修道院の中で火が出て、燃え広がるまで誰も気が付かなかった!あれは間違いなく召喚魔法だ……早く言え!」
『知らない、本当に知らない……!』
「そうか。」
ピンチベックは彼女の手首をワイヤーで縛り、
右の人差し指を鉄針で突き刺した。
『痛ッ……!?』
「思い出したか?」
『やめろ!知らないと言って』
ピンチベックは右の中指に鉄針を突き刺す。
『ぎゃあぁぁぁ!?』
「……質問を変えよう、誰に雇われた?」
『い、言えない!言えば私は破滅する!』
ピンチベックは薬指に鉄針を突き刺し、
そのまま指を反対側に曲げた。
傷口から血が噴き出し、彼の仮面を汚す。
『あぁぁぁだっ!?痛い!痛い!やめろ!』
「痛いのは分かっているさ、だが貴様のような屑は苦痛より貧困を恐れているからな……違うか?」
『金ならやる……これから先手出しもしない!』
「貴様らが労せず市民から巻き上げた金を?私が欲しがると?」
『あれは対価だ!我々が学のない輩に代わって政治を』
ピンチベックは彼女の親指を靴で叩き潰し、
小指を引きちぎった!
『ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁ!ぁああっ!?』
「対価?対価だと……貴様は金で戦争に加担した屑だ!」
利き手の指を全て潰され、
無様にのたうち回るスネークヒットに
彼女が召喚した蛇が寄って来る。
『……蛇よ、奴を襲』
命令を終える直前に脇腹へ向けて鋭い回し蹴りが
直撃し、彼女は声も出せずにうずくまった。
目の前で蛇が次々と撃たれて死んでゆく……
「また召喚すれば良い……おっと」
ピンチベックは彼女の胸倉を掴み、
顔を何発も殴って口を開けさせると
「もう、舌が無いんだったな。」
彼女の口の中に拳を入れ、舌を掴んだ。
『あ……やめっ』
グチャンッ!
『あぁああああああああああああ!!』
「……これで彼が侮辱される事はもうない。」
『い、いくら何でもやり過ぎです!早く治療を!』
「貴女は一体、何を言っているのです?」
『確かに彼女は善人ではありませんが、こんな酷い事をしなくても!』
「この女は私の友を侮辱した!この腐った舌で、彼が人殺しのクズだと言った!」
『……その人が知ったら、きっと悲しむでしょう。』
「あぁ、同族からあんな事を言われるのは私だけで充分だ……」
『貴方は彼の目の前でこんな事をしますか!?』
「………しない、親の仇だとしても決して。彼はこんな事を知らなくて良い。」
『貴方は善い心を持っています……彼女を許してあげて下さい。』
「そして、また同じ事を繰り返す。」
『彼女は私が説得します……だから、お願いします!』
ピンチベックは目を疑った……
自分が最も尊敬する伝説の騎士が、聖人が、
クズのような魔族を庇って頭を地面に着けている。
「……殺されないと約束して下さい。」
『殺されません!』
「……早く舌を繋いでやりなさい、あのままでは死にますよ。」
『貴方の慈悲深さに感謝します。』
オイフェは頭を上げると、
奇跡の詠唱を始めた……
(下らん……あのまま殺しておれば新芽を摘めたというのに。何百何千と年が過ぎて尚我々の邪魔をするか、聖オイフェ……!)
「気持ちは分かるが、ここで彼女の不興を買うのは合理的ではない。」
痛みと共に腕に張り付いた触手が脈打ち、
異常なまでに力が沸いてくる。
「捨て置け、考えがあっての事だろう。」
(違う……新手だ!)
ピンチベックは背中の短刀を抜いた。
『噂通り出来るな、だが俺達は特殊能力や魔法ばかりに頼る三流ばかりではない。』
隊長格らしい、巨大な斧を背負った
体格のよいオークの若者が怒鳴る。
『投降しろ、我々の指導者は寛大にも無条件で貴様らを我々の派閥に幹部待遇で迎えたいと言っている。』
尊大な態度で話し掛けるのはエルフ族の女性…
長杖を装備してはいるが背も高くローブから
覗く脚はよく鍛えられ、油断ならぬ覇気を放つ。
『これ以上議会に泥を塗るのはよせ、拾ってやった恩を仇で返した貴様にもう一度チャンスをやる。』
もう一人はロングソードと小盾を構えた
竜人族の兵士。武装こそ平凡だが鋭い
眼光でピンチベックを睨みつけている。
「パニッシュメント、シャッターロッド、それからフリントバックラー、全員”ソードオブエンパイア”か。一流部隊の構成員がわざわざ末端の小間使い一人を迎えに来てくれるとはな……」
『あなたの実力はよく分かった、お互いこれ以上の被害は出したくないだろう……?』
(聖オイフェの御前だ、ここは穏便に済ませるべきか……)
ピンチベックの目は抜け目なく周囲を見回す……
数的不利、援軍の気配もなし、魔物の乱入や第三勢力の干渉もあり得る。
『迷う気持ちも分かるが、我々もアヴァ商会の横暴には手を焼いていてな、出来れば貴殿の手を借りたい。』
「……嫌だと言ったら?カラドリウス様が苦しい状況下にある時は知らぬ存ぜぬ、奴等がボロを出した途端にノコノコと出て来て協力しろと?共倒れになって死ね、と言った方がまだ好感が持てたな。」
『それに関しては言葉もない……その上であなたにお願いしている。』
「……スネークヒットとかいうクズで私を試した事について、何か言い訳はあるか。」
『見ての通り、彼女は人間に対する差別意識があってな……強い人間もいるという事を確かめてもらいたかった。今回の一件で偏見が災難に繋がる事も学べただろう。』
ピンチベックがスネークヒットを見ると、
彼女は震えながらオイフェの影に隠れた。
「……随分と荒療治だな。」
『凝り固まった思想を矯正する事は難しい……レジスタンスの指導者やカルトの幹部を何人も粛清した君なら分かるだろう?』
「確かに、私も貴様らがクズだという偏った認識が矯正出来ないでいる。」
『おい、言葉を慎め!』
フリントバックラーが凄むが、
ピンチベックは全く動揺せずに話を続ける。
「拒否する、この話し合いが対等でないことを忘れるな。貴様らは頼み事をする立場だぞ……あまりにも虫の良い、利己的で低俗な依頼を。」
『……これが最後の機会だ、本当に良いのか?』
「最後の機会を与えられているのは貴様の方だ。俺は貴様の同胞に借りがある故、この場は見逃してやっても良い……だがそれは今すぐ撤退すればの話だ。」
『今、50人の精鋭兵があなたを包囲していると言ったら?』
「桁が一つ足りんぞ、私は80人の冒険者から逃げおおせた……そのうち27人を殺しながらな。」
『我々は雇われではない、プロだ。連携は取れているし、一兵卒に至るまで対冒険者戦術を叩き込んである。あなたを確実に仕留める自信があってここにいるのだ……こんな田舎に、魔物の噂まで流してな。あなたが現地人に受けた恩を返すのは容易に予想出来たよ。』
『彼の善意につけ込んだという訳ですね。』
オイフェは狼牙棒を威圧的に構え、
続いてピンチベックもホルスターに触れた。
『……非常に残念だ、その忠誠心だけは尊敬していたのだが。どちらの方法にせよ、我々の側について貰おう!』
パニッシュメントはピンチベックの目の前へ
一瞬で距離を詰め、斧で薙ぎ払う!
ギィンッ!
ピンチベックは斧の一撃を蹴りで弾き返し、
拳銃を乱射しながら後退!
『風よ、奴を斬り裂け!』
シャッターロッドが杖から風の刃を飛ばす!
「50人の精鋭は逃げ帰ったのか?」
上体を異常な角度に逸らし、風の刃を回避!
後転して木々を垂直に駆け上がり、
凄まじい脚力で岩や枝を蹴って移動!
『速い……奇襲に警戒しろ!』
幾つもの残像が枝と葉の間を飛び交い、
シャッターロッドが目を奪われた瞬間
ズドォン!
オイフェの狼牙棒が彼女の隣にあった岩を
粉微塵に変え、衝撃波が彼女を吹き飛ばした。
『……ッ!』
『痛みを与えるつもりは無かったのですが。』
シャッターロッドは空中で体勢を立て直し、
杖でオイフェの追撃を捌く。
『その赤い目……貴様、吸血鬼か!』
『別に関係ないでしょう?貴女を吸血鬼にしようとも思いません。』
『その牙で罪のない人々を何人殺めたか言ってみよ!』
シャッターロッドの杖が輝き、風圧を固めた砲弾を
放つ!当たれば身体の内外から切り裂かれ、血煙と
なって即死する威力!
『主よ、脆き我が身を守り給え!』
オイフェはシールドスペルで砲弾を防御、
更に障壁を発生させたままシャッターロッドを
殴り飛ばす!
『殺らせるか!』
フリントシールドがオイフェの背後を捉え、
ロングソードを振り上げる!
『私を冒涜者だと思いますか?』
狼牙棒ではカバー出来ない至近距離……
オイフェは自身の肋骨を掴み、
引き抜くと同時にフリントシールドを斬り裂く!
『ぐはぁ!?』
フリントバックラーは激しい痛みに苦悶!
オイフェの肋骨が脇腹に刺さり、
そのまま異常成長して肉を侵食している!
『畜生!畜生!化け物どもがぁ!』
彼は血を吐きながら、盾を捨てて剣を構える。
『俺達を舐めるな、この程度の傷で!』
正義を掲げているのは自分だけではない。
敵は自治領最強の暗殺者と高位吸血鬼、
だがここで止めねばまた闘争が始まり、
平穏は二度と戻らない。
『避けろ!』
『分かっている!』
シャッターロッドは立ち上がると
パニッシュメントの指示でナイフを避け、
木を蹴って再びオイフェに接近!
『自由の為に死ぬが良い!』
大上段から一気に降り下ろす!
同時にフリントバックラーも剣を構え突進、
更に上空からパニッシュメントが襲う!
その全てが即死級の攻撃!
ピンチベックは異形と化した左腕で斧を受け、
オイフェはシールドスペルで燃える剣を止めた。
二人の全身は風の刃で斬り裂かれ、黒と赤の
マーブルが土に染み込む。
無論、広範囲の殲滅攻撃に巻き込まれた
フリントバックラー、パニッシュメントも
無数の切り傷から血を流している。
「随分と無茶をするな。」
『ピンチベックという男は、容易く殺せんのよ……こうでもしなければ、手傷一つ与えられん。』
パニッシュメントは震える手で斧を握り、
独特な構えを取る。
『我が肉は羽より軽く、岩より堅い!』
彼の筋肉が二倍近くに膨れ上がり、
全開になった瞳孔でピンチベックを睨む。
『俺はあの人に天下を取ってもらう……分かるだろう?兵士という生き物は、自分が掲げる旗の汚れを許せん。』
『信じた正義の為なら、どこまでも無慈悲になれる……そういう愚かな生き物だろう!俺達は!?』
パニッシュメントは激しく斧を振り回し、
木々を薙ぎ倒しながらピンチベックに迫る!
「……それが数を頼る男の口から出た言葉か?」
『ハハハッ、何とでも言うが良い!俺達は戦う為ではなく、勝つ為にここまで来た!暴力しか、こんな下らない事しか知らない俺は!』
振るわれた斧がピンチベックの左腕を弾き、
胴体を捉える!
『あの人のおかげで正義の味方になれた!お前もそうだろうローデリウス!』
血を流しながら吹き飛ぶピンチベックに追撃!
「あの方は、俺の殺戮に意味を与えてくれた……俺の力で大勢の人が救えると言ってくれた。」
次弾を放とうとするシャッターロッドを
オイフェが抑え込む。
『カラドリウスの後継者は皆そう言うさ……俺もそう言われた。』
二本の短刀が斧を受け止め、大砲のような
蹴りがパニッシュメントを吹き飛ばした。
『隊長、危ねぇ!』
フリントバックラーはロングソードを構え、
ピンチベックの投げナイフを身体で止めながら
突進、四つで組み合う!
『俺ごとやれ!もうこれしか無い!』
『言うな、分かっている……!』
パニッシュメントは斧を両手で持つと
上空まで跳躍し、重力と膂力で斧を降り下ろす!
『ウオォォォォォォォォォォッ!』
「………アブホース。」
『死ねぇ!』
「やれ!」
第93幕 完