パニッシュメントの斧は
ピンチベックの肩から下を完全に斬り落とし、
フリントバックラーを真っ二つにした。
「………やるな、俺の仲間ではこうはいかん。」
『手負いを…ガフッ!狙って、このザマか。』
パニッシュメントの胴には捻れた骨の塊が
叩き込まれ、彼は絶えず血を吐き出している。
『仲間まで犠牲にして、このザマか……ハハハハハハハハ!見事!やはり俺では無理か、Bランクの三流ではな!ハハハハッ……』
「貴様の勝ちだ……貴様は私に勝って、アブホースに敗れた。」
『いや、俺の勝ちだ……アブホースにも貴様にも、俺達は負けない!』
無数の足音が森全体に響く。
『……50人の精鋭、逃げてなどおらぬ!』
茂みから次々と兵士が顔を出し、
爆薬を仕込んだクロスボウを構える。
『フリント、俺も行く……撃て!』
フレンドリーファイアを覚悟した、
360度包囲射撃!
「………コシューッ!」
ピンチベックはオイフェを蹴り飛ばした。
それだけしか出来なかった。
「私にしては、上出来か……」
パニッシュメントもシャッターロッドを
蹴り飛ばした。
彼らの姿は爆炎に包まれ、少しだけ歪んで消えた。
『………置いて行かないでよ。』
シャッターロッドは地面に拳を叩きつけ、
彼らが向かう地獄へ話しかけた。
火傷を負った兵士が足を引き摺りながら
担架に乗り、運ばれてゆく。
『殺さなくて、良いのですか。』
オイフェはシャッターロッドに話し掛けた。
『そっちこそ。』
酷く懐かしく、忌まわしい光景……
戦火、血、残された者。
「……羨ましいな、パニッシュメント。」
「お前の仲間は、死なせてくれるのか。」
黒焦げて、最早原型を留めていない肉塊。
ペラドンナの腕の中のそれが蠢き、拳銃を構える。
ダァン!ダァン!ダァン!
麻酔弾を首に数発受けると、シャッターロッドは
意識を手放して倒れる。
「……恨むなら、お前を置き去りにした連中を恨め。」
『この馬鹿!』
ペラドンナは彼の顔を全力で殴った。
「……気が済むまで殴れ、それだけの事をした。」
『君をこれ以上ボロボロにしたくない……』
「変わらんだろう、元々酷い顔だ。」
「………バカめ、何故泣く。」
『ごめん、殴ったりして。』
「……私が異常者でなく普通の人間だったら、ここで一緒に泣く事が出来ただろうか?それとも生き残った事に喜ぶだろうか?いずれにせよ、君が謝罪する必要があるとは思えない。」
『普通じゃないのは、お互い同じだろ?』
「……欠点があるのは私だけだ。過去を忘れて前を向けと人は言うが、自分の過ちで死んでいった人間の事を忘れるつもりはない……こういうどうしようもない事を君に言って、同情を買おうとしたりする。」
『僕だって悪い所沢山あるよ?ケンカの時は友達相手だと本気出せないし、君に初めて会いに行った時、僕は……とにかく、君に酷い事をしようと思った。弱らせて洗脳したり、場合によってはもっと残酷な事を。』
「……食べる為に殺す事の何が悪い?愉悦で人を殺すよりも自然で生産的だ。アドレナリンの量とエクトプラズムの質が関係している事を私が知らないとでも?」
『じゃあ何であの時助けたの……?』
「誰かを襲う事を避けていた、私と違って人に優しく出来る証拠だ……私のような外道に堕ちる可能性も考えると、捨て置いてよいものではなかった。」
『つまり、放って置けなかったんだ……嬉しいな。』
「一度手に入れた力を使わずに居られる程、我々は賢くない……力の使い方を誤れば冒険者はただの人殺しになる。常人の10倍の身体能力と、莫大な魔力、超能力を持った人殺しにな……」
『………それこそ、二つ足の魔物ですね。』
オイフェは過去の痛ましい事件を思い出し、
深く考え込んでいるようだった。
「だが私の仲間は違う……自制心を働かせ、弱い者の為に戦っている。」
『誰かが正しい使い方を教えてくれたからね!』
「……光栄だ。」
『………傷は大丈夫ですか、あまり話さない方が良い。』
「こんな事はこれから何度でも起きる、賢い貴女なら分かるでしょうに……」
『私は苦しんでいる人間を見るのが耐えられないのですよ、失礼します……』
オイフェは彼を寝かせると、奇跡で傷を塞いで
包帯を巻く。黒焦げた装束が皮膚に張り付き、
炭化した皮膚を取り除く度に少し血が流れた。
『背中の皮膚が捲れ上がってる……酷い。』
「これ以上奇跡の使用で消耗するのは避けたい、もう歩けるのだからこの程度で良いでしょう。」
『さて、二人でやるのは久しぶりだね。』
自治領の紋章を付けた兵士達が一斉に刀を抜き、
クロスボウを構える。
「これは我々の問題だ、手は出さないで頂けますか。」
『解析プログラム起動、送信を開始。』
不気味な電子音混じりの声がヘルムに反響し、
兵士たちの目が鈍く発光する。
『自分の駒まで機械化してるよ……僕は雷魔法使うから、あんまり関係ないけど。』
「頼りにしているぞ、相棒。」
『……今のもう一回言って?』
「頼りにしている。」
『この鈍感!』
「悪かったな相棒。」
『……今、初めて僕の事からかったよね!?』
「偽物の件で私にはコミュニケーション力が不足していると感じてな……暇な時、ルルドやコームに教えて貰っているのだが、不快だったか……?」
『いや……嬉しくてさ、ちょっと泣きそう。』
「……皮肉か?」
『違うよ!君が人間らしくなってくれて、本当に嬉しい!』
「喜ぶなら生きて帰ってからにしろ。」
ピンチベックは短刀を両手に持ち、
兵士達の目の前から一瞬で消えた。
『そこか。』
兵士が刀を振り下ろすが、次の瞬間
蹴りで折れた刃が心臓に突き刺さって即死した。
『死ね。』
背後から別の兵士が襲い掛かる!
「………手負いなら容易いと思ったか?」
刀を構えた瞬間に兵士の喉が引き裂かれ、
眉間に風穴が空く。
『じゃ、そろそろ行きますか……』
『食い止めろ。』
『了解。』
ペラドンナの目の前に数人の敵兵が立ち塞がる。
『射撃開始。』
前衛の背後から巧みな援護射撃!
頑丈な木製のボルトがペラドンナに迫る!
『脅威として認識してくれてるのは嬉しいけど、やっぱり対策してるよね……』
紫電を帯びたフルーレが風を切り、
彼に向けられたボルトは細切れになる…
『危なっ!?』
装填の隙を補う為、刀を持った兵士が斬りかかる!
ペラドンナは懐からパリングダガーを抜き、
二刀流で絶え間なく襲う剣戟を全て受け流す!
『やれ。』
クロスボウの装填を終えた兵士が射撃を再開し、
ボルトの雨が降る。大量のボルトは兵士達にも
当たるが、巧みに致命傷を避けているのか
攻撃の精度は全く鈍らない。
『生体電流が活性化してる。軽めの肉体強化と機械化、手強いねぇ……』
「洗脳出来そうか?こちらも厳しい。」
『やってみるけど……うわっ、うわ!何これ!』
「どうした。」
『記憶が平坦過ぎる……ノイズも酷い。』
「殺れ……話はそれからだ、背中は任せたぞ。」
『オーケー、期待は裏切らないよ!』
ペラドンナは雷の槍を生成、
シールドスペルで射撃を弾きつつ投擲!
雷光と衝撃で敵兵が怯んだ隙にフルーレを
抜刀し目の前の兵士を一撃で貫く!
「完璧な分断だな、私も負けていられん。」
大量の弾丸が兵士の足元に降り注ぎ、
体勢が崩れたところを回し蹴りで薙ぎ払う!
「コォーシュシュシュシュシュシュ!」
吹き飛んだ敵集団を短刀で滅多刺しにし、
辺りを一瞬で血の海に変える!
「シュゥゥ……!」
バラバラに斬り飛ばされた手足と
金属部品が血溜まりに音を立てて落下する。
「やはり腕が鈍ったな。」
『あ……ぅ……』
右手首と喉を切り裂かれた兵士が呻く…
ダァンッ!
その眉間に、彼は躊躇なく弾丸を叩き込んだ。
『殺せ』
無感情な号令と同時に敵が飛び出す。
『……やってみろ!』
ペラドンナはフルーレとパリングダガーを納め、
低い姿勢から敵を見据える。
『
『
抜刀と同時に翼を広げ、
加速魔法を使用しながら飛翔、
正確な剣と巨大な翼の四刀で敵を切り裂く。
剣に付着した血が一瞬で蒸発する速度……
前方の兵士は一人残らず上下に分割され、
声も上げず地に伏せてゆく。
『残念だね……誰も僕を見てくれない。』
「……!」
彼の卓越した動体視力と空間認知能力を
以ってしても充分に速いと言える予備動作、
そこから繰り出される神速の斬撃……
何より恐ろしいのは威力だった。
(確かに、あのフルーレはミスリル製の業物……金属の切断も容易な筈。だが今の姿勢からあれ程の斬撃を放てば、多少折れ曲がってもおかしくはない筈……!)
『攻撃。』
ピンチベックの背後から兵士が迫る。
彼は鉤爪で敵の肝臓を抉り出し、それを
別の兵士の口に突き込んで窒息死させた。
「有能な仲間のお陰で早く済みそうだ。」
『殲滅せよ。』
クロスボウを構えた兵士の腹が炸裂弾で吹き飛び、
硬直した腕からクロスボウが奪われる。
ガシュン!
首を射抜かれた兵士が刀を落とす。
刀は地面に落ちずに他の兵士の首を落とす。
「残り三人……そろそろ報告に行った方が良いのではないか?勇敢にも我々との交渉に臨んだ同志をみすみす犬死させ、自分達は怖気付いて逃げ帰って来たとな。」
『我々に撤退命令は出ていない……』
『故に、戦闘を続行する……』
『本意では、ないがな……』
「そうか、同情してやるから死んでくれ。」
『拒否する。』
「……そうか。」
鋭い刺突を蹴りでいなし、短刀で肩口から
心臓を貫く。
『……攻撃。』
ボルトを鉤爪で弾き返し、
接近して首を折る。
『…………』
短刀を兵士の頭に突き刺し、脳味噌を掻き回す。
時折金属音がして、兵士は倒れた。
『………最後の三人、苦しませずに倒したね。』
「……そうだ。」
『……調べる?』
「勿論だ。」
ピンチベックは兵士の着ていた対刃アーマーを
剥がし、ベルトを短刀で切断する。
「………首筋に焼きごての跡、恐らくは数ヶ月前。」
『意味は?』
「焼きごては更生困難。人形の刻印は幼子に狼藉を働いた悪党。」
彼は同じようにして別の兵士も調べる。
「これもそうだ。コインの印は労働法違反者、もしくは詐欺師……人々から不当に搾取した者たちに刻まれる。」
『囚人部隊か……あんまり好きになれないな。』
「だが犯罪者なら使い捨てにしても世論は大して騒がない。それに戦場で死ねば釈放されて再犯、という事も防げる……」
『でも、無理矢理機械化するなんて』
彼の白目が血錆のような赤に染まり、
ペラドンナを睨みつけた。
「俺のように楽しめとは言わん、入れ込むな。善人が人殺しになるのは難しいぞ……お前程の男が一旗上げるなら、その過程で血も流れようもの。今のうちに慣れておけ……仲間の為にも。」
『……うん!』
「随分と素直な事だ。私がどういう人間なのか、分かっているのだろう?」
『僕の大切な……友達さ。』
「……報告に行くぞ、もう予定時刻を過ぎている。それから」
「……後悔する前に、秘密は無くしておけ。」
第94幕 完