ピンチベック   作:あほずらもぐら

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第97幕 : パラベラム パート2

 

 

 

ー吸血鬼の城、闘技場ー

 

 

 

『食らえ!』

 

フライトレッグスの脚部が火を吹き、

ピンチベックをガードごと弾き飛ばす!

彼は恐ろしい勢いで壁に叩きつけられ、

仮面に空いた穴から黒い血を数滴垂らした。

 

「……やるな。」

 

彼が起き上がると、背後の壁が大きく崩れる。

蹴られた際に身体の硬直を解き、受けた衝撃の

幾分かを壁に受け流したのだ……

 

『ここの技術部は良い仕事をする、だが格の違いというのは脚を機械化した程度で埋まるものではないらしい……』

 

「……壊してしまったらすまない。」

 

ピンチベックは素早く敵の頭上へと

移動し、12発の弾丸を一瞬で撃ち尽くす!

フライトレッグスは足裏から炎を吐いて回避、

空中を飛び回りピンチベックに襲い掛かる!

 

(上を取られた、だがあの脚さえどうにかなれば……!)

 

「コシューッ!」

 

『ぐわ!』

 

地面に叩き落とされるフライトレッグス!

一瞬の読み合いを制したのはピンチベックだった。

彼が脚を掴んで投げ飛ばそうと構えた瞬間、

身体を逆向きに折り曲げて自身の頭上から

右脚を差し出し、彼の肩に突き刺したのだ。

 

 

『文字通り手も脚も出ないとは……』

 

「炎魔法の熱エネルギーで機械を動かし、蹴りを加速させているのか……魔力が低いなりに工夫しているようだ。」

 

『この機構は貴方のお姉様の戦闘スタイルを参考にしている……最近貴方と交戦し、亡くなられたと聞いた。やはり不快だろうか……?』

 

「道理で動きが似ている訳だ。」

 

『以前、貴方のお姉様が私に稽古をつけてくれた……こんな自分でも分かるくらいには効果があって、アヴァロンの重役が何の能力も持たない貴方をあそこまで警戒する理由がよく分かった。』

 

「……あの人の稽古は厳しいだろう?」

 

『彼女に一年以上も師事した者が二人もいると聞いて、自分はまだまだ未熟だと痛感したよ……』

 

「二人か……弟弟子がいたとは初耳だな。」

 

『最近名を上げた教団の幹部……コードネームはヴェノムパピヨン、戦闘時の呼吸音が貴方にそっくりだからすぐに分かる筈だ。』

 

「報復を恐れずよく教えてくれた……感謝する。」

 

 

ピンチベックはフライトレッグスに背を向け、

戦いを見ていた冒険者達に向かって叫んだ。

 

「次で最後にするが、他に戦いたい者は!」

 

彼の足元には既に気絶した冒険者が幾人も

転がっており、彼自身も深い傷を負っている……

 

『おっ、俺が行くぜ!』

 

「確かベラドンナが拾って来た……ヒルビリーだったか、久しぶりだな。」

 

『えと……まずは、うちの(バカ)がご迷惑をお掛けして申し訳ない!』

 

「仕事の内だ、こちらも少々乱暴が過ぎた。」

 

(あの体格でなんて覇気だ……今、俺は巨大な要塞を目の前にしているのか!?)

 

「お互い積もる話は後にして、修行の成果を見せ合うとしよう……」

 

『……行くぜ!』

 

 

大案山子(スケアクロウ)!』

 

ヒルビリーが大地を踏むと、辺りに散乱していた

瓦礫や破壊された武器が集まり巨大な人形を

一瞬の内に造り出す!

 

(あの小僧考えおったな……冒険者の使用した武器、即ち殺人の道具を材料にすれば呪文など刻まずとも凶暴で強力なゴーレムが出来るという訳か!)

 

『やれ!』

 

ゴーレムが絶叫し、ピンチベックに

瓦礫の拳と剣で出来た爪を振り下ろす!

 

「ぬぅ……!」

 

城が降って来るかのような重撃!

ピンチベックは真っ向から受け止める!

 

『嘘だろ……』

 

「これ以上瓦礫を増やされては困る……暴れれば暴れる程、殺せば殺す程、この手のゴーレムは強くなるからな。」

 

(あの緊迫した状況で先を読んでいたのか!どれだけ場数を踏めば、こんなに客観的で冷静な判断が出来る!?)

 

ヒルビリーは連装式クロスボウを構え、

ゴーレムの両脇から大量のボルトを放つ。

 

「狙いが甘い……」

 

正面から切断されたボルトが足元に散らばり、

彼の姿が煙のように現れては消える。

 

(短時間、短距離とはいえなんてスピードだ……それでいて足音が全く鳴っていない、同じ冒険者でもここまで差が出るのか。)

 

「まるで幽霊でも見たような顔だな。」

 

ゴーレムが勢いよく突進するが

数秒後に右腕を蹴り飛ばされ、大きく怯む。

 

『隙を見せたな!』

 

回り込んでいたヒルビリーが棍棒を振りかぶり、

ピンチベックの右膝を狙って一撃を放つ!

 

「いいぞ……」

 

鉤爪によって容易く弾き飛ばされる棍棒。

鞭のような蹴りが彼の首と意識を刈り取った。

 

「中々骨のある男だな、筋も悪くない。」

 

『せやろ?Eランクの中では三番目くらいに強いと思うねんけど。』

 

「貴女は何処にでも出て来る気がする。」

 

『まぁハイエルフやし?しっかし情けないなぁ……最初の方に挑んだ奴等、あれだけ言ったのに油断してたわ。見せしめで多少派手にやっても構へんって言ったやろ?』

 

「……捕虜にやるような事をか?」

 

『”仕事”と同じとまではいかんけど、鼻とか前歯叩き折るくらいはやっても良かったで?』

 

「敵ではない以上弁えるさ、彼らも倒れる瞬間には理解出来る。それに、罪のない人間に刃は向けない主義でね……いや、主義だった。」

 

『小さい男やな……あれは誰かがやらんといけなかった事や、もう気にせんと様子くらい見に行ったらええ。あ、小さいってのは気にし過ぎって意味で……』

 

「それくらい分かる。ただ……長年汚れ仕事をやって来たが、罪のない子供に手を上げた事は無かった。それだけは絶対にやらないつもりだった。」

 

『……気持ちは分かるで、ウチも戦場で命乞いとか悲鳴とか聞くの嫌んなって引退して、魔物退治と商売やり始めたし。不思議なモンで、100年も人間ぶち殺した金で毎日遊んどったのに、急に嫌んなってな……』

 

「私も今の役目を離れて、平穏に暮らす日が来るのか?」

 

『さぁ?生き残ってみないと分からんやろ……まぁ安心しい、金貰った以上、お前らのことは絶対守るからな!』

 

ハーヴェスターは彼の肩を乱暴に叩き、

ヒルビリーを担いで去ってゆく。

 

「……話せて良かった、コーム。」

 

『ウチもや……頑張りぃ、今はお前らの時代やで!』

 

 

 

 

ピンチベックは回復薬を飲み干すと

ゆっくりと立ち上がり、足を引き摺って

外に出た。

 

「俺達の時代か……」

 

彼の目の前で、バンディーアが

グリムバードと一緒に花を摘んでいる……

 

 

(アブホース、そして教団……最も憎い者たち。しかし奴等の力でこの子が生きながらえたのもまた事実……)

 

『あっ……!』

 

バンディーアはピンチベックを見た途端、

とても緊張しながら走って来る。

 

『あ、あの、これ!』

 

彼女はピンチベックに黒い包みを手渡す。

 

「……爆弾?」

 

『違う、私のガントレット、血錆だらけでボロボロだったから溶かして打ち直してル……これ、鍛冶屋のお兄さんに頼んで欠片で作って貰っタ……助けてくれたお礼、受け取って欲しイ……』

 

彼が包みを開けると、そこには

艶消し加工がされた見事な鉈が入っていた……

 

「この仕事はあの男の……どうやってここまで連れて来た!?」

 

『エルフのお姉さんと一緒に来みたイ……お兄さん、沢山武器が打てるって喜んでタ……それから、邪魔しないで欲しいっテ。』

 

ピンチベックは赫い月の光に鉈を当てる。

それは闇夜と同化したように全く光らず、

骨製のハンドルは不気味なほど手に馴染んだ……

 

「……ふむ。」

 

ピンチベックは軽く刃を素振りしてみる。

初めて握った筈なのに、何故か違和感を感じない。

それどころか軽い高揚感まで湧いて来る程だ……

 

「良い仕事だな、後で幾らか包んでおこう。」

 

『私のガントレットには呪詛が染み付いてル。だからその武器も貴方や私と同じように頑丈で、強い力が宿ってるみたいイ……お兄さんも気に入ってタ。』

 

「銘がある、珍しいな……彼は自信作でも全く銘をつけないのだが。」

 

 

 

ネロラヴェーテ(黒い獣)

 

鉈の柄にはそう刻まれていた。

 

 

「物騒な銘だ……気に入った。」

 

『本当!?嬉しイ!』

 

「あぁ、大切にするよ……ありがとう。」

 

 

巨大な影が彼の頭上に現れる……

 

 

「丁度良い、試し斬りの相手も来たようだ。」

 

『殺生な……ククッ、その傷で拙者と愛し合うのは些か無理がありますぞ?』

 

大振りな翼を広げた魔族は鞭を弄び、

熱を帯びた目でピンチベックを眺める。

 

『シュー……他の皆は騎士としては優秀でありますが、夢魔としての能力は……ククッ、このイソトマの足元にも及びませぬ……』

 

イソトマが吐き出した赤い霧は

一瞬にして周囲を包み込み、逃げ場を絶った……

 

「猛毒か何かか、厄介だな。」

 

『拙者に言わせれば夢魔こそ至高の種族……妄言ではありませんぞ?多くの決闘を経て、拙者自身が至った結論……どれだけ屈強なオーガも、魔族を毛嫌いするエルフの聖職者も、拙者の前に皆膝をついて倒れる……勿論、人間も。』

 

「では死にかけの人間、それも出来損ないに負けたら大恥だな……」

 

『えぇ。兄上が言うには、私は井の中の蛙らしいのです……産まれて来て15年、倒せない者などいなかったのですぞ?』

 

 

ピンチベックは鉈を抜き、

殺意に満ちた目を赤く光らせた……

赤い霧が黒く変色し、辺りに殺気が満ちる。

 

「そうか……では、初体験と行こう。」

 

『こちらの台詞です……ククククククッ!』

 

イソトマの目が怪しく輝き、その目から

赤色の光線が放たれる!

 

「ぬぅ!?」

 

ピンチベックは横跳びで回避、追撃の鞭を

鉈で難なく弾き返した!

 

『光の速度に反応するとは面白い。』

 

「破壊力を伴う攻撃ではない……ベラドンナが無意識に発していたような精神攻撃か。」

 

『御明察。しかし可哀想に……初撃で仕留められていれば言い訳出来ましたぞ?』

 

イソトマは鞭を舐め、赤い唾液に塗れたそれを

構えると激しく振り回す!

 

『さっさと打たれてしまえば良いものを!』

 

ハリケーンの如く激しい鞭捌きは達人級、

赤い飛沫と切り裂かれた瓦礫が飛び散り

ピンチベックの視界を遮る……

 

(速い……腕力も相当鍛えているな。)

  

『どうしましたか……避けてばかりでは意味が……ありませんぞッ!?』

 

赤い光線が再び射出され、

ピンチベックの心臓を抉る!

 

「ぐはぁッ!?」

 

『ここからはお楽しみですぞ……焦らしてくれた分、たっぷりと礼をしなければ……』

 

ピンチベックの動きが止まり膝をつく…

イソトマは彼を抱き上げ、舌舐めずりをする。

 

『こうなってしまえば勝ったも同然……』

 

「何をした……貴様ァ……!」

 

魅了(チャーム)の魔術ですが?サキュバスといえば精神操作、我らを至高の種族足らしめる最強の』

 

次の瞬間、ピンチベックがイソトマの首を

掴んで地面に叩きつける!

 

「話が長いんだよ……大体何なんだ、このチャージとかいう魔法は?お前の反応からして即効性があるようだが全く効かんではないか、え?」

 

『……ちょっと待って下さい、どうやって防いだのです?』

 

「本来はどうなる魔法だ、これは?」

 

『無条件で拙者の事が大好きになってしまう魔法なのですが……もう一回やってもよろしいですか?』

 

ピンチベックは頷いた。

 

『さっきは角度が悪かったのかも知れません。手を繋いで、それから拙者の目をよく見て頂いて……』

 

「こうか?」

 

『ありがとうございます、では改めて……』

 

イソトマは仮面に鼻が接触する程に顔を近づけ、

光線を溜めてから連射!

 

「……眩しいな。」

 

『身体が熱くなったり、心臓がドキドキしたりは……』

 

「しない。」

 

ピンチベックの蹴りがイソトマを弾き飛ばし、

彼は壁を足場にピンボールめいて跳ね回る!

 

「遊びは終わりだ。」

 

『この方……人間なのに強いぃ!?』

 

「お前も強いさ、井から出る時が来たなぁ!」

 

『こんな筈が……せめて一撃!』

 

イソトマは鞭を振り翳し、

ピンチベックは鉈を構える!

 

「行くぞ、アブホース!」

 

鉈が禍々しい瘴気を纏い、

渦を巻いて襲い来る鞭を両断!

胸を浅く引き裂かれながら

大砲めいた追撃の蹴りを何度も受け、

イソトマは地面に向かって墜落する!

 

(拙い……こんな速度で地面に叩きつけられたら!)

 

『言ったでしょ?君じゃ彼には勝てない……』

 

ベラドンナは落下するイソトマを片手で受け止め、

気絶した彼女を城の小部屋に向けて投げ飛ばした。

 

『彼女反抗期でさ、キツい事言われなかった?』

 

「実力はあるようだが他種族を舐めすぎだ……最初から殺しに来ていれば指の2、3本は持って行けたものを、何故あそこまで差別意識を持つ?」

 

『シンが言うには友達の影響じゃないかって。魔族全員が人間やエルフを尊重してる訳じゃないから……他種族に攻撃されたり、その話を聞いたりして差別意識を持ってしまう人も沢山いる。』

 

「無理もない……魔族は悪魔と同類、何の科学的根拠もない”常識”が数年前までは幾つもの組織でまかり通っていた……あの人はそんな時代に、俺のような境遇の子供たちの親代わりになってくれたんだ。」

 

ピンチベックは首から下げた十字架の

首飾りを見て、拳を震わせた。

 

「リディアもそうだ……王国貴族だったのに、暖かいベッドも帰りを待ってくれる家族も、自分を憫む為の家も、全部失った。それで……それで、やっと手に入れた幸せも、奴等に……」

 

『大好きだったお兄さんも、ね……僕があの時止めていれば、また会えたかも知れないのに……』

 

「やめろ、お前のせいじゃない……それに。」

 

ピンチベックはマルチバッグから指輪を出し、

古い布切れで磨き始める。

 

「奴等の心臓はまだこちらが握っている……二人がこれを回収してくれたおかげでな。」

 

『結局何か分かったの、それ?』

 

「年代測定の結果、2000年以上前のものらしい…つまり旧時代のハイテクノロジーの塊だ。姉さんが言うにはタワーとやらの鍵で、タワーの鍵は王の血筋しか扱えない。」

 

『……タワーの用途は分からないんでしょ?』

 

「らしいな。メテオリット程の男が何の確証も無しで博打に出るとは考えにくいが、“神”は特殊な能力の持ち主、タワーの用途も知っているやも知れん……少なくとも存在がでっち上げでないのは確かだ。」

 

『胡散臭いなぁ、神ってのも冒険者じゃないの?未来が読めるのは魔法とか超能力で、たまたま旧時代の遺物を見つけたとかさ。』

 

「可能性はあるだろう……だが姉さんの話が確かなら、神は少なくとも姉さんが幹部になってから六年以上も住処の外にも出ず、食事も摂らずに生命を維持し、会話も殆ど無しに外界の情報を収集している。」

 

『あっ!』

 

「何か気になる事があったか?」

 

『そうだ、報告があって来たんだよ……秘密兵器出来たって!』

 

 

 

第97幕 完

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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