ピンチベック   作:あほずらもぐら

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第99幕 : パラベラム パート4

 

 

 

 

 

ー焔塔教団本拠地、人工島ー

 

 

 

 

『リーシャがあの男の手に掛かるとは……!』

 

メテオリットは壁を殴り、爆破して粉砕した。

 

『待ってくれメテオ、俺にはどうも引っ掛かる……ヴェノムは何かを隠しているのではないか?』

 

タングステンが彼の背中に声を掛ける。

その目には動揺と焦りが見え、手も震えていた。

 

『……そうだぜ旦那、この件は何だかキナ臭い。』

 

フェザーダンサーも彼を宥めるが、メテオリットは

冷や汗を流すばかりだ。

 

『だがあの男の所業、皆も見ただろう?勇んで向かった仲間達が剥製や干し首にされて送り返され、どこから情報を抜き出したのか、旧体制を支えた信者の家族の写真まで……結果的に改革は進んだが、あまりにも……』

 

『それでも元は善良な市民だった……解き放った責任は我々にあります、我々が多少泥を被ってでも確実に始末する必要があるかと。今すぐ彼を追求するべきです。』

 

ユージェニック2は彼の覇気に怯えながらも

強く意見を述べ、それを黙って聞いていた

ミストハンドは俯きながら腕を組む。

 

『……クロスが彼を倒した時、あの男は仲間を庇っていたのだぞ?そんな男が簡単に身内を殺すか?』

 

『ミスト、性善説など流行らんぞ。』

 

『事実を述べただけだ……バンディーアの一件で、限られた少数の人間はアブホースの支配にある程度の抵抗を示す事が分かっている。今この瞬間も彼はカラドリウスと一緒に行動している可能性が高い。』

 

次の瞬間、アイアンクロスが息を荒げながら

ドアを開ける。

 

『どうした、何か問題か?』

 

『いや、良いニュースだ……奴等が潜伏している古都に、王国軍が兵士と暗殺部隊を派遣してくれると返事があった。冒険者ギルドの一部も我々に協力的で、グィンマック殿も近日中に声明を出してくれる。』

 

メテオリットは拡声器を起動し、

基地全体にアナウンスをかけた。

 

『……幹部候補生、並びに人造冒険者とクローン兵士に通達!今すぐにでも総力戦へ備えて欲しい!但し、一般兵は居住区にいる民間人と家族の避難を確認してから準備にあたる事!敵は弱っているが攻勢に出る可能性も考慮し、非戦闘員はシェルター付近にバリケードやトラップなどを設置して待機せよ!』

 

『ここにいる全員が等しく戦士であり、家族である!来るべき聖戦に備え、英気を養ってくれ……!』

 

 

 

 

最終決戦は近い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   痛み。

 

 

 

  彼の左腕に刻まれた痛み。

 

 

 

突き刺さった槍の穂先のように、決して

抜け落ちる事のない甘い記憶。

 

 

愛した人の為にひたすら地獄へ突き進んで、

僕の方なんか見てくれない君。

 

 

腕の槍と同じように決して曲がらず、折れず、

彼女が愛した人間から自分の意思で離れてゆく、

強くて愚かな君。

 

 

『ねぇ、ローディ』

 

彼は何も答えずに咳き込んで、血を吐くだけだ。

何年もの間休息もなしに何度も戦って、それでも

自分と最高の決闘を演じる為に、本来なら指一本

動かせない身体を引き摺ってくれた。

 

『………ごめん。』

 

ベラドンナは彼の冷たい手を握る。

セタンタは弱々しく握り返し、また咳をした。

 

『あはは……こんなに小さかったんだ、君の手。』

 

「………」

 

『あのさ、もし意識があるなら聞いてね……ほら、隠し事はダメだって言ってたでしょ?』

 

「………」

 

 

『……君が好きだって言ったら怒る?』

 

「………ッ!?」

 

 

『今喋った?』

 

「………………」

 

ベラドンナは窓を眺め、もう一度彼を見た。

近くで物音がした気がする。

 

 

『まさかね……そんな筈ないか、こんなにボロボロなんだから………』

 

 

少し考えた後、彼は裂けた口を開いた。

 

「……言われて悪い気はせん。」

 

『知らない振りしてれば良かったのに。』

 

次の瞬間、彼は頭を地面に叩きつける。

 

「聞かぬ振りをした、お前の気持ちを踏み躙る所だった……すまん!」

 

 

ー1分後ー

 

 

『あ、これ僕が何か言わないと動かない感じ?』

 

「………………」

 

『大事な人の為にそこまで出来るのがいいなって。同じ男として尊敬するし……でも人間から見たら変だよね?』

 

「………不浄の身で聖職の人間を愛してしまった化け物か、最期まで気持ちを伝えられない臆病者より、ずっと良いじゃないか。」

 

ピンチベックは血を吐きながら呻き、

再び頭を床につける。

    

「俺は……あの人以外、誰も愛するつもりはない。これ以上の喪失に耐えられる気はしないからだ、だから」

 

 

『一言だけ、言っていい?』

 

 

「………あぁ」

 

『本当の事言ってくれてありがとう……それから』

 

 

『惚れ直したよ、友達として!』

 

 

彼はそう言って、ピンチベックを抱きしめた。

 

「………許してくれるのか?」

 

『僕が決める事でしょ……悪い?』

 

「もし俺が嘘をついたらどうしていた?」

 

『考えてないけど?断られる前提だったし。』

 

「無駄だと分かっていて何故。」

 

『一つ目、君が背中を押してくれたから。二つ目、言い出せないまま目的を達成して別れたら絶対に後悔するから……これは君を反面教師にした結果。つまり君のせいだよ……♡』

 

「……面白い奴だな。」

 

『あー、スッキリした!何か食べる?』

 

「……切り替えが早いのは良い事だ、今は良い……どこかに置いておいてくれ。」

 

『なんか暗くない?』

 

「………いつもの事だ。」

 

ピンチベックはベッドに戻ると輸血袋を握り潰し、

溢れた血を左腕で吸収した。

 

「あの人は心配性が過ぎる。腕に針を刺さずとも、アブホースにやらせれば良い……いつまで一般兵と同じ扱いをすれば気が済むのだ。」

 

『上手くコントロール出来るようになったよね……その子の事。』

 

「決闘で大量の血を浴びた、今は機嫌が良い。」

 

『僕も機嫌良いよ?』

 

「………無茶をするなとは言わないのか?」

 

『もう言わないよ……無駄だし。人間らしくするんじゃなくて、君らしくした方が素敵だと思うんだよね。』

 

ピンチベックは、耳まで避けた口を吊り上げた。

 

『もしかして笑ってる?それは僕が一緒にいるから?』

 

「あぁ。」

 

『嬉しい……もう我慢出来ない、エクトプラズム食べさせて!』

 

ベラドンナは彼をベッドに戻し、彼の胸へ

鋭い尾を突き刺した……泥に沈んでいくように、

溶け合うように彼の魂とベラドンナの尾が直結する。

 

『……一応、汚れないように服脱いで。』

 

「分かった。」

 

『冗談さ、初めて会った夢魔が僕で良かったね。』

 

「そのようだ。」

 

 

ベラドンナは彼の手を握り、顔を近づける。

 

『楽にしててね……』

 

彼の目から、金色の粒子が混ざった

赤黒い霧のようなものが出て来る。

 

『変わった色……目から出て来るなんて珍しい。』

 

彼はその霧を掴み、握り潰し、搾り取ると

スライムのような半固形に固めて飲み込んだ。

 

『んっ………美味しい。』

 

「妙な気分だ、胸の辺りが軽くなった。」

 

『魂に混じってる不純物みたいなものだからね、溜めたら毒だよ?』

 

「腹を壊したりしないだろうな?」

 

『それはないね、お腹が痛くなるのは嫌いな人のを食べた時だけ。』

 

「………………」

 

『さっき好きだって言ったでしょ?』

 

ピンチベックは仮面を被る。

 

 

「……これが無いと落ち着かん。」

 

傷だらけだった仮面は修復され、

飾り気のない鉄色の仮面に変わっていた。

 

『その仮面、すごく似合ってるよ……♡』

 

「諦めの悪い男だな。」

 

『そうでなきゃ此処にいないからね!』

 

「そうだったな……もうそろそろか。」

 

 

ピンチベックの足元に黒い渦が巻き、

彼はそれに飲み込まれた。

 

 

 

 

ー吸血鬼の城、玉座ー

 

 

 

 

『肝の据わった男、嫌いではないが……もう少し驚いて欲しい所じゃな。』

 

「この程度の些事で驚いては心臓が保たん。」

 

『儂の話を聞いたらきっと驚くぞ?』

 

「……期待する。」

 

 

 

『アブホースは……元は一人の人間じゃ。悪霊の集まりではなく、歴とした人の子じゃった。ソイツはもう、覚えておらんじゃろうがな。』

 

ピンチベックは唾を飲み、

夥しい量の冷や汗を流した。

 

「………その態度、我々が何者か知っているのか。」

 

二人の声が重なる。

 

『儂以外に知っておる者は殆ど死んだ……覚悟があるなら話してやらん事もない。お前たちがどうやって生まれたか、思い出させてやる。』

 

「知れば力が手に入るか?」

 

『己を知る事が出来ん者は死ぬ、分かっておるじゃろう?』

 

「……話してくれ、俺はもっと強くなりたい。」

 

 

 

 

 

第99幕 完

 

 

 

 

 

 

 

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