ピンチベック   作:あほずらもぐら

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第102幕: 最終決戦 パート2

 

 

 

 

水陸両用の装甲戦車に乗せられた冒険者は、

神妙な面持ちで互いの顔を見つめていた。

 

出航から一週間、戦場となる教団の人工島は

目前に迫り、狭い車内に緊張感が走る。

 

 

 

「……もう少しだ、もう少しで」

 

セタンタは十字架のペンダントを見つめて

譫言のように呟いたが、その目には死への覚悟と

敵への怒りだけが燃えていた。

 

『自由にする。』

 

「……そうだ」

 

『君の事も、リディアちゃんの事も。』

 

「……変わらんな、お前は。」

 

 

ピンチベックは呆れたように呟き、

拳銃に油を差す手を止めてから笑った。

 

 

「俺が死んだ後でもそのままでいてくれ。」

 

『分かった!』

 

 

弾倉が回る乾いた音が馬車に響く。

 

 

『これより海中に潜航します。』

 

操縦席に座った蟲人が車内に向かって話すと、

ピンチベックは銃座を起動してハンドルを握る。

その目から感情は消え、黒目が縮小した。

 

「そろそろだ、備えろ……!」

 

『分かってるって!』

 

 

『分割まで30秒、20秒、10秒……』

 

戦車は魚雷が二つ並んだような形状に変化する。

 

 

「地獄で逢おう。」

 

『確かに、君が上陸した場所は地獄だね…♡』

 

「無事を祈る。」

 

『……死なないでよ!』

 

「………善処する。」

 

 

『分割!』

 

二人を乗せた戦車が真っ二つに割れ、別々の方向へ

舵を切って敵陣に突き進む!

 

 

 

 

 

ー同時刻、教団司令室ー

 

 

 

『未確認の潜水物体、超高速で接近中!』

 

『やはり来たか……迎撃部隊を向かわせろ!もし水中で撃沈出来れば、向こうもただでは済むまい。』

 

『5000人の艦隊を今向かわせています!冒険者も配備完了!』

 

『ピンチベック、この愚将に最後まで付き合って貰うぞ……』

 

 

 

 

 

 

ーピンチベックSIDEー

 

 

 

クリスタル張りの操縦席で桿を握り、

白い装甲潜水服を纏ったクローン兵士たちが

ピンチベックの潜水艇を止める為に槍を構える。

 

 

「リーシャの想定より数が多いな、振り切れん。」

 

 

彼の艦艇は大量の機雷や発射された空気銛を躱し

覆い被さるような陣形に正面から突撃する。

 

 

『『突撃』』

 

 

彼らの脳は完成後すぐに改造され、恐怖や罪悪感、

痛みを全く感じない為捨て駒には最適だった。

 

それを止める筈のリーシャは既にこの世を去り…

少なくとも、今の幹部達はそう思い込んでいた為に

計画が再開し、彼らは生まれたのだ。

 

 

「……絶縁装甲か、奴の手を煩わせる必要もない。」

 

 

そのまま陣形に突撃し、兵士を大量に轢殺する!

無論、こんな事をすればいかに頑丈な装甲でも

一分と持たずに突き破られるだろう!

 

 

「誘爆回路を起動……これで目の前の雑魚は全員死ぬ。」

 

 

ピンチベックは強化ガラスを素手で叩き割り、

剥き出しになった赤いボタンを押した。

 

 

『ちょっと!?敵陣に上陸するまでにあと3キロもあるんですよ!?』

 

 

「泳いで接近すれば良いでしょう。全員が痛手を負うより、なるべく多い人数が万全な状態で上陸するのが最善かと。」

 

 

『状況はこちらでも確認していますが、あの人数は』

 

「脱出する!」

 

 

次の瞬間、小さな影が海上まで一気に飛び上がり、

一隻の戦艦に着地する!

 

 

『侵にy』

 

 

白装束の冒険者が悲鳴を上げる間もなく

首を蹴りで跳ね飛ばされ、脳を踏み潰された。

五十近い銃口が一斉にピンチベックを睨み、

剣とアーマーを身につけた兵士が彼を囲む。

 

 

「悪いな、時間を割いて貰う……一生分の。」

 

 

『仲間の仇、死ね!』

 

 

爆音と同時に弾丸の雨が彼の残像へ飛び掛かるが、

誰一人として彼に一発も当てる事が出来ない。

 

 

『馬鹿な!?物理的に回避は困難な筈!』

 

 

そう叫んだ兵士の隣にいた男が銃を落とす……

その額には蹴り返された銃弾が命中し、上下から

脳髄と糞尿が垂れ流しになっていた。

 

 

『ひぃ……!』

 

 

不幸な事に、彼は脳改造を受けていなかった。

目の前で修羅の化身が鉈を振り下ろし、男は

首のない自分の身体を眺める事になったのだ。

 

 

『攻撃』『突撃』

 

 

恐怖を知らぬ勇敢な複製人間たちが刀を抜くが、

その刀ごと胴を両断されて10人が即死する。

 

 

「根拠のない度胸だけで勝てるとでも?」

 

 

鉈に付着した人工血液を拭い、運悪く生き延びた

瀕死の冒険者の頭蓋を撃ち抜きながら怪物が迫る。

 

 

『こんな化け物……上から、上から聞いてない!』

 

 

「おめでたい頭だな」

 

 

彼は腰を抜かした隊長格の額に、

八連装のリボルバーを押し当てる。

 

 

「聞かせたら捨て石に出来ないだろう?」

 

ズドォン!

 

 

脳漿と赤い血液が甲板を汚し、無線機は

半ば悲鳴に近い必死の呼びかけを繰り返す。

 

 

『拙い……撤退を』

 

 

劣勢を悟った冒険者が敵に背中を向けるが、

2メートル超えの大男が立ち塞がる。

 

 

『撤退……今、撤退と言ったのか?』

 

 

『え、いや』

 

 

『私がいるのに、敵から逃げようとしたな?』

 

 

『それは……』

 

 

『仲間を信じていないのか、残念だ。』

 

 

冒険者は甲板に叩きつけられ、赤い染みになって

その短い生涯を終えた。

 

 

「やっとまともな奴が来たか……」

 

 

『獣化…!』

 

 

冒険者の右腕が生きた牛の頭に変わり、

ピンチベックが立っていた場所を砕いて

大穴を開け、船を浸水させる!

 

 

「コシューッ!」

 

 

ピンチベックは敵の足元へ駆け込み、腰から

拳銃を抜くと猛牛の拳をマントで防ぎながら

引き金を八回弾き、大男の膝を吹き飛ばした!

 

 

『ま、待てっ…この』

 

 

ズドォン!

 

 

転倒した大男が呻くが、彼は躊躇なく

引き金を弾いて引導を渡した。

 

 

「だが……悪いな、遊んでいる暇はない。」

 

 

(Cランク上位程度か……確かに強いが、明らかに質が落ちているな。)

 

 

ピンチベックは血に染まった赤い甲板に立ち、

鉈を背中から抜いて構え、一気に振り抜く!

 

 

斬砲(ジン・パオ)!』

 

 

彼に大砲を向けていた後方の艦隊が衝撃波で両断!

周囲の海域を真っ赤に染めながら沈んでゆく!

 

 

「やはり殲滅力では魔法に劣るな……」

 

 

難を逃れた冒険者たちが武器や拳を構え、

ピンチベックに向かって一斉に飛び掛かる!

 

 

「縮死……」 

 

 

彼の籠手から冷たい黒鉄の爪が生じ、

両目の瞳孔が完全に開いたまま固定される!

 

 

虎爪(フソウ)!」

 

 

枯れ木のような細身から巨獣と見紛う程の

濃厚な殺気が放たれ、周囲一帯を呑み込むと

一番前に出ていた冒険者が幾つかの赤い塊になって

甲板の上に転がり落ちた。

 

 

『な……!』

 

 

場慣れした若い傭兵たちの心臓が

新兵のそれと全く同じように跳ね上がり、

痛みを感じる程に早く血液を循環させる。

 

彼らが無知な弱兵であったならば

或いは数の利を信じて疑わずに挑み、自分が何を

されたかも知る事もなく楽に死ねただろうか?

 

無線からは激しい落雷と悲鳴が鳴り響くばかりで

それらしい支援も望めない……

 

 

 

彼らの人生で最も長い一分間が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーベラドンナSIDEー

 

 

 

 

『仲間の仇……殺してやる!』

 

 

「あ、そう……まぁ頑張ってよ。」

 

 

ベラドンナは聖騎士の冒険者が振り回す剣を左手の

刺剣で受け、ボルトを右手のダガーで弾きながら、

時折華麗なサマーソルトを繰り出して敵を葬る。

 

 

『えギッ』

 

 

首が吹き飛んだ兵士が意外そうな断末魔を上げ

じたばたと痙攣しながら崩れ落ち、地面を埋め尽くす

死体の山へ仲間入りを果たした。

 

 

『畜生……畜生ォォッ!』

 

 

「はい、隙……」

 

 

青年の構えていた剣が両断され、蹴りを

脇腹に叩き込まれた兵士が尻餅をつく。

 

 

『しまっ……』

 

 

間髪入れず、刺剣で心臓を串刺しにされた青年が

血を吐いて即死する。

 

 

「………お互い、帰れると良いね。」

 

 

ベラドンナは不幸にも生き残った兵士を見ると、

一瞬で彼に近づいて声をかける。

 

 

『うわ!?』

 

 

「ねぇ……ここで倒れてる兵士、空いてる戦艦で全部持って帰ってくれない?」

 

 

『何でそんな』

 

 

「別に拒否っても良いんだけどォ……お互いこれ以上血を流しても無益だからさ、お願い!」

 

 

ベラドンナはボートを目線で差すと剣を納め、

兵士に頭を下げた。

 

 

『し、しかし上が何と言うか』

 

 

「普通の人間の事は分からないけど、誇り高い聖騎士様が邪悪なインキュバス一人仕留めきれず全滅、ってよりはマシなんじゃないの?」

 

 

『う……』

 

 

ベラドンナの言葉に間違いはなかった。

Aランク冒険者を仕留める前提で組まれた大部隊は

あっさりと半壊し、マナ適性者も全員が戦闘不能。

 

生き延びるには逃げるか仲間を裏切るかしかないが、

この人数で手ぶらで帰っては処罰を免れないのも事実。

 

 

「……丁度、仲間が逃げ道を作ってくれてる。今すぐ行けば確実に間に合うし、どの道僕達が教団を滅ぼして騎士団の立場もなくなるから組織を気にする必要もないよ。」

 

 

『何故そう言い切れる……相手はSランク冒険者だぞ!?あと数時間もすれば、当局からも大勢刺客や賞金稼ぎが送られて来る!その自信は何処から来ているんだ!?』

 

 

「僕が背中を任せてるのはピンチベック(メテオリットを殺す男)だから、

かな……彼は誰にも負けないし、これからもっと

強くなる。」

 

 

 

 

 

第102幕 完

 

 

 

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