『飛べよ、聖鎖!』
黒装束の冒険者が放った魔法の鎖がベラドンナに
毒蛇めいて襲い掛かる!
『危なっ!?』
ベラドンナは難なく鎖を断ち切ると
雷を帯びた蹴りで敵の首を砕き、心臓を貫いて
止めを刺した。
『うぉぉォッ!』
続けてコンバットナイフを構えた冒険者が
掬い上げるような突きを放つが、彼は致命の一撃を
紙一重で躱し……
キン!
彼が剣を納めると同時に敵の背後で鈍い金属音が
鳴り、その頭があるべき場所に赤い噴水が発生して
敵が絶命する。
『何が起こっ……』
反射的に冒険者の口が開き、言葉を紡ぐ。
暫くして、仲間がすれ違い様に首を斬られた事を
理解したが、もう遅かった。
ズダダァンッ!
どこからか無数の銃弾が叩き込まれ、体内で
激しく膨張して破裂、内臓の半分と冒険者の
意識を跡形もなく消し飛ばしたのだ。
「避けろ」
不気味な低い声を載せた戦艦がバリケードを
ぶち破りながら超スピードで人工砂浜に突っ込み、
敵兵を蹴散らして壁に激突、爆発炎上する!
『派手な登場だねぇ……』
悲鳴を上げ、火達磨になって地面を転がる兵士を
無慈悲に踏み潰しながら、ピンチベックが現れた。
「仲間が有能過ぎるのも考えものだな、よもや
ここまで獲物が残っていないとは。」
『君と踊るに値しない相手を片付けただけさ……
そろそろ美人さんが来るんじゃない?』
「……抜かるなよ。」
『僕を誰だと思ってるの?』
物陰から飛び出した影が振るう一撃を受け、
あるいは躱しながら両者は互いの背後を預ける。
『やはり、出来るな……!』
二振りの短剣を青い雷を帯びた鉄棍で
受け止めながら、青銀の甲冑を装着した若い
冒険者が呻く。
「
『我が主は貴様の狂犬めいた蛮行を許しはせん……
このヒュージテンペストが貴様の死刑執行人よ!』
「遊んでいる暇はないが……政府の犬ならば殺す!」
『ほざけ!
鉄棍から稲妻がレーザービームのように射出され
ピンチベックの肩を浅く焦がすが、彼は全く怯まず
一瞬で距離を詰めると肝臓を狙って刺突を放つ!
「雷と云うより”亀也”だな。」
『雷速にもついて来るか……小癪な!』
ヒュージテンペストは雷を纏って肉体を強化、
フックめいた突きを見切り、鉄棍を振り下ろすが
彼はもうそこには居なかった。
「シュウッ!」
ヒュージテンペストは死角から回し蹴りを
食らって吹き飛び、防護壁にめり込む!
(なんて脚力だ……まさに怪物!)
「死ね」
ヒュージテンペストは急いで起き上がり、
起き上がって追撃の蹴りを防ぎ、弾丸を避ける!
『死ぬのは貴様だ、お前達!我が自治領の輝かしい
未来の為に死ね!』
彼が口笛を吹くと白装束の冒険者が五人、
ステルス迷彩を解除してピンチベックを
羽交い締めにし拘束した!
『
爆音と共に衝撃波が放たれ、人造冒険者諸共
激しい雷の津波に押し流される!
『やったか!?』
電熱で溶けた地面から蒸気が上がり、体内の
水分が蒸発してミイラ化した冒険者の死体が
一つ、二つと姿を現す。
「………」
やがて蒸気が晴れ、小さな影が姿を現す。
「派手な割に、威力はお粗末だな。」
『何だと……5億ボルトの電流だぞ!?生き物が、防護系魔法も無しにまともに受けて生きていられる筈が無い!』
その目は赫く光り、左腕からは黒い瘴気が
絶え間なく漏れ出していた。
『打雷!』
雷の矢が虚しく空気を切り裂き、彼の残像を
透過して壁を焦がす。
「雷の矢は悪手だったな、耳長猿……来世では20億ボルトまで鍛えておく事だ。」
『死ねぇ、死ねえっ!』
「断る」
彼は放り投げた鉄針で雷を逸らすと、
敵の脇腹に膝蹴りを入れると同時に押し倒し
艶のない歪んだ短剣を構えた。
『呪われろ、この下等生物が!呪われろ!』
「黙れ」
エルフは一瞬で心臓を抉り出され息絶えた。
それとほぼ同時にベラドンナの剣が暗殺者の
錆びた鉤爪を腕ごと切断し、首を刎ねた。
「食うか?」
『寄越せっ、儂は腹が減った!』
全身を赤い返り血とオイルで汚したスカアハが地上に
降り立ち、投げ渡された心臓に齧り付く。
『コココゥ撃キ、撃、ゲキィ、ココッ』
四肢から火花を散らしながら白装束の冒険者が剣を
振り上げる。狙いはピンチベックだ!
『
溶けたサイバネティクスが地面に転がり、
真っ黒に焦げた肉塊が倒れる。
『幹部になってから腕が鈍ったかも知れません。』
「……裏切られたとはいえ、姉さんが仲間を相手にして本気が出せるとは思えない……あの時も殺そうと思えば私の骨の10本や20本簡単に砕けた筈。」
『まだ姉と慕ってくれるのですか。』
「ジャックやサムと会って、彼らの信念に触れた。教団は敵だが悪ではない……強いて言うならば、人々の高潔な精神や信仰心を凶器に変えたメテオリットこそが悪だ。」
ピンチベックは敵の無線機に拡張装置を取り付け、
カラドリウスに連絡を取る。
「幹部達は私を含め、全員無事要塞前まで到達しました。作戦通り私以外の幹部が一人ずつ塔に攻め込み、私はメテオリットを討ち取るつもりです、どうぞ。」
『上出来です!こちらも侵入に成功しました。しかし思いの外確実な不正の証拠が少ないので、其方に証拠が移された可能性があります。不信感を煽る程度なら出来るでしょうが、このままでは議会が我々と敵対するのは時間の問題……証拠を探せますか?』
ピンチベックは深い溜息を吐くと、無線に向かって
声を張り上げた。
「……貴女は、我々を誰だと思っているのです?」
『せっ、世界最強です!』
「言い過ぎだ。しかし貴女に言われてはな……」
セタンタは仮面を外し、包帯も全て引き剥がす。
その右眼は真っ赤に染まり、左眼には黄金の宇宙が
幾つも浮かび上がる。
「成りましょう、その最強とやらに。」
彼は厚さ数mものプラスチール防壁を見上げると
中腰姿勢で右腕を前に突き出し、瘴気を放つ左腕を
槍に変えて全力で叩き込む!
『
飛竜の牙すら退ける鉄壁に大穴が穿たれ、
絶対安全な壁の向こう側で満身創痍の悪魔を
待ち伏せていた兵士達は赤い霧と化して消えた。
『ピンチベックだ、殺せ!』
だが敵の戦力は膨大、今の攻撃で死んだ数百人も
兵力のごく一部に過ぎないのである。
「分かっているな!全員生きて、この島にある三つの塔を全て止め!今日でメテオリットの王国を!
リディアの悪夢を終わらせる!」
『騎士の誇りと僕の親友にかけて……何処の誰が
来ても退かないからね♡』
『乳臭いガキが儂に命令するな、と言いたい所じゃが……このスカアハ、お前程の男になら喜んで
使われてやろうぞ!誇りに思え!』
『貴方達に最後の試練を与えます……死にたく
なければ、全力で掛かって来なさい!』
「総員、攻撃を開始しろ!」
ピンチベックの絶叫と同時に四人が走り出し、
影が血飛沫と悲鳴の中を走り抜ける!
「腕に覚えのある者と死にたい者は前に立て!」
『俺が相手だ、ピンチベック!』
クォーツがフランベルジェを構え、ピンチベックに
下段から斬り掛かる!
「それがお前の正義か……逃げ出して実家を継いでも俺はお前の事を責めんぞ、ガキ!」
『お前、放って置いたらあの人を殺すだろう……孤児だった俺を取り立ててくれた人を!俺に地位と、夢をくれた人を!』
「10歳の子供から全てを取り上げて手に入れた地位を誇るか、つくづく救えん跳ねっ返りだな!」
ピンチベックは激しく打ち合いながら時折
飛んで来る光のチャクラムを全て蹴りで砕き、
フランベルジェを躱して膝蹴りを打ち込むが
クォーツは意に介さず彼の背中に肘を撃ち込み、
衝撃で怯んだ隙に横薙ぎで首を狙う!
「フンッ!」
鉈でフランベルジェを止め、拳銃を抜いて
クォーツの脇腹を撃ち抜く!
『小癪な……我が傷よ、遡り戻れ!』
クォーツは筋力だけで弾丸の膨張を押し留め、
傷口から潰れた鉄の粒を吐き出す。その傷も
少しずつだが薄れてゆき、目に見えて出血が
収まっていった。
「治癒の奇跡…強くなったのはお前も同じか。」
『宮殿の模擬戦で何度も殺されたからな。これ以上……あの人の顔に泥を塗りたくないんだよ!』
『今だ、クォーツ殿を援護し…』
何人かの兵士が走り出した瞬間、両者は
それぞれチャクラムと銃撃を互いの背後に放ち
増援を沈めた。
『な、何を』
「『邪魔をするんじゃあねぇ!/ない!』」
『この人を倒せるのは俺だけだ、勝手に死ぬな!』
『し、しかし…!』
ズドンッ!
眉間を撃ち抜かれた男が死に、後ろの兵士が
小さな悲鳴を上げて後ずさる。
「部下の教育がなっていないようだな……
奴が俺を引き抜こうとしたのは正解だ。お前に
『……もう誰もそんな事しなくていいように、
俺があんたを倒すんだよ。』
「奴が理想郷を作れると?長年仕えたカラドリウスの血筋を信じる事も出来ず、実権を奪って革命家を気取っているだけの臆病者に、そんな大層な事が
出来るとでも?」
『じゃあ……あの人はどうなんだ。あんたを良いように使って、邪魔者を消しているんじゃあないのか!?俺知ってるんだぞ!あの人はあんたの体を使って奇形児の特徴を研究して、論文まで書いてる!好きでそうしてる訳じゃないのに、売り物みたいにされて……あんた悔しくないのかよ!?』
「……今のはあの男の受け売りか?」
『あぁ。あの人はあんたの気持ちを分かってない、自分の手元にしか
居場所がないと思い込ませてると、あの人は言ってた。違うのか?』
「昔はそうだったが、今は違うな……俺の他に三人いただろう、彼らがその証拠だ。」
『……彼らを互いに仲間と言えるか、心から!』
「そうでなくては、ここまで来ていない。」
再び二つの刃が火花を散らした。
『……変わったな、護民官だった時とは違う。』
「目的は変わらん。」
『その妄執と共に死ね!ローデリウス!』
クォーツの剣が強い光を帯び、鋭い踏み込みと
同時に刀身から白色の光線を放つ!
ピンチベックも変形させた腕に呪詛を溜め、
『フレアインペイル!』
『
魔力の衝突で大爆発が起き、互いに吹き飛ばされる!
「………」
『勝てないか……場数が違うよ……な…』
胸を抉られたクォーツの手からフランベルジェが
落ち、彼は血を吐いて仰向けに倒れた。
「ガキめ、無謀はこれで終わりだな。」
『……待て』
「命乞いは聞かないようにしている。」
『違う……名前、技の……名前だ、あんたのセンスじゃない……あんた、大陸の古い言葉を使うだろ……模擬戦で……知ってる……から、誰の技……か、気になって……』
「最期の質問がそれか?」
『あぁ……誰なんだ、あんたを……変えたのは。』
「夢魔だ……信じられないくらい趣味の悪い男だよ。」
『確が……にぃ……ナンセンス、だな……』
「……全くだ。」
『誰か、分がった、気がする……』
「そうか。」
『伝えて……くれるか、馬鹿にして、わ、悪かったと』
「分かった。」
『ありがとう、久しぶりに話せて良かった。』
「俺もだ……もう休め、クリストフ。」
彼はジェスチャーでクォーツに目を閉じるよう促し、
弾を込め直すと三回引き金を引いた。
ズドォン! ズドォン! ズドォン!
第104幕 完