ピンチベック   作:あほずらもぐら

13 / 123
UA100達成エピソード、いかがでしたでしょうか?是非私の所に感想をお寄せ下さい。ペラドンナさんが中性的なのは、断じて私の趣味ではない。(鋼の意思)ペラドンナさん優位の健全本を、誰か作りなさい。特に投稿者のあほずらもぐらに需要があるぞ。健全じゃない本って何だよ。それでは、本編、ご覧下さい。


第12幕:「キノコと筍と銃弾」後編

「ムハハハハハ!さぁどうした!逃げて見せよ!我の顔に、嫌と言うほど拳を浴びせるのではないのか?」

 

 

『アイっ…ガバッ…ゲボーッ!』

 

 

よし、一人はもう倒したも同然だな…しかしえげつない事するなー…まぁあいつの攻撃で骨折したらしいし、怒って同然か…

 

『き、貴様よくも同志を!浄化されるべし!』

 

アイアンクロスが跳んだ!彼にとってファイブフィンガーは、ギルドの冒険者時代からの友人であった。それを無惨にも痛めつけるアブホースは、憎悪の対象でしかない!アイアンクロスの十字架型ハルバードがぎらりと輝く!しかし、ストゥーピストがそれを阻んだ!

 

『殉教者になれるんだぜ、喜べよ、えぇ?』

 

さっきとは一変して、余裕のある表情でサーベルを構える!

 

『だッ、黙れ!我々には選ばれた神の教えを広める使命がある!』

 

それは確かに、彼の本心だった。だが、本質では無かった。彼には、歳の離れた弟がいた。だが、生まれつき重度の精神障害を抱えていた。アイアンクロスはどうしても弟に普通の幸せを手に入れて欲しかった。様々な薬や、オカルトにも手を出した。勿論、親や、弟本人を恨んだ事はあったが、彼らも悩んでいる。アイアンクロスは理解していた。そこで、教団の説法を聞き、神に、教団に貢献すれば幸せになれると言われた時、彼の迷いは消えた。この教団で地位を上げ、徳を積み、先祖代々のカルマを清算する。弟は不自由なく暮らせる。敵は三人とも手練れの兵、無傷で帰れないのは承知の上だ。

 

『じゃあ、あの世で広めればいい、あっちの方が人も多いだろうよ!』

 

『今を生きる同志の為に戦うのだ!その為の信仰心だ!』

 

十字架型ハルバードをストゥーピストのサーベルが弾く!落ちる火花が、牡丹の花のようだった。凄まじい攻防とは裏腹に、周囲の空気は凍りつく。

 

『じゃあ、今すぐにくたばんな!そっちの方が周囲の為だぜ!』

 

ブランダーバスによる銃撃!これを、シールドスペルを応用した衝撃波で相殺!すかさず突きでのカウンターだ!

 

『チッ…乳臭せぇガキの癖しやがって、やるじゃねぇか…』

 

僅かにハルバードがストゥーピストの肩を掠め、そこから血が流れる。相手に手傷を負わせれば、それだけ有利になる。このまま一気に押す。数を減らせば、撤退して援軍を待つ余裕も出来る。勝ち筋は見えた!

 

『てめぇ…信仰心とかいう安いプライド張った事..後悔させてやる!』

 

ストゥーピストのサーベルが、風を纏う!すかさずハルバードで防御するも、勢いとキレを増した剣戟に腕が痙攣する。だが、アイアンクロスの覚悟は固い!サーベルを跳ね返し、更に一撃、更に攻勢を狙う、音速の突きだ!それが…何と風を纏う!彼の風属性の才能が開花したのだ!

 

『こいつ…慣れてきてやがる…!』

 

ストゥーピストも手練れだ。自分の技の恐ろしさは身に染みている。それ故に、敵への警戒を一層強める。

 

『お前の悪運もここまでだ!』

 

刺突武器に風属性の組み合わせ、敵の身体を穿ち、内側から切り裂く必殺の妙技。砂漠の国の戦士たちが槍術に憧れを抱くのには、それなり以上の理由があるのだ。ハルバードを中心に渦巻く風が、一層勢いを増す!

 

『成程ねぇ…まぁ、よくやった方だな..』

 

ストゥーピストはおもむろにブランダーバスを発射!銃弾がアイアンクロスの目前に迫る!これを薙ぎ払うアイアンクロス!しかし、銃弾はハルバードに引き寄せられた!通常、武器に風を纏わせる場合、最初はある程度風の威力を抑え、敵に攻撃を当てた時に風量を強めねばならない。なぜなら、風量が余りにも強いと、武器が纏う風が飛び道具を巻き込んでしまうからである。

 

『な、何だよ!これ!?』

 

ブランダーバスから放たれた銃弾が炸裂し、十字架型ハルバードをヒビだらけにする!

 

『おぉ〜、カッコいいぜこれ!』

 

ブランダーバスは原則、破損防止の為に口径の小さな鉛弾を使用するが、彼は賭けに出たのだ!複数のダムダム弾が炸裂すれば、いかにミスリル製の十字架型ハルバードと言えど、タダでは済まない!

 

『私はまだ倒れん!まだやるべき事が残っているんだ!』

 

生きて帰り、また弟と、妹と会う。だから、ここで負ける訳にはいかない。まだ、鋼の十字架は、彼の心は、折れていない!ハルバードを振りかざし、猛然と突撃する!

 

『……来いよ。俺は今、機嫌が悪いんだ。』

 

激しくぶつかり合うハルバードとサーベル!火花が、ハルバードの破片が、地面に落ちる!偶然にも、ハルバードの破片が、ストゥーピストの視界を塞ぐ!

 

『勝てる!ここだ!御免!』

 

十字架型ハルバードが、ストゥーピストを、罪人を捉えた!脇腹を突き刺し、磔にする……

 

 

 

 

……はずだった。次の瞬間、アイアンクロスは死んだ。弟を、守ろうと、幸せにしようとする、純粋で、愚かな少年。ただ、家族想いな人類種の少年が、そこにはいた。ピンチベックが、いつの間にか人間に戻っていたのに、彼は気づけなかった。一発の銃声で、身体に6つの穴が空いた事にも。気づいた時には、少年の首は、サーベルによって斬り落とされた。そして、最期に気づいた。弟の為に、彼らを殺そうとした事に。そんなことをしても、弟は喜ばないことに。

 

 

 

 

 

『お前は……幸せに…すまない…』

 

 

その断末魔が、彼の大切な人に向けられたものだと、ピンチベックは理解した。自分の手で、彼の大切な人の幸せを、破壊した。仮面から、雫が垂れた。見上げれば、雨が降っている。人真似をする怪物の涙を洗い流す為か、それとも、愛ゆえに狂った少年を弔うためか。

 

 

人の為に涙を流す。怪物とは、そんな事をする生き物なのだろうか。ボロボロの十字架を拾い上げ、彼は袋にしまった。

 

 

『あれ?あの偉そうな大剣使いは?』

 

 

見ると、インドルジェンスの姿が見えない。乱戦に紛れて撤退したのだろう。

 

 

 

 

 

 

〜一方その頃〜

 

 

人気アイドル、バンブー・ルーは、商人ギルドの重鎮、アヴァ商会のブランド力で急成長したグループだ。売り上げ以外にも、商会の後ろ盾を得る為に、必要な物があった。週に一回、メンバーの内誰か一人に、商会の重役の一人、豪商バスカール陣営との「接待」業務を課さなければ、契約を打ち切る。それが約束だった。プロデューサーには多額のリターンを、バスカールも若い女性が手に入り、誰も損をしない。現場のアイドル以外は。そして、アイドルというものは、一枚岩ではないグループが殆どだ。青春を犠牲にして、将来への投資をする。歌手として転身する、経営者側に成り上がる、政界への進出すら考える者もいた。顔が広いというのは、とにかく役立つものだ。

 

そして、そういった未来への投資は、ストレスが溜まる。時に対抗馬が現れる事もある。ストレスが発散出来て、対抗馬も潰せる。そんな、夢のような選択が、チーム内で権力を持てば出来る。親が商会の重役で、かつチームでもナンバー1の人気を誇る、ダリア・バーモントには。ナンバー1は、貴重な広告塔にして、資金源だ。彼女が商品の箱に写真を載せれば、ファンが品切れになるまで買い占める。彼女が新しい元老院議員の候補者を推せば、ファンもその候補者に投票する。そんな彼女に惚れ込む冒険者が、商人ギルドの専属になる。

 

チーム内で、彼女に逆らう者は、もはやいない。意義を申し立てた別ユニットのメンバーは、一か月後には「育児休暇」を取って、ファンの非難の嵐の中、辞職したからだ。そして、「育児休暇」を取る予定のメンバーが、一人闇の中に消えようとしている。理由は単純。彼女は出世しすぎたし、知り過ぎたのだ。

 

さながら、今日のバンブー・ルーのナンバー4、ユリアは屠殺を待つ山羊である。いや、「元」バンブー・ルーか。鉤十字の代わりに、グループのロゴを掲げた独裁者に逆らった者の末路だ。同業者の見せしめにされるのだ。唯一の出口は、二人の冒険者によって守られている。決して逃げられない。結局、さっきのターバンの青年は、下っ端か何かだったのだろうか。そして、豪商バスカールの部下、商人のアルベルトが入室してくる。未来の夫だ。どうやら、バスカールは部下の結婚相談まで聞いているらしい。

 

 

 

だが、アルベルトは様子がおかしかった。かなり慌てた様子で、肥満体を揺すって走ってきた。

 

『は、早く賊を迎え討ってくれぇ!』

 

何かトラブルがあったのか?

 

答えは、すぐに明らかになった。

 

 

 

 

 

「どうも、私達は、この支配階層失格のクズ豚を抹殺しに来ました。会場警備員です。」

 

『勤務内容には、緊急時の際の、出演者の護衛も含まれております。よって、私共の行為に違法性は全く無い。』

 

『今のご時世、闇営業に枕営業、濃厚接触はご法度だからねー♡』

 

 

三人のスーパーヒーローのエントリーだ!

 

 

『キノコ派の回し者か!?死ねェーッ!』

 

迎え討つのは、商人ギルドの冒険者、ニンゼクチだ!マッシュルームクラウド支持者の集まり、「キノコ派」を、ニトロを仕込んだ爆竹で虐殺した、邪悪かつ無慈悲なナンバー1、ダリアの狂信者である!

 

『クソッ!教団とかいう奴らは役立たずだな。やはり、ダリア様以外を信仰する者は殺すべし!』

 

そして、相棒のニケタカワも跳んだ!彼はかの有名な、「キノコタケノコ闘争」で、キノコ派の処刑をマチェーテで行った、アナーキスト冒険者だ!

 

『ダリア様、万歳!』

 

ニンゼクチは、ニトロ爆竹を、レーザービームめいてペラドンナに投擲!

 

『アイドル舐めんなー!』

 

紫色に輝く、雷の大槍がニトロ爆竹を貫いた!そのままニンゼクチに、ニトロ爆竹と一緒に雷の槍が団子めいて突き刺さる!

 

「コヒューッ!ギュルル…バァバァン!」

 

更に、ピンチベックのファニングショットが炸裂!

 

『バカなーッ!』

 

ニンゼクチは爆破四散し、内臓と肉片が飛び散る!

 

『相棒の仇ーッ!』

 

『惚れた女に捧げた人生か…悪くねぇ…』

 

ストゥーピストのブランダーバスとサーベル投擲が炸裂!

 

『うわぁーッ!』

 

ニケタカワは胴体をハチの巣にされ、頭部を寸断された!激戦を乗り越え、一層洗練された三人のチームワークに、数でも質でも劣る彼らが勝てるはずが無かったのだ!

 

 

『さぁ、お嬢さん、もう大丈夫です。どうか、今は我々と一緒に。』

 

ストゥーピストが、あからさまに声色を変えて話しかける。しかしユリアはペラドンナの下に駆け寄った!

 

『怖かったよね…もう、大丈夫だよ。』

 

『お兄さんたち…ありがとうございます…』

 

「こんな小さな子供まで…商人ギルド、それに教団…まだ生きていたか…」

 

 

人類種の若者達の、命を賭した覚悟。それはピンチベックを僅かに、だが確かに変えた。

 

 

次回、乞うご期待!

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。