『あばよーッ!とっつぁ〜ん!』
『待てーッ!アルベルト様を解放しろー!』
三人のヒーローは、ユリアを連れ、簀巻きにしたアルベルトを担いで、全力で駆ける!作戦は完全に失敗だが、最高議会への手土産が二つも出来たのだ。なんとしても追手を振り払い、自治領まで逃げおおせるのだ!
『後少しで馬車だよ!皆頑張って☆☆☆☆☆』
『やべぇぞ!手配度MAXだ!』
「ハートとスペード以外も出せるのか…随分器用だな。」
脱出用にあらかじめ待機させていた馬車に飛び乗り、三人は帰路を急ぐ!しかし、憲兵隊が馬で追って来ている!
『そこの馬車、止まりなさい!』
『このまま帰るのもつまらねぇ!余興だ、お前ら、派手に行くぜ!』
「宇宙海賊みたいな事言ってないで、妨害を急いでくれ!」
『炸裂弾はもうないのか!?』
「すまない、もう品切れだ!他に使える物を探してくれ!」
『じゃあこれ!』
「よし、なんでもいい、使ってくれ!この際文句は言わない!」
『おい!このバカ商人がどうなってもいいのか!』
まるで誘拐犯である。だが、返答はクロスボウだ!
『あったまきた!じゃあ望み通り解放してやるよ!』
ストゥーピストは簀巻きにしたアルベルトを憲兵隊に向かって投げつけた!たちまち憲兵隊はパニックになり、馬が急停止した事で追跡は止んだ。
『戻ってこーい!』
ストゥーピストは、あらかじめアルベルトに括り付けた縄を引いて、アルベルトを回収する…が、失敗して、アルベルトが引きずり回される!
『うわぁああああああああ!!』
『フフッ……♡』
『市中引き回しの刑だ!しっかりと反省しろよ!ハッハーッ!』
残念ながら、ここは街ではなく森の中である。
『うわぁあああああああああああああああ!!』
森に悲鳴がこだまする。だが、助けはもう来ない。
「そろそろ勘弁してやれ。」
『分かったよ…つまらねぇ奴だなぁ…』
心底残念そうにストゥーピストがアルベルトを回収する。
『あ…あっ…ゼェ…ゼェ…』
アルベルトは虫の息である!
『貴方達…何者ですか?』
『正義のヒーローと、愉快な仲間達だ。』
『君を、安全な所まで連れて行くからね♡』
「悪いようにはしない。ただ、今回の件について、詳しく話してもらうだけだ。」
しかし、そうは問屋が降ろさない!
『あっ、あいつらか!ちょっと待ちや!』
なんと、正面に冒険者だ!馬が驚いて、立ち止まってしまった!戦闘態勢に移る三人!
「悪いが、彼らを解放する訳にはいかない。交渉の余地は無い。即刻退去して貰おう。」
『いやいや、いくらウチでも三人は無理やって!今日は商談に来てん!ビジネスの話や!』
『ビジネスだぁ?馬鹿いっちゃいけねぇ。俺、お前より、強い。お前、殺す、俺たち、逃げる。OK?』
『あんなぁ!ウチはお前ら助けに来たねんで!正直そのアルベルトとか言うヘンタイ親父とアイドルの姉ちゃんはどうでもええ。ウチの狙いはあんたらや!』
「…話を聞こうか、レディ。」
『おー、流石兄ちゃんは話がよう分かる!早速本題に入らせてもらうけど、次の元老院議員の選挙で、バンブー何とかのダリアっちゅーメスガキが、とある候補者を推しとる。これがまた厄介な奴でな、憲兵隊を民営化する言うてはるんですわ。多分ウチと同じ商人ギルドか、反自治領派の回し者やとウチは考えてるんやけど、何にせよまず証拠がない!ほなどうするか言う話ですけど、ダリアは人気ユニットのナンバー1や。しかも、その地位は最初にナンバー1になって以来不動。さらにきな臭い事に、次点のナンバー2、そして3は、かなり入れ替わりが激しい。しかも、ナンバー2、3になった後の会見で引退や他グループへの移籍を表明したりするメンバーが、やけに多いんや。』
「成程…その辺りを洗って、ダリアが何をしているか解明、ファンを減らすと同時に、その候補者の数字も落として落選させる訳だ。」
『100点満点の回答やな!ウチのグループは憲兵隊に武器やその他諸々を卸しとる。これが民営化で別グループに占有されれば、ウチらの稼ぎは激減してまう。それに、バンブー何とかがライバル視してるって噂の、マッシュルームのプロデューサーはんとは、近いうちに共同で事業を始める予定やから恩を…じゃなくて、お互い、いい仕事をしたいからな。双方の敵になりかねないし、早よ潰しておけば、本格的に事業を始める際に連携しやすいから、どうしても阻止する必要があるんや。』
「しかし、なぜ我々を指名した?」
『そりゃ、今日一日で冒険者を4人も殺った後、商人ギルドの要人と超有名アイドルを誘拐して、しかも馬車で憲兵隊を撒いたからやろ。』
『こうしてみると、僕たちすっごい悪い奴みたい…』
「法に触れているのは事実だろう。我々は英雄ではないのだ。正義とやらは勇者にでも任せておけばよい。」
『で、どうする、乗るんか?それともリスクだらけの帰り道をお前らだけで行くか?ウチが時間稼いどる間、憲兵隊がここ一帯を包囲したかもな。』
『はいはい、やればいいんだろぉ?で、見返りは?』
『今回の事件は犯人行方不明、迷宮入りって事にする。後、カラドリウスから話は聞いとる。自分ら、商人ギルドのヤク中共のタマ取りたいんやってな?商人ギルドに話通して、ウチの専属って事にして、捜査しやすくしたる。どや?魅力的やろ?』
「最高議長の一人と知り合い?一体、貴方は何者なんだ!?」
『あー、カラドリウスとは同郷や。ウチが最初に雑貨屋始めた時、最初の客があいつやってん!で、武器商人始めた時の最初の客も当時エージェントやったあいつやったんや!運命感じてな、そっから長い付き合いや!確か、兄ちゃんは化石みたいな銃で何人も冒険者殺っとる、元斥候やったな?優秀やって何度も聞かされたわ!』
「最高議長のご友人でしたか…とんだ御失礼を…。」
『ええって!頭上げてぇな!自分、無茶ばっかしやって毎回死にかけてるって、心配してたで?』
「そうですか…そのように思って頂けていたとは…」
『よし、行くで!ほな自分らも早く乗り!ちなみにウチの名前はコームや!宜しく頼むで!』
コームが言うが早いか、城塞の如し荘厳な馬車が、大型の馬に引かれてやって来た!三人は急いで飛び乗り、馬車が出発した。
『こんな豪華な馬車、パレードでも乗った事ありません…!まるで、童話の世界みたい!』
『実はね、このお兄ちゃん、変身して戦うんだよー♡』
『すごい…まるでコミックヒーローみたいです…!』
まだまだ遊びたい盛り、今まで我慢していたのかも知れないな。私も彼女と同じ頃は、正義の味方や冒険者に憧れたものだ。しかしペラドンナは、子供の扱いが上手いな。さすがアイドル志望だっただけはある。一方、その横の部屋では…
『オラッ!死ねッ!反省しろッ!下手な同人誌みたい事しやがって!お前じゃ誰も喜ばないンだよ!』
ストゥーピストが簀巻きに猿轡のアルベルトを、馬車に備え付けの予備の鞭でスパンキングしている。死んだら反省は出来ないと思うが…かなり教育に悪いな…ユリアに無視された事が余程許せないらしい。
「だが、火炎や破壊光線が使える訳では無いよ。」
『それでも凄いです!』
子供達の前で変身なんかしたら、間違いなく阿鼻叫喚だと思うが…まぁ、子供の夢を壊しても、何の得にもならないだろう。
『お前ら、到着や。ここが、ガー○ー黒光りギルド本部や。お前らは今日から24時間、ここで笑わずに過ごさなアカンのや。』
『女の子にそのネタ、通じる?』
『さて、冗談はこれくらいにして、お前らの基地になる場所や。作戦期間中はここでウチとカラドリウスの指令を待ってもらう事になる。ユリアを匿う意味もあるから、無闇に外出せんように。』
『了解!ヒーローっぽくなって来たね♡』
思わぬ助っ人の登場、そして本格化する作戦、次回、乞うご期待!