ピンチベック   作:あほずらもぐら

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駅のゴミ箱って、最近どんどん減って来てませんか?飲み物用の奴以外、殆ど撤去されてる気がします。投稿者のあほずらもぐらです。やっぱり、牛丼とか弁当の容器なんかを捨てる人が多いんですかね?それでは、本編、ご覧ください…


第14幕: 困惑の帰郷

『へぇ〜ッ!これで、遠くから顔を合わせながら通話出来るのか!』

 

ストゥーピストが、広間の大きな水晶の板を眺めながら感心する。原理は単純で、水晶玉による魔術師同士の通話と同じだ。

 

『リモートってやつ?旧時代の絵巻に出てくる機械に似てるね。』

 

「だが、人工水晶の塊だから、機械と違って故障の心配は無い。設置場所によっては広告や情報提供に使えそうだな。」

 

『あーダメやダメや!こんな大層なモン、街中で動かすには魔力が足らん!大体そんな事したらビラ配りや新聞配達の仕事が減って、失業者が更に増えてまう。そうなってみ、戦後なのに貧困で治安悪化して困るのは自分らやで!』

 

「急に出て来たな。しかし、綺麗に写るものだ。」

 

『ありがとな!さて、一日経って新居にも慣れたやろうし、お前らの初任務や!こっちで調べた結果やと、マッシュルームクラウドの地方巡業を、タケノコ連中が妨害するつもりらしい。都会ではデビューしたばかりの新入りやし、確かに今が潰し時やな。こっちにも頼もしい戦力がいるっちゅう事を教えてやるええチャンスや!お前ら、至急レカの街へ向かってくれや!準備は一任するで!』

 

『おー、いいじゃねぇか、暴れても文句は無さそうだな!』

 

『レカ…因果な話だな…。』

 

〜到着後〜

 

 

『貴方も、マッシュルームクラウドの公演を見に、遠くからいらしたんですか?』

 

「いや、今回は仕事で来まして、会場の警備を任された者です。」

 

『成程!警備にも冒険者を起用するとは、流石今旬なグループだ!頑張ってくださいね!』

 

「あぁ、ありがとう。」

 

ファンだと言う一団と会い、話をする。年齢、性別、種族もバラバラで、流石に前回の任務程の数は居ないものの、待ち時間もファン同士で談笑したりと、温和な空気だ。共通の趣味は、人の繋がりを強くする、よく覚えておこう。

 

下準備を終え、まだかなり待ち時間がある。別行動で情報収集がてら街を散策しようという話になり、朝食を取ろうと、ファンの一人から勧められたパン屋に立ち寄る。

 

『いらっしゃい!何にします?今日はねぇ、ベーコンエピがおすすめですよ!』

 

十代前半と思われる少年が店番をやっている。なかなか熱心で爽やかな子だ。このような子供ばかりなら、太平の世も実現出来るのだが。この街も変わったな。10年前は、白装束の集団が説法し、母がギロチンに掛けられたが…

 

「ではそれと、後は…フルーツサンドと、カレーパンを。」

 

『はい!合わせて、銅貨6枚になります。』

 

「サイズの割に随分安いな。ちょうどだ。」

 

『はい、ありがとうございます!まぁ、田舎ですから。でも今日は朝からイベントだから、結構買いに来る人多いですね。さっきも、タケノコと牛蒡と蓮根のサラダサンドを、団体さんが全部買っていきましたよ。』

 

(タケノコだと!?確か彼らはタケノコを神聖視していると、調査書にあったな。するともう敵陣に踏み込んでいる訳か…)

 

「すまない、サラダサンドを買った人間に、何か特徴は無かったかな?」

 

『あっ!確かに、皆同じ、緑色の服を着ていました。やっぱり、イベントだからですか?』

 

「いや、もっと大事な事だよ。教えてくれてありがとう。」

 

 

 

一方、その頃

 

『お兄ちゃん冒険者なんでしょ!サイン頂戴!』

 

『鍛えてるの?筋肉見せて!』

 

『俺に魔法使ってよ!』

 

「はいはい、一人ずつだよー♡じゃ、最初に言ってくれた女の子!」

 

『サインください!』

 

「お安い御用!はい、これでどうかな♡」

 

『カッコいい!お兄ちゃんありがとう!』

 

「じゃ、次の子!腹筋でいいかな♡」

 

『すげぇ!スポーツ選手みたいだ!流石冒険者!』

 

「はいはい、魔法だっけ?じゃあ加速魔法ね♡」

 

『体が軽いぜ!猛獣になった気分だ!』

 

 

 

 

 

こいつ本当に子供の扱いが上手いな。アイドルよりスーパーヒーローとか保育士目指した方がいいぞ。家族に連れられて仕方なく来たであろう、退屈してる子供に、的確に声を掛けて、たちまち人気者になりやがった。別に羨ましい訳じゃねぇが…

 

 

『ここで皆にお願いがあるんだけど、聞いてくれる?実はね、僕たち、この公演を邪魔しようとする悪い奴らを追って来たんだ!怪しい人を見かけたら、僕たちに教えてくれるかな?でも、無理したらダメだよ?』

 

成程…これも作戦の内か…確かに子供相手になら賊も迂闊に手出し出来ないし、子供は好奇心が強い。色々な事に気づいてくれるかもな。

 

「……パンを買って来たんだが…食べるか?」

 

『おぅ!じゃ、カレーパン貰うぜ!』

 

『ありがとー!じゃ、僕はフルーツサンドね♡』

 

「それと、賊の特徴だが、緑色の服を着ている可能性が高い。どうも彼らはタケノコを神聖視しているらしい。私が訪ねたパン屋では、タケノコが入ったパンを全部買っていった、緑服の集団がいると聞いた。」

 

 

『皆!緑色の服だよー!で、何人もいる!見つけたら教えてねー!』

 

 

\はーい!/

 

 

〜しばらく後〜

 

 

 

『緑色の服、緑色、緑…』

 

『見つかる訳無いって…無理しちゃダメだって、あのお姉さ…お兄さんも言ってただろ?』

 

『冒険者なんて当てにしてるのかよ、俺は将校になって、王国を復興する男だ、追跡の訓練くらい慣れてるさ!』

 

『だからなろうと思ってなれるモンじゃないの!マナ適性ってのが必要で…』

 

『うるせぇ!他の奴に先を越されるかもしれないんだ!緑色の奴を捕まえて有名になってやる!』

 

そう、両親の様になる。それが彼の夢だ。彼の父親は、優秀な王国軍人であり、勲章も授与されている人物だ。母は傭兵で、冒険者では無かったが、それに匹敵するくらい剣技は冴えていたし、頭脳派の父は、担当した作戦を何度も成功させている指揮官だ。王国が自治領に敗れた今でも、それは変わらない。だが、父親は彼がもっと幼い頃に、戦犯として処刑されてしまった。母は傭兵だったので処刑はされなかったが、自分が産まれた事で引退せざるを得なかった。だから、若くしてこの世を去った父より上に行く。父の遺品である勲章を見たからか、或いはかつての名門貴族の血がそうさせたのか、彼の決意は固かった。

 

 

『パン屋のエドの所行けば、何かわかるかもな…冒険者の一人は、あのパン屋のパンを持っていた…』

 

父親譲りの判断力で、事件解決の糸口を貪欲に捜す。その目は街の青年ではなく、大軍を率いる指揮官だ……そんな想像をしながら、パン屋へ向かう。

 

『いらっしゃい…ってあれ、エルバルト君じゃないか。どうしたんだい?』

 

『さっき冒険者が、この店のパン持ってたから、エドは何か知ってるかなって思ったんだよ。』

 

『あぁ、緑服の団体さんが、タケノコのパンを…』

 

『それだ!そいつらが何処に行ったか、知らないか?』

 

『それなら、無縁墓地の向かいに…』

 

『分かった!』

 

 

 

 

よし、後は奴らを追うだけだ!公演の妨害を未然に防いだ功労者になれる。そう、父のように。街道を駆け抜けた先、無縁墓地の付近、そこに、彼らはいた。

 

 

慌てて身を隠す。バレれば終わり、すなわち死だ。

 

『いいか、情けは無用。肝に銘じろよ。あれは敵だ。彼女の治世の為、今が一番大事な時期だ。楯突く害虫は一匹たりとも逃すな。それが君達の使命だ…』

 

何やら、冒険者らしい人物と緑服の男たちが話している。そして、おもむろに冒険者が爆裂魔法で緑服の一人、その頭を吹き飛ばした。

 

『なのに何だこの無様は!役立たずのクズ共が!一匹たりとも逃すな、今言ったばかりだろう!追手のクソガキ一匹、見つけられんのか!私の同志に無能な兵は要らん!』

 

『ひっ…』

 

足元が暖かい。失禁しているのだ。自分は、今から死ぬ。爆破されて、バラバラにされる。そう思うだけで足が凍りついた。逃げられないのだ。

 

『捕らえろ!私の目の前に連れて来い!さもなくば殺す!』 

 

恐怖に駆られた一人が、パニックを起こし青年に襲いかかる!狂気と恐怖は感染し、近くにいた全員が青年を襲う!

 

『た、助けてくれ!許してくれぇ!』

 

今まで、親の遺産と家名を使って、順風満帆な生活を送って来た。士官学校内でも、期待と尊敬の眼差しで見られる、将来安泰な人生。しかし、自分では何も成し遂げられなかった。このまま、殺されるのだ。体を鍛え、背が伸びて、今や地位まである。どんな不祥事や暴力事件も、期待のエースである事と、周りの事なかれ主義も合わさり、揉み消して来たのだ。そして今、自分が他者を虐げ、陥れた暴力によって、自分の人生が終わるのだ。周囲の人間は、彼が大事だったのでは無い。ただ、他者に干渉することが、自分が責任を問われるのが面倒だったのだ。周りを見ると、見なかった事にして立ち去る人がいた。それも何人も。

 

『お、おい、助けてくれよ…』

 

返事は無かった。権力を誇る人間は、更なる権力に晒された時、全くの無力になる。そして、腕力と権力しか取り柄の無かった彼を誰も助けようとは思わない。なぜなら、彼の前に、それを超える武力と権力の持ち主、冒険者がいるからだ。まさに因果応報である。

 

『お…俺は将軍の息子だぞ…地位も約束されてるんだ…』

 

『なおさら良い。人質になって貰おう。』

 

『ふ、ふざけんな!これでも喰らえ!』

 

士官学校の道場で鍛えた拳を繰り出す。だが、簡単に腕を掴まれ、そのまま、枝でも折るかのように、腕がありえない方向に曲がった。

 

『ぐわぁぁあああ!』

 

思わず悲鳴を上げる。彼も同じように、弱者を虐げ、力で傷つけた人間だったが、自分がされるのには不慣れだったようだ。

 

 

『雑魚め…所詮は一般人か…』

 

呟きながら、冒険者、メテオリットは続けて右足を折る。

 

『バリバリバリ!グシャア!』

 

『ああぁぁぁぁぁ!!』

 

体中から血、汗、涙、尿、吐瀉物とあらゆる液体を垂れ流し、目を剥いて叫ぶ。鍛えられた足の筋肉がタルタルステーキめいて潰れ、太い骨が機械にかけられた材木のようにチップになる。

 

『それくらいにしておけ。痛みで発狂して人質として機能しなくなるぞ。』

 

『はいはい。』

 

歌と歓声にかき消され、彼の叫びを誰一人として気にも留めない。熱狂の声か、拡声器の不調か、何にせよ、自分には危険は及ばない。この時は、誰もがそう思っていた。まだ公演は始まったばかりだ。

 

 

 

 

第14幕 完

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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