『クソ…インドルジェンスがやられたか…』
冷静な口調だが、メテオリットの額には汗が浮かぶ。数的不利は死に直結する。彼はそれを痛い程理解していた。だからこそ、対抗策を用意したのだ。だが、今や悲鳴すら上げない「それ」を今使うのは、得策では無い。
『仇は取る…食らえ!ボルケイノ・スマッシュ!』
先に動いたのは、ビクトリーマグナムだ!少年の拳が溶岩めいて赤熱し、膨張する!振り下ろす拳は、まさに魔神の鉄槌である!
『メテオ・エクスプロシブ!』
メテオリットも、強力な爆発魔法で援護する!さながら隕石落下の様な爆発と衝撃、風圧で最前列の観客が吹き飛ぶ!
『うわぁ!流石にシールドスペルじゃ無理ー!』
『ジャスティスサンバとやらは俺が食い止める!お前らは全力で回避だ!』
「そういう訳にもいかん、焼け石に水だろうが、私とて足止めはするさ。」
『じゃ、僕も行くね♡』
『行くぞぉ!マスクド・カール!』
『僕はビクトリーマグナムだ!』
サーベルと拳が火花を散らす!だが、連戦が祟ったか、サーベルが砕ける!
『馬鹿な!クロームの7倍近い強度のオリハルコン合金製だぞ!』
『残念だったな!』
ビクトリーマグナムの蹴りが炸裂!しかし、脇腹を掠めるまでに留まった!すかさず、ストゥーピストがカウンター射撃!ブランダーバスによる、凶悪な接近射撃だ!
『うぅっ……』
しかし、ビクトリーマグナムは健在!若干の傷はあるものの、どれも浅い。オリハルコン繊維の特殊スーツが銃弾を防いだのだ!
『吹き飛べ!』
『畜生!ここまでか!?』
反撃で宙を舞うストゥーピスト!しかし、銃撃がそれを阻む!
「バァバァァン!」
リボルバーの弾倉を一瞬で全て空にする、目にも止まらぬ早業だ!
『…!スピアオブダークムーン!』
ペラドンナも雷魔法を放つ!そして、雷と銃弾が融合する!しかし、通電した銃弾程度では、ビクトリーマグナムに有効打を与えられない!…だが!
『ス、スーツが!』
だが、通電した銃弾は、電磁石と同じ原理で、磁力を発生させ、サーベルの破片を巻き上げながら着弾、オリハルコン合金の刃が、バトルスーツに無数の傷を付けた!
「今だ!」
ピンチベックは、懐から、強酸の入った耐酸ガラス瓶を取り出し、一直線に投擲!ペラドンナの雷魔法で体が麻痺し、僅かに回避が遅れる!
『うあぁああっ!』
傷だらけのスーツ、その繊維の隙間から、強酸が侵入する!いかにオリハルコン繊維といえど耐えきれない!バトルスーツは数秒で錆色に変色し、今までの強度と機能を失った。
「子供か…やはり、良い気持ちはしないな。」
再び鉤爪を展開し、強酸が皮膚まで達し、苦しむビクトリーマグナムに止めを刺す…
『や、やめなよ!いくら何でも子供達の目の前で…』
「何故だ…彼がもし報復に来たら?夜道を歩いている時、一人でいる時。かような手練れに不意打ちを食らえば、今度こそ命は無いぞ…」
『まぁそうイチャイチャするなって。あの隕石野郎と取引しようぜ。』
「…分かった、従う。」
『おい!聞いただろ、俺たちはこのヒーローごっこしてる坊やを人質に取ってんだぞ!さっさと投降しろ!』
『…バカめ!私が対策を練っていないと思ったか!』
『た、助けて…頼むよ…』
エルバルドだ!手足を片方ずつ潰された上で、ロープで拘束されている!
『メテオリット…何でそんな…』
「……成程、その男か…好都合だな。」
ピンチベックは、エルバルドに銃を向ける。
「私は彼の命を代償に、このヒーローを殺せるなら、別に構わん。」
『そ、そんな!だって彼、怪我してるし、無関係な一般人だよ!?』
「それが…無関係ではないんだよ…私には。」
ピンチベックは小声で話す。
『ん?いまいち話が見えねぇなぁ?知り合いか?』
「別に、君達に話す事もない…その”元”ヒーローを縛っておけ。」
ピンチベックは苛ついた様子で、金属糸で編まれたワイヤーを投げ渡す。
『分かったが…まぁ何だ、別に何もしてねぇ奴なんだ、冒険者でも無いみたいだし、助けてやってもいいんじゃないか?』
「無理な相談だな。これを見れば、彼も思い出すだろう…」
ピンチベックは、仮面を外した。古傷だらけの皮膚は片方だけ火に焚べたように爛れ、髪は白髪混じりで唇は無く、尖った乱杭歯が剥き出しになっている。とても若者とは思えない、悍ましい風貌だった。
「思い出したか?お前がどんな人間か、お前が私をどうしたか。」
『な……』
「やった側は全て覚えていなくとも、された側は一生覚えているぞ…その周囲を舐めた目、私を化け物だと、魔物だと罵る口、私を押さえ付け、殴るその腕!全て覚えている!」
『そうか………………悪かった、ずっと…罪の意識に苛まれて来たんだ。頼む、罪滅ぼしのチャンスをくれ!頼む、助けてくれ!』
「…今、悩んだな?」
『…え…』
「悩んだな、と言ったんだ。私に詫びる事を躊躇した…違うか?」
『ち、違う!俺は…』
「言い訳はいい、君の器はその程度だと、よく分かった。しかし、魔物に慈悲を乞うのか、君は…どうなんだ?魔物に情けをかけて貰えるのかね、君は?獰猛な、本能だけの生き物に。」
『頼むよ…もう過ぎた事じゃないか、償いはする…だから…』
「では、たった今ここで君を見殺しにしても、いずれは過ぎた事になるな。全ては未来に塗り替えられる、そう言って割り切れるな?」
『や、やめて…ください!』
ビクトリーマグナムが、縛られながらも、必死の想いで叫ぶ。
『やめてください!あなたは魔物や化け物ではありません!人間です!僕や彼と同じ、一人の人間です!』
「口だけなら何とでも言えるな。正義のヒーローなら、悪人に鉄槌を下し、行動で示して欲しいものだが。」
『ダメです!生かして罪を償わせるんだ!』
「そして、また同じ事を繰り返す訳だ。人類種らしい、子供じみた、非合理的で脆弱な発想だな。」
『そんな事は無い!絶対に救える筈だ!僕も貴方も、その力で多くの人を救って来た、冒険者だから!』
『僕はいい!だから彼を解放するんだ!メテオリット!人質を取るのをやめろ!』
その時だった。おもむろにメテオリットが爆破魔法をビクトリーマグナムに向かって放ったのだ!
『馬鹿なガキめ!自分が駒だとも知らずに、おめでたい奴よ!既に増援が向かっているぞ!あのビクトリーマグナムを殺したスーパーヴィランを仕留めたとあれば、私の評判は更に上がる!増援まで駆り出すのは想定外だが仕方あるまい!街一つでお前達を葬れるなら、安いものだ!』
『……そうやって計画を全部バラすの、死亡フラグだから。』
そこには、シールドスペルでビクトリーマグナムを庇うペラドンナが!しかし、彼だけではない!飛び散った瓦礫は、ピンチベックの鎖分銅で粉砕される!
「………一つ貸しだ。いいな?」
『わ、分かりました!』
「立てるか?まぁ、強酸程度で死んで貰っても困るが…直ぐに手当てをしろ。服は早めに脱がせた方が良いな…」
『ちょっと待て、少年ヒーローのサービスショットは倫理的にNGだ!この小説が打ち切りになってしまう!着替えあるか!?』
『馬車に換えのスーツがありますけど…』
『よし、行くぞ!』
ストゥーピストが叫ぶと、砂嵐がモザイクめいて二人の姿を隠し、そのまま二人は馬車まで向かって走って行った!
『時間稼ぎ、頼んだぞー!』
そして、最悪のタイミングで敵の増援が現れた!
『貴様…よくも我々の計画を!生きては帰さんぞ!』
『あれが例の…勝てるのか、俺は…』
『臆するな!全員殺して、全員潰す!いつも通りだ!』
『うわぁ…数多いねぇ…行けそう?』
「敗れれば、死ぬ。撤退命令が出るまでは殺し尽くす。」
『ブレないねぇ…まぁ、そういう律儀な所が気に入ってるんだけど。』
二人は、死闘を覚悟し、ほぼ同時に構えた!
第16幕 完