『やめて…止めてくれぇ!』
「人を見下し、無慈悲に虐げておきながら、慈悲を乞うとは面白い!まずは目玉からだ!二度と人を見下せないようにしてやろう!」
エルバルドは後悔でも怒りでも無く、ただただ恐怖を味わう。そして、今は苦痛も味わうのだ。
『ファイヤーマグナムパンチ!』
「な、何だと!?」
その非道を三人の冒険者が阻む!
『へぇ…もう片付いたんだ…でも、その人は渡せないな…♡』
『チッ…化け物呼ばわりされて、ガチのバケモンになるかよ普通…』
『さっき戦った時とは、覇気が桁外れだ…彼は何故ここまで…』
「わざわざ殺されに来たか!これは奴が望んだ事だ!何故邪魔をする!」
『だからだよ…彼が間違ってるなら、僕が止める!僕が間違った時は、彼が助けてくれたからね…♡』
『まぁ…コームとかいう女から、迷惑料として金貨500枚くらいは貰えんだろ…生きて帰って、美味い店でも探すかねぇ…』
『ぼ、僕は…』
ビクトリーマグナムは正義のヒーローだ。だが、彼を突き動かすのは強迫観念だった。マナの適合率が非常に高い彼にとって、冒険者はまさに天職だっただろう。しかし、若くして名声と地位を得た彼は、素の自分と、ビクトリーマグナムとしての自分にギャップを感じ始めていた。ヒーローで無ければ、自分に価値は無いとすら考えていた。
『勿論僕も戦います!たとえこの命に換えても街を』
だが、ストゥーピストの平手打ちに、言葉は遮られた。
『馬鹿野郎…そんな事言うんじゃねぇ…そういう事は…もっと大人になってから言え…』
『…?』
『俺はさ、元々はダビテ砂漠の出身だった。あそこは、つい数十年前までオアシスを巡って紛争が絶えかった。ガキだった幼馴染も大勢死んださ…だから、今生きてるんなら命に換えて、なんて言うな…』
『…はい!』
『坊主…俺は生きて帰るぞ。俺は生きたいと思って死んだ奴らの分、死ぬまで贅沢して、美味いモン食って、イイ女と遊んで、戦争しようとしてる奴らを殺す。』
『僕も…僕は目の前で危険に晒されている人を見て見ぬふりは出来ません!僕は、ピンチベックさんと、街の人を助けて、彼を救い、罪を償わせます!愚かだと、単なる理想かも知れない!でも、僕はやりますよ!』
『チッ…これだから青いンだよ、お前ら若手はな…俺は12の頃から砂漠でやって来た…ま、”初体験”は17の時だがな…ってそんな事はどうでもいいか、行くぞ…』
『さて、僕が憧れた君に戻って貰うよ…♡』
ペラドンナも、マジックポーションを飲み干し、臨戦態勢に入った。三人は、決意を固める。戦友を、恩人を討つ。
「厄介な相手が控えているのでな…貴様ら蛆虫には消えて貰う!」
『蛆虫より、毒蛾の方が好きなんだけどねぇ…』
「抜かせぇ!」
アブホースの赤錆の様な血に濡れた爪が、ペラドンナに迫る。だが、ペラドンナはダガーでこれをいなした!
『覚えてるかな…このダガーには”また”助けられちゃった…』
なんという運命!このダガーは、脱走兵の手からペラドンナを救った、ピンチベックのダガーである!
『やっぱり貰っておいて良かったよ…君は…これを渡す時、少し嫌そうにしてたけどね…手を汚さないで欲しいって。』
「…クッ!小僧!調子に乗りおって…」
『中身までバケモンになったワケじゃねぇよなぁ?えぇ?』
反撃を試みるアブホース!そこにストゥーピストがブランダーバスで接近射撃!戦闘で生じた土煙に乗じて一瞬で敵に近づく、卓越した足捌きだ!
「カァーッ!貴様ぁ!ますは貴様から引き裂いてくれる!」
アブホースのカウンターだ!銃弾を防いだ直後にも関わらず、高い身体能力を発揮し、ストゥーピストの肉を切り裂く!
『……痛ぇ…だが、”コレ”があれば、やっぱ幾分かはマシになるかな…』
なんと!?ストゥーピストの傷口が超常的スピードで塞がり始めているではないか!これは聖魔術の高位呪文、
『マトモな坊さんを馬鹿にしてる気がして、今まで使いたくなかったンだが…使えるモンは使わねぇと、アンタには勝てないからな。』
「小癪な真似を!無意味な抵抗はよせ!」
『無意味じゃない!行くぞ!ボルケイノ・スマッシュ!!』
赤熱化するビクトリーマグナムの拳!そして!さらに白熱化!炎魔法の熱エネルギーを片腕に込め、必殺の拳は白い軌跡を描き、アブホースの胴体に直撃!発生した衝撃波で周囲の瓦礫が粉塵と化す!
「ガァアアアアアアッ!許さん!何故そこまで我の邪魔を…」
『君が大事だから…ね?まだ、君に何も出来てない…だから君と一緒に、成し遂げたいんだ♡』
『ま、見殺しにするのも忍びない!ハッパはもう見たくないし、何よりアンタが居ると、俺らまで無理しちまうんだよ…』
『誰かが困ってるなら、同じヒーローとして、人生の後輩として、放って置けないだけです!』
致命傷とはいかないが、ビクトリーマグナムは確かな手応えを感じた!暴走状態にあるとはいえ、元々彼は手傷を負っていたのだ。全力は出せないはず。
「貴様らクズどもが!何故我が!何故私が!ガアアアアアアアアアッ!」
アブホースは凄まじい勢いで跳躍!血の雨を降らせながら、彼らの追撃を回避!そのまま壁を蹴り、何処かへ消えていった!
「一対三では分が悪いか…ならば一人ずつ叩き潰すのみ!精々逃げてみるがいい!ムハハハハハ!」
『早い…!あれが、人間の動き!?』
『少なくとも、心は人間だよー!だって、僕たちに逃げろって言ってくれたでしょ?』
『ポジティブだなぁ、お前。でも、一人称が”私”だったからなぁ…確かに、僅かだが可能性があるかもな….』
その時だ!
『おーい!お前ら無事かー?敵の増援が来たってハナシ聞いたんよ、生きとりまっかー!?』
『あ、来た来た!遅ェぞー!』
『あれ、コームさん!?』
『来てくれたんだ…♡』
コームである!どうやら撤退を指示しに来たようだが…
『おっ、ヒーローのボウズやないか!元気しとったかー?』
コームがビクトリーマグナムの頭をわしゃわしゃと撫でる。
『や、やめてくださいよ、コームさん!』
『……ピンチベックはんはどないしたんや?さっきから姿が見えんようやが…?』
コームの目が鋭くなり、声が威厳のあるものに変わった。
『…それが、彼は…その…』
『負傷した俺たちを庇って、たった一人で増援と戦い、結果重症を負った挙句アブホースとかいうバケモンに取り憑かれて、トチ狂ってどこかに行きやがったぞ…どういう事だ…増援が来るなんて、聞いてねェぞ…!』
怒気をはらんだ声で、ストゥーピストが話す.
『何故もっと早く来なかった!アンタがもっと早く来てさえいれば、あの馬鹿が無理して闘う必要も無かったンだよ…化け物になる必要もな…』
『化け物やと…!?あの阿保…無理ばっかする上、そないエラい爆弾抱えとったのか…道理で余裕のない声しとった訳やなぁ…』
『…もう、過ぎた話はいいよ…お願いします、彼を助けるのに協力して…』
『あぁ…こちらとしてもあの戦力を失う訳にはいかん、全面的に協力させてもらいます。』
コームは複雑な表情を浮かべ、装甲馬車を指差した。
『乗りぃ…作戦立てる。あの
『…僕も、行かせて下さい!』
『んあ?お前にはまだ早いて!大体お前商人ギルド所属やろ。裏切るんか?応援してた子供達全員の夢、壊す事になるで!』
『で、でも…』
『こら身内で解決せなアカン問題や!ボウズが首突っ込んでええ事ない。いいか、こいつらの仕事はお前みたいな”表舞台”の人間が手伝ったらアカンねや!』
『……ボウズは近くの街でサイン会でもなんでもして人集めろ。追手も人通りの多い所は通らん、迂回した奴らをウチの私兵が叩く。頼んだで。』
『………はい!』
『作戦開始は明日の早朝や。お前ら、絶対助けるで!じゃないと、自治領との契約、カラドリウスに打ち切られてまう。』
『…ま、やるだけやるかな…金は全部終わってから纏めて請求すれば良いか…』
『…………絶対、絶対助けるから…待っててね…』
第18幕 完