今回は、第一幕の直後のお話になります。その為、第一幕をご覧になっていない方は、そちらを読んで頂いてからだと、より一層今回のエピソードが楽しめると思います。今回はバトルはありません。
楽しみにしていた方、もしかしたらいらっしゃるかも知れません、ごめんなさい。第ニ幕は、ドラマ重視のエピソードになります。それでは、本編をお楽しみ下さい。「」⇦がピンチベック、『』⇦が他の人です。
()はピンチベックの心の声になります。
ピンチベックは、山を下り、森を駆けて教会へ向かう。これだけなら参拝がてら雨宿りに向かう、ごくごく普通の信心深い旅人だろう。しかし、今回ばかりは事情が違う。彼の乗る馬には、遺体が積まれている。
しかも二人。彼の馬は脚こそ早く無いが、荷運びや長距離走は得意である。普通の馬なら小一時間掛かる所を、彼は半刻で到着した。
『どうぞ、寒かったでしょう!馬さんも一緒にどうぞ!いまタオルを持って来ますから。』
「申し訳ない。さぁ、入るぞ、ゴールディ。」
修道女に迎えられ、彼は教会に入る。帽子を脱いで、頭を下げる。
椅子に腰掛け、息をつく。渡されたタオルで馬を拭いて、また溜め息をつき、その後自分を拭いた。
「助かった。この教会の神父様とは面識があり、個人的に話がしたい。いらっしゃるだろうか?」
『あぁ、神父様でしたら、ちょうど放し飼いにしている動物達を教会で雨宿りさせる為に外に出ていますよ。すぐに見えるかと。』
その時だった。
ドアが開かれ、神父が帰ってきたのだ。
『やぁ、留守にして悪かったね、私は…おっと、貴方でしたか…アルマ、私はこの方に話をしなければならない。悪いが、それまで雨宿りをしにきた方がいらっしゃったら、何か体を拭く物を渡してくれ。』
彼はピンチベックを小部屋に案内した。ここは負傷者や病人を看護する臨時の診療所としても機能しているようだ。幸いにも今日は患者はいない。部屋にあるベッドのうち一つに、”荷物”を載せると、神父は話を始めた。
『ご遺体を持って来たという事は、やはり…いや、これであの厄介な薬も周辺からは消えるのでしょうが…ともかく、ありがとうございました。』
「私は英断だと思いますが。あのまま放っておけば、彼等はもっと多くのクスリをもっと多くの人々に流通させていたでしょう。刃傷沙汰になってもおかしくありませんよ、あのクスリは。」
『そうですか…ありがとうございます…お二人を連れてきたのなら、蘇生するのでしょう?』
「お願いします。彼女達には、聞きたい事が山程あります故。」
『こんな事しか出来ませんが、貴方の勇敢な行動への感謝を。』
神父は遺体に手を添えると、白魔法の
気道に血液が残っていたようだ。
「落ち着け!血を吐き出すんだ!」
『ゲホッ!ゲホッ!ガバッ!グワーッ!』
背中に手を添え、軽く叩く。暫くすると、落ち着いたようだ。
息は荒いが、蘇生は成功した。
『あれ…あんたは?…ここは?』
「神父様、ここは私に。連続での蘇生はいくら貴方でも厳しいでしょう。それに、一対一の方が話しやすい。」
『それでは、お言葉に甘えて。』
神父はややふらつきながら退室していった。卓越した白魔法の使い手でも、マナポーションの服用や、十分な栄養補給と休息がなければ複数回の使用は厳しい。
「私はピンチベックと言う者だ。貴女を神父様に依頼して蘇生させて頂いた。最も、貴女を殺したのも私だが。」
ドワーフの女性は暫しの沈黙の後、
『待て、あんたが私を殺したのは分かる。積荷の中に武器でも入ってたと考えれば、まぁ妥当だろう。でも、何で蘇生させた?』
「貴女達を雇ったのは誰か知りたい。そして、積荷の中は武器では無い。」
男はいつの間にやら、問題の”クスリ”を手に持っている。
『なっ…これは…嘘だろ…』
どうやら、事の重大さを理解したようだ。
「どうやら、コレが、あってはいけない物である事は分かっているようだ。最低限の倫理観は残っているようで安心した。また殺す必要はないようだな、私も嬉しい。」
『悪い、いや、悪い事したんだから当たり前なんだけど、一つ言っていいか?』
「構わないが。」
『ありがとう。』
男は仮面の下で目を丸くした。今まで、誰かに感謝された事は殆ど無かったからだ。それこそ、さっきの神父に言われたのが人生で数回目くらいだった。しかも、今度は殺した相手にまで言われた。一日で何度も石を投げられた日はあったが、二回も感謝されたのは初めてだ。
「な、な、なっ、なぜ感謝するんだ!私は貴女を…」
『だからだよ、私たちを命張って止めてくれた。知らずとはいえ、取り返しのつかない事をする所だったんだ。』
男は驚いたが、もっと別の事実にも驚いていた。治癒魔法全般に言える事だが、
「申し訳ない、言いにくいのだが…」
『何だよ?』
「早く何か着た方がいい…」
『うわぁぁぁーっ!?』
女性の本能で、反射的に近くにいた恩人を突き飛ばす。ドワーフは背丈こそ低いが、膂力はトロルやオーガにも匹敵する。ピンチベックはカタパルトに飛ばされた石のように軽々と宙を舞い、床にしたたか腰を打ちつけた。
〜翌日〜
「う、うぅっ…」
腰への激痛で目が醒める。そうか、昨日は…腰をさすりながら腕時計を確認する。時刻は六時半、皆起きているだろう。あの後神父が湿布を貼ってくれたが、気休め程度だ。蘇生魔法を使用した神父にこれ以上無理をさせる訳にはいかず、そのまま一晩泊めてもらったのだった。
『ありがとう』…か…
ドワーフの少女ザザンは、せっせと朝食の準備をしていた。ピンチベックは起き上がろうとするが、
「ぐはぁっ!」
狂わんほどの激痛が腰を襲う。自前の回復魔法を使おうにも痛みで集中力が削がれる。繊細な骨のダメージを治療するのにこれでは無理だ。
『ん?おいおい、あんまり無理すんなよ、私が肩貸してやるから。』
『おーい、怪我人いるから、お前も手伝ってくれー!』
『はいはい、今行くわっ…って』
(なるほど、これは気まずい。何の事情も知らずに任務についていたドワーフとは違い、このエルフは積荷についてある程度知っているようだった。神父は思ったより仕事が早いようだ。)
『な、何でアイツがいるのよ!アリウスじゃなくて何でアイツが!私たちを追って来たわけ? 大体アリウスは…』
『よせよ、アリウスはこいつが倒したんだ。大体、アリウスがあの仕事を受けたんだ。お前なら荷物の中身の事、アリウスに聞いてたんだろ?
お前ら付き合いも長かったし。あいつは自業自得だろ。』
『それは…でも、周りに話したら殺されるでしょ。商人ギルドの連中が依頼してたって。私一人では何も…』
「だが、違法行為に加担したのは事実だ。早く認めた方がいい。逃げた分だけ、罪は重くなる。」
『あ、あなた何者よ!大体どこから来たのよ!』
「私は自治領の護民官、ピンチベックだ。お前達が流通させている薬物の危険性を知ったエント自治領は、この件を重く見て、問題解決の為に私に捜査権を与え、この国境に派遣した。最高議会によって、私に担当地域の捜査、及びその準備は一任されている。」
『何よそのサイコーギカイってのは!』
「半刻後、迎えの馬車が来る。今のうちに朝食を済ませろ。捕虜用の飯は芋ばかりだぞ」
『ちょっと待った、私達はその馬車で何処に連れて行かれるんだ?まさか自治領の処刑場じゃないだろうな?』
「処刑される心配は無いだろう。最高議会には事情を知らぬ者もこの件への加担を強要されていたと報告済みだ。それに今回の取引は未遂だからな。君たちを人質として利用する事を考慮すると、監禁してからの尋問が妥当だろう。知っている事を話せば問題無い。」
〜半刻後〜
『ピンチベック護民官、お疲れ様です。それでは、前の馬車にお乗り下さい。』
「やはり自治領の議会は仕事が早いですね。少しお待ちを。」
そう言って、御者を待たせると、馬車に乗り込むザザン達の元へ行き、二人に話しかける。
「怪我をしたくなければ知っている事は全て話してくれ。それと、…罪を犯した人間は裁かれなければいけない。…なるべく早く、議会が君達に恩赦を出せるように、この事件を解決する。そうしたら、私の所へ、復讐でも仇討ちでも勝手に来るがいい。」
『私の事を庇った事、後悔させてあげるわ!』
「……あぁ。」
第二幕 完
はい。第二幕、いかがでしたでしょうか。
ピンチベック君、何かザザンさん達に思う所があったのでしょうか。
コメントはいつでも歓迎です。というか、して欲しいです。
最初は3人くらいに見てもらえればいいかなと思ってくれていたんですが、微妙な時間帯に投稿したにも関わらず、10人以上の方に見てもらって、とても嬉しいです。気に入ったら、お友達に布教してもいいのよ?
第三幕を、楽しみにお待ちください!