ピンチベック   作:あほずらもぐら

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皆様のおかげでUA200を達成致しましたので、特別編を掲載させて頂きます。今回も、とある人物の過去編になっています。それでは、本編、ご覧ください…








あ、そういえば、今月20日にシド○アの騎士のスマホゲーが出ます。
アニメ版もア○ゾンプライムで無料で見れるので、そちらもよろしくお願いします。


UA200達成記念 特別エピソード 「信仰なき聖人」

「いつか、自分は神に仕える僧兵になりたい」

 

バカな事を言ったものだ。存在しない者に仕えるなど、無理な話なのに。「天国」?人が複数いれば、必ず争いが起きる。もしそんな場所が存在するなら、地獄よりも酷い所に決まっている。

 

 

「地獄」?自分で作った人間を、神は地獄に落とすのか?罰するならば、元より完璧な生物を作ればいいだけだ。何故、間違いを犯すような生き物を作る?

 

 

この世は地獄。強い者にしか、天国への道は赦されぬ。ならば俺は天国に行こう。俺には力があり、資格がある。何故なら俺は冒険者だから。

 

 

少年は口の中に残った砂を噛みしめる。そして、血の喜びと、殺戮の快楽を。

 

 

 

ダビテ公国 首都立神学校 戦士養成部門

 

 

『では最後に、復元聖書12刊、第24節の6章を復唱出来る者!誰か居ませんか?』

 

「はい!」

 

『ではルルド君、どうぞ!ここはまだ教えていませんから、失敗しても恥じる事はありませんよ。』

 

「農民は訴えた。皆が固く問を閉じ、貧困に苦しむ中で、何故法官が娼婦を連れ歩いて、牛の肉を食べているのだ、と。王は何も語らず、農民を村に送り帰した。しかし、王が次に葡萄酒を飲んだ時、彼は血を吐いて死んだ。葡萄酒は農民が献上したものだったが、農民は既に送り返された後だった。後日、法官が罰しようと農民の名を聞いて回ったが、民の誰もが彼の名前を隠した。2年後に、その国は、農民が言った通り、病魔で滅んだ後、城は戦で跡形も残らなかった。」

 

 

『完璧です!この物語は、民の模範となる上の者は、下の者の声に耳を傾けなければ、いつか身を滅ぼす、という教訓になりますね。』

 

講堂に拍手が鳴り響く。このルルドと言う少年の両親は敬虔な正教の徒であり、彼自身も僧兵を志す身であった。誰も思っていた。この優秀な少年は、将来名を馳せる僧兵になり、国の誇りになるだろうと。

 

『次は聖魔術の授業です!皆さん、頑張って!』

 

 

〜数分後〜

 

 

『はい!では皆さん、新任のハリスです!今回から魔術の担当になりました。皆さん宜しくお願いします!』

 

 

『今回は、実践テストをします!ではトップバッターは…ルルド君!皆さんから優秀だと聞いていますよ!エンチャント系の好きな魔術を使ってみて下さい!』

 

 

「分かりました。では…風のエンチャントを、この木刀に…」

 

ルルドが力を込めると、木刀が強い風を纏う。ハリスは驚愕した。今までもエンチャント系魔術を使える生徒はいた。だが、この歳でなおかつ、ここまで実戦向けのエンチャントを完成させた生徒は非常に少ない。

 

『よく出来ていますねぇ!素晴らしい!これからも精進して下さい!』

 

ハリスは渾身の拍手で彼を祝福した。優秀で人徳に優れた生徒を指導出来るのは、自分の中では最大限の名誉だ。

 

 

彼は順調に成長し、高い技量と聖魔術の適正を持つ士官候補になった。初めに前任者から彼が戦災孤児だと聞いた時は、彼の精神状態を案じたが、どうやら杞憂だったようだ。立派に成長し、国を背負って立つエースになるだろう。

 

そう…あの日までは、杞憂「だった」のだ。15歳のあの日までは…

 

 

 

 

皆は、俺を天才だの、神童だの言うが、俺は元々、戦争で帰る場所を失い、ゴミを漁って暮らしていた。7歳の時、戦士養成校に志願して、僧兵を目指した。ただ不自由なく暮らしてみたかった。今まで人様に迷惑しかかけて来なかった俺が、神の教えで誰か一人でも救えるなら、俺の人生に意味が見出せる気がした。

 

 

この日もただ、ふざけた正義感で行動した。だが、下らん幻想から離れる、いい機会だった。

 

『お前…僕の服を汚したな!』

 

『何だって!君の方からぶつかって…』

 

『僕の父は上級司教だぞ!この養成校に多額の寄進もしている!その気になれば、お前を道端に転がるスラム街の住人にしてやる事だって出来る!嫌だったら、頭を地面に擦りつけて謝れ!』

 

『く、くそッ…』

 

何で誰も助けないンだ!気がつけば俺は奴と彼との間に割って入り、仲裁を試みていた。事なかれ主義は大嫌いだ。何も解決しないばかりか、自分の品位すら下げる。

 

「おい、やめないか。彼から離れるんだ!」

 

『な、何だ!文句があるのか!』

 

「今のは君の自業自得だろう!謝るのは君だ!」

 

『俺に逆らうのか!黙らせてやる!』

 

奴は殴りかかって来た。咄嗟に腕を掴み、足払いで動きを止め、そのまま組み技で抑えつける。

 

『痛っ!おい、僕を傷つけたな!』

 

「黙れ!彼に二度と近づくんじゃない!」

 

『フン、そうやって粋がっていられるのも今のうちだ!』

 

『いいぞ!』『やっちまえ!』

見物していた他の生徒が叫ぶ。つくづく無責任な奴らだ。

 

『恥をかかせやがって!後で楽しみにしておけ!』

 

 

 

これが俺の人生観を変えるきっかけになった。

 

 

本格的な変化は、3日後くらいからだったか。まず、教師が俺を褒めなくなった。それはいい。正直鬱陶しいと思っていた。

 

それから、周りから細かい事を指摘されるようになった。一応、いつも通りに対応してる奴もいるにはいたが、そいつらも次第に加担していった。

 

『しばらくは寮での学習に専念した方がいい。』

 

ハリスや学長はそう言っていたが、俺にも意地があった。そのうち周りも落ち着くだろう、そう考えていた。

 

だが、次の日から、アザにならない程度の軽い暴行を受けるようになった。その次の日は、物を盗まれるようになった。教師に相談したが、実行犯は形式だけの注意で済まされた。

 

 

そして、次の日。下校して寮に向かう時、後頭部を殴られた。そのまま、囲まれて、暴言と暴力を浴びせられた。そして、通りがかりの女子生徒と目が会った。彼女はそのまま通り過ぎた。今まで、あれだけ神に祈って来たのに。あれだけ、人に親切にして来たのに。最早救いは無いのか。

 

 

『祈ってみたらどうだ?』

 

 

次の瞬間、俺の体はおかしくなった。あれだけあった皮膚の傷が塞がり、ヒビの入った骨の痛みが和らぐ。全身に力が漲る。そうか、これがマナなのか。救いは力にあったのだ。

 

 

 

「ハハ、ハハハハハハハハハハ!!」

 

『な、何だ!?』

 

「神など居ない!何故なら、俺が神だからだ。俺がゼウスだ!俺が、オーディンなんだよォ!」

 

群れの一匹の腕を掴み、力を入れてみる。するとどうだろう。いとも簡単に、その太い腕が折れた。

 

試しに、思い切りそいつを殴ってみる。まるで潰れた虫みたいに、血とゲロのカクテルを床にぶち撒けた。

 

『ぎゃあああぁぁぁぁっ…』

 

 

「ハハハハ…ヒヒヒヒヒヒヒ!どうしたぁ!祈ってみろよぉ!えぇっ!?」

 

『な、何故だ!何故そんな事が…』

 

「俺がゼウスで、オーディンだからだ!」

 

続けざまにまた一人、二人と殴り倒す。殴った奴が、何か落とした。見ると、出来のいいサーベルだった。買えば材料費だけで金貨数十枚は下らない名品だろう。それで、試しに奴を斬ってみた。

 

 

『ヒッ』

 

 

情けない声で、バターみたいに二つに切れた。剣術は一通り習っていたし、何より僧兵を目指す身として、自習も欠かさなかった。だが、今やそんな事はどうでもいい!

 

 

周りの奴らがうるさい。どうやら事態に気付いたみたいだな。体が馬鹿みたいに軽い。塀を軽々と飛び越え、屋根を跳んで逃げる。俺は救いに、神になったのだ!次は奴の、上級司祭の屋敷だ!結局神は何もしてくれない…俺が欺瞞だらけの奴らを殺して、地獄に送ってやる!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後、ダビテの上級司祭の屋敷が炎に包まれると、誰が予想しただろうか。その炎は、男ルルドの野望の炎であった。強き者の世界。オアシスを巡る争いの後、彼は姿を消した。しかし砂嵐の如き男の、戦いと名誉、そして金貨への渇望は、だが決して、砂漠のオアシスのように枯れる事は無い。

 

 

 

 

信仰なき聖人 完

 

 

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