「馬鹿めぇ!冒険者ですら無いカス共が、数を揃えた所で勝てるものか!」
『く、食らえ!』
白装束の男がハープーンを射出!傷ついた水牛を狙うピラニアめいて、アブホースに迫る!しかし、ハープーンは直撃寸前でアブホースの腕に
阻まれる!
「下らん!もっとマシな物を見せよ!」
そのまま掴んだ銛を投げ返す!白装束にハープーンが直撃!そのまま振り回し、地面にハープーンごと叩きつけ、白装束が赤い染みになる!これが人間だとは誰も思わないだろう!
『敵は手負いではないのか!?奴の正体は何だ!』
『撃て!撃ちまくれ!』
クロスボウが次々と放たれるが、アブホースは巨大に見合わない機敏な動きで次々と飛来するボルトを弾く!何本かは当たりはしたが、およそ致命傷には程遠い!
『クソッ!奴を仕留める好機だ!この際何でも良い!蘇生後、療養中の冒険者も救援に回せ!』
何故奴が生きている!報告では雇われと相討ちになった筈ではないのか!?メテオリットの額に汗が浮かぶ。あの御方の作る秩序を守らなければ、我々は破滅だ!今まで積み上げて来た物が崩れてしまう!
『フェザーダンサーとタングステンはもう出撃可能な筈だ!今すぐに救援要請を!』
『既に向かっています!あと一時間程で到着するとの事!』
『何!?どうしてそんな時間が掛かる!ここまでならもっと早く到着するのではないか!?』
『駄目です!奴の仲間と、商人ギルド高官の私兵冒険者たちが、ビクトリーマグナムを抱え込んで妨害しています!迂回する他無いとの事!』
『何としても奴をここで止めるんだ!陣形を維持しろ!俺も奴を直接止めに行く!』
味方の士気も限界だ。メテオリットは跳んだ!全ては、崇高な目的の為、同志の為に!
『そこまでだ…これ以上犠牲を出す訳にはいかないんでな…同志の無念、晴らさせて貰おう!』
「では仲間の為に死ぬのもまた一興!」
『抜かせ!この場を生き残るのは我々だ!ここで死ね!』
「あの世で仲間と感傷に浸っておれ!ハハハハハハ!」
隕石落下の如し爆破魔法がアブホースを襲う!しかし魔法弾は途中で爆発!目眩しだ!素早く鞘に手を掛け、居合い斬りを繰り出す!次の瞬間、十字の剣閃がアブホースを切り裂く!二段構えの、正に必殺の型だ!
「グリィィイィイ!無駄な事を!」
浅かった。アブホースは咄嗟に腕で防御姿勢を取り、ダメージを最小に抑えていたのだ!
『もう貴様の仲間は居ないぞ!そのような異形、人すら捨てたか、下郎が!一人では何も出来まい!死ねぇい!』
「貴様を殺し、貴様の仲間も皆殺しだ!この器に憎悪を注ぎ、我は更なる力を得るのだ!」
腕から血を流しながら、アブホースが牙を剥き、爪を振りかざす!
『させるか!貴様の行いでどれほどの血が流れたか、貴様には分かるまい!秩序の為、同志の為ここで死ねぇ!』
爪を受け流し、返す刃が…防がれる!満身創痍でなお、ここまで強大な冒険者と渡り合う、恐るべきアブホースの執念!一体何が、この邪悪な生命体をここまで突き動かすのか!?
「御主こそ、同志の為と言いながら、その同志を犬死にさせているではないか!最早貴様は袋の鼠よ!貴様を救う者は誰も居ない!」
惨殺死体が転がる戦場。見知った顔も何人かいる。あの時と同じだ。だが、あの時と一つだけ違うのは、仇が討てると言う事だ!迷いは消え失せた!隕鉄の刃が不気味な蒼色に輝く!
『……エェェイヤァァァァア!!』
小宇宙のような神秘的な軌跡を描き、刃が踊るように襲う。金属音一つしない、まさに宇宙空間のような静寂からの一撃。両腕にマナと精神を集中させ、音の数倍のスピードで放つ居合い。形容し難い色の体液が、蒼の刃を汚す。
『成程…強い…!』
そして、アブホースの爪もまた、メテオリットの脇腹から大量に滴る血が証明するように、血で汚れていた。
『ゴボッ…ゴホッ!…手負いでここまでやるか…だが、時は…稼いだぞ…もうお前も…』
メテオリットの口から鮮血が迸る。まるで自分の剣技と、一瞬で過ぎ去る彗星のように、儚い最期を迎えるのか。あの方の寵愛の為どれほどの命を踏みにじったのか。昔、自分と同い年程度の子供も住んでいた修道院を焼いた。逃げる猶予は与えたが、それでも多くの犠牲が出た。自分なりの復讐だった。あの時、家族も友人も皆死んだ。神は残酷にも救いの糸をただ一人、幼子に垂らした。忌み子だと、悪魔の子だと謗られた。生き残った者の罪は重い。ただただ救いを求めた。そして救いは確かにあった。無辜の人々を踏みにじり手にした救いが。
痛みが消えてゆく。感覚が死んでいっているのだろう。そのまま、目を閉じた。
だが、無慈悲な神によって、またしても救いの糸が垂らされた。
『よくやった…と言うべきか。予想外だが、手間が省けたな!実質不労所得よ!今日の晩飯は高級焼き肉食べ放題と行こうじゃねぇか、えぇ?なんなら”食後の運動”も奢ってやる!俺は機嫌がいいンだ!』
『ダメだよ!皆で食べるんだから!』
『作戦が台無し…時間の無駄やないか…』
あぁ面倒臭い!こうなったらヤケや!こないボロ雑巾、全員でブン殴って終わりや!
『雇い主のお許しが出たぞ!思う存分暴れろ!』
『分かった!担いででも君を連れて行くよ!』
『あの…私はどうすれば…』
『奴をあの化け物から引きずり出す。お前は救助が成功した時に備えて、回復魔法とポーションの準備や!』
『あ…はい!分かりました!』
「奴の肉体も限界か!ここは一度退いて…馬鹿な!」
アブホースが目を明滅させる!三人は、赤錆色の左目が僅かに金色に光った気がした。
「殺シ……レ…頼…」
荒ぶる巨躯の動きが、僅かに鈍る。
「…殺…シ…」
「馬鹿め!完全に狂ったか!」
その時、彼の目から理性が消えた。男は蘇り、怪物となった。余りにも、人の悪意に触れ過ぎたのだ。人が狂うには充分過ぎた。狂気と呪いに蝕まれた醜い表皮が沸騰したかのように隆起する。邪悪な意思すら、ドス黒い狂気が塗り潰した。
「殺…ス…」
「我々…ノ…敵ヲ…」
『そう簡単にはいかんようや…ウチも加勢する!作戦続行や!全員、配置に着け!』
「私…ハ、怪物……怪物…ハハハハハハハハハ!」
『…強がっちゃって…君は、人間!で、僕の友達!』
『おい、下がれ、先ずは俺だ!来いよ…お前が怪物なら…完全に人の心を捨てたって言うなら…俺を…俺を殺して見せろ!俺の力は救いだ…この力で、不死身になった俺様を!殺してみろ!』
ターバンから覗く目が、残忍に、しかし確かな覚悟を持って鋭く光る。
鞘から恐ろしいスピードでサーベルを抜く。砕かれたサーベルを溶かし、オリハルコンの繊維と合わせて打ち直したものだ。
「コヒュ…コヒュ…コヒュ…人間…人類種…殺…ス…!」
粘度の高い、どろりとしたドス黒い覇気が周囲に広がる。目は赤錆色から完全な錆色になり、血の霧を口から吐き出す。
『お前は!?楽しませてくれるんだな!?化け物がぁ!』
「ソウ……ダ…殺…ス……」
両者は跳び、サーベルと鋭い爪が火花を散らす。互いの血が地面を濡らす。散弾と殺意を込めた拳の応酬!ストゥーピストの全身に一瞬で傷が生じる!だが、ストゥーピストの傷は徐々に塞がっていく。しかし、それ以上に苛烈な攻撃!全身が切り裂かれる!反撃のサーベルが急所を捉えるが、アブホースの爪がこれを防ぎ、カウンターを狙う!しかしこれを新調した散弾銃でコッキングと同時にカウンターを弾き、すかさず射撃!火花が散り、怪物の外殻に無視出来ないダメージを与える!
『コレだよ、コレ…いい買い物したぜ…弾薬代はアンタ持ちだからな!忘れるなよ!』
『チッ…覚えとったか…』
「グ…ワ……コノ…程ド…私ニ…ハ…!」
何という耐久力と執念か!そして狂気に飲まながらも凄まじい精神力!
分厚い鉄板すら撃ち抜く特殊銃弾すら耐え切ったのだ!既に彼の足元には血溜まりがいくつもある。彼を動かすのは何か?それは自分ですら理解出来ない程の狂気と、無自覚だが恐ろしい執念である!ドス黒い感情の渦が、彼の体を辛うじて動かしている!半ば亡霊に近いのだ!
『そこだ!死ねェーッ!』
銃撃で生じた隙に斬撃を叩き込み、壁を蹴って退避!しかし、コートの下からでも分かる程彼は出血していた。怪物の爪による斬撃は、それほどまでに致命的なのだ!継続治癒が無ければ、傷は骨格や筋肉の中心にまで達していただろう。
『あ…死んだらダメか…おっと、俺はまだ死にたく無いんでね!』
「…待…テ…!」
『じゃあな!』
ストゥーピストは携帯用ハープーンガンを建物の屋根に打ち込み退避!
「ゴボボヒューッ!」
血の雨を足元から降らせながらも、獲物を追わんとする怪物!しかし、その足に金色の鎖が絡み付く!
「……!」
もはや怪物は、苦悶の声を上げる事すらなかった。だがその目には未だ強い狂気が込められている。
『スマンなぁ…元はと言えばウチが撒いた種や…だがな、これだけの人間が、お前の帰りを待っとるんやで…何も金や下心やない。ウチが今金持ちなのと同じように、自分が今まで積み重ねてきたモンや!分かるか?ここに居るんは、お前が助けた人間、そしてお前が助けようと思わせた人間や!』
『だから!』
『戻って来いよ!ヒーロー!』
怪物の背に三本の矢が命中!そして死角から大槌の一撃!この攻撃の主は…!?
「……!?」
『…ッたく…人を食ったような顔しやがって…忘れたかよ?』
『別に拒否しても良かったわよ?でも貴方を助けないと恩赦が出ないからね!』
この二人は、ザザンと…コーデリアである!皆さんは覚えているだろうか?二人はピンチベックが任務を受け、死闘を繰り広げたあの冒険者である!一度は敵対し、互いに憎んだものの、ごく僅かな時間ではあるが、最後には確かに心を通わせた、あの二人である!彼女達は自分の罪と向き合い、今罪を償おうとしているのだ!彼は復讐の中、多くの命を奪った。だがその中で確かに救われた人々が、今まさに彼を救う為戦っている!
『あたしはさ、別にアイツが死んだ事よりアンタの余裕が無さそうな雰囲気が心配だった。結局予想は当たったんだけどさ。あたしも戦争で両親がケガして、治療費を工面する事で頭が一杯だった。でも、アンタが気にかけてくれたのが嬉しくて…その…なんと言うか、余裕が出来たんだよ。』
『わ、私は…その、昔からイヤな事から逃げてばっかりだったけど…結局、貴方のお陰って言うか…違う!影響されただけ!で、今も逃げたく無いから戦ってるだけよ!』
「私…ハ…私ハ怪物ダ…!」
『……違うよ。』
ペラドンナは、驚くほど冷淡に言い放った。だがその眼差しは、どこか慈しみに近いものが込められている。
『君が邪悪な怪物だったら、皆は助けに来ないよ…』
『僕以外にも、こんなに大勢助けてさ…ちょっと嫉妬するかな?でも…』
『あんなに女嫌いで、酒がまるでダメで、薬もやらないような奴は、怪物じゃねぇ、だろ?』
『…私の命令をここまで無視する上に、こんな無理をする部下は…怪物と言うより、ただの問題児ですね!にしては、ほんの少し、優秀ですが。』
『こんなに叱り甲斐のある部下は大事にしないと、勿体ないですからね!』
「黙レ!黙レェェェェェェエ!」
『…黙らないよ…これから皆で、一杯お説教してあげる♡』
ペラドンナの両手が、光を纏い、手に雷が握られる。紫色の雷が、槍の形から二本の杭へと姿を変える。そして、ペラドンナが跳ぶ!杭を直接、怪物の両腕に叩き込む!
ロングボウから放たれた矢が、怪物の右足を貫く!
続けて大槌が怪物の左足を砕く!
そして、鎖鎌が怪物の胸を切り裂く!”核”が顕になった!
最後に、ストゥーピストが蘇生魔法を唱え、魔力を込めた右腕でピンチベックを殴りつける!
「アァァァ!!奴を完全に支配シた筈ダ!何故!」
そのままピンチベックの首を掴み、怪物から引きずり出す!
『俺の休日を、返せえぇぇぇぇ!!』
次の瞬間、怪物の肉体は崩れ、溶けていった。
第20幕 完