「それで…どうしてこんな危ない所に来たの?君みたいな子供が…」
『そ、それは言えない!お前達が奴らの仲間ではないと、誰が否定出来る?』
「その…お兄さん達はこの遺跡の調査で来ているだけだから…うーん…どうやって安心させよう…」
『俺は金で雇われているだけだ…お前、身なりもいいし、問題解決に手を貸してやってもいい…』
『ま、益々信用出来ん!奴らも雇われだと言っていた!』
『ま、待て!あの絡繰の仕業じゃねぇのか!?俺は逃げてる最中に銃弾で指が落ちたのかと…でもそうだよな…冒険者じゃなきゃ、あの弾幕を一発の被弾で抑えるなんて無理な話か…』
『あぁ、あれか?あれは私が通った時には動いてなかったぞ?壊れていたのでは無いのか?』
「僕達を襲って来たけど…あれは冒険者に反応したのかな…?」
『お前さんを襲ったのは冒険者か…?ここまで逃げて来たのは分かるが、何故追われている?』
『……それはこの…あれ!?指輪はどうした!何処へやった!』
『あ、これ?いいデザインだよな!』
『そ、それを返せ!返してくれ!』
『待て…そう焦るなよ…お前を襲ったのは誰だ…教団の奴らか?教えろ…そうすれば返してやる…』
「お願い!僕達も彼らを追ってるの!だから助けると思って!僕は護民官だから…君みたいな人を助ける為にこの地位についたから!」
ペラドンナは頭を深々と下げた。純粋に彼の仇を討ちたいと言う気持ちもあったし、これ以上踏み躙られる人々を見たくなかった。そしてストゥーピストも軽く頭を下げた。
『…護民官……信じるぞ…嘘だったら許さない…』
「ありがとう!」
『簡潔に説明すると、奴らは私の指輪を狙っている…そして私は教団が気に食わんから逃げて来た…』
少女は続けて話す。
『指輪は焔の塔とかいう聖遺物に関係あるらしいが、私にはよく分からない…今追われている!指輪だけでも持って行ってくれ!奴らの手に渡れば危険だ!』
少女の目はこちらをじっと見据えている。嘘では無いだろう。少なくとも二人はそう思った。
『マジかよ…だがよく俺を頼ってくれた!それで?奴らは何処にいる?ガラクタを斬ってもつまらんからな…出来る限りの事はやる。』
「そう、僕達に任せて!」
『美人は三日で飽きると言うが…あんなのは女嫌いの与太話だ。命懸けで恩を…守る価値がある。』
「女の子には甘いんだから…それとも愛が足りないの?」
彼は家族愛と友情と恋愛感情の区別が希薄である。だからこそ誰にでも分け隔てなく接する器の大きさを買われているのだが。
『それで…追手の特徴は?』
『そうだな…東洋人が着るような派手な服装で…白い髪を団子のような形状に丸めていて…顔色が悪く…』
「するとあの人みたいな感じかなぁ?」
『そうそう、丁度そんな感じだ。気味が悪いくらいにそっくりで…』
『面白い偶然があるもんだなぁ!この前俺達が戦った奴にそっくりだ!』
『アー…あのターバンの男…手柄ね…娘の他に手土産が出来るとは…』
ファイブフィンガーである!しかしその顔は青白く、目は赤く光っている!ゾンビだ!ただでさえ強大な冒険者がゾンビになれば、その実力は計り知れない!
「わぁ…誰だっけ?」
『知る必要はない…何故なら…お前達はここで死ぬから…』
「その子連れて逃げて!僕がやる…!」
『無理するなよ?危ない時は遠慮なく逃げてくれ…相対的に俺の評価が上がるからな!』
ストゥーピストは少女を抱えて、激しい砂嵐と共に消える!攻撃、防御、撤退と幅広く使える能力を持つ彼に少女の護衛を任せたのは正解だった。彼自身の異常な脚力も合わさり、追手を撒くのは赤子を殺すより容易だからだ。
『お前…あの男と同じ場所に送ってやるね…死ぬがよろし…』
「へぇ…彼に一度負けた癖に、彼を上回る才能を持つ僕に勝てるかなぁ?」
(バカにしてごめんね…君は努力家だし、頭の回転は君の方が早い、経験もあるのに…)
『黙れ…この身体に私の技…負ける筈がないね…』
「頭に血が通って無い死体なんかに負けないよ!また骨を折って欲しいのかな?」
(敵のプライドをへし折れ。気持ちで負けるな。名乗りを上げた時から戦いは始まっている。不純な怒りは技の精細を欠く。殺人はスポーツではなく、目的を達成する手段に過ぎんのだ。礼節より敵の首級で仲間に報いろ。)
狡猾だが信頼出来る恩人の声が響く。彼の戦闘哲学を受け継いだペラドンナの目には、確かに闘志の炎が燃えている。それはドス黒い怨念の炎ではなく、弱きを助け強きを挫く英雄の目だった。
『抜かせぇ!最早あの痛みとも無縁!仲間諸共地獄に送ってやるね!ハイーッ!』
脳のリミッターが外れ、スピードと破壊力に富んだ一撃を繰り出す!ペラドンナはこれをギリギリで回避!反撃で蹴りを繰り出す!しかしファイブフィンガーには通用しない!
『そんな攻撃通じるか!』
ペラドンナの脚を掴み、床に叩きつける!そして柱に投げつける!
『……強い…!』
圧倒的な筋力。柱を砕き吹き飛ぶも、運良く脆い瓦礫がクッションになったようだ。悪運の強さは先代譲り、といった所か。
『やはりこの力!そして技!科学と魔術の融合!素晴らしい!』
彼女は肉体の腐敗を最低限に抑える処理が施され、ほぼ完全に知性を保ったままゾンビ化しているのだ!
「じゃあこれも科学だね!」
ペラドンナの右手から紫色の雷が生じる!そのままジャベリンめいて高速で投擲!
『その程度の魔術!』
ファイブフィンガーの両手から円形絶縁シールドが展開!雷を無効化する!痛覚を感じないゾンビでも電撃を浴びれば筋肉が硬直するが、その弱点を絶縁繊維製の戦闘用ドレスと合わせて完全に克服している!
「それ卑怯だって!そんな露骨に対策しなくてもいいと思うな…」
『簡単に倒される経済的に良くない。技術でとことん理不尽にやらせて貰う!それが強者の特権!』
そのまま腕のシールドが回転!ペラドンナに殴りかかる!これをブリッジの姿勢で回避!そこから空中回転で蹴りと同時に距離を取る!再び雷撃を放つが、電気エネルギーの殆どが絶縁繊維製ドレスに吸収される!
『ボスは降参すれば無条件で幹部に取り立てる言ってます。世界の支配者なるチャンスね!』
「そんなトンチキな改造されるのはイヤだね!大体僕を愛してくれないでしょ?僕も君を愛してない。君も折角可愛いのに改造で台無し!」
カウンターの衝撃でのけぞるファイブフィンガー!ペラドンナはそのまま跳び上がり、投げナイフを投擲!避けようとするも一本が肩に突き刺さる!しかしファイブフィンガーは止まらない!薬物とゾンビ化によって痛覚とトラウマが消え去っているのだ!
『何しようが、今の私には無意味ね!お前ミンチにする!』
カマキリめいた凶悪な構えから、ペラドンナの左腕の関節を砕きに行く!しかしペラドンナは回避せず、敢えてミスを装い受けて油断させる!新しい力を手に入れて増長した相手を欺く事など容易い!刺さった投げナイフを掴み、体重をかけて一気に背中を引き裂く!絶縁繊維が破壊され、光合成細胞が注入された緑色の血が飛び散る!
『何ぃ!いつの間に刺さっていた!?』
本来、生物にとって痛覚とは生まれつき備わった警報装置である。この痛みから逃れるという本能が、闘争において生物を戦士に仕立て上げる。ファイブフィンガーが生存の為に取った改造という手段が、皮肉にも彼女を死に追いやる原因となったのだ!
「中々タフだったけど…これで終わり!食らえ!クラウドバスター!」
ペラドンナが左手で刺さったダガーを握り、そこから電流を流し込む!絶縁繊維を突き破り、筋肉まで達したダガーからの電撃を防ぐ術は存在しない!筋肉が硬直し、思うように動けない!
『そんな…馬鹿な!?アバババババ!?アアアーッ!!』
そのままダガーごとファイブフィンガーを押し込み、緑色の血溜まりに突っ込む!ジュール熱で血が沸騰し、煙が上がる!
『ま、ま、待て!今なら』
更に電圧を上げる!傷口から火花を上げるファイブフィンガー!しかしペラドンナは攻撃の手を緩めない!
『ババババババババ!!ぐはぁ…』
人工心臓が強力無比な電撃によって停止!力無く倒れるファイブフィンガー!
「……ふぅ…」
「って....痛たたたたたた!!関節が変な形と色になってるー!!折れた!?折れたの!?」
『お、おい!大丈夫…じゃないよな…すぐに治療する!』
「ご…ごめん…やっぱり彼みたいには行かないねぇ…」
『当たり前だ!あんな無茶な事、普通は冒険者でも避ける…』
「彼に怒られちゃうかな…ハハハ…」
『暫くは一人にさせてやれ…いきなり押しかけたらアイツも困るだろうからな…』
「うん…あの技術…彼女は望んで改造されたのかな…いや、望んでもあんな事したらダメだよね…」
『同感だ…王国の奴ら…教団と組んで、また自治領と事を構えようって訳か…? 戦で死ぬのはお偉いさんじゃねぇのによ…』
「もし…そうだとしたら…彼が守ったあの国は…」
『あのレベルの武装を王国の冒険者が持ち出したら…自治領が勝ってもどれだけの犠牲者が出るか…あの時以上の地獄だろうな…』
「こんな狂った事…絶対に辞めさせる…!護民官として、冒険者として!」
『お、おい…その人は大丈夫なのか…!?』
少女が心配そうに二人を見つめる。強がってはいるが、声が震えている。余程心配なのだろう。
「お兄さんは大丈夫だから…君が知ってる事、詳しく話してくれるかな?」
『あぁ…私はある事件に巻き込まれて、その時教団が身元を引き受けてくれたのだが…個人的に調べた結果、その事件自体、私と指輪を手に入れる目的で仕組まれた事だったのだ…その事件で友人達が何人か亡くなっていてな…私は奴らが許せず、計画の邪魔をしてやろうとここまで逃げて来た訳だ…』
『待てよ…?指輪を狙ってんなら、金を出して買うなり、こっそり盗むなりすればそんな大事にならずに済んだだろ?何でそんな回りくどい事を?』
『それが…指輪と私が両方揃わないと、どういう訳か計画に支障が出るらしい。しかも…私の友人の中に教団の内情に明るい者がいたらしく、教団はその人物を消そうとしていた…酷い偶然よな…。それで邪教徒狩りと称して近隣の村人を焚き付け…私達のいた修道院を焼いたのだ…』
『私の…兄様は……奴らを止める為に…私達が逃げる時を稼ぐ為に…』
ペラドンナは何も言わず、少女を抱きしめた。少女の兄が、ローデリウスに重なって見えたのだ。
『お前…兄様に似ているな…』
「ごめん…ごめんね…辛い事…思い出させちゃったよね…」
『よい…お前達を信用したから話したのだ…兄様も喜んでいるだろう…』
「ありがとう…」
『…そろそろ仕事、再開するぞ。ガキ、お前も手伝え。小遣いくらいにはなるだろ…』
「……手伝ってくれる?」
『あぁ…勿論だ!指輪を拾って貰った恩もある。協力させて貰おう!あれは私が自分で落とした物なのだ…どうしても見つかる訳にはいかなかった…しかし悪運に助けられたな。指輪が外れないよう細工してあったのは予想外だったが…』
『それで指を切り落としたって訳か…お前、根性あるな。いい傭兵になれるぞ…』
『痛かったが…奴らに乱暴された時よりはマシだった…。頼む…奴らを…兄様の仇を討ってくれ!奴らはこの混沌の時代の王になるつもりだ!お前達も見ただろう…あれが戦場に出る日が来る前に…頼む!』
「分かった!君のお兄ちゃんの気持ち、無駄にはしない!僕達は…君みたいな人を助ける為に冒険者になったから!」
『……その死体…成程…そう倒したか…背中を切り裂き、出血で濡らした後に感電死か…一瞬アイツが墓から出てきてやったのかと思ったぜ…やはりこいつは天才…中堅クラスの、しかもゾンビ化した奴を殺っちまうとはな…』
〜数時間後〜
『遺物や資料がこれだけあれば充分だろ…しかし、どうやって持ち帰る?この量、ターバンの中には入らないだろ…風呂敷5つだぞ…』
『私にいい考えがある!これだ!』
そう言うと少女はファイブフィンガーの懐から手形を取り出した。
『これは警備の人間しか持っていない物だ…これを人数分集めれば、末端なら欺ける筈…!』
「成程ねぇ…やってみる価値はあると思う!」
『賛成だ…こっちとしても派手な事は避けたい…しかしそんな都合よく教団の人間が出てくるか?』
「ならさ、自分達で呼べばいいんだよ!」
『と、言うと?』
「僕に任せてくれる?こういう時こそ、僕が優しいイケメンだって事を活かすんだよ!」
『待てよ、まさか…いや…お前なら出来るかもな!よし、やってみろ!』
〜更に数分後〜
『ただこうして見張ってるだけで金が貰えるとは…焔塔教団とやらも羽振りがいいねぇ…俺みたいな独り者にはぴったりな仕事って訳だ!後はどうやって勧誘を誤魔化すかだな…』
青年は成人した後、職を探していた所、新聞の広告を見てこの発掘調査の警備に志願した。胡散臭い所だからやめろと両親には言われたが、蓋を開けてみれば不器用な自分にも満足に出来る良い仕事だ…一年近く勤務し、今や新人教育を任される程だ…今回はこの後、物資の輸送の仕事も控えている。発掘品を眺めるのも面白いし、中々楽しんでやっている。
「ねぇ、そこのお兄さん、僕とお話ししようよ…」
中性的で華のある女性がこちらに話しかけて来た!しかも中々引き締まった体をしているではないか。いやしかし、女性を使った勧誘の類かも知れない!どうする!?この若者は警戒心だけは人一倍強かった。
『い、いや、私はこの場所を離れる訳には行かないのです…仕事ですから…』
「僕も仕事だよ…ほら!発掘調査の仕事!君と同じ!古代のロマンって言うか、歴史の重みって言うか、そういうのが好きなんだ!」
彼女が手形を見せる。確かに発掘調査に従事している冒険者のようだ…教団は今回の調査では内部の冒険者は使わないと言う話だから、成程、外部の人間なのは間違いない…
『そ、左様ですか!し、しかしこんな地味な男で良ければ、宜しくお願いします…!』
「まぁまぁ…そんなに緊張しないで…ね?」
ち、近い!確かに胸は控えめだが…それでも緊張で心停止を起こさないか心配だ!人肌ってこんなに暖かいものだったか!?
『す、すいません…自分はこのような経験が無いもので…』
「…真面目なんだね♡僕、そういう不器用だけど頑張る人、応援したいな!」
ウワァァァ!嘘だろ!?好意的解釈だと!?予想外だ!これは何かの罠だ!罠に違いない!だが罠だと知っても俺は逃げん!罠ごと踏み潰すだけだ!度胸を見せろ!男を見せるんだ!今まで学校でも散々弱虫だとバカにされたんだ!だがもう俺は逃げないぞ!しかも相手は冒険者だ…これはビジネスチャンスでもある!食いつけ俺!負けるな俺!
『あっ、ありがとうございます!この後特殊な車両を使って資材を運搬するのですが、古代の遺物にご興味があるんですね!仕事が終わったなら見学して行きませんか?』
「えっ、いいの!?」
(しかしこの人、何をこんなに緊張してるのかなぁ?)
『は、はい!こんな覇気のない見た目ですが、一応は勤務歴もあるので、それなりの権限はありますから!』
『それから、あ、あの、僕からも、お願いしたい事がありまして!き、聞いて頂けますか!』
「うん!いいよ!僕に出来る事なら喜んで!」
『仕事、終わったら…一緒にお茶して頂けますか!』
「そんな事でいいの?僕も喉が渇いてたから嬉しいよ!」
(一人で警備してるから、きっと寂しいんだね…情報も聞き出せるし、この人は悪い人じゃなさそう!)
『あ、ありがとうございます!では出発まで暫しお待ちを…』
「こちらこそありがとう!じゃあ準備して来るね!友達を待たせてるから!」
『は、はい!絶対来て下さいよ!僕、待ってます!』
〜更に更に数分後〜
「で、その人が見学させてくれるって!荷物預けちゃえばバレないよね!」
『だな!その後事情を話して、協力して貰えるかも知れない。作戦を変更して、それで行くか!そっちの方が多く荷物を運べるだろうし。万が一反対したら、金貨を握らせて黙らせればいいしな。』
『しかし、よくそんな約束を取り付けたな!護民官とはそんな事まで出来るのか!』
「その人がいい人だってだけ!でも一般の人を巻き込むのは、あまりいい気がしないね…」
『しかし奴らとの契約では、もう仕事が終わってる時間だ…そっちの方が資材も時間も有効活用できる!その男をスパイ化出来る可能性も考慮すれば、中々の作戦だな!ナイスだ隊長!』
『この戦い、私も尽力するつもりだ!この指輪…君達がいれば百人力だな!』
『度胸のあるガキだ…コイツに惚れた奴は大変だな!』
『私はガキではない!名前はリディアだ!覚えておけ!』
「ストゥーピスト君、リディアちゃん、脱出作戦、開始だよ!」
気の毒な男は、自分が地獄に片足を踏み入れた事にすら気づかない。ましてや、自分が世界を手中に収めんとする巨悪と闘う事になるとは。激しい時代の流れに、彼がどのような変革をもたらすか、それは誰も知らないのだ。
第25幕 完