『うおぉっ!!』
棍棒を構え、護衛に殴り掛かる!しかし護衛はこれを紙一重で回避!彼らは冒険者と戦う訓練を積んでいる!
『成程…少しは訓練を積んでいるか…ならば!』
護衛は剣を構え、腰の入った一撃でノーマンの体幹を崩しに行く!何とか防いだが、体勢が僅かに崩れた!護衛が追撃に入る!
『うおっ!?』
だが古びた剣が壁に刺さり、追撃を阻む!山賊団の頭目が剣を投げていたのだ!
『ハハハ…若者を守るのが…私の務めよ…それだけは落ちぶれた今でも変わらん…』
そう言って頭目は倒れた。
『…親父さん…』
『クソ…だがこれで終わりだ!』
再び護衛の攻撃!刺さった剣を踏み台にして飛び上がり、頭を割るように剣を振り下ろす!狭い通路では回避は困難!だがノーマンはこれを逆手に取り、敵の目の前まで踏み込んだ!そして肩のプロテクターで致命傷を防ぎながらカウンターを狙う!赤い筋を肩に走らせながらも一撃を与えたのだ!
『ぐ…』
護衛は受け身を取ろうとしたが、背後にある剣に気づくのが遅れた。そのまま吹き飛び、壁に血がべっとりと張り付く。肉が石の壁で擦り下ろされている。
『…強い…』
敵の目には明らかに迷いがあった。冒険者になって日が浅い者は殺しを躊躇することが多い。例えそれが悪人であったとしても。さほど強いマナは感じないが、その戦闘センスは確かに平均以上である…決して短くない従軍経験が、あの戦争を生き抜いた勘が、そう告げた…
『…ま、待ってくれ…俺は軍縮で職を失って、汚れ仕事で稼ぐしか無いんだよ…頼む…家族が居る…見逃してくれ!』
『…な…』
よし…動揺しているのは明白だ…腕に仕込まれた電動小型クロスボウが、静かに駆動音を鳴らす…ここで死ぬ訳には行かない…こいつの首を持ち帰れば、逃げてもお咎め無しだ。
『頼むよ…』
よし…あと一押しだ。
『…分かった…』
今だ!クロスボウからボルトを射出!この距離なら確実に仕留められる。急所は外したが、次で仕留める!
『クソッ!こんな所で!』
だが、そうはいかない…ローブ姿の人物が、護衛の首を掴み取り、炎魔法で燃やし尽くした。そして、希望と共に彼の意識も消えた…
『済まないな…だが然るべき罰は与えた。』
『誰だ…お前…』
『あまり命を粗末にするなよ。本当に活かす価値のある人間だけを救え…私には出来なかった…だが…君ならば出来るな。あの男と同じように…。』
『誰だと言って…痛ってぇ!』
『傷を見せろ。深いな…解毒ポーションで痛みを止めて、それから回復薬を塗るか…』
『あの男?誰だよ…何で俺を助ける…』
『すぐに分かる…毒が辛いだろう…無理して話すな。私が撒いた種なのだ…今になって分かる。だから助ける…』
『誰だ…誰だ…お前…』
『家族が居るな、君は…私には居ない…守ってくれ…私の分まで…』
『…あぁ…』
『ゼェ…ゼェ…おい…お前誰だ!俺の舎弟に何してる!』
『済まない事をした。心配させて悪かったな。もう行く…二人とも、過ぎた野心は毒だぞ…では…!』
『やめ…や…め…』
『うるせぇ!黙れバカ舌!こうだぞ!こうしてやる!』
『あぁぁ!うぁ…』
ストゥーピストはワイアードの延髄を乱暴に蹴り、気絶させた。魔力切れを装い敵が油断した所で近くにあった水瓶を投げつけて鉄線を濡らし、その後で残った魔力を使い切り、砂で鉄線を視覚化、サーベルで鉄線を的確に切断し、動揺した隙に人質の抵抗に遭い、ストゥーピストに鉄線ごと斬られたのだ。
『戦術も器も、所詮は底の知れた奴だったな。』
そう言いながらも、ストゥーピストは本当の魔力切れで大量に鼻血を出している。彼らしいと言えば彼らしいが。
『さて、親子の感動の再会と行こうか!』
ストゥーピストは水筒の酒を飲み干し、どこからか持って来たワインの瓶も開栓して飲み干す。ある程度魔力の補給が済んだ所で、治癒魔法の詠唱を始めた。
『さてと…この程度なら行けるな…お前、今のうちに積荷を纏めろ。そろそろ後発隊が到着する。時間が余ったら飯でも武器でも好きなの持ってけ…そういう契約だからな。』
『あ、あぁ…』
言われた通りに荷物を纏める…武器は余り良い物が無かったが、壁に刺さった剣だけは持って帰る事にした…後は高そうな酒だとか、大量の葉巻とかを持って帰った。意外な事に、金貨は余り無かったが、彼らが使い込んだのだろうか…?
『ごめんなさい…お金…あの人達に父さんが…真っ当な仕事で私達を養いたいって…止めたけど…けど父さん…殺しだけはやらなかったの…私達を殺人鬼の娘にしないって…』
『…そうか…そうだよな…』
ノーマンは無意識に涙を堪えた。自分の父親の境遇と余りにも被っている。とても他人とは思えないのだ。
『俺も…同じだよ…俺、病気で戦争行けなくて、で、親父が代わりに…結局、帰って来なかった。』
『…他の家族は…』
『生きてるよ。親父のお陰さ。だから親父の分まで生きる。まぁ妹は年頃だから嫌われてるがな!』
『今度…妹さんに会ってもいい…?で、話したい!貴方のお兄さんは、私の父さんを守ってくれた凄く立派な人だって!』
『……少し待ってやるかな…タイムイズマネーと言うが、金じゃ買えない物もあるか…俺には些か眩し過ぎるぜ…。本当は娘さんと寝るつもりだったが、あんなの見せられたらな。』
『ハハハ…諦めてくれて嬉しいよ…。あの娘はさっきも冒険者に掴まれてるのに暴れただろ?そういう娘だよ、あの娘はね…』
『アンタを見捨てる事も出来ただろうに…つくづく馬鹿な奴だよ、アイツは…結局自分が損してやがる…』
『確かにな。戦士としては失格だ。だが私は人間としては合格点をやりたい。まぁ娘とは友達からだなぁ!』
『ハハハ!祝儀を今から用意しないとな!仲人は俺がやるぞ、これだけは譲れない!』
『勿論だ!だが、心残りなのは…あの娘の花嫁衣装を見れない事だな…』
『…親父さん…』
『…少なくとも、私は綺麗な体で孫の顔を見たいのだよ…これで良かったのかも知れん。』
『…そうかよ…まぁ、義理を通すのなら止めはしねぇよ。月一回くらいは面会に来てやるからさ…アンタも時代遅れな人間にはなりたくないだろ?最近の箱じゃ煙草も手に入るが…孫の為にも禁煙しろよ?』
『…水煙草じゃダメかな?』
『ダメだ…癌で早死にしたら、娘さんが悲しむぞ?自業自得で死んだ奴ってのは、素直に弔えないからな…だから頑張れよ!』
『…善処するよ…!』
『さて、帰るか!おーい、二人とも!こっちは準備出来たぞ!』
〜数日後〜
『…綺麗だね!この花…金色に光って…君の目もそんな感じだったね…』
ローデリウスの墓は、金色の美しい草花で埋め尽くされていた。あの積荷は、彼の墓に植える為の花の種であった。本来は高級な薬草であり、鑑賞用としては高すぎるのだが、様々な人が費用を捻出してくれたのだ。
『贅沢だなぁ…貴族でも墓一つにこんな金使わないだろうが…やられた方は嬉しいだろうなこりゃあ…』
本物の金より美しいとされる、ハオマの花。最期に金より輝いた、偽りの金の名を持つ男。二つの黄金が輝くこの地は、神聖な日差しが降り注ぎ、どんな宮殿よりも神聖で美しい場所である。
『これが…ペラドンナさんの先代…一体どれ程の強さを持っていたのか…』
「…とても強い人だった…僕に戦い方を教えてくれたのも彼。他の人には出来ない事が出来る人で…それで…」
『あぁ…奴に勝てる人間はそう居ないだろうな…機械みたいな戦い方でな…だが人間臭い奴だったよ…後輩想いでな…結局何であんなになっちまったのか、話してはくれなかったが…』
『…そうか。偉大な人だったんだな…』
「うん…彼、優しい人だったから…でも…僕のせいで…」
ペラドンナは必死に涙を堪えていた…内臓を貫かれ、内側から切り裂かれた彼の死体は、見るに堪えない物だった…辛うじて人の形を保っていたが、自治領の回復術師ですら治療出来ないような酷い状態で、諦めるしか無かったのだ…何故あの時、言葉を話せたのか分からないと医者も言っていた…。
『せめて、奴が育った修道院とやらを探せればいいんやが…生憎奴は話してくれへんかった…話したくなかったのかもなぁ…』
見ると、コームさんも来ているようだった…
『そうか…修道院…修道院!?』
『…まさか!』
『知っているのか…リディア!?』
『あぁ…私も修道院の出身だ…元は下級貴族の生まれだが…父は死んだが、私は世継ぎには若過ぎたのだ。』
『自治領の近くに修道院は余り無かった筈や…もしかすると、奴は…』
『…兄様が…どんな見た目か…分かるか?念の為に…』
『あぁ…一度見たら忘れられないよ、あの見た目。ハンサムで、渋い白髪で…ちょっと人と違うけどね…でも凄くカッコいい!』
『兄様…やはり兄様か…願わくば、もう一度逢いたかった…だが、兄様…これで終われて良かったのやも知れん…』
『…発言してよろしいですか?』
『…!カラドリウスさん…』
『彼は…生前、興味深い事を言っていました…リディアさん…辛いのは分かっています…それを踏まえて、一つだけ、教えて頂きたい。彼の根幹に関わる事を。』
『彼は厳密には冒険者ではありませんでした。明らかにマナ適性の傾向が冒険者と比べて違うのです。そして湖から”力”を得たと、彼は生前、話していました。私達は当時、彼が発狂しているものと考えていましたが…修道院から地理的に近い曰く付きの湖、心当たりはありませんか?』
『…あるぞ!確か、聖職者達が悪霊を封印したとか言う湖が!』
『やはり…調べてみる価値は、ありますね…』
第30幕 完