また話が脱線しました、悪い癖ですね。じゃ、本編どうぞ。
止めろ!止めろ!止めろ!止めろ!止めろ!止めろ!止めろ!
「止めろおぉぉぉぉ!!」
まただ。「彼」は非常に諦めが悪い。何度も、何度も、悪い夢、そして辛い現実を見せてくる。
『護民官様!大丈夫ですか!また悪い夢を見られたのですか!』
すぐさま、使用人の蟲人、カダが駆け寄る。彼女は不安定な私の精神をケアする為に自治領が派遣した護衛兼医師だ。いつも任務の成功より私の精神状態を優先するので、正直煩わしい。
寝台は玉のような汗で濡れそぼっていた。帰還を果たし、議会から自由期間を与えられて、気が緩みきっていた。「彼」はすぐ隣にいるのだ。薬で抑制できなくなって来ている。
あの後私は、何とか彼を押さえ込んだ。どうしたのかは自分でも分からない。あのまま、彼を止められなかったら。いや、仮定の話は無意味だろうが、「もしも」を彼に見せられていたら、私は完全に発狂していただろう。人間、極限状態だと、案外簡単に自分の底が見えるものだ。
「本当にすまない。負傷と疲労で弱っていた所を狙われたようだ。もう戻っていい。」
『無理をなさらないで下さい!あなたの精神は限界なんです!議会に自由期間の延長を要請すべきです!ただでさえ、重度に精神を患っている上、事件の捜査の後、翌日に無理を押して三対一の実戦なんて!』
「いや、彼女達との約束を無碍にはしたくない。そういえば、彼女達は元気か?」
『私の話を聞いて下さい!いいですか?貴方が取り返しのつかない所まで行けば、事件はさらに難航するんです!彼女達の為にも、今は…」
その時だった。ドアが激しくノックされる。
「どうぞ」
『朝早くに申し訳ありません!ピンチベック様!たった今、斥候に出した者が帰還致しまして、件の違法薬物の輸送部隊、そのルートを確認したとの事であります!しかも、ピンチベック様が発見された証拠品、顧客リストに掲載されていた王国貴族に輸送されるものの可能性が非常に高いとの事!最高議会は、輸送部隊との交戦経験があるピンチベック様の出撃を希望されています!ピンチベック様の推薦した、自治領所属の冒険者を出撃させる事も可能ですが、如何致しますか?』
「了解した。すぐに馬車の手配と、武装の準備をお願いできるか。」
『そんな無茶な!まだ帰還から2日しか経って無いんですよ!ここは他の方に任せて休養なされた方が…』
「これから冒険者に依頼をするとして、それをギルドが受理して依頼にするまで何時間かかると思っている!現行犯で輸送部隊を摘発しなければ、王国領での拘束は一時凌ぎにしかならないぞ!条約ですぐに解放されてしまう!」
『だからって!』
「黙ってくれ!これは命令だ!護民官である私の命令だぞ!これ以上の反論は敗北主義、明確な反逆行為として最高議会に報告させてもらう!」
『ふざけないで!私…護民官様なんて大嫌いよ!』
「嫌いで結構!私は護民官だ!自治領の人々を護る権利と義務がある!」
〜数分後〜
ピンチベックを乗せた馬車は敵の追跡に特化した隠密戦専用装甲馬車だ。数マイル距離を取りながらでも、怪しまれずに追跡や偵察を継続できる。隠密性を高める為、牽引するのは馬ではなくキャメルイーターと呼ばれる地竜の一種である。
ピンチベックが合図をすると地竜は忍び足ながら、一気に加速する。この馬車は隠密作戦を考慮して、御者が存在せず、乗り手が自ら地竜に指示を出す。その点でも地竜は知能が高く重宝する。自治領が二年にもわたる戦争でのゲリラ戦にて終始優勢だったのは、この馬車の存在が大きいと言われている。
そして、おぉ、何という事か!ピンチベックは馬車の上に立ち、敵の馬車が林道に差し掛かると、高く跳び上がり、そのまま次々と木を蹴って
移動!馬を眼前に据えると、懐からリボルバー銃を取り出し、一才の躊躇なく引き金を勢いよく引いた!見よ!柔軟な関節が成せる、空中での反動を相殺しながらの精密な連続射撃だ!
「バァン!バン!バン!」
『ブィイィィヒィン!』
馬の頭蓋骨を三発の弾丸が完全に粉砕した!動力を失った馬車は程なくして大破、緑色のブロック状薬物が辺りに散らばる!もはや言い逃れは無意味である!
『追手かよ、他の奴らが、しくじったみてぇだなぁ。』
土煙の中から、ルーン文字が刻まれた朱色のローブを纏った、ガスマスクの冒険者、アーソニストが姿を現す!
『回れ右して帰ってくれる?俺も仕事だからさ、あんた優秀みたいだし、なんなら手伝う?』
「おめでたい奴だ。内臓をぶち撒けても同じ事が言えるか、楽しみだな。」
『あ、そう?まぁ、邪魔が入ったってあんたの首持って上に掛け合えば、ボーナスくらい入るでしょ。』
次の瞬間、火砕流の如し炎が彼の両手から放射され、辺りを薙ぎ払う!彼は生来のパイロキネシスと火炎魔法を組み合わせ、杖無しで凄まじい炎の嵐を起こせるのだ!たちまち周囲は火の海と化す!
『これで証拠は全部焼けたなぁ?あの馬鹿も死体くらい残ってんだ…ろ…」
「そうでも無いさ。」
何と!彼は無傷!コート型スケイルアーマーの留め具一つ焦げていない!シールドスペルですら防げないレベルの火炎放射を、彼は一体どのようなカラクリで生き延びたのか!
アーソニストが疑問に思った瞬間、「答え合わせ」が倒れてくる!それはわずか数本の樹木である!そう、彼は樹木に身を潜めるという、極めて単純な、しかし現実的な手段を取ったのだ!だが、他の樹木は皆灰になっているのに、この樹木は何故燃え尽きないのか?植生学に明るい方はもう分かっているだろうが、この樹木は優れた難焼性と魔除けに使われるほど魔法への抵抗が非常に高い事で知られ、雷神トールが大河を渡る時に用いたとさえ言われる「セイヨウナナカマド」だったのだ!彼は洗練された知識を頼りに、万に一つもないと思われた勝利の可能性を手にしたのである!
『てめェ…』
必殺の一撃を躱され、アーソニストは悔しげに呻いた。
「確かに強いな。戦時中なら塹壕戦でさぞ重宝しただろうに。仲間に使われずに済んで良かったと言うべきか。」
ピンチベックは余裕を見せたが、仮面に隠れた額に冷や汗が浮かぶ。高位ドラゴンの吐く火炎にすら勝る威力、食らえば次は無いだろう。
『もう木は無ェぞ!死にやがれモヤシ野郎!』
再び、強力な火炎放射!しかし、最初の一撃で決める手筈だったのか、やや範囲が狭っている!しかしこれを身を屈め、紙一重で回避!彼の鼻先の空気が焼け、背後の岩が赤熱する!
『クソッ!クソッ!クソッ!』
またも自慢の火炎魔法を避けられ、気も狂わん表情をガスマスクの下で浮かべるアーソニスト!
『これなら!』
今度は火球の連打だ!旧時代の飛行兵器の如し弾幕!「弾幕はパワー」とは、かつて異世界から現れたという高位ウィザードの言葉である!
「コヒュッ!コヒュッ!コヒュッ!」「グゥッ!?」
最初の連打は辛うじて避けるも、最後の数発に被弾!しかし、素早く体制を立て直して着地!
幸い、内臓へのダメージは免れたが、大火傷には違いない。血と肉の焼ける不快な、だが、自治領の拷問官時代に嗅ぎ慣れた匂いが鼻に付く。
「これなら?どうなると言うのだ?命はおろか、腕の一本すら奪えんとは!どうした?命中させないのか!火炎魔法を馬鹿の一つ覚えのように
撃つだけか!炎だけしか使わないお前には菓子作りがお似合いだ!精々ブラウニーでも焼いていれば良いものを!」
ピンチベックは敢えて虚勢を張った。
『舐めんじゃねえぇぇぇ!』
アーソニストの両腕に、炎の剣が生み出される!「エンチャント」の魔術を応用した彼の第二の奥義であり、火炎放射と並んで彼を上位冒険者たらしめている技である。短時間しか使えないものの、その威力は鍔迫り合いで敵を剣ごと焼き切り、鋼の大扉ですら溶かして破壊する、まさに必殺の大技だ!
しかし、今の彼は怒りと敵を仕留めきれなかった焦りで精神状態が不安定だ!魔術、動き共に精細を欠いている!
しかし彼は負傷した敵を仕留めるには充分だと判断した!今の彼にはピンチベックに地面を舐めさせる事しか頭に無いのだ!
「バシュウウゥゥゥウ!」
凄まじい斬撃音と共に、ピンチベックの体から血煙が上がる。
やった。
やっと殺した。
次の瞬間、一発の銃弾が彼のガスマスクを破壊した。
「へ?」
その動揺がいけなかった。次に彼の両手に弾丸が打ち込まれる。
浅かった。
まだだ。まだいける。致命傷じゃ無いんだ。
止めの火炎魔法を詠唱しようとする。
だが、出来なかった。
銃弾には、神経を麻痺させる、スイートピーから抽出した毒が塗られていた。「炎の剣」の印を結んだまま、彼の両手は、燃え盛る剣とは対照的に、凍りついて動かなくなった。
炎の剣は短時間しか使えない。なぜなら、あまりの高熱ゆえ辺りの酸素を早いペースで消費するからだ。
そして今、彼の両手は燃え盛る剣だ。頼みの綱のガスマスクも破壊された。
段々と意識が薄くなる。
そして、それはピンチベックも同じだった。
第四幕 完
さて、いかがだったでしょうか。今回は戦闘シーンを特に力を入れて制作致しました。こんな所が良かった、ここを直して欲しい、など、是非コメントで感想をお寄せ下さい。それでは、また次回、お会いしましょう!