『シュシュッ!シュ!シューッ!やはりあんなグローブに頼ったのが間違いだったのだ!あの時敵が追跡を振り切る為に列車を切り離していなければ危ない所だった!』
『あぁ…私としても旧時代の技術の濫用は思う所がある…特にあの娘…そしてアイアンクロス殿も…だが先の戦いでは勝利、とうとう我々にも運が向いて来たようだ…日頃の礼拝に神が報いて下さったのやも知れん…』
『ピンチベック…噂以上の使い手だった…だが雪辱を晴らす時!我々に逆らった事を後悔させてやる…!この毒で全身を腐らせてやるぞ…』
『やれやれ…本部から召集が来たかと思えば、ケチな犬一匹に随分と戦力を割いているようだが本当に強いのか?魔法も使えん凡才と聞いているぞ!これで負ければ末代までの恥!』
『そんな事にはならんよ…新しく支給されたこの装備を奴の返り血に染めてやる!』
『その御仁の言う通りだ…以前は遅れを取ったが、このグレートエンチャントは二度も破れぬ!奴の今際の表情を冷凍保存してくれる!』
既にこの街では80人の冒険者が巡回し、決死の捜索が行われている。目撃者の始末、ピンチベックの殺害、脱出地点の警備…役割を予め分担し、遂行しているのは全員冒険者なのだ!街一つを巨大な包囲網と化した作戦が開始された!
〜同時刻〜
『……結局、我々の勝ちですか…キノコ者も、我々の傘下に入っていれば、こんな事には…』
『プロデューサー!た、大変です!”キノコ”の連中がライブを開催してます!』
『…何?奴らの贔屓にしていたステージは全て買い取ったのではないのか!?』
『それが…今さっき冒険者数名が地上げを始めて、もう制圧されたようです!先程土地の領収書が郵便で来ました!』
『馬鹿な!?現場には連絡用のクリスタル発信機が…とにかく止めさせろ!』
『それが…近辺の有力な冒険者は既に出払っていまして…何者かが狙ってこのタイミングで攻撃を始めたのかも知れません!通信も向こうから一方的に挑発する文書が送られて来たとの事で…』
『ええい、敵は何と話している!』
『内容の殆どは撹乱目的と思われる怪文書ばかりですが、もし追手などを寄越すならば間違いなく反撃に出る旨のメッセージが送られています!』
『所詮は烏合の衆だ!新参、末端の冒険者も向かわせろ!前例を作らせるな!貧民共に付け入る隙を与えてはならん!』
『はっ!』
〜更に同時刻〜
『遅い…ペラドンナはまだ来ないのか…本当に裏切ったかよ…仕方ない、”アレ”使いたく無いんだよなぁ…』
『…しかし彼が来ない以上、仕方ありません…お願いします…!』
『仕事だからな…だが報酬増額の件、真面目に考えてくれよ。こっちだって好きでやる訳じゃあない。リスクと隣り合わせの仕事だ、手は抜かんがな…』
『えぇ…しかし彼は本当に…』
『まぁこれでハッキリするかもな…もうペラドンナの身元、議会にも洗わせたんだろ?』
『しかし…とても嫌な予感がするのです…現実にならないのが一番だと分かってはいますが…』
『もし、勘が当たったらどうする?アンタじゃ手に負えないかも知れないぜ?』
『でも、彼はそんな状況で何年も前から戦って来た…今も…どうせまた一人で…ですが今回は利用させて貰います…!』
『そろそろだろ。じゃ、行って来る!』
〜もっと同時刻〜
『メてオ…?どウシタの?ソの子…』
『巫女様だ…やっと見つかったのだ。面倒を見てくれるか…?』
『うン!ワたシ、巫女様ト、友達に、ナレるかナ?』
『あぁ…なれる筈だ、ミ…バンディーア。これからはこの国で飢える人間は居なくなる…だが心はずっと貧しい筈だ…皆、家族を失ったからね…だから、巫女様や我々が皆の支えになるのだ。』
『皆、幸セ…!嬉シい!わたシ…モっと、友達、作ル!』
『そうだ…皆の心が富めるなら、戦争など起きぬ…差別もな…』
『巫女様、起きタら、イッぱイ、お話ししテ…それカら…一緒ニ本を読んデ…巫女様、一人寂しイ筈…姉妹ミたイに、一緒に暮らス、ダメかな…?』
『………あぁ…だが、喧嘩はダメだ…乱暴するな…』
『ウん!仲良クする…絶対に!』
『では、私はしばらく外に行って来る…起きたら知らせてくれ。』
『…報告を頼む。』
『ピンチベックの包囲完了しました。出陣は如何しますか?80の冒険者がいれば、流石に討てるとは思いますが…』
『いや、あの男は手練れ、出来れば自らの手で終わらせたい…』
『では飛行船を手配します。御武運を。』
『あぁ、炎の祝福を。』
(すまん…クロス…!出来るならば腹を切って詫びたい…だがそれは奴を倒してからだ…あの子は…あんな治療、お前が望んだ筈がない!…理想の為とはいえ、このような事…お前の仇も必ず取って見せる!…)
『これで終わりだ、ピンチベック…あの星が落ちた日、私もお前のように怪物と化した…怪物同士、決着をつける時だ…!』
こうして、彼らの長い長い一日が始まった。
第38幕 完