ピンチベック   作:あほずらもぐら

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第40幕 : ペラドンナの長い一日

『……食らえ!』

 

雷の槍が直撃する!しかしダメージが薄い!全身に敵の死体を纏って防御しているのだ!宿主の歪な技を更に歪んだ形で再現している!

 

「ぬぅ!?だが…まだ終わらぬぞぉ!」

 

『なら…』

 

ペラドンナの魔法による凄まじい加速!電磁ブレードで回転斬撃だ!死体ごと肉を切り裂いた!

 

「小癪な真似を!」

 

『彼の身体を返せ!』

 

再び回転斬撃だ!最早彼の身体を守るものは無い!脆くなっていた右腕が斬り落とされた!そして右腕が吹き飛ぶと同時に人間に戻る!彼の精神と肉体が限界を迎えた!激しく吐血し、跪く!

 

 

「結局…26人殺すのが限界だったか…やはり君は強いな…あと三年早く産まれていたら将軍に…なれた筈だ…」

 

『…うん…でもきっと君に両腕があったら…まだ勝てないと思う。』

 

「ハ…ハハハ…夢を…見ていた……私は復讐を終えて…そして…側には…君と…リディアと…皆が…居た…だが…それは私には過ぎた幸せだった…人として…人として生きようとした…私が間違いだった…」

 

『……暫く…眠って貰うね…』

 

電磁ブレードが、彼の首を捉える。そのままペラドンナが振り下ろす!

ピンチベックは…欠けた右腕を見た…この手で、もう一度…彼女の手を握りたかった…

 

『……!?』

 

「悪いが、まだ眠くない…そちらこそ、永遠に眠って貰おう!」

 

ピンチベックは不意を突いて側転移動!剣戟が背中を捉えるが、絶命には至らず!何という執念か!

 

「…せめて…せめて一矢報いて死ぬべし!来い!最後の実戦訓練だ!」

 

『……へぇ…全く、諦めが悪いねぇ…そんな所も好きだけどさぁ!』

 

加速したペラドンナは高速でピンチベックの周囲を旋回!大量の投げナイフを投擲!殆どは回避するが、肩と脇腹に命中!だがピンチベックは顔色一つ変えない!

 

「友よ…私はやはり戦士として死にたいのだ。リディアに…私は最後まで抵抗したと、お前の兄は、最期まで忠義を尽くしたと伝えろ!」

 

ペラドンナの追撃!歴戦の戦士を殺す為の致命的な一撃がピンチベックの足を切り裂き、首を狙う!だがピンチベックは一歩も動かない!!既に血溜まりが足元に出来ている!

 

(…結局、私は人を救う事など出来はしなかった…狂わせ、殺すだけだ…)

 

 

(速い…よく鍛えられている…まるで二人に分身しているようだ…もう、目が見えなくなって来た…息が苦しい…だがこれも因果応報か…私はあの子のようなゾンビにでもされるのだろうか…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、次の瞬間ペラドンナは吹き飛んだ!何かが恐ろしい勢いで落ちて来たのだ!一体、何が起きたのか!?彼らは目を疑った!そこには…そこには…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ペラドンナが、二人いたのだ!

 

 

 

「……遂に…私も狂ったか…クハハハハハハ!まこと、この戦いでは面白い事ばかり…起きるものだ!」

 

『いい笑顔だね…♡さて、やろうか、偽物さん?』

 

『…何だ…!?何故!?』

 

『…本物は捕まえた筈なのに?何で僕がいるのか…まだ分からない?カラドリウスさんが僕の身元を調べた…つまりは他の最高議会の人間からすれば、裏切り者疑惑のある僕の尻尾を掴めば彼女を失脚させる事が出来る…君達はそう考えた訳だね…?』

 

『で、僕を自治領の宮殿で捕まえて、代わりに君を教団の刺客として送り込み、ローデリウス君を殺させる事でスパイだと証明し、彼女に僕の裏切りの責任を取らせる…完璧だね…誘拐の実行犯が間抜けだった事を除けばねぇ!』

 

『…違う…僕がペラドンナだ!偽物はお前だ!』

 

「……私の見込んだ戦士ならば、胡乱な紛い物になど万に一つの確率でも負けない筈だ…勝てるな…?」

 

『…控えめに言って、やっぱり最高だね、君…まぁ彼は本物みたいだし、それでいいよ、僕は…ここまで無理するのは間違いなく本人しかいないからね…』

 

『……それなら僕も問題ないね…絶対、負けないよ…!』

 

 

「それでいい…どちらが上か…証明して見せろ。」

 

ピンチベックは、そう話すと意識を失った…80の軍勢を相手にたった一人で立ち向かったのだ、無理も無い。片腕を失い、壊れた装備から筋肉と肋骨が露出している…幸い止血はしてあるが、早く勝負を決めなければ危ないかも知れない…

 

『…やれる…僕は…僕はペラドンナだから…』

 

意外にも、ペラドンナは自分の名を騙るこの人物に、憤りや侮蔑、憎しみを感じる事は無かった。確かに親友を害したのは恨めしいが、自身の真似をする事に対しては特に怒りは感じない…寧ろ、名前と顔を変え、今までの自分を否定している事に同情すら感じていた。

 

『……僕も、君と同じペラドンナ…どちらが上か、決めようか…』

 

両者は同じ顔、同じ表情で睨み合い…コンマ二秒後、凄まじい攻防に転じた!電磁ブレードと古びた玉鋼のダガーが衝突し、激しい火花と電光が散る!

 

『…やっぱり、そう簡単には行かないねぇ…』

 

『当たり前だ…!僕が本物だから…負けるのは君だ!』

 

だが電磁ブレードのリーチは油断出来ない。この間合いで注意すべきは武器の投擲、そして魔法攻撃だ。恐らくはそれらを起点に攻めてくる筈…実戦訓練の光景が蘇る。彼は強制休暇期間中に古傷から血の滲む身体で、無理を押して教えてくれた。

 

(自分は何をしたい?確かなエゴを持ち、明らかな悪意を持って殺傷せよ。人間に一番効く猛毒は、やはり人間だ。拳で骨が折れぬなら、舌でプライドを砕くべし。獣に人は殺せない。)

 

『全部人のコピー、オリジナリティはゼロ。それで勝って、君は嬉しいかい?僕だったら泣きたくなるね!自分を否定して、それで目標を達成して嬉しいのかい?』

 

『…僕が勝てば…僕がオリジナルだ!』

 

しかし怒りと動揺から剣先がぶれる!その隙を見逃すペラドンナではない!鋭い蹴りで剣を逸らし、左で剣を踏みつけ、右で蹴る!

 

(押せ寄せの空気が漂う時こそ、自己を批判し、戦況を把握しろ。戦場は岩ではない。流れ続ける川だ。魚は流れをよく見て泳ぐ。)

 

僅かな違和感、咄嗟に蹴った勢いを利用して距離を取る!電磁ブレードの放電機構だ!あのまま攻めていれば感電していた!

 

『何故だ…何故当たらない…!』

 

『さぁ…?君が本物だったら、ローデリウス君が教えてくれた事、覚えてる筈だけどね…?』

 

『こんな…こんな奴にぃ…こんな奴らにぃイィィィィィ!!』

 

電磁ブレードのリミッターを解除し、激しく斬りつける!加速魔法と合わさり、恐ろしい速度だ!とにかく獣めいた動きで斬る!もはや彼は名前すら捨て去り、何も残されていない!無様に敗北し、プライドは破壊された。

 

『……いいね…君の戦い方…見せて貰ったよ…速く、力強い…』

 

『………やった…』

 

ペラドンナの肩に深い刀傷が刻まれていた。そして、もう一人のペラドンナの胸から短刀が生えていた。電磁ブレードが落ちる。振り向くと、爛れた顔の男が、その隻腕で短刀を握っていた。彼の意識は、そこで無くなった。

 

 

『済まなかった…最後まで、信じてやれなかった。結局、似ても似つかない紛い物だった…私の観察眼も曇ったか…』

 

『…そんな事ないよ…でも、最後に自分の戦い方、出来たんじゃないかな…センス、悪くなかったよね、彼…』

 

『…死体を回収する。感傷に浸っている時間は無い…恐らく…次の一手で決めてくる。…我々に楯突く害虫は徹底して淘汰する。』

 

 

 

 

 

 

 

『友軍のバイタル…消失だと!?馬鹿な…あの状況で…何か隠し玉があったか…奴の仲間も見つからず終い、まさか、最初から一人で…!?塔の起動はいい!例の作戦さえ上手く行っていればまだ勝機はある…コストは嵩むが、全く替えが効かない訳ではない…早く”スポンサー”と繋げ!奴とペラドンナさえ居れば何とでもなる!』

 

『通信、繋がりました!』

 

『もしもし!こちらは焔塔教団のメテオリットだ!こちらの掃討作戦は失敗した!ペラドンナの安否はどうだ!?そちらは無事なのか!?』

 

 

『この電話は、現在留守電モードです。ピーっと鳴ったら、まんまと騙された挙句に作戦が無様に失敗した感想をどうぞ。』

 

『…何者だ!』

 

『え?俺?まぁあれだ、お前らのお友達と同じ自治領の人間だ。今は変なガス吸って声がおかしいが、まぁお前らの敵だよ敵!俺の事を捕まえた奴らはピンチベックの同僚か?随分間抜けそうな面だな。ペラドンナはどうしてる?てか結局一人で行ったのかよ、あいつ…』

 

『まさか…あの傭兵か!』

 

『さて、どうだろうな…あと、カラドリウスから伝言だ!えーと…敢えて言おう、貴様らに出来る事は、同じ地位にいる私にだって出来るのだ…だとよ!やっぱり金払いがいい人間の言う事は違うな!』

 

『…撤退する…作戦を考えなければ。』

 

『……彼を見捨てるつもりか…?彼は本来の名前を棄ててまで教団に…実際才能はあった筈…!それを…』

 

『…大義には、犠牲が伴うのだ…だから我々は前進出来る…』

 

『それでは王国の民を食い物にする自治領の人間と同じだ!飢饉の時に彼らが関税の値上げを一年待っていれば、あの戦争は起きなかった!あの戦争は最初に奴らが仕掛けたも同然だったのだぞ!私は…人の上に人が存在しない国を作る為に、この教団に…』

 

『だからこそ、犠牲を出してでも早急に使命を成す必要がある。第二の塔の発掘さえ終われば我々の指先一つで自治領は我々に降る。それまでの辛抱だ…タングステン、お前も古参ならば分かるだろう…内部改革を進めたのも円滑に自治領と交渉する為だ…第一の塔で元老院も黙らせた今、チャンスを無駄にする訳には行かない…』

 

『…分かっている…発掘まで、何としても時間を稼いで見せる…』

 

『あぁ、頼んだぞ…全ては太平の千年王国の為、成就の時は近い。』

 

 

 

第40幕 完

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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