ピンチベック   作:あほずらもぐら

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第42.5幕

カラドリウスが最高議会にすら明かさぬ秘密基地。ここにいるのはピンチベック、ストゥーピスト、ペラドンナ、コーム、ヴォルク、そしてコームの私兵、ノーマン…冒険者としての名前は”ヒルビリー”である。全員が修羅場を潜り抜けた精鋭であり、この内部抗争での貢献が認められた名誉ある戦士だ。

 

 

『…第一の作戦は成功。これは皆の貢献あってこその結果です。全員が予想以上の活躍を見せてくれた事を嬉しく思います。…ストゥーピスト殿、調査の報告を。』

 

 

『……皆も事前に通達したから知っているだろうが、俺達が調査した結果、自治領の最高議会の人間、それも上級議員以上の奴がこの内部クーデターを画策した可能性が高い。あの後収容所にあった荷物、違法建築の捜査を装い全て回収して調べた結果、コレが出て来た。手掛かりを探して欲しいとの事だ。』

 

ストゥーピストは押収された物品の数々を収納した展示ケースを引っ張って来た。その中には…自治領の護民官に支給されているような高性能な武具や自治領の紋章が刻まれたバッジ、政治的な本が大量に保管されている。

 

『……刀剣類は紋章や銘こそないが、良く鍛えられとる…腕の良い職人に依頼したに違いない…数打ちの無銘ではあり得ん。』

 

「あぁ、軍の横流し品や使い捨ての量産品ではない。このロングソード、柄に巻かれているのは水牛レザー、刀身は狒々色鉄か?間違いなく”表の仕事用”に作られた品だ。”裏”の人間はレザーを巻くなら最低でも墨染めにする。狒々色鉄も耐久性は高いが刀身の色が目立ち過ぎる。」

 

『………そういえばお前、ウチの管轄から武器仕入れてたな…型は汎用のやつか…特定は難しいが、レザーの具合から見て納品されてから時間は空いてない。仕入れた材料から職人を特定出来る筈や…』

 

『…あっ!?』

 

「どうした…?」

 

『これ、一昔前に流行った人形!家にあるやつだ!』

 

「人形…?間違いはないのか…しかし人形とはな。一体何のつもりだ?あそこは人を監禁する施設だろう。」

 

『いや、それにしてはやけに部屋が多かったな…他の用途もあったって訳か…?』

 

「…もしくは、そのような場所が複数作られている…例えば、”別荘”のように。国民の血税を使って自分の身を守る為にな…そうでなければペラドンナ一人を収容する為だけの場所に、私物がある筈もなし。」

 

『…成程…確かに、あり得ない話ではありませんね…他に私物らしい物は?』

 

『いや、これだけ…この小さな人形さんだけだ。』

 

「人形を持っている…私は流行り物は分からんが、その…関係者に子供がいるのか?単なる道楽という奴なのか?それは何処にあった?」

 

『籠の中だよ……全く、この色男を捕まえておいて、茶菓子の一つも出さずケチなお人形遊びとは笑わせる。こんな事ならいつも通り地下闘技場で自分に賭けて稼いだ方がな…』

 

「…ふむ…置き忘れか?例の施設、本来は別の用途で使われていたのはやはり確実…しかし何の用途だ?一度視察に行って…」

 

『……ガキだな。…貴族絡みの依頼をよくやってたから分かる…ホラ、資料を見ろ。この間取り、家具すらないのに変なスペースが多過ぎる。特殊な器具か何か…介護とかリハビリの道具なんかを置いていたのかもな。最近見なくなったが、出入り口が一つだけ、その付近に見張りの部屋…座敷牢という奴よ。』

 

「…誰かを閉じ込める用途なら、使い回すのにこれ程最適な部屋はない…しかし何らかの持病持ちの子供が身内にいて、尚且つこの広いスペースを市民に発見されない程の短期間で作るレベルの権力…大分絞れたな。」

 

『えぇ…一度視察に行ってみる必要がありますね…持病の種類が分かれば更に特定が進む…護衛として貴方も同行しなさい。その手足、馴染ませる必要がある筈です。』

 

「…はっ!」

 

『…我々は市民の税金を使い、秩序を守る者…妥協は許されません。故に決して妥協しない貴方が必要です。』

 

「……何と素晴らしいお言葉。全く、謀反者にも聞かせてやりたいものですな…。」

 

『……ピンチベック…忠誠心を疑う訳ではありませんが、あくまで我々は対等な関係、下らぬ配慮は貴方が息苦しくなるだけです…個人的には、もう少し踏み込んでも良いのですよ?』

 

「…御意。」

 

 

 

『…ストゥーピスト、そしてペラドンナ。貴方達はコームの護衛として行動しなさい。新しい武器くらいはオーダー出来るかも知れませんよ?いかに業物とはいえ、ダガーだけでは対魔物戦は心許ない筈です…』

 

『はいっ!』

 

「意外だな…もっと執着するかと思っていたが。」

 

『宝物だからこそ、酷使はしたくないからね!新しく生み出した紫雷の竜輪(サンダー・オブ・ウロボロス)然り、新しい戦術は必要だと思う。』

 

「そ、そうか…戦術の幅を広げるのは良い事だが、基本も忘れないようにな…自分の技にそんな名前をつけた時期もあったな…懐かしい。

 

『…痛てぇ…痛てぇよぉ…』

 

『え…大丈夫!?腐ったものでも食べたの…?』

 

『いや…何でもない…クスス…』

 

『………?』

 

「……時間が経てば気付くだろうに…無粋な奴め…」

 

『ふふっ…』

 

「む…何故笑っておられるのです?」

 

『いや、貴方は真面目だと思いましてね…それに多少…その…良い方向にずれている…前から…良い方向に…。』

 

「…良い方向とは?申し訳ありません…私は理解力に乏しい…本当にね…」

 

『時間が経てば気付きますよ…』

 

「…そうですか…」

 

 

『では、行動開始!…あらゆる妨害に備えなさい!』

 

「…はっ!」

 

 

 

 

 

第43幕へ続く…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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