ピンチベック   作:あほずらもぐら

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第47幕 : 波乱の余震

「……私が…不甲斐ないばかりに……」

 

…容体は落ち着いたようだが、危うく脊髄を破壊される所だった。神経の修復は魔術師ではなく医者の範疇だが、馬鹿正直に本格的な治療を頼めば間違いなく”不幸な医療ミス”で彼女は死ぬだろう……しかし収穫はゼロではない。

 

『あったぜ…ホラ、これが三つ足狼団の資料。名簿とか帳簿の写しとか人相書きとか……ミストハンドの名前も上がってる…今時名前だけじゃあ冒険者の特定は難しいが…ギルドの名前までよく聞き出せたな。』

 

「…あぁ……あぁ。」

 

『……死んではいないんだろ?お前さんはよくやったと思うぜ……本当にな…』

 

「………何故着けられたかだが……これだ。」

 

血のついた布の上には、小さな水晶の塊が置かれている。恐らくは何処かのタイミングで埋め込まれた……体内に。いつからかは分からない…数日前か、それとも数ヶ月前……数年前。自治領の役人は誰も信用出来ないと考えた方が良い……鑑識や聖職者も極力避ける。裏切り者が見つかるまでの辛抱だ。

 

『…チッ…悪趣味だぜ、こいつァ…旧時代のクソ技術はもう見飽きたぞ…所謂”発信機ッて奴か?』

 

「……だが利用出来る……これをディスコネクターの懐に入れて……分かるか?」

 

『ハハハ!そりゃあ傑作だ!精々見物してやるかねぇ……その後はどうする?』

 

「………発信機を付けたディスコネクターを放ちギルドの注意を奴に向ける。奴らはディスコネクターが寝返って我々の護衛に成り下がったと取り違え、ディスコネクターの方はトカゲの尻尾めいてギルドに切り捨てられたと考える…その混乱に乗じて奴を炙り出す。自分から出張ってくるのなら尚良し……」

 

『成程、考えたな……だがあのディスコネクターを捕らえるとはなぁ……知らん奴でもない…それなりには出来る奴だったが……』

 

「倒せたのは幸運だった。ペラドンナがかなり消耗させていたようだ……そういえば彼は何処に行った?治療は済んだ筈、まぁ召集命令は出していないが…一応、話は通しておきたい。見ていないか?」

 

『いや…見ていないな。最近は忙しかったからなぁ……じっとしているように言っていたんだろ?』

 

「あぁ……居場所は常に知らせた上で、口外はしていない。部屋に細工がないのも確認済み、わざわざ大掛かりな魔力干渉機をパーツで分けて運んで検査までしたのだから。しかも深夜に私一人でやった上に、潜伏場所はとんでもない僻地だ。」

 

『……撤退してんなぁ…尚更怪しくないか?まさか本当に……』

 

「…念の為見てこよう……君も来るか?」

 

『いや、俺は情報集めがてら散歩だ。何かあったら連絡しろよ?その為に金を貰ってんだからよ。そうだ、何も無かったら地下闘技場に来いよ!小遣い稼ぎさせてやる!』

 

「…生憎金には困っていない。だが君の人脈は信用出来る……行けたら行こう。」

 

『おう!期待しないで待ってるぜ!』

 

二人は互いに別々の通りに向い、走っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜某所、地下闘技場〜

 

 

 

『さぁ!赤コーナー、殺戮甲虫マーダービートルの登場だ!前戦の悪質債務者チームを血祭りにあげた角は冒険者に届くのか!?』

 

『青コーナーは冒険者ヒルビリー!期待の新人冒険者!残虐な棍棒捌きで大自然の甲冑を打ち砕くか!?』

 

『ハハハハハ!さぁやれ!角をへし折って尻に突き刺してやれ!』

 

ガラス張りの特別観客ルームで高笑いしながら手を叩く黒ターバンの男…ストゥーピストだ!トゲ付きレザー装束を身に纏うダークエルフの冒険者を侍らせながらワインと高く積まれた豪華な料理を堪能する!

 

『あれは俺の舎弟でなぁ!奴に賭けたのも純粋な親心と言う奴よ!次は俺が出場するからよぉ、姉ちゃんも俺に賭けたら稼げるぜ?』

 

『お兄さん優しいですねぇ!是非自分もベットさせて貰いますよ!』

 

『ハハハ!是非楽しんで行け!そうだ、そのうち俺の知り合いも来るかもだからよ、これがまた真面目な奴でな…まぁ腕は確かだからよぉ、姉ちゃんからも出場するよう言っておいてくれよ。タイマンならまず負けないような奴だからよ、間違いなく盛り上がるぜ!』

 

『マジで!?それってオーナーが言ってたあの拳銃使いの人!?』

 

『そうそう、オーナー元気?あの人最近出番少ないからさ、そいつと戦わせるってのはどうよ!』

 

『それ採用!オーナーに話しときます!』

 

『お、試合始まるぞ、見とけ見とけ!とびきり残虐な方法で殺すよう言ってあるからよ!よし、奴の次戦、電撃鉄条網、それから天井から武器吊るす奴やれ!あれで盛り上がるだろ!』

 

『流石に死んじゃいますよ!それ貴方が出る時のルールでしょ…』

 

『ハハハハ!冗談だ冗談!まぁアレだ、そろそろ黙るからよ…』

 

 

 

試合開始のゴングが鳴ると同時に拘束を解かれたマーダービートルが突進!樹木すら薙ぎ倒す恐ろしい角の一撃!ヒルビリーは下手に受け止めず、寸前で飛び越えた!

 

『ヒャーハーッ!金星は頂きだぁ!妹がケーキを食いたいと言ってるんだ!死ねぇ!』

 

だがマーダービートルは頑丈だ!ダメージの大半は甲殻が吸収!しかしヒルビリーは慌てずに状況判断!地面を枯れ草めいて転がりながらカウンターの足払いを躱す!

 

『やはり頑丈!だがそれだけの弱敵……頼む弱敵であってくれ。』

 

暫くの睨み合いの後、先に仕掛けたのはヒルビリーだ!軍馬サイズのカブトムシに殴り掛かる!ダメージを完全に殺す手段は存在しない!ならばダメージを蓄積させるのだ!

 

『ウラーッ!』

 

だがそう甘くはない!硬質の角が棍棒を弾き飛ばす!棍棒は天井の照明器具に引っ掛かる!いかに冒険者でも素手で魔物は倒せない!

 

『おま……ちょ、おい!ぬわーッ!』

 

マーダービートルが再び突撃!ヒルビリーの肩を掠める!観客席からは歓声が絶えない!血に飢えた叫び声が会場を揺らす!

 

『……アイツら自分勝手に騒ぎやがる……ならせめて一矢報いて負けてやる!』

 

ヒルビリーはマーダービートルに正面から突っ込む!だがぶつかる瞬間、ヒルビリーの姿が消えた!何と!マーダービートルの真下に潜り込んだのだそのまま比較的柔らかい下腹を蹴り上げる!鉄より軽く頑丈な装甲が仇になった!マーダービートルはひっくり返る!更に歓声!だが素手ではマーダービートルを殺せない!ヒルビリーは仕方なく馬乗りに

なり、角を掴んで必死に耐える!

 

『このっ……』

 

角を何度もブレーサーで殴りつけ、確実にダメージを稼ぐ!そして観客席前の鉄柵に角を押し付け、不意打ちで頭を殴った隙に両足で蹴り!遂に角にヒビが入る!これが木材なら原型を留めていない程の衝撃!

 

『キキキキーッ!?』

 

ヒルビリーは更に頭を素手で殴って怯ませ、角をしっかりと掴む!そのまま高速回転!マーダービートルは羽を開き暴れ回るが遠心力の前には児戯同然だ!何度も鉄柵に叩きつけ弱った所を投げ飛ばす!鈍い音と共に角が折れ、弾丸めいた速度で砂煙を上げながら観客席の目の前に激突!マーダービートルは失神昏倒!

 

 

『どうだぁぁあああ!!恐らくはドラゴンに匹敵する強大な魔物を!今度こそ俺一人で討ち取ったぞぉおお!!』

 

『一本!ヒルビリーの勝利です!勝者には賭け金とは別に賞金として、金貨10枚が支払われます!誰がこの大逆転劇を予想出来たでしょうか!やはり冒険者、魅せてくれます!皆さん彼に盛大な拍手をお願いします!』

 

『やった!私達の勝ちですよお兄さん!』

 

『よぉし!これで1.8倍だ!オッズは同じだから迷ったが今回はツイてるぜ!俺は姉ちゃんに賭けるからよ!次はリングで会おうぜ!』

 

ストゥーピストはショットグラスの中身を一気に飲み干すとシミターを持って控室への直通エレベーターに乗り消えていく。

 

『次の試合、赤コーナー、アイスヴァイス!前戦ではレッサードラゴンを平均に比べて半分のタイムで殺害!今最も勢いのあるアヴァ商会の新人です!氷の万力は傭兵をシャーベットにするのか!?』

 

『続けて、青コーナー、ストゥーピストの登場だ!今回は武装を一新しての参戦であります!フリーランスながらギルド上位の冒険者を何度もクエスト失敗に追い込んで来た実力は、果たしてこの対決でも通用するのか!?』

 

 

『さ……奴の負担を減らす為にも、ここでアヴァの奴等を一人でも多く病院送りにしねぇとなぁ!ハハハハ!』

 

 

〜某所、新秘密基地〜

 

 

 

(……何故……何故あの時私は…!あのような偽物を見抜けないばかりか……あの方を傷つけて……)

 

『……何か、元気ないね……』

 

「…気のせいだろう。彼女の容体はどうだ……」

 

『……別に命に別状はない、元々医者志望だったから分かるって…君の機転で助かったってさ…』

 

「だが最善ではなかった。」

 

『でもあの時君がいなければ死んでたよ、あれ……』

 

「…世辞はよい。君なら加速魔法であの場から逃げられた筈、それに比べて私は……腕から火花を出す事すら出来ない。かすり傷一つ治しただけで目から出血する。」

 

『……でもさ…君は頭いいし…』

 

「小学校すら満足に行けなかったよ、私は……学んだのは、結局のところ人を苦しめるような事ばかりだ。仮面無しでは会話すら成立しない……」

 

『…そんなの嘘だ。それっ!』

 

「あぁ!こら、仮面を返せ!それが無いと私は……」

 

『……僕、仮面無しでも話せるよ。ちゃんと目見る!ほら!』

 

「…な……!」

 

『目、やっぱり綺麗だ………あれ、色変わった?輝きが増したような…』

 

「……そうか?しかし不快ではないのか?このような顔をずっと見つめていては、具合が悪くなるぞ。」

 

『まぁコンプレックスだよねぇ…でも僕、ずっと疑問だったんだけどさ……何であの時、周りから酷い扱いされてたのに……その…助けてくれたの?』

 

「……理由が必要か?大した理由ではない。確か…腹が減っていたから、食べ物と引き換えに助けた……人に言われてな。」

 

『でも最後は自分で決めた訳だし…わざわざ食べ物と引き換えであんな長い距離移動して助ける?』

 

「…首を突っ込んだ以上、筋は通したかった……それだけだ。」

 

『……それが良いよ、それが気に入って、僕は君に憧れた。少しばかり血生臭いとはいえ、やっぱり変わってないよ君……』

 

「………敵を見くびっていた。奴はもう我々の同志にまで手を出している…クォーツだけではない。それなりのキャリアがあるクラリドンまで寝返っていた……だが情報は入った。私は直ぐにミストハンドの所属ギルドに行き、奴の潜伏場所を特定する。」

 

『じゃあ僕も…』

 

「…ダメだ、私一人で行く。君には私が捕まった場合のカバーを頼みたい。カラドリウス様の部屋は隠しているとはいえここが見つかるリスクはゼロではない。ある意味で最も大切な任務だ、それを忘れるな。そして、私などの気紛れに恩を感じてくれてありがとう…!」

 

 

次の瞬間、ピンチベックは戦闘機めいてハッチから飛び出し、凄まじいスピードで馬を駆って出撃!あっという間に見えなくなった!

 

(…済まないな……だが、君に私の所業を見せる訳には行かぬ。ディスコネクターが騒ぎを起こしている内にミストハンドを殺す!それも拷問した末になぁ!許さぬ!許さぬぞぉ!待っておれミストハンド!おのれはこのピンチベックが仕留める!)

 

 

僅かに赤い眼光が明滅し、淡い金色に戻る!クラリドンの行方、アブホースの気紛れの理由、そして焔の塔の正体。だが今はミストハンドを殺す!続けて、ギフトブレイズ、フェザーダンサー、タングステン、メテオリット、三つ足狼団の冒険者全員、そしてあの司祭を殺す!

 

 

 

 

 

 

第47幕 完

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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