ピンチベック   作:あほずらもぐら

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第53.5幕

『何……ワークレイフィッシュが………そうか、彼も手練れ、私ですら危うい使い手だったが、敵は予想以上に成長している……こんな筈では……!』

 

『…落ち着け、お前らしくない……傭兵がやられた以上、最早我々が解決する他ない。とにかく、今からでも対策を!余裕はあるのだ、気を確かに……』

 

『簡単に言うが、ストゥーピストは間違いなく危険だ……スワッシュバックラーは疲弊しているが、奴は……』

 

『相手が悪かった。蜂の習性を上手く利用されてしまったのだ……奴の投げ捨てた黒ターバンに八割が群がり、結果的に奴は二割しか連携を活かせなかった。今度の刺客はギフトブレイズだ、そうは行かない。お前も勝ち上がったのだから、まだチャンスはある。』

 

『……そうだな。出来れば避けたかったが、リスク無しでは無理か……』

 

 

 

 

〜一方その頃〜

 

 

 

 

 

『……クソが…何で、倒れないんだ……』

 

『さぁな……だが、他の奴らが頑張ってるのに、俺一人が負けるなんて許せねぇ……』

 

 

ヒルビリーは棍棒を強く握りしめ、続ける。

 

 

『……まぁ、同じ兄貴としてはさ、共感出来るんだよ………最も、俺のはとんでもない跳ねっ返りだがよ……』

 

『……まさかあの男の事を……!』

 

『…たまたま聞いただけだ……そっちこそ、やっと尻尾出しやがったな…焔塔教団の冒険者さんよ……』

 

『……貴様ァ!』

 

『…俺はあんまり腕の立つ方じゃあないんでな……ない頭で必死こいて勝負よ。俺が情報を持ち帰り、後は仲間が手配してくれる……』

 

『………クソ…クソ……!』

 

『他人事じゃあねぇんだよ……あの子の必死な顔………まだ14かそこらの女の子がしていい顔じゃねぇ……国一つ敵に回して、妹助けようって馬鹿がいるなら、俺は全力でその手助け、してやろうじゃないの。』

 

『馬鹿にするんじゃねぇぇ!俺は、俺は…うぉおお!!』

 

フェザーダンサーの拳が唸り、風を切ってヒルビリーに迫る!その顔には最早新人潰しで成り上がった自信家の面影は無く、焦燥と絶望感が現れていた。

 

 

『……フン、ガキが……やっぱりよ、デカい事するには大義名分って必要なんだ……俺にはそれが”無かった”……お前には”無い”…一応はあの子らやお前よりは年上だからな…こういう説教、一度やってみたかったんだよ。』

 

『……抜かせぇ!俺は焔塔教団……アヴァ商会の兵士だぞぉ!』

 

『そうかい……それで?こっちの大将はな、もうとっくに腹決めてんだよ!巻き込まれた以上、俺だってやってやる。不本意だがな……』

 

『…うぁぁああああ!』

 

『…うぉおおおおおおおおおお!!』

 

ヒルビリーは絶叫と共に棍棒を振り下ろし、フェザーダンサーの拳がそれを迎え撃つ!だがパワーはフェザーダンサーが上だ!ヒルビリーの棍棒が宙を舞い、フェザーダンサーのボディブローが炸裂する!

 

『ぐ…』

 

『や…やっt』

 

だが次の瞬間、ヒルビリーの拳がフェザーダンサーの顔面を捉える!

 

(馬鹿な、見えている筈なのに、何故……)

 

素早いステップで逃れようとするが、何故か足が動かない……感覚すら摩耗していた。足を踏みつけられているのに気がついたのは、三発目のパンチを受けた時だった。

 

『うわぁぁああぁああああ!死ねぇ、死ねぇぇえええええ!!』

 

型は殆ど素人の動きだが、冒険者の身体能力があればそれなりのダメージにはなる。意識が打撃で覚め、衝撃で朦朧を繰り返す。声が出ない。

 

『あ…あぁぁあぁぁ……うぁっ、あっ、あっ……』

 

ヒルビリーが踏み込み、アッパーカットを放つのを、ただ見ている事しか出来なかった。思えば、今まで自分の意思で何かを成しただろうか?

その疑問すら頭蓋への強打で意識ごと吹き飛んだ。

 

『そこまで!勝者、ヒルビリー!』

 

『……ゼェ……ゼェ……俺、勝ったのか……』

 

拳は痛いが、遂に自分と同じ冒険者を倒した。指の骨が何本かイカれただろう……しかし特別ボーナスの前には痛みなど些細な事だ。何より人生最大の快挙に震えた。

 

 

『ハ…ハハハハ!俺の、俺の勝ちだぁ!』

 

 

 

 

 

 

〜観客席にて〜

 

 

 

 

 

『ノーマ……ヒルビリー君も勝ち上がった……中々良い感じだねぇ♡』

 

『………あぁ、そうだな。敵もまるきり三下ではなかった筈だが、鍛錬が活きたか。』

 

『よし!流石ウチの私兵や!これで全員勝ち上がったな!後は……』

 

『…身内でやり合うか、全くキツい仕事を寄越すものだ。』

 

『全くだ。お前と当たったら殺されかねないぜ……』

 

『一度君とは、決着をつけたいと思ってたんだよね……クジの結果次第だけど、出来れば君と戦いたいな。』

 

『……今の武装では勝てるかどうか……だがこの辺りで君の力量を測るのも一興……』

 

『全く、”エルカッサム”になりきってるね……ここ控室だから仮面外しても良いと思うけど……』

 

『……そうか…では。』

 

 

エルカッサムは仮面を外し、束ねた白髪を戻す。血で汚れた包帯を取り替えながら、男は続ける。

 

『………私の復讐も、終わりが見えて来たな……生き残るにしても、死ぬにしても……思えばこの数ヶ月、私の過去がいっぺんに押し寄せて来た……罪も、罰も…』

 

『それから僕もね!』

 

『………あぁ…全く不思議なものだな。このタイミングで君がやって来た事には私も驚いている……誰かの意図すら感じるな。』

 

『………あ!そろそろ次の試合だ!』

 

『時間が経つのは早いものだ……さて、次の相手は誰か……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さて、第一回戦を突破した猛者たちによる次のステージの開幕!抽選の結果はこれだ!』

 

 

エルカッサムvsファイブフィンガー

 

スワッシュバックラーvsストゥーピスト

 

マネーメイカーvsユージェニック

 

ヴェノムパピヨンvsタングステン

 

ディアハンターvsテイクポイント

 

ヒルビリーvsヴォーパリスト

 

パンジャンドラムvsギフトブレイズ

 

ビクトリーマグナムvsアイアンクロス

 

インドルジェンスvsディスコネクター

 

 

 

 

『……チッ…お前とかよ、自信ないぜ……あのザリガニ、大分強い筈だが……だがピンチベックやメテオリットを叩きのめすのは俺だ、腕の一本は覚悟しとけ。』

 

『うーん、ここで終わるのは困るなぁ…やっとこの剣をマトモに試せる訳だし…』

 

 

 

 

『お兄さん、さっきの戦い、見てましたよ…楽しめそうで安心しました!えへへ……』

 

『あ、ありがとうございます!』

 

(…この前ストゥーピストの隣に居た……ヤバいな……目的は果たしたが…せめて一発殴れれば良いんだが。)

 

 

 

 

『……魔狼に頼ってばかりと言うのもつまらん。此方にも面子があるのでな……』

 

『この連装式ボウガンの餌食にしてやろう…さて、お前は何分持つかねぇ…』

 

 

 

 

「ほう、まだ生きていたか……何度来ても同じ事よ、手土産が一つでは足らんのでな…貴様を倒し、奴の首も頂く!」

 

『………戦闘シークエンス、開始ね……さっさと内臓をぶち撒けるがよろし……』

 

 

 

 

『我々は血という世界で最も強い、生まれながらの絆に結ばれている。貴様の如き羽虫に、我が家族の邪魔はさせない………必ず元に戻してやる……!』

 

『言うなぁ……まぁオトンも家族は大事言うとったが……まぁこっちも生半可な覚悟で来てる訳やない…大人の怖さ、ここらで教えてやるわ!』

 

 

 

 

『…パンジャンドラムです。本日はお日柄もよく、大変な爆走日和ですな……宜しくお願い致します。』

 

『ご丁寧にありがとう…皆がこれくらい誠実なら良いのですが……確かに良い天気ですね。』

 

 

 

 

 

『我、焔塔教団のインドルジェンスなり。よろしくお願い致す。』

 

『……何を今更……私を見て、弁解の一つもしないか……』

 

『……知らんな、お前など……記録に無い。』

 

 

 

 

 

 

『火!焔!転!身!』

 

凄まじい熱気と赤いオーラを放ち、ビクトリーマグナムが変身する!希少なアダマンタイト繊維で構成された新型スーツのプロモーションである。実際彼の戦闘力は目に見えて上がっていた。

 

『………邪魔だ……あの男……今度こそ……!』

 

アイアンクロスは十字架型ハルバードを構え、まるで爪楊枝でも扱うかのように軽々と振り回す。凄まじい覇気に空気が震えている。

 

 

 

 

 

 

『クククーッ!貴方が………フフフフフフ!!』

 

蠱惑的なカラーリングのエナメル装束に身を包んだ冒険者は、気取ったポーズのまま礼をする。その背中には蝶の翅を模した、青いラインが通った金属製の飛行翼がインプラントされている……

 

『……またサイバネティクスとやらか………だが日頃の鍛錬と強靭な精神に勝るもの無し!それを証明して見せる!』

 

 

タングステンは質素なオリハルコン製バトルロッドを構え、恐ろしい速さで回転させ構えた。

 

 

 

第53.5幕 完

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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