ピンチベック   作:あほずらもぐら

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第56幕 : 新たなる疑惑 後編

『大体片付いたか……?』

 

『とにかく、ローデリウス君と合流して現状の確認を……』

 

『そうですねぇ……たしかにその子と合流して、作戦を練った方が良いかもしれません……』

 

『あぁ、それに魔狼を休ませる必要がある。安全な場所を探そう。』

 

『……しかし、大変な事になったな……政府の内部クーデター……雇われの俺たちまで殺そうとする訳だ。今情報が漏れて王国軍に攻め込まれたら間違いなく自治領は終わりだ。』

 

『実際、その狙いもあるのかも知れません……とにかく、彼を探さないと……』

 

『待て!彼らが何か見つけたようだ!行くぞ!』

 

『きっと奴だ!血の匂い…この先だ。早く行かねぇとマズいぜ!』

 

 

〜数分後〜

 

 

 

 

『近い……!全員、戦闘の準備だ!』

 

『敵襲!全員迎撃体勢!』

 

『クソが!雑魚は引っ込んでろぉ!』

 

ストゥーピストはサーベル二刀流で壁を蹴り突進しグレー装束の冒険者達を塵殺!辺りに血煙が巻き起こり、大量のバラバラ死体が散らばる!

 

『迎撃!』 『攻撃!』

 

しかし頭上から槍を持った冒険者が血煙に紛れ奇襲攻撃!しかし毒々しい黄色の触手と紫色の稲妻に穿たれ即死!

 

『何でこんな数がいる!一体幾ら雇ってんだ!』

 

『何とも不気味な集団よ……この数、幾ら彼が手練れだろうと無理がある!急いで見つけるぞ!』

 

ディアハンターは投げ斧でロングソードをへし折り、小型クロスボウで支援射撃しながら叫ぶ!

 

『居るなら返事して!』

 

『クソ、最悪あの成金だけでも見つけ出して……』 

 

『……左奥に二人、匂いの違う者がいるぞ!』

 

『了解!どけぇい!』

 

ストゥーピストの攻撃で怯んだ所にディスコネクターの突進!グレー装束の冒険者を吹き飛ばしながら回収!後陣のヴォーパラーに投げ渡す!

 

『………首が無い……探して!早く!』

 

『匂いはそれだけだ!首は……!』

 

『………マジかよ……クソが!何でこんな事に……』

 

『そんな……嘘だ……嘘だ!誰がやった!?』

 

二人の切り口は乱暴で、素人目に見ても不慣れな人間が斬首を行ったであろう事が容易に想像出来る……しかし、使用された刃物自体の斬れ味は決して悪くない…寧ろ、かなり上等な品だろう。切り口の端を見れば分かる。

 

 

『……ローデリウスは何処だ。』

 

『奴は、奴は何処にいる!まさか……』

 

『……え、嘘でしょ……こんな時に冗談なんてやめろよ!僕は信じないぞ!』 

 

『…見ろ、この斬り始め……かなりスムーズに刃が入っているが、次第に乱暴に肉が裂けてる……これが奴の擬装だとしたら、辻褄は合うんだよ……』

 

『……確かに、可能性はある……ヴォルク、お前は魔狼と一緒に辺りを捜索しろ……』

 

 

『……待った!何かポケットにしまってある……写真か!?』

 

 

次の瞬間、ペラドンナは絶句した。

 

 

『……何で……』

 

『…おい、落ち着け。どうせハッタリだ、まだ本当だと決まった訳じゃ……』

 

『………これをやった奴を探す。探して……殺す。苦しめてね……絶対に後悔させてやる!』

 

『待て!今動けば敵の思うつぼだぞ!マジでやめろ!自殺行為だって!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『うるさい!君に…君に何が分かるんだ……家族なんかいないくせに!あの子達は僕の家族なのに何で邪魔するんだよぉぉ!彼がこんな事する訳ない!』

 

『やめろ!彼に従え!死にたいのか!』

 

『………行けよ……』

 

 

 

 

 

 

『行けって言ってんだよ……お前の家族なんか知るかよ…写真のガキと一緒にサタンのナニでもしゃぶってやがれ……クソが!お前の親も豪邸で焼け死ね!』

 

『……!』

 

ペラドンナは翼を広げ、逃げるように羽ばたいて行った……まるで焔へ向かう蛾のように…

 

『追わんのか?あのままでは危険だが。』

 

ストゥーピストは水煙草に着火し、溜息と煙を吐き出しながら話す。

 

『知らねぇ…このシノギは学園祭気分で参加して良いようなモンじゃねぇ……ガキは椅子に座って勉強してりゃいいのよ。』

 

『だが見殺しには出来ん、とにかく様子だけでも見に行かないか?』

 

『……家族を知らないだぁ?そんな事言う奴を止める必要はねぇ。まぁ実際知らない訳だ……母ちゃんは爆弾で頭が吹き飛んで死んだらしいし、親父は徴兵された後行方不明。近くにはドラゴンの巣があったらしい……比べて奴はどうだ?』

 

水煙管を指で回転させながら、ストゥーピストは続ける。

 

『俺が戦場の死体を漁ってその日の飯代を稼いでる間、奴は哺乳瓶を咥えながら宝石と同じ値段のシーツを小便で濡らしてたんだぜ?そんな奴に俺の何が分かる?あれは……地獄だった。夏場は便所の匂いがする蛆だらけの鎧からベルトを外すんだ……』

 

『……金持ちは政治やってりゃいいのによ、アイツは下らねぇ恩返しとやらを命懸けでやってやがる……死ぬかも知れないのに、唯の馬鹿だよ、あれは。』

 

『……素直に生き残って欲しいと言えば良いのに。』

 

『…生き残る…か……いっそ殺してくれって、何度も祈ったんだがなぁ……叶えてくれなんだ。結局、あれから一年でガッコも爆弾で吹き飛んだし、気紛れ過ぎるな…神サマってのは。』

 

『……私は痕跡を探しに行く。ヴォーパラーとディスコネクターも周辺に手掛かりを探しに向かった……』 

 

『奴ら、雇い主死んだらタダ働きなのに、馬鹿だなぁ……』

 

『この稼業を選択する者は、皆頭が良いとは言えんだろう。恐怖と言う最大の本能に逆らっているのだから。』 

 

『……チッ……奴に手柄を取られれば面子に関わる。首取り返しに行くぞ!その後は教団の馬鹿共をブチ殺す!』

 

ストゥーピストはサーベルを磨き上げると、血の付いたボロ切れを投げ棄て、煙を吐き出しながら立ち上がる。 

 

 

『そうでなくては。私も自分の土地をアヴァ商会の連中から守る必要がある……我々は所謂原住民、土地の権利書とやらは通貨で買う必要があるらしいからな。』

 

『故郷が好きか?俺は嫌いだ……自分たちが全部壊したからな。』

 

『……故郷は、家族の居る所だ。森は家族、1000年前から一族が受け継いだ教えよ……』

 

『森か……昔の人間は、でかい石の中に住んでたと言うな……何でも地震で全部崩れたりして大変だったらしいが。』

 

『そこまでの技術を持ちながら、人間は大きく数を減らしたと聞く。戦か、それとも病魔か……』

 

『戦も病気だ。殺す度に簡単になる……』

 

 

二人は風のように走るが、未だペラドンナの背中は見えない。

 

 

『しかしアイツ速いな……加速魔法は移動能力が二倍近くに跳ね上がると言うが、まさか加速したまま飛んでるのか!?下手したら羽根が千切れるぞ!』

 

『家族の命が懸かっているのだ、急ぐのも無理はない。』

 

『家族か……もしかしたらアイツも……ペラドンナにそっくりな奴を捕らえた事があるんだが…顔を作り直す事が出来るなら……俺なら、裏切ってもおかしくは無いと思う。』

 

『………若いながら相当の手練れ、しかも自分の頭で考えて動けるタイプの人間…下手な冒険者では間違いなく返り討ちだな。』

 

『返り討ちどころか、生きたままバラバラにされるだろうな。奴は味方の失敗には寛容だが、敵には一ミクロンだって容赦しない……』

 

『つまり我々は敵という訳か…しかし騙し討ちする機会はゼロではなかった筈だが。』

 

『殺し過ぎて波風が立つのを嫌がったか、それとも俺たちに情けをかけたか……まぁ本人を締め上げて聞けば済む話だ。』

 

『………待て、血の匂いだ。若い男女、しかしかなり薄いな……首は特殊な袋か何かに詰められているのか?』

 

『つまり、最初から一悶着あると踏んでた訳だ……こりゃあ間違いなく仕組まれてるぜ。恐らくは俺達が追って来る事も想定済み……』

 

『ペラドンナが危ない……彼がピンチベックに勝ったとして、トドメを刺せると思うか?』

 

『無理だな、殺し慣れてない……やったとしても電撃で心停止させるだけだ。内臓を抜いた後バラバラにして埋めるなりしないと……奴の場合心臓が止まったくらいじゃまず即死はしない……間違いなく道連れにするか、死んだフリからの奇襲で殺されるだろう。降伏からの騙し討ちも有り得る。』

 

『成程、優秀な狩人だ…その腕で増え過ぎた獣を狩り、国家という生態系を守ると言う訳か。』

 

『そんな感じだ。奴の仕事は俺も良く分からん……社会から敬遠されるような、だが絶対に必要な仕事なんだろうよ。』

 

『そうか……だが確かに、あれ程の器で無ければ持て余すだろうな……あの少女、彼に首輪を着けるとは只者ではない。』

 

『奴からしたらその首輪は紙切れ同然だろう。似てたのかもな、7年前に行方不明になった妹に……奴の妹には一度会った事がある。気が強い上、変に老成してやがった。』

 

『それが例の……裏切る理由は充分、後はどう説得するか……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜一方、その頃〜

 

 

 

『来たか……そうだろうな、君はそういう事を躊躇わない。』

 

「あの子達を……返して。また友達に戻って、やり直そうよ……」

 

『……私には、あの子しか居ない…もう失うのは……嫌だ……お願いだ、あの子の為に、死んでくれ!』

 

 

「………ごめんね。僕がもし、君と一緒の境遇なら、君と同じ事をしたと思う……でもさ……」

 

 

 

「そんな汚い事で命を拾って、あの子は……君は、嬉しいのかよ……僕は……僕は君を許さない。だって、まだ何も出来ていないから。」

 

 

『どうやら、最後の最後で恵まれてしまったらしいな、私は……君を殺すのに躊躇しているようだ……ここで終わるのも、悪くはない。証明して見せろ……お前の覚悟とエゴをなぁ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第56幕 : 完

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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