『………一応聞くが、見つかったか?』
『いや、まだ見つかりません!何処へ隠れたのか見当も……』
『確かに、ペラドンナの機動力ならかなり遠くまで行ける……デミゴルゴアの方にも根回しはしてあるが、一応貴族だからな…隠蔽されるのは間違いない。こっちでもツテを頼ってみるが、期待はするなよ?』
『ありがとう……しかしこんな所であの”ダビテの狂蠍”と会えるとは……』
『フン、俺も箔が付いたねぇ……まぁアレだ、有能過ぎるのも罪でな……王国の役人からは嫌われ過ぎて仕事が来ねぇんだよ…今回の一件自体、それの仕返しみたいな物だからな。』
『傭兵らしいんですかねぇ……でも目つきが少し柔らかくなったような気がします……好きな人でも出来たんですか?』
『馬鹿言え……俺が好きになるのは金持ちのお嬢様だけだし、俺を好きになるのも金好きな女だけだ……真面目な恋は飽きたよ……爺さんは元気か?』
『はい、おかげさまで……』
『おうストゥーピスト!相変わらず性格が悪いみたいで安心した!』
『おぉ爺さん!いや、会えて嬉しいぜ!しかし性格が悪いとはまた酷い話だなぁ!俺ぁ社会経済を回してる善良な消費者だよ?』
『どの口が言うんだか……しかし、酷いもんじゃよ王国は!戦前と比べて店の女の子の年齢層が目に見えて下がっとる……』
『マジで?まだ”視察”してんの?心臓発作でポックリとかやめてくれよ?風呂上がりでヒートショックとかさ……最近多いんだから。』
『ワシは生涯現役じゃよ!王国領は夜の治安とかホントに酷いんじゃからな!』
『元気そうで良かったぜ!俺は爺さんが”視察”する店が無くなって遂に同性にまで手を出したんじゃあないかと心配で心配で、夜もぐっすり……』
『寝れてるじゃん!大体お前さんだって、戦争であんな無茶に暴れたりしなければ今頃ワシの所の特別顧問にして……』
『俺は固定給には興味無いの!それに他所様に迷惑は掛けねぇ主義でな……それにほら、傭兵辞めたら略奪とか出来ないだろ?』
『ハハハハ!お前らしい!いや、全く変わらないんで安心した!腕も鈍ってないようだし、何よりやり甲斐のある仕事を邪魔する訳にはいかんな!』
『さて、爺さん………ヘルパーさんに迷惑かけたらダメだぜ?それじゃあな!腰を大事にしろよ!俺はロングピースの反対側見て来るわ!』
『もー全く、人を年寄扱いしおってからに……まぁ善人ではないが、何だかんだ情に篤いし頭の切れる男じゃ、無策ではないだろ……』
『一応社交辞令だから褒めましたけど…あの人、そんなに凄い人なんですか?何度か会ってますけど、ただのチンピラにしか見えませんよ?』
『そりゃあ、今まで700と90年ちょっと生きて来たが、ああいう自分の才能に自分で気づく奴は割と少ない……残念だが、能ある鷹は殆どが爪を隠したまま死ぬのが現実よ……しかし奴は最初から爪を剥き出しにしたロック鳥……最近の若者にしては見所がある。』
『へぇ……何か納得……流石お爺ちゃん!年の功って奴ですね!』
『まぁ、自分なりに有意義な年の取り方はしたと思ってはおる……若い部下に任せて年寄りは身を引く……名残惜しかったが、後悔はしておらん。』
『身を引く……?』
『だぁーっ!今回は観光で来たの!それがあのガキ、また騒ぎを起こしおる!全く、折角部下とコミュニケーションを取る良い機会だったのに!』
『そんな事言って、また酔った勢いでドジョウが何だとかふざけた事言うんでしょ……』
『え…何それ怖い………とにかく、これを終わらせるぞ!』
『はいはい……全く、調子良いんだから……』
バーテックスアイは二度牙を鳴らすと凄まじい脚力を駆使し、一瞬で老人の目の前から消えた。
〜一方その頃〜
おかしい。”彼”があんなにあっさり死ぬだろうか?実際に強いとはいえ、故意の殺人の経験すら殆ど無いに等しいあんな男に……二重スパイの線も考えてはみたが、”審判機”は嘘ではないと言う。では何故?
(おかしい……自殺願望か?特段おかしくはないが……タイミングが合わない。)
メテオリットは沈黙し、掌で火炎を揺らしながら思考を巡らせる。払った犠牲は大きいが敵は減った、ここからが勝負だ。
(だが何より解せんのは、何故顔を変えた後直ぐに巫女様に会わなかったかだ……まさか別人として接するつもりか?だから今も死を擬装している?)
『メてお、どうシタ…?』
『何でもないよ。少し考え事をしていたのだ……』
(いや、そうなら我々に一声あっても良い筈……まだ信用されていないとしても、積極的に情報交換をしていたが……)
『……考えても仕方ない、とにかく彼を救出し、事情は彼から聞けば良い事だ……バンディーア、ついて来い。私一人では危うい、君の力が必要だ……』
『アァァ……分かっ、タ……』
彼女の身体には複数の金属チューブが取り付けられており、アドレナリンを直接注入されている……だが彼女はそれに疑問を持たない。欺瞞を抱かない。もう、役立たずではないのだから。
『……これが終われば彼女は………待っていろカラドリウス………必ず殺す!』
戦いが終わるまで“彼ら”を目覚めさせる訳にはいかない。それが”神”に与えられた自身の使命だ……メテオリットは拳を握りしめた。彼らがどこから来たかは分からない。”神”の子供達だと言う噂だが、目が合った瞬間、背筋に寒気が走った。これ以上、子供達を戦場で死なせる訳にはいかない。
〜一方その頃〜
『ザザ……ザリザザザ……それで、首尾はどうだ………』
『ピンチベックは死に、奴の死体を巡って仲間割れが起きております。期待以上の成果と言えるでしょう!』
『それは僥倖……後はあの娘一人だけか。居場所はピンチベックを尋問して吐かせるのだ……奴は愚かだが馬鹿ではない……用心しろよ?仮に脱走でもされれば、お前が危ないのだから。』
『はっ!これであの能無しの世襲も終わりですな!自治領、万歳!』
『自治領、万歳!』
『自治領、万歳!』
『さぁ行け!ペラドンナの首を持って来るのだ!』
何と、怪しい男の背後には30人余りの冒険者が!大量の影が、一斉に夜空に飛び出した!
〜数日後、???〜
『丸一日かけて尾行した甲斐があったぜ……へッ、皆殺しだ!』
『落ち着けよ、プラズマフィスト……』
『しかしアースバレットよぉ、奴等の首に掛けられた賞金!二人で金貨40000枚だぞ!?しかも遺体にも10000枚掛かってる……これで落ち着いていられるか!』
『俺たちが仕留められるのはヒルビリーが精々だろ……それで金貨20000枚貰って、俺は別荘で遊んで暮らす。お前は?』
『フン、遺体も回収して30000枚、俺の物だ!お前は三下一人で満足していろ!』
その時、紫色の火花を散らしながら投げナイフが飛来!しかしプラズマフィストは拳を突き出し、投げナイフを逸らす!彼はグローブに仕込んだ宝玉を触媒に電撃を発生させる事が出来るのだ!
『大した事ァねぇなぁ……わざわざ殺されに来たか!』
「あー…彼なら今ので仕留めたんだけど……流石に冒険者相手じゃまだ無理か……」
『油断するなよ……恐らく』
『死ねェェェェェェ!!』
ヒルビリーが木々を蹴りながら素早く棍棒を構え、アースバレットの真横に突っ込む!アースバレットは杖でガード!しかし腕にもダメージ!打撃が重いのだ!
『くっ……雑魚なりに頭は使うか!』
『クソが!こういう時”だけ”手が早いのは流石役人の手下って感じだな!』
「ちょっと、僕も役人の手下なんだけど!?」
『とにかく迎撃だ!頭割ってグラタンの器にしてやるぜ!』
『調子に乗るなよ、ナード野郎!』
『大地よ……我が呼び掛けに応え敵を穿て!』
アースバレットは地面に杖を突き立て呪文を詠唱!地面が隆起し、石飛礫が弾丸のように飛来する!新型クロスボウに匹敵する弾速だ!プラズマフィストは拳から電撃を発射!
『舐めるなよ!』
ヒルビリーは石飛礫をスイングで破壊!しかし飛び散った破片が更に急襲!危ない!当たれば全身がチーズめいて穴だらけになるだろう!だが!
『危なっ!』
棍棒の金属部分が素早く展開し、即席のシールドに変形!頑強な金属が岩を弾いた!
『これが科学だ!命乞いをするなら今の内だぜ!』
『いちいちふざけた事を吐かすなよ、チンピラが!今に叩き潰してやる!』
『フン、出来るもんならやってみるが良い!まずはそこのペラドンナを殺してから言うんだな、三流がよぉ!』
『うるせぇ!死体とお前の首だけで充分なんだよ、俺たちは!』
「えー!折角だから、ちょっと遊んで行こうよ♡負けてくれれば君達を人質に使えるし、いいでしょ?」
『……もう少しその殺気を抑えてから言うんだな……』
いつの間にかペラドンナの腕の血管は妖しい紫色に発光し、背中には滑空用の小振りな翼が生えている……確実に殺すつもりだ。
「……電流で心臓の鼓動を弄って欲しい?それとも、腸を焼いて欲しいかな?」
『フン、正直じゃあねぇかよ……だがな、お前は勘違いしてる……俺たちはな、そいつの死体さえ持って帰れば、一生暮らせるだけの額が手に入るんだよ!最悪蘇生出来ないように破壊しても六割だ!幾ら手前が強かろうが、守りながらじゃあ限界があるよなぁ!? 』
プラズマフィストは落葉を巻き上げる勢いで電撃発射!彼の電撃魔法には触媒が必要だが、ペラドンナのものとは違って継続的に電撃を射出出来るのだ!
『このまま死体諸共薙ぎ払ってやろう!』
アースバレットも素早く杖を振り石飛礫をばら撒く!狭い森の中ではかなり危険だ。石飛礫は金属ではない為、電流で逸らす事も出来ない!何よりピンチベックの遺体を庇いながらでは碌に反撃のしようも無いのだ!
『その荷物を寄越せ!貴様に交渉の余地は無い!』
更に電流薙ぎ払い!これでは接近する事もままならぬ!彼等は実際に手練れを何人か始末して来た始末屋であり、このような仕事にも慣れていた。
だから、その慣れが慢心に変わっているタイミングでこのミッションに挑んだ事は彼らにとって最大の不幸であった。
『このままじゃあキリがねぇ、逃げるぞ!』
ヒルビリーは懐から煙幕玉を取り出し、地面に叩きつけた!凄まじい粉塵と閃光、爆音が炸裂し、前後すら定かではない!攻撃に集中していた二人は見事に彼らを見失った!
『ど、何処だ!クソが、さっさと追うぞ!』
まさかあの三下があそこまで冷静に立ち回るとは。アースバレットは己を呪いつつも遠くなった彼等の背中を追う!
「あれも新しく作った訳?」
『いや、この人のポケットに入ってんのを見つけただけだ……前に似たような物を使った事がある。今考えてみれば、新兵器の試験だった訳だな、アレは……まぁ試合で違反にならないレベルまで威力は抑えてたみたいだが。』
「あぁ、闘技場のやつか……」
『とにかく、飛んで逃げるぞ!多少目立つがここで野垂れ死ぬよりはマシだ!』
「あの……それなんだけどさ……その……さっき無理して飛んだせいで羽根を痛めちゃって……今は滑空しか出来ない。」
『…………え……』
「ほんとゴメン!」
『じゃあどうする!?煙玉じゃ限界がある!不意打ちも出来ない!』
「……そうだ!耳塞いで!後目瞑って!」
『な、何だよ!?そんな事でどうして』
「いいから早く!」
『は、はい!』
「いい子だね!じゃあ行くよぉ!」
ペラドンナの角が紫色に発光!更に激しくスパークし、精神に作用する怪電波を発生させた!
『な………うぁああぁ!』
『クソッ!俺の頭から出て行け……!』
『ひぃっ!?何だ、何が起きた!?説明しろ!してください!』
「あー……僕たち夢魔ってさ、普通は寝てる人の夢を操作…他の種族の基準だと料理って言うの?して、それを食べるってのが普通らしいんだけどさ、僕は起きてる人の精神も操作出来るんだ……結構大雑把だけど足止めくらいにはなるよ!」
『……あの時アンタ達に恭順してなかったら、もしかして俺も……しかし凄いな、自治領の冒険者ってのは……』
「まぁローデリウス君は普通に耐えてたけどね!」
『あぁ……あぁ!それなりに強くなった気がしていたが、俺はまだまだ未熟だな……天辺がまだ見えねぇよ。』
「よし、斜面になってる……動かないでね!」
『またか……ってうぉぉ!?』
ペラドンナはヒルビリーを担いだまま翼を広げ滑空!しかし敵も諦めずに追いかける!
「プレゼントだよー!」
だがペラドンナは手に持った袋から大量のベアリングボールをばら撒き、敵を足止めする!プラズマフィスト転倒!しかしアースバレットは地面を飛び石のように隆起させ、咄嗟に回避した!魔術に依存しているとはいえ冒険者、その身体能力は常人の2倍に近い!
『ピンチベックとやらの入れ知恵か!小賢しいガキめ!』
『一人で何が出来るんだ、ん?』
『貴族の太鼓持ちめ、調子に乗るなよ……我々は常にハイテク装置を使って貴様の位置情報を仲間達と共有しているのだ!貴様の居場所は最初から発信機で筒抜けよ!つまり』
アースバレットは、そこで話を辞めた。背中が生温かい……触ると、掌に血がべったりと付いていた。
『え……』
『つまり、それを敵に見られたら終わり……ご苦労さん、後は俺たちに任せて、ゆっくり休め……』
『……き…貴様……こんな事をして、タダで…タダで済むと思……』
襲撃者の鋭い一閃!白い光と同時に首が落ちる。
『………楽な仕事だね、全く。雑魚一匹殺すだけで、お前らの場所が判るんだから……』
黒いターバンから覗く目が残忍に輝く。男はサーベルを弄び、ゆっくりと二人に接近する……
『さて、金貨50000枚……儲かって仕方がねぇや!』
「待った、賞金を掛けたのは裏切り者の方で、僕たちを殺しても君は……」
『……報酬はよ、”自治領”の名義から出てるんだ。つまりカラドリウスにお前らの首を渡しても、あのお嬢様はノーとは言えない訳だ……』
「殺すのかい?今まで戦って来た仲間を……」
『仲間?確かにそうだなぁ……だが金の方が信頼出来る!死ねやクソガキャアアアアアア!』
ストゥーピストはシミターを鞘から抜くと同時に風魔法を詠唱!空気の刃が高速で迫る!ペラドンナはギリギリで回避!あと数コンマ遅ければ上半身を切り離され死んでいた!
「うわっ、いきなり本気モード!?」
『ハハハハ!プラズマフィストとか言ったか?そいつはそれですぐ死んだぜ!成長したな。』
「お返しだよ!」
ペラドンナは二つの雷の槍を同時投擲!だがストゥーピストはショットガンで緑色の人工水晶の弾丸を発射!弾丸から風が生じ、槍をかき消した!彼は予め人工水晶に魔力を込め、弾丸を作成していたのだ!
『何も返って来ねぇなぁ!?もっと本気で来いよ!俺を殺すんだろ!そいつを助けるんだろ!?それじゃあ甘いってんだよぉ!』
ストゥーピストの回転斬撃!周囲の木々を薙ぎ倒しながら突っ込む!ヒルビリーは棍棒シールドで何とか耐えるが、極度の緊張で言葉すら発せない。仮に声を上げれば間違いなく自分は瞬殺されるだろう。
(何か、俺に出来る事は……!このままじゃ、俺はまた見殺しにしちまう!)
辺りにはストゥーピストの斬撃によって切り倒された大量の樹木……少しでも妙な動きをすれば間違いなく殺される。囮になろうにも、自分では数秒程度が限界だろう……
(何か無いか!?考えろ!俺は、俺は冒険者だ!あの時とは、親父の時とは違う……!)
(考えろ!また仲間が、憧れた人が死んでしまう!あの男を倒す策を!力を!)
『ガサッ』
『えっ……』
ヒルビリーの目の前に、形容しがたい枝の塊が立っていた。
これは何だ?
『ガサッ』
それは確かに、さっきまではいなかったのだ。
『えーっと……』
何となく、実家の案山子を思い出した。戦前は不得手ながらも実家の稼業を父親と手伝っていたものだ。
まさか、自分が?
『頼む、助けてくれ!』
文字通り藁に縋る思いだった。
『ガサッ』
だが、それは確かに返事をし、ストゥーピストに向けて走り出した!
二人の腕前には、大きな差があった。ストゥーピストは半生を剣と共に過ごした達人であり、ペラドンナは才能と鍛錬こそあれ、実戦経験の不足は明らかだ……だがそれでも、彼はここで折れるくらいならいっそ死んだ方がマシだと思っていた。
『素人が……貴族なら権力の怖さは知ってるだろうに、何で逆らうかねぇ………』
「だからだよ……貴族だからこそ、権力を悪用して彼のような人間を苦しめる奴は許せない……許さない!優しくて、家族想いで、僕みたいな変わり者でも助けてくれた彼が、何でこんな目に遭わなきゃいけないんだよ!」
『ふぅん……いい親を持ったな、ペラドンナ……そろそろ帰りたいだろう……家族の所にな……会わせてやろうか?安心しな、お前の後を追わせてやるよ!』
「断る!」
『そうかよ、じゃあてめぇ一人で死にな!俺と同じように、家族から取り残されてたった一人でな!』
「彼を見て何も思わないのか!」
その時、不恰好な枝の塊がストゥーピストにタックルを決めた!大きく姿勢を崩すストゥーピスト!
『な……まさか新手……』
僅かな隙ではあったが、ペラドンナにはそれでも充分!狙い澄ましたフルーレの刺突がストゥーピストの脇腹を貫く!
『……っ!中々……良いコンビだな……お前ら!』
『だがよ、流石に俺を舐めすぎだぜ………!』
彼の凄まじい再生魔法が、電流のダメージと相殺している!そのまま痙攣する手で刃を掴み、一気に引き抜き投げ捨てる!そして枝の塊を蹴り飛ばし、拳に淡い光を纏わせる!
『………しぶといのはアイツだけじゃあ……ねぇんだよ!ヒルビリー……よくもこんなふざけた真似してくれたな……』
魔力を消耗して尚凄まじい気迫だ!腹から血を流しながら拳を構え、跳んだ!
『てめぇ、ただ死ぬだけじゃあ済まねぇぞ!地獄を味わう事になるぜ!』
「彼はその地獄に耐え、命懸けで家族を救い、大切な人の弔いを果たそうとしている!誰にも邪魔される謂れは無い!」
ストゥーピストの拳とペラドンナの雷を纏った蹴りがぶつかる!そのまま両者は反動で吹き飛び、同時に向かい合い突進!
『その正義感が気に入らねぇってんだよ!』
「そっちこそ、お金以外に興味ない訳?」
ストゥーピストの掬い上げるようなアッパーカットを回避し、木を蹴った反動で回し蹴りを叩き込む!
『それがどうしたぁ!金は信頼出来んだよ!どこぞのお優しい裏切り者と違ってなぁ!』
蹴りをブレーサーで受け、白く軌跡を描きながらカウンターのチョップ突きだ!正面から受け止めたペラドンナに足払い!
「くっ!」
『貰ったぁ!』
止めの踵落とし!しかしペラドンナは地面を転がって回避!回し蹴りと同時に立ち上がる!
「彼をこのまま死なせるなんて出来ない………彼に助けて貰った僕だけが、のうのうと生きるなんて出来ない!」
『口を開けば綺麗事ばかり……お前にはうんざりなんだよ!微温湯に浸かって来ただけの貴族様に、俺の……アイツの気持ちが分かる訳ねぇだろぉ!』
フェイントを交えた正拳突き!ペラドンナは顔面でまともに受けるが、更に拳を伸ばし、ストゥーピストの顎を捉え、一気に突き上げる!数メートルまで打ち上げられるストゥーピスト!だが空中で立ち直り跳び蹴りの姿勢!
「分からない……分からないよ、どんなに苦しいか!僕の言葉が、君をどんなに傷つけたか!ローデリウス君が、何であそこまでして僕を気遣うのか!」
『家族がいる癖して、俺や奴の事分かったような口を聞くんじゃあねぇ!お前は……お前は!奴はそんなに綺麗な人間じゃねぇってのに!クソが……クソガキがぁ!』
跳び蹴りを受け止めたペラドンナを踏み台に跳び上がり、再び跳び蹴り!大きく吹き飛ばし、追撃のパンチを叩き込む!しかし寸前で受け止められ、拳を蹴り返される!
『………クソがぁ!まだやるつもりか!奴は死んだ!お前を裏切ってな!戦う理由は無い筈だ!』
「まだ彼に何もしていない……家族も帰って来ない、仇も討てない……このまま死なせる訳には……いかない!」
『まだそんな腑抜けた事言ってんのか!いい加減現実見やがれ!お前はな、捨てられたんだよ!何でそんな奴の為に命を賭ける!』
「僕には君の所に戻る資格も、彼をこのまま死なせるだけの覚悟も無い……ならやる事は一つだ!このまま突き進む!」
ストゥーピストと組み合い、激しく肩をぶつける!加速魔法で押し返すつもりだ!
『もう仲間じゃねぇんだぞ!』
「君は勘違いしてる……僕はね、彼に憧れて、仲間として認めて貰った立場なんだよ!捨てるのも、殺すのも彼の勝手だ!僕は憧れた人の願いを、一緒に叶えさせて貰う立場なんだよ!」
『バカが!それで国一つ敵に回すだと!?それで何になる!もう奴は詰みだ!救いようがねぇクズだ!自分の顔治す為だけに敵に寝返ったクズなんだぞ!』
「それがどうした!僕はね、初めて心から尊敬出来る人間に会えたんだ……周りが憎くて仕方ない筈なのに、自分を犠牲にしてまで人を助ける………初めてあんな風になりたいと思った!初めて人に憧れた!だから!」
一気に押し込み、ストゥーピストの目にも焦りが見える!予想以上の膂力だ!魔力の過剰使用で耳から出血しながらも更に地面を踏む!
『だからって何だ!ふざけるんじゃあねぇ!お前にも家族がいるだろ!待ってる人がいるだろ!何でそいつらの気持ちが分からねぇ!』
『彼はまだ何か隠してる……このまま朽ち果てるつもりなんだ……だけど、ここで諦めたら、誰も彼の側にいない!もう一人にはさせない!何も報われず死ぬなんて、僕が許さない!許さないぞぉぉぉ!』
『クソが……クソ……がぁ!クソがぁあああああ!』
起き上がった枝の塊が再びストゥーピストに飛び掛かる!それが止めになり、ストゥーピストは木に叩きつけられた!衝撃で激しく吐血!
「………これで、終わりだよ。」
第59幕 完