ピンチベック   作:あほずらもぐら

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第59.5幕

『まさか、この俺様がこんなガキに………腑抜けたもんだぜ。』

 

「多分一対一なら負けてたよ……」

 

『……それで、気は済んだか?さっさと殺せよ……顔も見たくねぇだろ……ちょっと待て、死ぬ前に一服吸わせてくれよ……』

 

ストゥーピストは口元の血を吹きながら懐を探り、一本の葉巻を取り出した。そのまま、マッチで火を点けようとするが……

 

『おい、腕離せよ……折角人が死ぬんだからよ、禁煙してから5年振りのニコチン摂取を邪魔してくれるな……最後に一本くらい、仏心ってやつをだな……』

 

「………違う。それに僕がこのまま死なせると思ってる訳?」

 

『何だよ……おい、返せ!俺のタバコだぞ!』

 

 

 

ペラドンナは慎重に葉巻を解いていく……すると、一枚の紙が現れた!

 

『おい待て、そいつに触るんじゃあねぇ!それを返しやがれ!』

 

ストゥーピストはふらつきながらもペラドンナに掴み掛かる!その目には覚悟を決めた残忍な輝きは既になく、焦燥のみがあった。

 

「………彼から?」

 

『やめろ!それを読むな!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 我が友へ

 

 

 

 

私はもう終いのようだ。今まで二つ目の魂が呼び起こす殺人欲求を抑え込むのに大変な労力を費やして来たが、

 

 

 

隠れて描くのは 限界    で、いつ君達の

 寝首を掻くかも分からない。     頼む、私が次に行動を起こしたら、それは私の死と同義だ。”彼”と協力してはみるが、期待はしないで欲しい。

 

精神潜行も危険だ。     絶対に彼には知らせるな。無理に等しい……もし私が次に行動を起こしたなら、

 

裏切り者として始末して欲しい。

 

 

 

すまな い

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『………返せ。諦めろ……分かっただろ、もう奴は……戦で死ぬにしろ、別人格に上書きされて乱心するにしろ、どの道長くなかったんだよ。』

 

「………嫌だ。」

 

『…そういう我儘な所だけは貴族らしいな……自分一人で何でも出来ると思ってやがる。だが奴が無理なんて言葉を使うのは初めてだ、今回ばかりは本当に無理なんだろうよ。諦めて田舎に帰るんだな……今なら見なかった事にしてやる……さっさと居なくなれ!』

 

「……嫌だ。ここで諦めたら、友達が死んでしまう。」

 

『友達ならまた作れ。奴が生きてこの戦いを終わらせたとして、また姿を消すだろうよ……どの道、真っ当には生きられない程に、人の道を外れた奴だ……』

 

「………カラドリウスさんは、彼を捨て駒にするつもり?今までずっと、苦しんで来たのに、こんな形で殺す訳ね……」

 

『違う、奴はもう手遅れで』

 

「………言ってないよね?この手紙の事……今まで身を削る思いで仕えてきた人間を見捨てる程、あの人は冷酷になれないでしょ。」

 

 

『………言えば、お前達が死ぬだけだからな………だが賞金の話は本当だぜ?実際、無謀な誰かさんがお前達の”非道な反逆行為”とやらを重くみたらしい。堅実に使えばだが、種族によっては人生数回分に当たる額だ……刺客は絶えないだろうな。』

 

「あー……戦争で儲かったからねぇ……」

 

『……俺も、お前さんの首を手土産に王国に媚び売って、この件は忘れようと思ってた……だが……何か、そうじゃない気がするんだ。変な話だろ?人なんて戦争で今まで何人も殺して来たし、もっと臭い事件にも関わった事があるのによ、こればかりは引っ掛かるんだ……』

 

ストゥーピストの目が一瞬だけ遠くを見た。そして砂漠のように乾いた笑みを浮かべた。

 

 

『恥ずかしい話だが……お前が奴に憧れるように、俺は家族に憧れてるんだろうな。金を幾ら持とうが、何人の女が隣にいようが、酒で喉が渇くように満たされねぇ……無慈悲な傭兵が、馬鹿な話だろ?そんなもの望んだって、絶対に手に入らないと思ってた……それこそ神に願ってもな……』

 

「でも、違った。」

 

『あぁ……最初は随分と危なっかしい奴だと思ったよ……魔法が使えない上に、いつ人格が壊れてもおかしくない状態で、よくあそこまでやると思った……』

 

「彼にとって、誰よりも大切な家族だったんだと思う……その人達がいたから、僕にも優しく出来たのかな……」

 

『確かにそうかもな。一見無謀に見えた戦いが、今じゃ自治領が大慌てする程の善戦だ……面白かったぜ。』

 

「これからもっと面白くなるよ!」

 

『おいおいおいおい!マジで行くつもりかよ!死んだな、お前……狂ってるぜ……誰かさんにそっくりだ!』

 

「随分と楽しそうだね、君も……僕を殺すのはやめる?」

 

『まぁ、お前が精神潜行で廃人になるか死んだら、首だけ貰おうか。どうせ失敗して死ぬんだろ?そっちの確率の方が高いからな!生き残った挙句、ピンチベックの野郎が助かる見込みなんて殆どゼロだ!わざわざ労力と時間を消費するだけ無駄よ!死ね!失敗して死ね!ハハハハハハハ!』

 

 

ストゥーピストは砂嵐に紛れ、一瞬で二人の目の前から去る!どうやら倒されてから逃げる隙を伺っていたようだ……

 

 

「………僕は優しい仲間を持って幸せだなぁ!さてと、頑張りますか!」

 

『…た、助かったのか………お、俺が、いや俺たちが倒したって事でいいんだな!?もう襲って来ないな!?』

 

「うん!助けてくれてありがとう!それにしても、あの状況で覚醒するなんてまるでマンガの主人公みたいだね!カッコ良かったよ♡」

 

『あ、あぁ!俺にかかればな、その程度、まさに朝飯前だという事でですね!いずれ肩を並べる日も近いと言う訳ですよ!』

 

(あぁ怖かったぁ……間違いなく死んだと思ったぜ……しかし妙だな、ペラドンナさんは何であの人や俺の居場所が分かったんだ?)

 

 

 

 

 

「よし、じゃあまずはコカトリスの毒なんだけど……実家への帰り道に取って来る筈だったんだよね……移動は……一応あの子達に迎えに来させてもいいんだけど……疲れてるだろうし、毒は自分で取らなきゃダメかな。」

 

『…いい事するってのは疲れるんだな……道理で世の中悪い奴だらけな訳だ。』

 

「そう、だからこそ労力を使って必要悪をやってた彼は報われるべきなんだ……それにさ、ずっと追い続けた背中が無くなるのは辛くて耐えられないよ。」

 

『確かに、見るからに荒事慣れしてたな……ああいう戦力はコームさんが欲しがりそうだ……あの人も現場主義だからな、気にかけるのも頷ける。』

 

「確か、僕の両親も言ってた……”靴が汚れている人を友達にしなさい”って……今考えてみると、行動派の人の事だったんだなって……」

 

『いい親御さんだな……誇れる家族がいるってのは幸せだ……今度旅行にでも連れて行くかねぇ……』

 

「そういう事言ってると……」

 

次の瞬間、恐ろしい気配と同時に殺人光線が放たれる!

 

『うぉわぁッ!?』

 

だがヒルビリーは素早く回避!しかし右半身がやけに重い。見ると、旅装束のマントが石化しているではないか!?そして、光線の主は……おぉ、恐竜めいた屈強な脚に曲刀のように鋭い蹴爪、炎のような赤い鶏冠、そして大蛇の尾を持つ巨大な魔物!

 

 

「よし!あれがコカトリス……行くよ!」

 

『クソ……裏切ったから経費じゃ落ちないよなぁ……』

 

光線を避けられたコカトリスは激怒、高い脚力を活かした蹴りでヒルビリーを八つ裂きにかかる!野生的ながら一切無駄が無い、殺人的キックだ!

 

『危ない!』

 

だがそこにペラドンナが割って入る!毒の滴る蹴爪での一撃を強化チタン鉄板入りブーツで防ぎながらの回し蹴りで押し返した!

 

「まぁ、ニワトリさんにしては強いよね……文字通り、彼の足元にも及ばないけど!」

 

しかしコカトリスは今まで思い上がった何人もの新人冒険者をバラバラに引き裂き、喰い殺して来た強力な魔物だ。この程度で戦意を喪失するような弱者ではない!咄嗟に翼を広げ、追撃のダガー刺突を回避した!

 

『クワァアアア!』

 

更に高高度からヒルビリーに跳び蹴り!更に尻尾の大蛇が噛み付き!ペラドンナ相手では不利と見たか、実際侮れぬ判断力だ!

 

『おわぁぁあ!?』

 

ヒルビリーは地面を転がりながら寸前で回避!しかし大蛇が飛び掛かり脚に噛み付く!牙が深々と突き刺さり、毒が注入される!ヒルビリー悶絶!

 

『ぐわあぁあぁあぁ!!』

 

「しまった!大丈夫……じゃないよね!」

 

そして一瞬の動揺を突き、コカトリスが突撃!ペラドンナもストゥーピストとの激戦で疲弊し、ギリギリで回避するのが精一杯だ!

 

「…………」

 

優性遺伝子の詰まった脳細胞をフル回転させ、打開策を探る。体格は相手が上、仲間は戦闘不能、状況は間違いなく不利。魔力も後を考えると余裕は無い。主観時間が鈍化し、コカトリスの挙動が見える。玉鋼のダガーに一瞬、穴だらけの仮面が映る。ペラドンナはそれを見て、静かに頷いた。

 

 

 

ガチャン!

 

 

 

金属音と、暫くして肉が潰れ、骨がひしゃげる音が鳴った。ヒルビリーの棍棒シールドが虎鋏めいてコカトリスの脚に喰い付いたのだ!毒を喰らった敵を意識から外した事で、致命的な隙が生まれていた!

 

『グゥワァーッ!?』

 

 

『さぁ……やれ!』

 

「うん!」

 

 

ペラドンナは敵の一瞬の硬直を見逃さず、フルーレとダガーの二刀流斬撃!左手で飛び掛かる大蛇を薙ぎ払い、右手で鶏の首を串刺しにした!そのまま一気に斬り上げて頭部を下から両断!

 

頭を失ったコカトリスは暫くじたばたと暴れた後、動かなくなった。ペラドンナは大蛇の頭にフルーレを突き立て、止めを刺した!

 

『…殺ったか……クソが、ここまでかよ!おい、後は』

 

 

彼はそこで石化した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第60幕 完

 

 

 

 

 

 

 


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