ピンチベック   作:あほずらもぐら

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第62幕 : 地獄に縛られて

もう、ずっと彷徨っている。

 

ここは何処だ?

 

私の名前は何だ?

 

誰かに奪われてしまった。

 

此処は”痛い”んだ。”苦しい”んだ。

 

そして”懐かしい”……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その少年は、右顔を押さえながら暗い道を歩く。それが癖になっているようだった。

 

『……僕は、何……?』

 

酷く違和感を感じる。石の壁が歪み、生じた瞳が彼を見つめた。次の瞬間、少年は叫んでいた。理由は分からない……石の壁がバラバラに砕け散り、破片が少年を傷つけた……血が石畳に垂れる。

 

『………………』

 

自分の血が流れる……それは河になって彼を攫う……彼は溺れた。

 

 

だが手を掴む者が居た。

 

長髪の女性は彼を河から助け出すと、腕から暖かい炎を出して彼の体を乾かした。少年は幸せだった……さっきまでの狂った光景は何だったのだろうか?

 

『えっ……』

 

だが、その炎が彼の後ろに伸び、背後の男を襲った。男は暫く苦しんだ後、血を吐いて死んだ。果たしてそれは未来の自分だろうか?

 

お前は誰と戦っている?

 

お前は誰を憎んでいる?

 

お前は誰を愛している?

 

 

彼は男を助けようとした。だが助けなかった。見殺しにしたのか?それは彼にも分からない。

 

隣には少女が居た。

 

少女は玉座にいた。

 

側には、長髪の女性がいた。

 

民衆は彼らを讃え、敬う。

 

皆が穏やかに暮らしていた。

 

自分は今まで生きて来て、これ以上無いくらいに幸せ』

        緑の      さ   やっ    S s

「誰」   B   ディア、早く逃」p

   『これは』   、       なんで

 

「     スター、許し              我が

 

               

 

 

私の    本当の  

さん、嫌だ    

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    起きろ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『うわぁ!」

 

ペラドンナは跳ね起きた……朝だ、早く発たねば。酷く乱雑な夢だった。背中が痛い……実家のベッドが恋しい。

 

『な……!』

 

だが悪夢が彼の命を救った。自治領から放たれた刺客が、彼の枕元まで迫っていたのだ!飛び起きたターゲットの不意打ちに警戒し飛び退く!

 

『く、食らえーッ!』

 

侵入者は弓を引き絞り凄まじいスピードで洞窟を塞ぐ蔦の壁越しに一方的な射撃を繰り出す!魔力を纏った桁違いの貫通力を持つ矢が迫る!

 

「人が気持ち悪く寝てる所を……!」

 

ペラドンナは生成した雷の槍を持ち、迫り来る矢を逸らし、叩き落とすし、投擲!敵が轟音に怯み、一瞬だけ矢の嵐が止む!

 

「邪魔するな!」

 

そしてシールドスペルを右腕に生成し、蔦の壁をバターのように切り裂く!更に帯電させて投擲!

 

『いぃ!?』

 

しかし絶え間なく射出された矢が、まるで盾のようにシールドの射線上に突き刺さり、攻撃を相殺!

 

「……懲りないね、全く……前の人が帰って来ない時点で察しなよ……大体、もう少しなんだから無粋な真似しないでよね!」

 

『不意打ちをしくじった……やっぱりアイツみたいな真似は無理みたいね……』

 

「アイツ?まだ誰か来るって事……厄介な………」

 

『アイツを殺した癖に……私だって義理は通すわよ!恩着せられたまま死なれるなんて……』

 

『クソが……あれ程の男を殺した奴だ、油断するなよ!』

 

更に増援!このままでは間違いなく不利!一巻の終わりか!?

 

『仇討ちの前に名乗ってやる!あたしはアイアンブレイカーだ!』

 

『同じく、ダックハント!』

 

『『覚悟!』』

 

ダックハントが再び弓を引き絞り、アイアンブレイカーの突撃と同時に矢を放つ!

 

「くっ……!」

 

ペラドンナは上半身を逸らし、矢をギリギリで回避!フルーレでメイスを受け流す!しかし背後から矢が追尾!見事に隙をカバーする、油断ならぬ連携攻撃だ!ペラドンナの背中の肉を僅かに抉る!

 

『まだまだぁ!』

 

体勢を立て直したアイアンブレイカーの追撃!何とかシールドスペルで弾き返すが、更に追尾矢が襲う!どちらかを先に潰さねば!

 

「ハァーッ!」

 

飛来する矢をフルーレで両断し、更に電流で筋肉を増強して蹴り!二人の動きが同時に止まった!アイアンブレイカーの脇腹に蹴りを叩き込む!

 

『ぐわぁあッ!』

 

無論、ここまで急速に強力な電流を流せば無傷では済まない!しかし、此処で死ねば全て終わり、負ける訳にはいかない!更に鋭利な角で頭突き!

 

『この……野郎ぁ!』

 

その時、アイアンブレイカーの全身が輝き、一瞬だけ硬化!鉄魔法だ!

一瞬とはいえ肉体を金属に変える為、隙は生じるが、肉体そのものが盾になるのは非常に厄介だ。

 

『貰った!』

 

次に動いたのはダックハント!一度に三本の追尾矢を射出!真上に飛べば回避は容易だが、翼を酷使することはできない上、電流で身体も動かないのだ!ここで終わりなのか!?英雄は誰にも讃えられる事無く、散ってしまうのか!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 否!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『………第16項、善に生きる者は、常に祝福されなければいけない。欺瞞がそれを認めぬならば、我々が光を当てなければいけない。』

 

 

背中に突き刺さる矢を引き抜きながら、白装束の冒険者が呟いた。

 

『………正義は十字架よりも重く、そして今、私が彼に代わって正義を背負い、行う……』

 

『え……』

 

 

『………気骨ある武人を囲んで痛めつけるのが仇討ちとは、何と馬鹿馬鹿しい話だ……!』

 

白装束の男は一瞬でサーベルを抜き、木を切り倒して道を塞ぐ!

 

『な、何を……』

 

『……無論、貴様ら邪教の尖兵を我が怒りの炎で以て滅し、英雄の復活、その礎とするのだ!』

 

『クソが!お前らも絡繰好きのカルティストか……叩き潰してアイツの線香代わりにしてやる!』

 

『笑止……かような邪教と同一視するとは愚かなり!搾取機構に意のままに操られる絡繰が何を言っている?』

 

アイアンブレイカーの荒々しい連打を、まるでコブラが獲物を絡め取るような剣戟で受け流し、蠍が鋏で敵を捕らえるように二刀でメイスを挟み込む!

 

『このヒュペリオンに弓引いた事、地獄で悔いるが良い!』

 

『こいつ……やべぇ!』

 

自分達を利用したかつての仲間とは比べ物にならない程熟達した剣技、明らかに対人に慣れた立ち回り……恐るべき使い手である!そして蠍が鋏で敵を捕らえた後、何をするか……

 

 

 

無論、針を敵の急所に叩き込む!槍のように内臓を抉る恐ろしい蹴りが、聖属性を帯びてアイアンブレイカーの脇腹に突き刺さる!決して無視出来ぬダメージ!即座に詠唱した鉄魔法の上から属性ダメージが入ったのだ!物理と魔術が複合した一撃を殺し切れぬ!

 

『ぬぅーッ!?』

 

『まずい!』

 

ダックハントの支援射撃だ!鉄板すらブチ抜く最大威力で矢を放つ!ヒュペリオンに矢が命中!予想以上のスピードに回避が出来なかったか!?

 

『…中々出来るな……地獄よりヴァルハラに行った方が良いかも知れんが、どの道終わりだ……どちらに行きたいかはサタンと相談して決めよ。』

 

 

だがヒュペリオンは倒れない!心臓の真横に風穴を開けながらも、アイアンブレイカーの首にシミターを突きつける!

 

『嘘でしょ……』

 

ヒュペリオンは敢えて無駄な回避やガードをせずに捨て身で攻撃に走った……何故か?矢が突き刺されば動きが阻害され、毒矢であれば死ぬだろう。だがそれは突き刺さればの話、貫通すれば体内に入り込む毒の量も少なく、何より矢を引き抜く手間が省ける……一瞬の内に下された的確な判断が、彼の生死を分けたのだ!更に白装束を脱ぎ捨て、ドス黒い本性を表す!

 

 

 

『武器を捨てた後、全裸で命乞いをしろ!』

 

『…駄目だ、私ごとやるか逃げろ!コイツは間違いなく皆殺しにするぞ!』

 

『良く分かったな……よし、生き埋めにするのは止めた……手足飛ばして売るわ。』

 

『最低だな、お前!』

 

『フン、俺はな……最低になる為に傭兵してんだよ!あの世まで悪名が広まる程の屑になってやるのさ!あ、お前は胸と背中の区別がつかない割に顔が大人っぽいから殺す!』

 

『……じゃあお金は!アンタ傭兵なんでしょ!?』

 

『クライアントとの契約違反だ……それにお前らも同業だろ?競合他社はしっかり潰さねぇとなぁ!?』

 

 

ストゥーピストがサーベルを振り上げる!間違いなく本気だ!彼は最高級サーベルによる綺麗な首の断面図を想像して笑った……

 

 

 

 

その後、すぐに不機嫌になったが。

 

 

 

 

 

  ガキィン!

 

 

 

 

 

『何の真似だ……?偶然お前を狙ってる奴が居たからブッ殺してやろうってんだよ……何で邪魔すんだ、あぁ!?』

 

ストゥーピストがドスの効いた声で呻く。常人なら……いや、並の冒険者でも失禁しかねない覇気だ。

 

『わざわざ首差し出しに来た訳じゃねぇだろがぁ!ガキが出る幕じゃねぇんだよ!』

 

アイアンブレイカーの首を踏み付けながら肩を突き飛ばす。だがペラドンナは一歩も動かない。

 

 

「………何で殺すのさ……」

 

『はぁ?テメェ今更何言ってんだ………俺はな、10年以上コレで飯食ってんのよ……戦場で死体漁って、借金重ねた女を奇跡で整形して、少年兵もブッ殺して……お前ら政治屋の為になぁ!』

 

ストゥーピストの右ストレートがペラドンナの顔面に直撃した。

 

『甘えた事抜かしてんじゃあねぇぞタコが……おい、今すぐ目の前から消えろ……テメェのその目に悪い派手なファッション、不愉快だ……』

 

「………分かってるよ。でも君のお陰で助かった人、いるよね?」

 

『それが何だよ、誰かが得するから仕事なんだろ……当たり前の事だろうが!?』

 

「でしょ?分かってくれて嬉しい!」

 

『………何が言いたい?』

 

ペラドンナは無言で自分を指差す……その目は純粋な光で溢れ、ストゥーピストを映し出した。

 

『……何とか言えよ。』

 

「だから……その人達にも優しくしてあげて!僕の事見逃してくれただろ!」

 

『あのな、俺はお前が勝手にくたばるだろうから、それならもっと有意義なビジネスをしようと思っただけであって、お前と違って損得勘定で動くコイツら傭兵は俺の仕事を奪う可能性が高い上に、危ない橋を渡るような事をあんまりしないだろうと踏んで、俺が直々に首を取りに来ただけで…… 』

 

「何でこんな素直じゃないのが多いのかな……どうせ彼に何か吹き込まれたとかでしょ?例えば、僕をこれ以上危ない目に遭わせたくないとかさ……」

 

 

『………何?これ以上舐めた口聞いてると本当に』

 

 

 

『………一つ、聞いていい?』

 

「何かな、エルフのお姉さん?体脂肪率?スリーサイズ?それとも年収?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『何で、兄貴の石像で剣を受け止めてるの………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第62幕 完

 

 

 

 

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