ピンチベック   作:あほずらもぐら

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第63.5幕

『くそぅ……なんで俺がこんな目に!』

 

その肥満体の男は、包帯と石膏で固められた自分の身体を見てヒステリックに唸った。

 

『アルベルト、居るか?』

 

『おい、バスカール……あのカルト教団、どうなっていやがる!こっちの冒険者を何人も殺しているぞ!』

 

『……落ち着け、病院のベッドの上で怒っても仕方ないだろう。』

 

『大体、あの娘だってウチの稼ぎ頭の依頼で社会的に抹殺して追い出す手筈だったろう!何であのエルフに引き渡したままなんだ!』

 

『既にユニットからは抜けたという事で納得している……寧ろ波風立たずに終わって良かったじゃないか。変に濡れ衣を着せて追放するよりずっとマシだ。』

 

『だが俺との接待は取り消しだ!約束しただろうが……大体、ダリアの依頼では娘に汚名を着せろという話だった!』

 

『どこかで埋め合わせはする……とにかくお前の政界デビューも近い、余裕を持って動く事を第一に考えろ。』

 

『くっ……分かっているさ…俺は自治領で初めての人類種議員になる男……』

 

『そう、報われるのも、後少しという訳だ……私の私兵に頼んで護衛を付ける、今は治療に専念しろ。』

 

『…………指揮はどうする。今まで荒事は全てこっちで引き受けて来た……出来るのか?』

 

『問題ない、順調だ……ビジネスと同じだよ。』

 

『待て……!』

 

『待たん、これから仕事だ。』

 

 

 

 

バスカールは病室のドアを閉めると、荘厳な馬車に乗り込んだ。

 

『………あれだから奴は苦手だ。』

 

突然提案された先のパーティーの代替開催案。思惑を探りながらも、自分の顔に注射器を打ち込む。

 

『全く、痛くて敵わん……』

 

引き攣った笑顔で、帝王は呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜一方その頃〜

 

 

 

 

『………コーッ……シュウゥゥゥッ!!』

 

回し蹴りが木人を粉微塵に吹き飛ばし、火炎が破片を残らず焼き尽くす……ギフトブレイズは過酷な鍛錬に明け暮れていた。彼女は無機物を一切インプラントしていない教団でも珍しい幹部だ。両腕に移植した毒腺もドラゴンの物であり、強化筋肉に匹敵するレベルの肉体がこの冒険者が日常的に凄まじいトレーニングを積んでいる事を証明している。

 

『……コシュッ!コシュッ!コシュウッ!』

 

鉤爪によって齎された痛ましい傷跡が道着から覗く。魔法で治療する事も可能だが、彼女はそれをしない。この雪辱を晴らすまでは傷跡を消す時間すら鍛錬の為惜しむのだ。

 

バシュ!バシュシュシュシュシュ!

 

『コーシュシュシュシュシュシュシュシュ!』

 

ランダムに壁から射出される投げナイフを全て腕で掴み取り、叩き落とし、炎で溶かす!

 

ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!

 

『コシューッ!コシューッ!コシューッ!』

 

部屋中に仕掛けられたセントリーガンの弾丸を全て回避し、腕からファイアボールを発射して破壊!

 

『戦闘モードアクティブ、対象の殲滅開始!』

 

突如現れた新型戦闘兵器がガトリング砲をフル回転、ギフトブレイズに銃口を向ける!カメラアイが標的を捉えた!四脚で支えられた重砲から爆炎が走る!焼夷弾か!?

 

否!これはギフトブレイズの拳から上がる緑色の炎!重砲から弾丸が発射される前にパンチを叩き込み、戦闘兵器の砲身を破壊したのだ!

 

『砲身損壊、戦闘を継続。』

 

無機質な電子音声が響き、一気にブースターで後退しながら大型追尾ミサイル弾を発射!ここまでは以前立ち会ったテストと同じだ……以前のテスター……つまり一般構成員はこの追尾ミサイルを食らって戦闘不能になった。この攻撃にギフトブレイズは正面から立ち向かう!

 

 

『うおぉぉぉぉぉぉぉぉッ!』

 

 

恐ろしい爆発!並の冒険者なら爆風だけで気絶するであろう威力!強化防弾ステンドグラスが揺れ、金属製の床が融解する!更に酸化!緑色の火炎が爆風を吹き飛ばす!ギフトブレイズは……無事だ!装束が焦げてはいるがダメージ軽微!チョップで追尾ミサイルを完全に切断、信管が反応する前に爆発の中心地から抜け出したのだ!

 

 

『翡翠剣!』

 

 

緑色の炎が振り上げた右腕を包み……ギフトブレイズはそれを一気に振り抜く!悲鳴のような電子音を上げながら戦闘兵器が真っ二つに引き裂かれた!ギフトブレイズは大爆発を背に残心、傍観者に向き直る。

 

『この程度ですか、メテオリット。』

 

『大多数用の兵器だ、低コスト品にしてはそれなりに善戦した。使い捨てて隙を作る目的なら充分過ぎるだろう……三台ほど集めればそれなりの冒険者なら勝機はある。』

 

『彼らの内一人を倒すには30台必要です。それに絶縁装甲無しであの魔族を倒せるとでも?』

 

『市民に擬装したクローン兵でも縛り付けておけば攻撃を躊躇する、人目につかない場所まで追い込めば良い。』

 

『……クローンとて命です。それでは貴方が後悔していたあの聖職者と同じように、全くの犬死にで』

 

『犠牲無き平和など有り得んのだ……寛大にも彼は彼女の犠牲を無駄にしない為、前を向く決断をした!それをあの悪魔めぇ……奴の親友ならば何故教団に忠誠を誓わない!奴の望んだ秩序、平穏、家族……全て手元に揃うのだぞ……』

 

『では、縛られる役は私がやります。』

 

『………!』

 

『上手く行けば、ペラドンナも我々の配下に置けるやも知れません。どうかこのギフトブレイズに……』

 

『愚弟の恥を、雪がせて頂けませんか……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜一方、その頃〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『………兄さん…………見つけた………悪魔だよ………あの子を………怪物に変えた………悪魔だ………』

 

『……あー、あー、やっと声が出る………酸素薄いからさ、もうちょい低い所飛んでくれよな。』

 

『…………黙れ、凡才が…………』

 

『これから一緒にくたばる仲なんだからよ、もう少し仲良くしようぜ?』

 

『……死ぬのは………お前だけだ………』

 

『…そう堅い事言うなって……新年の抱負を聞かせてくれよ、来年も世界征服頑張りますとかでいいから。』

 

『征服ではない、平和を齎すのだ!』

 

『冷たいなぁ……じゃあ好きな女の子のタイプは?』

 

『黙れ……』

 

『そう、いつもは黙ってる静かな感じの子いいよなぁ……それでSっ気ある娘なんてもうねぇ!耳元でちょっと小馬鹿にするような感じの事言われたらね、背筋に電流が走っちまうよな!でもさ、いつもは静かなあの子が実は恥ずかしがって本心隠してただけで本当は両想いだったって言うベタな感じも悪くないな……』

 

『……口の減らない奴だな………今に殺してやるよ……!』

 

『あぁ、口数が多い活発な娘もいいな!やっぱ初対面となると俺の魅力に圧倒されて緊張しちまう娘が多いのよ!そこで一言二言、気の利いた事を言ってくれる娘っていうのは第一印象からして良いし、実際ノリもいいから一緒にいて楽しいんだよな!』

 

『………愚か者が…………』

 

『そうなんだよ!ちょっと間抜けな感じの子もね!なんか優越感じゃないけど、こう……自分が一枚上手な感じで進むのが堪らない!だけどそういう娘に限っていざとなると押し負けちまう!侮って無意識に分からされる感じ、たまにやりたくなるんだ!いや、お前さん中々話せる男だな!じゃあ好みの種族とか……』

 

『…………黙れと言っているんだ、蛮人がぁ!』

 

『蛮人……オーガか!いやぁ、お前さんを侮ってたぜ………中々渋い所突くじゃねぇか……変に飾ったりしないあの感じだよな!堅そうに見えて表情も結構変わるんだよ!声も低くて意外とセクシーでさ、何より体格よ体格!平均3mだぜ?常に未知との遭遇って感じ!』

 

『………………何故………』

 

『あぁ悪い悪い、俺の好みも言わなきゃ不公平だよな!そうだな……』

 

『……何故だ……』

 

『え?』

 

『…何故、お前は恐れない……これから死ぬかも知れないというのに、何故だ………?』

 

『……何故って、そりゃあ……死にに来てるからに決まってるだろ。』

 

『な……何だと?』

 

『死ぬ覚悟も無い奴が戦場で生き残るなんて有り得んのよ……つまり、死ぬ気で戦ったら助かる可能性が上がるからだ!ハハハハハハ!』

 

『所詮は狂人か……』

 

『狂った程度で生き残るなら安い安い!精々お前も足掻くんだな!ヒャーッハッハッハッハッハ!』

 

 

夜空に狂笑が響き渡り、紫色の稲妻が遥か遠くでそれに応えた。復讐が復讐を呼ぶ血の嵐の中、彼らは確かに”道”を見ていた。

 

 

 

 

 

 

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