「間に合ってくれ……頼む!」
男はズタズタの身体を引き摺りながら街を駆け抜ける。背中に背負っているのは自身の片腕だ……当然、周囲から悲鳴が上がる。だがそんな事はどうでも良い……仲間の命が危ない。間に合うかではなく、無理を押してでも間に合わせるのだ!
「見えた……コシューッ!」
男は凄まじい脚力で跳び上がり、鉤縄を投げて宮殿の窓枠に引っ掛ける。手に持った縄をガントレットに結び付けると、音より早く上階まで駆け上がり現場に到着した!
「大事ないか!誰か生きているなら返事を…………ゑ?」
そこには、黒焦げの鉄屑と化したユージェニックのパワードアーマーに寄り掛かり、大量の瓶に囲まれたターバンの男がいたからだ。
『お疲れちゃん!しっかしお前さんはガキ相手にも容赦ねぇな……コイツの鎧、前の五割増しくらいには頑丈だぜ?で、この靴の跡よ!お前さん、役人なんて退職してスポーツでもやった方が絶対稼げると思うがな……』
「昔からそういう競技ではラフプレーしか出来ん。大体、合理主義者はスポーツに向かんだろう。目的を達成する為に楽な手段を選んではエンターテイメント性に欠ける……で、ペラドンナは何処だ?」
『お帰りー!皆無事みたいだし………』
「……これは、傷の内に入るのか?止血は済ませてあるが。」
『…入るよ。無理、しないで……君が傷つくのは辛いから。』
「そうか、勉強になった……もういい、神経は繋がった。」
『おいおい、まだ傷跡が残ってるぞ。』
「………忘れない為だ……それに、どの道治療は出来ない。」
『自我を保ってる癖に、呪いはあるのかよ………”そいつ”が余程別格なのか、お前さんがヤバいだけなのか……全く、神サマは何やってんだか……』
「神は死んだ……少なくとも、私の神はあの日に死んだ。あの子たちは信じていたが、居場所を、ある者は命まで奪われた……それが神の思し召しなら、私は何柱でも打ち倒す。」
『ひえーっ………マジで殺りかねないな、お前さん。ヘラクレスでも震え上がるぜ、きっと。』
「昔話の勇者か。素手でコブラの頭を握り潰し、殺した……0歳の時に。良く妹に読み聞かせた、懐かしいな……彼女はヘラクレスが林檎の番人に挑む所でいつも眠ってしまうのだ。」
『……悪い、そんなつもりじゃなかった…………』
「良い………しかし、あの頃が人生の絶頂だったな。小遣いで買った昔話の本に付いていた蓄音機の円盤をまだ持っている……妹にやった物だった。いつか返してやる………絶対に。」
『……流石にもう使わねぇだろ。あの娘、見た感じ15、6くらいだったぜ……宝石でも買ってやれ。』
「……そうだな…………6年か。」
『お前さんに比べたら幾分かマシだろ?だが長い事には変わりねぇな………今や一大宗教の巫女様か……だけど、お前の妹で良かったんだろうな……あの娘はよ。欲の無い女だぜ……』
「……………あぁ。」
『…で、助け出した後どうする………式場は決めたのか?』
「ペラドンナか?相手は………確かに出来た男だな………歳も近い。あの娘は彼に惚れたのか、見る目がある。」
『えー?僕は………いや、違うって!大体、夢魔の結婚率なんて二割切ってるんだよ?食事はいつも一人きりだし……』
「夢食いは望んだ夢を見せている隙に魔力を食らう事だったか。誰の命も奪わない、生産性の極みだな。」
『奪う人もいるよ、食欲に抑えが効かなくなってね。だから僕達は中々自分達の居場所から出ない………でも、自分達より弱い人間を家畜みたいに生きたまま食べる人もいる。トラウマを植え付けて尊厳を踏み躙る、一番惨いやり方でね…………僕はそれを、無意識に君にやろうとしていた。それなのに、君は最後まで見捨てなかった。』
「………そして、今はその力を人の為に使っている……私がこの世で一番美しいと思える生き方だ………こんな自分でも、誰かに希望を与えられたなら光栄だ。」
『実を言うと、まだ怖い。君の夢は苦くて甘い……苦いからこそ、僕との記憶を甘く感じてくれるからこそ…………怖いんだ。少しだけならって…………あの時、思ってしまったかも知れない。』
「……衣食足りて礼節を知る、と言うだろう。私が君の本能を否定したとして、それが侮辱以外の意味を持つ事はない。」
『…………ありがとう。でもね…………そういう事、迂闊に言ってると、また空腹になってしまうかも知れないな……♡』
ペラドンナが残酷な笑みを浮かべ、ピンチベックの肩を強く掴んだ。………貴方は昨晩食べたステーキの材料が雄か雌かなど、気にした事があるだろうか?
「……悪かった…………!私はただ、君を傷つけるまいと……」
『…………冗談さ。食べるにしても、君がちょっと疲れるくらいでやめるつもりさ…………あくまで、”つもり”だけど………クククククッ……』
「フン……では君が私の寝首を掻くのは当分先だな。私は既に………”憑かれて”いるからな。」
『ハハハハハッ!なんて面白いんだ、君は!戦だけじゃなく喜劇まで上手いのか!』
ペラドンナは貴族らしからぬ大笑いを見せ、ピンチベックの肩を抱いた……その目から、小さな雫が溢れる。
『……ありがとう……ヤバい、マジでお腹減って来た………』
ペラドンナがピンチベックの方を向き、再び肩に手を
『お兄様、そして御友人方……夕食が出来ましてよ!冷めない内にカッ食らって下さいまし!』
長髪に黒と紫のゴシック衣装を纏った少女が強引に三人を食堂に引っ張って行く。
ブチッ!
「おっと……まだ骨が繋がっていなかったな。すまないがペラドンナ、電撃で傷口を焼」
『おわぁああ!?やっべぇですの!お母様にバレたら間違いなくブチ殺されてしまいますわ!きっとお小遣いも減らされて、いつもの駄菓子屋に毎日行けなくなる事確定ですのーっ!』
「レディ、大変見苦しい所失礼致しました……誠に申し訳ない……」
ピンチベックはすぐさま腕を付け直し、少女に無礼を詫びた。
『あ、謝るのは私の方ですわ……どうか頭を上げて下さいまし!そうでないと私は』
『お黙りなさい!』
凄まじい覇気を放つ、貴族然とした切れ目の女性が一括すると、周囲の空気が凍り付いた。比喩ではない……実際に彼女の足元が凍り付いている。
『は、はいっ……終わった………』
『あ、はい……!これも久しぶりだな。』
『……へい!』
「……仰せのままに。」
『お帰りなさい…そしてようこそ、ピンチベックと愉快な仲間達。』
「………はい…………はい………愉快?」
『先の笑い声……全て拝聴しました。随分と楽しそうで何より……』
「申し訳ありません。」
『何を謝っているのです?早く夕飯を食べて下さい………今夜は自信作ですよ。しかし……』
「……不快に思われましたか、無理もありませんな。」
黄金の目が僅かに細くなる。
『ここでは仮面を脱いで下さい。食べづらいでしょう?』
「しかし、それでは貴方が……!」
『これは私の我儘です……貴方の瞳はとても美しいと聞きました、是非近くで見せて欲しい。』
「……後悔は無しですよ。」
彼は歪み、変色した仮面を外した。そしてすぐさま食器に映る自分の顔に嫌気が差した……美形の多い魔族に囲まれていては目立ち過ぎる。
『………ッ!』
「……予想よりも醜いでしょう?」
『いえ……すみません、人類種にしては非常に珍しい色味でしたので。本当に金細工でも貼り付けたようですね………失礼ですが、生まれは?』
「王国と自治領の国境近く、小さな町です………昔は王国でしたが、今は自治領の所有物に……そこの船大工の息子でした。」
『……今は違うと?』
「生みの親と死別した後に、修道院で神学を少しだけ学び……その後、自治領の審問官……戦後、役割の大半を失った後は議会幹部直属の兵士です。」
『……………お嬢様は元気ですか?昔ね、議員を引退したあの人のお爺様と仲が良かったの。政治を教わって……葬儀にも参列したわ。突然の病死だった……あの時、棺の前で泣いていたあの子が忘れられなくて……子供が泣く姿を見たくないから、若者に寄り添った政治をしていたつもりだった。』
「…………立派なお考えです、カラドリウス様もさぞお喜びになられるでしょう。」
『……ありがとう……政治は順調だった。でも調子に乗っていたんだわ………息子の気持ちに気づいてあげられなかった。あの子が出て行って……それで戻って来た時には変わっていた。芸能界の進出も自分の意思で初めて断った。毎日のように厳しい修行をして……何かを成し遂げようとしていた。』
『初めてだった……親の提案を断ったのは。貴方と同じくらい強くなって探しに行くって、それからはどんどん強くなっていった。旦那は止めたわ、外は危険すぎるって………その日にあの人は電撃で黒焦げにされて……息子は一年の間、武者修行に出て行った。それで、貴方を連れて来たのよ。』
「…危険な真似を………」
『違う。息子を命懸けで助けてくれた上に、私達の間違いからも解放してくれた…………ありがとう。』
「………私は……人を傷つける事しか出来ないと思っていた。感謝される事など無いと………私は、誰かを幸せに出来たのですね……!」
『うん!これからもっと幸せになるし、してあげるよっ!』
『オラッ!泥臭い男の友情を祝うフルコースですのよ!』
ゴシック姿の少女が大量の料理を次々と運ぶ。
「えっと……貴女様の名前は?母君は新聞で見た事があるが……」
『やっぱ気になりますの?名乗ってあげましょう……私の高貴なる名前はシンビジウム……なんと美しい響き!いやはや、この英才教育を受けた詩人であり極めて優秀な冒険者たる私に相応しい、優雅極まる名前だと思いませんこと?』
『ちなみに、上品な振りしてるけど庶民派だから。』
『そういう事言ってるお兄様はどうです?そこの剣呑な方、間違いなく貴族ではありませんわ……求婚して来る阿呆どもとは人種から違う、かなりの武闘派と見えますが。そんな方を家に招くとは……お兄様も私と同じでは?』
「………歓迎されていないのか?」
ピンチベックは小声でペラドンナに話す。その所作は無機質であり、教本通りではあるが優雅でも無かった。
『まぁ見てなって………』
「むっ………」
ペラドンナはレアステーキを電磁浮遊させ、彼の口に放り込んだ。黙って食事を続けろ、と言う事らしい……無論マナー違反ではあるが、この二人のやり取りを目で追える者などこの世界には殆どいない為、全く問題はない。
「……思ったより柔らかいな。牛の肉は戦場で食べた事はあるが、品質と調理方法の違いか……」
『その肉はそこら辺で叩き売りしてた奴ですわ!口に合ったようで安心しましたわ!正直言って霜降り肉は油が多過ぎて肉食ってる感じがしませんの!』
「………料理の腕が良いのですな、羨ましい。」
『………無論、全てに於いて平均以上を維持している私は戦闘の腕も一流ですわ!後で闘技場にいらしたら、特別に見せてあげても良くってよ!』
「成程、そういう事か。」
『流石に貴族自らドラゴンとか山賊倒しに行くのは……ねぇ?ましてや冒険者なんて……』
「君に言われると説得力が」
ペラドンナは電磁浮遊させた鮭のマリネを彼の口に放り込んだ。
『美味しい?感想聞かせてよ……』
「……胡椒と燻製、僅かなレモンの香りが互いに主張し過ぎず、塩も丁度良い。味付けの濃いステーキの後では若干薄く感じるのではと心配したが、飽きの来ない爽やかさがあるな……しかも油で飽和状態の口内が浄化される。さて、話の続きだが君は」
ペラドンナは電磁浮遊させたチーズを彼の口に放り込んだ。
『これは?』
「………塩味が控えめだ。保存よりも味を優先したチーズはあまり食べた事が無いが、それでもこれは上等な部類だと容易に推測出来る。牛の餌に拘っているのか?臭みがかなり少ないな。黴の量も初心者が充分許容出来るレベルで、出荷前の保存環境の良さが伺える。すまないが本題に入ろう、君の」
ペラドンナは電磁浮遊させた千切りキャベツの漬物を彼の口に放り込んだ。
「……懐かしいな……母が生前、似たようなものを食べていた。だが更に色が濃く、酸味が強い。酢が大分違うようだな……こういった料理は各家庭の特徴が出るものだ……食感も良く残っている。この漬物は副菜、つまり脇役で終わらないポテンシャルがある。何度も悪いな、だが私は」
ペラドンナは電磁浮遊させたグラスを彼の目の前にスライド移動させ、少量の酒を注いだ。彼はそれを静かに飲んだ。
「…………酒はあまり得意ではないが、度数の割にすっきりした後味だ。最初に匂ったのは……蜂蜜か、これは?何かのフルーツの花から取った蜂蜜のようだな。戦時中に野営した時も採取した蜂蜜を食べた……あれは栗の蜜だったか。花だけでここまで違うとは驚いたな……実を言うと、それから蜂蜜が苦手になったのだ。あの蜂蜜は濡れた獣の匂いがした………だがこれは寧ろ美味いと感じた………話が逸れてしまったが」
『……嬉しいですわ!もっと食べて下さいな………そして力を蓄え、私を楽しませて下さいな………』
シンビジウムは油断のない不気味な笑顔を浮かべ、ピンチベックを見据えた。従軍経験はおろか、本物の戦場で何人もの兵士を殺した男だ。先の鋭い観察眼を見るに、最低でもギルド基準でAランクに匹敵する手練れ………少なくとも自身と同格かそれ以上。
「………期待に応えられるかは分かりませんが、善処します。」
ピンチベックの目付きが誠実な好青年から一転、恐るべき殺気を放つ暗殺者のものに豹変し、また一瞬で元の好青年へ戻る。シンビジウムは恐怖と同時に祝日の朝にプレゼントを開けるような高揚を覚えた。
(やっべぇですわ……この渋い殿方が見せた今の目…………貴族のボンボン共とは明らかに潜った修羅場の数が違う……おブチ殺しになる気で掛かって来てくれる事確定じゃなくて……!)
そして、この場にいる冒険者全員がそう思っている事は明らかだった。
(……久しぶりにやるわ。あなた、ごめんなさい………私この人と一戦交えないともう鎮まらないもの……!)
(遂に拝めるって訳かよ………あの人が惚れ込む程の業って奴を。魔法無しでここまで生き延びて来た程の力を!)
(………大分傷も癒えて来たんでな……戦争が終わった後に、コイツ程の人殺しとガチでやり合えるとは、オーディンも粋な真似をしやがる……)
(……ほう……今まで我が息子が最強だと信じて疑わなかったが、これは……同じ軍人として、一度業前をこの目で見なくては騎士の名折れよな……)
(…へぇ……人って、簡単には変わらないねぇ。僕が君にどれだけ近づけたか、試させてもらうよ……♡)
(ケッ、兄貴が買ってるだけはあるってか?コイツを倒して、年季なんか関係ねぇって所を見せてやるぜ……俺達魔族が最強だって所をな!)
(へ、へへへへへ……これが兄上のヒーロー氏………例の変身シーンを目撃する為にも頑張らねばですな………)
(…………これが
「ところで……」
(………来るか!?)
(……ここで全員相手にするつもりか!?)
(ケケケ……誰を選ぶんだぁ?)
(俺はやめてくれ、頼む!)
(……他の者では到底倒せぬ………運命よ、我に味方しろ!)
(いつでもお気軽に……さぁ、私をご指名になってくださいまし!)
(一番取れ高のあるライバル対決は最後に取って置くものだよね、相棒!)
「………教団はどうしt」
『私……私、その言葉を待ってましたの!さぁ………私の渾身の剣、受けて下さいまし!』
勘違いしたシンビジウムがリボンの付いたフランベルジュを構え突撃!その剣が闇のオーラに包まれる!
ピンチベックはシンビジウムの闇を纏し刀剣を真っ向から受け止めた!遂にその目が明確な殺意に染まる!
「…………貴女はそれが望みか……良いだろう、追って来なさい!」
『えぇ、えぇ!この剣を正面から、しかも無傷で受け止めた方は殆ど居ません事よ!やはり貴方様は想像以上にクソ強いですわ!それでこそ、この業物を存分に振るえるというもの!逃しませんわ……覚悟はよろしくて!』
「覚悟などとっくに決まっています。我が双刃、文字通り骨の髄まで、いや……心の臓まで堪能して頂こう!コシューッ!」
『あぁーっ!どちゃくそ楽しみですわ!これが終わりましたらば、床にて貴方の戦いを夢で追体験させて下さいまし!勿論対価は支払いますわ!最新式の武器でも値がつけられないような宝でも、この剣でも!』
二人は相対し、既に真の戦士のみが入る事を許される世界へと向かって行った。それを踏み越える事は誰にも出来ない………
『実際、どうなったんだい?』
『うむ。息子よ許せ………全ては私が糸を引いたのだ。私達がな……』
『まぁ、そんな事だろうと思ったよ……』
『伝書鳩を使ってな……彼の主人と通じて、このブリキの騎士くんを宮殿に突っ込ませる算段をつけていた……彼女の協力も得てな。』
『えへへっ……久しぶりですねぇ……ヴォーパラーですぅ。』
『あぁ!君がこの鎧動かしたのね、納得!』
『……着心地は中々でしたよぉ……それに、ショ……無垢な少年の身体に私みたいなモンスターの粘液がべったり…………プライド高い子が慌てるのっていいですよねぇ………でも、操縦が簡単なのも考えものですぅ……内部は搭乗型ゴーレムと似てましたぁ。というか9割一緒ぉ…あの人の見立て通りでしたねぇ。』
『モンスター?僕の目の前にいるのはカラフルな正義の味方だけど?』
『嫌だなぁ……本気なんですかぁ?正義の味方………つまり、私が魔法少女になって、子供達を………こんな毒だらけ粘液だらけの喪女に、魔法少女、出来ますかねぇ?』
『あー……出来んだろ。見た目はまぁ、どっちかと言えばバッタの変身ヒーローに蹴られる方だがよ。だがな、見た目にコンプレックスありの再生能力者とか?あとは自己紹介しか出来ない喋る材木とか?今はそういう変わり種も流行ってんだろ。時代が変わったんだからお前さんみたいなのがストライクゾーンだってチビっ子も案外近くに居るだろ。ここは剣と魔法の世界、夢も性癖も無限大だぜ?』
『最近はスーパーな二代目の方の……女の子はああいうの好きなんじゃないかな?妹は好きだって言ってた。』
『ほらな?必ず理解者が出て来る……ヒーローも時代で変わるってコトよ!だから毒液が滴る触手で敵をバラバラに引き裂く魔法少女も流行るぜ……俺がビクトリーマグナムを引き摺り下ろすからお前が魔法少女やれよ!冴えない神話生物から、DXな鏡でチビっ子好みの素敵な魔法少女に変身しろ!』
『変身した姿でしか意中の相手に近づけない……それでも悪の怪人から男の子を守る為に、君は本当の姿で声を出してしまう……目の前で変身し、疑惑が確信に変わる!』
『ナイスだぜ将軍!その脚本で行こう!』
『よし……ではコームに報告して!ビクトリー、マグナムの!対抗馬!に、仕立て上げ、アヴァ商会を蹴落とし!コシューッ!コーシュシュシュシュ!』
『チャンバラしながら喋んなよ……』
『余所見している余裕がありまして!?その巧みなダガー捌き、もっと見せて下さいまし!』
「見せてやろう……我が妙義を理解すら出来ぬまま血溜まりに倒れ伏すが良い!」
ピンチベックは荒々しいフランベルジュの斬撃を装甲付きブーツで全て弾く!逆立ち姿勢からのブレイクダンスめいたカウンター回し蹴りで体感を崩し、更に展開した鉤爪で滅多切りにする!異常な柔軟性を持つ己の肉体を完全に理解した上での達人的な立ち回り!
『な、何ですその動き!骨あるんですの!?もう少しで仕留められると思っていましたのに!おわっ……危ねぇですわ!完全に間合いを把握しておりますのね貴方!少しでも対処が遅れていたら肝臓がやられていましたのよ!』
「やはり血筋か……並の冒険者ならこれで二回は死んでいた筈だ。」
『貴方程の猛者からお褒め頂けるなんて!嬉しいぃぃぃーっ!』
シンビジウムの剣捌きが更に加速!目は熱を帯び、口元は愉悦に歪んでいる!日常生活のフラストレーションを全てぶつける勢いだ!
「ぬぅ!?まだ余力があったか!手を抜いたつもりは無いのだが……なぁ!」
激しい剣技の間、針の頭を縫うような隙。彼はガントレットで剣を受け、ダガーを投げた。石突がシンビジウムの頭蓋を激しく揺らす!自ら攻撃の手段を投げ捨てる自殺行為であったが、それこそが彼の狙いであった。何の予兆もなく予想外の行動を起こせば多少なりともそれを見た人間は必ず動揺、混乱する。
しかもそれが相手に深手を与えた直後であれば尚更である。渾身の一撃を食らったガントレットは半ば切断され、傷口からはドス黒い血が大量に溢れている。元々フランベルジュは肉を斬り裂く事に向いた剣だ……エンチャントされたそれが冒険者の腕力で振るわれればこうなるのは当然……狙って受ければ尚更だった。
『うぐ………す、すげぇですわ……完璧に脳震盪を起こす位置に、峰打ちを……』
「恐ろしい威力の闇魔法だな。オリハルコンと闇に耐性のある銀を重ねて作った特殊な素材をここまで侵食するか……刃が骨の中心まで到達しかけたぞ。」
『若干のアレンジを加えましたの……しかし、殆どアダマント単体で作られたこの剣で斬れないとはえらく頑丈な骨ですわ……頑丈な金属の筈ですのよ、これ。』
「………綺麗に筋繊維が裂かれているな……確かに良い剣だ、大切にしなさい。」
『傷口を見せながら言わないで下さいまし……大体、それを食らって平然としている貴方が異常でしてよ!』
『酷いなそれ……まーた傷跡が増えるのか。』
「逆に目立たんだろう、こんな事は幾らでも起こる……私など予備の手足と臓器をホムンクルス用の水槽で培養しているくらいだ……」
『確かに、それなら無茶も通るというもの……よく死にませんわね、貴方。』
「とにかく、カラドリウス様に連絡だな。そういうストックの管理はあの方がやると言って聞かなかった……在庫切れなら追加が必要だ。将軍、彼女は今何処に?」
『あ、あぁ……確か、最新の伝書によれば付近を南下している筈だ。予め決めていた合流地点で私の同胞が秘密裏に彼女を迎える事になっている……事実は伏せ、付近で捜索願が出されていた旅人としてだ。』
「………左様ですか。その伝書は何日前に?場所を教えて頂きたい。」
『二日前。予定では明日の早朝に到着する………密偵の存在を警戒して、必要以上の出迎えは要らないとの事だ…………さぁ、そろそろメインが出来ている頃だ。食事に戻るとしよう!』
第71幕 完