「何故だ?何故………」
完全に崩壊した聖堂街の中で、ピンチベックは立ち尽くす……
「幹部クラスの構成員に自爆装置が仕込まれていただと………元より私を殺す為の捨て駒だったというのか!?」
仮面から血を流しながら、傷ついた身体で這いずる……彼女の死を無駄にしない為に。
「追手が来る前に逃げなければ………!」
『やはり貴様を庇ったか、神に仕える者としては失格だな……』
大剣を構えた白装束の冒険者が迫る……その姿はインドルジェンスそのものだ。
『奴の醜態は全て録画してある、全く恥晒しだ!蛙の子は蛙とでも言うべきか?』
「彼女はガラクタの偶像に思考を委ねる事なく、自らの思想に殉じた……死者を愚弄するとは神も躾がなっていないな………回虫以外のゴミ屑が、良く言うものだ。」
『貴様ぁ!神を愚弄するつもりかぁぁぁ!死ね、苦しんで死ねぇ!』
大剣が彼の右脚を両断せんと振り下ろされる!ピンチベックは力を振り絞り跳躍して回避!
「全く……欠伸が出るなぁ!」
『その身体で良く吠えるものだ……だが我々の多段射撃までは避けられまい、鉛玉を全身に食らえば悪魔とて死ぬ筈だ!』
機械化冒険者たちが一斉にアサルトライフルを構える……彼らは思考の一部をマザーコンピュータに任せて統一しており、一切の無駄なく合理的な動きが可能だ。
『撃ち方、始めぇえい!』
『はーい!』
インドルジェンスの号令と同時に冒険者たちが彼に銃を向ける。その目は虚ろであった……まるで何かに魅力されているようだ。
『な、何……』
しかしインドルジェンスもさる者、即座に状況を分析して大剣の鞘をシールドに変形させて多段射撃を防いだ!構成員に支給されるプラスチール製武器とは強靭さが違う!傷一つつかない恐るべきオリハルコン製シールドで突撃、全員を気絶させた!
『あーあ、やっぱり金属入れてるようなのはダメだな!』
浮遊させた雷の槍に跨りながらペラドンナが呟く……その目からも凄まじい電光が走り、捻れた角と角の間は絶えずスパークしている。
『さーて……これなんだと思う?』
そして……二又に分かれた尾を伸ばし、ピンチベックに突き刺した!徐々に傷口が塞がってゆく!
「これは……回復ポーションか!?インキュバスの尾には空洞があり、そこから接種した麻痺毒や神経ガスを排泄して敵を無力化するとは聞いていたが……成程、予め先端に濃縮したポーションを詰めていたのか!」
『当たり♪さぁ、これでニ対一だね………』
『やはり来たか……だが!』
インドルジェンスが指を鳴らすと、崩壊した天井からロープを伝って二人の冒険者が現れる!
『アイアンサイト、戦闘区域に突入した……ピンチベックを発見、殺害する!』
『同じくファイアフライ!支援攻撃を開始!』
防弾アーマーにガトリング砲を装備したオーガ族の冒険者と、全身にケーブルを巻き付けた小柄な冒険者だ……両者共に相当の実力者だろう。
『行くぞピンチベック!ここが貴様の墓標となる!』
「私は今、とても機嫌が悪くてな……生まれた事を後悔して貰う。」
インドルジェンスはシールドを構えながら突撃!ピンチベックは蹴りで押し返すが、そこへ小型ドローンの射撃!レーザー光線がピンチベックの肩を焼き切る!
「………ぐぅっ!」
『馬鹿め、我々の結束は無敵だ!アイアンサイト、行け!』
『ファイア!ファイア!ファイアァァァッ!』
被弾したピンチベックにアイアンサイトが大量の銃弾を撃ち込む!ペラドンナがすかさずシールドスペルでカバー!
『連携なら、僕たちも!』
「負けるものかよ!」
背後でステルス迷彩を使用していた自爆ドローンが爆発!当たれば即死する威力だが二人は咄嗟に生成したシールドスペルを蹴り、前に出て回避!なんたる息の合った合理的判断か!
『喰らえ!
ペラドンナは雷で三叉槍を生成、インドルジェンスと激しく打ち合う!そこをアイアンサイトのガトリング砲が狙うが、回転する銃身を跳躍したピンチベックが回し蹴りで逸らす!
「貴様の相手はこの私だ。ようやく本心から殺せる相手が出てきたというもの………どれだけ抵抗出来るか見ものだなぁ!?」
追撃のファニングショットをアイアンサイトは傾けた銃身で防ぐ!マッスルスーツが運動能力を増強しているのだ!
『させんぞチビ助め!ここで金星を上げ幹部に昇進だ!王国式フットボールで鍛えた俺のタックルを喰らえ!』
巨大に見合わぬスピードで突撃!壁を砕いて余りある勢いでピンチベックを吹き飛ばした!ピンチベックは吹き飛ばされながら体勢を整え、壁を蹴り飛ばしてアイアンサイトに頭突き!金属で補強された頭蓋骨を激しく揺らす!この勝負、互いに譲らずだ!
『ぬぅーっ!?中々どうして根性のある男だ!だが身体的優位性で俺に勝てる者はそうおらんぞぉ!』
ガトリング砲を軽々と持ち上げ、連射しながら薙ぎ払う!マッスルスーツの性能に負けない程に、彼自身の身体能力も凄まじい!
「コシャアアァァァーッ!」
放たれた銃弾を回し蹴りの衝撃波で相殺!それを見たアイアンサイトは果敢にも赤熱するガトリング砲で殴り掛かる!しかしピンチベックはこれを正面から脚で受け止め、受け流すと同時に背後に蹴り!
『ぐはぁっ!だが、俺は負けられぬ!』
常人ならば背骨が焼き菓子のように粉々に砕け散って即死する威力の蹴りだが、アイアンサイトは鍛え上げられた筋肉とマッスルスーツによって耐える!ガトリング砲が彼の脇腹を抉り、吹き飛ばした!ピンチベックは壁にめり込んで血の泡を吹く!
「が……ぐっ………!」
『これにて貴様のテロも終わりよ……御免!』
アイアンサイトの追撃!油断なく敵を見据えながら止めのタックルを放つ!壁に大穴を穿つ威力の必殺技が命中した!
「終わりかどうかは私が決める……貴様が決める事ではない!故に!」
壁をぶち破りながらピンチベックを押し出していたタックルが突如減速!ピンチベックが踏ん張り、押し返し始めているのだ!四枚目の壁で遂にアイアンサイトが止まる!
『な、何だと!?その痩躯のどこに、そんな力が!』
「下を………見てみろ……」
ピンチベックの足元には大量のカルトロップが!彼は自分の足に大量のカルトロップを突き刺し、スパイク代わりにしていたのだ!覚悟の策であったが、見事に体格差を覆した!
「貴様らは人の覚悟を、命を侮辱した……許してはおかぬ!」
『その脚で……何が出来る!』
アイアンサイトはガトリング砲を至近距離で構える!
「貴様を殺す事が可能だ!コシューッ!」
ピンチベックはカルトロップが突き刺さった脚を振り抜く!遠心力によって引き抜かれたカルトロップがアイアンサイトの肩に命中!激しい痛みによって大きく体勢を崩した!更にもう片方の脚からもカルトロップが放たれ、脇腹に食い込む!
『まさかこの痛みを耐えて、俺の突進を……!』
「死ぬのは貴様だ!」
ギロチンめいた踵落としがアイアンサイトの肩関節を完全に粉砕!
『ぐわあぁっ……せめて、せめて一糸報いて……!』
最後の力を振り絞り、ガトリング砲を乱射しながら殴打!瓦礫が砕け散り、落下する!ピンチベックは逆立ち姿勢から腕を使って後ろに飛び退き、振り下ろされた赤熱するガトリング砲を掴み、血を吐きながら一本背負い!地面に叩きつける!
『ぬぅぅう!?』
更に持ち上げ、もう一度叩きつけた!自重で半ば地面に埋まった敵に、追撃のストンピング!火花を散らしながらマッスルスーツが機能停止!
「死ね!死ねぇ!」
トランポリンのように何度も踏みつけ、心臓にエルボーで杭を打つ!
『あぁ……がぁぁ!』
だがオーガ族の筋肉の鎧はそう簡単に破れぬ!激しく抵抗するアイアンサイトの腕を蹴り飛ばしてガトリング砲を奪い、銃身で顔面を何度も殴打!被ったグレートヘルムが原形を維持出来ない程に殴り続ける!
「うらぁぁあ!」
『うぐ……うっ…………ぐはっ!』
それから数回程殴り、ようやく絶命したようだ……脚も徐々に治りつつあるが、この場からは中々動けず、瓦礫も邪魔だ……ペラドンナはどうしているだろうか?ストゥーピストは?身動きが取れず、意識も朦朧としている……
『しっかりし給え……おい!ここで君が死んだら、私は君の血を飲めなくなるだろう!』
「誰だ……クソ、もうあまり目が見えん…………三半規管と、内臓も幾つかやられた…………翠蛇一人でも相当キツかったが、やはり連戦が祟ったか………!」
『こんな時に何の話だよ全く!クソ、これじゃ一旦殺してから蘇生した方が早いぞ………全身大火傷で内臓が半分潰れてるし、骨が10本は折れてる!』
「耳もダメになりかけか……ポーション単体では無理だな。」
『攻撃が激しいな、一旦退くぞ!』
冷たい……死んだな、瓦礫に潰されたか……仲間も撤退したようだ。
末路としては上々だ………だが、彼らはどうなる?
………主よ………生まれて初めて祈るが、聞いてくれるか………
私の事はよい、だからせめて奴等に死を………いや、仲間を助けてやってくれないか?
『死んではいけない!貴方には……貴方にはまだ守るべき人間がいる筈です!家族が待っているでしょう!?』
あぁ、こんなにも死は痛く、冷たかったか……姉妹よ、俺は貴女に…………ただ、安心して欲しかった……………この私を愛してくれた皆の死を………無意味な事にしたくなかった………
貴女に、もう一度でも逢えるなら……謝りたい………こんな人間の為に、貴女が死んでしまうなど馬鹿馬鹿しい………
『兄弟よ、貴方を見捨てはしない……神よ、聖なる光でこの勇敢な戦士の傷を………!』
酷く苦しい……何故だ………私は、死んだ筈では………死にゆく定めではないのか………!?
『貴方は、まだ生きねばならないのです……人の屍の上に成り立つ命なら、尚更の事……ですからこの手を取りなさい……!今まで斃して来た者、そして守って来た者の為に!』
宝石のような目、白磁の肌、十字架の首飾り……過去が今、彼に追い付いていた。あの時死を確認した筈の、彼が生涯忘れる事の出来ないその女性が、目の前に居た……彼は、その手を強く握った。
もう二度と、離さない為に。
燃え盛る宮殿、灰と化した兵士達………だが、前とは違う……
この力は復讐の為に手に入れた。
まだ彼らは生きている……まだ救える。
黄金の炎が、その目に宿っていた。
第79幕 完