ピンチベック   作:あほずらもぐら

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第81幕 : 二つの太陽

『赤い月だ……赤い月が昇ったぞ!』

 

『つまり、始祖様が復活なされたのか……』

 

 

ある者は棺から飛び起き、ある者は月に向かって跪く……

 

『増援か……お前が起動出来るドローンも残り少ないな、どうする?』

 

『尻尾巻いて逃げたら良いよ。それとも君は人の命令しか聞けないのかい……?』

 

ペラドンナは巧みに致命傷を回避し、度重なる妨害電磁波で少しずつ攻撃ドローンを弱体化させていた……既に彼の三叉槍には大量の残骸が突き刺さっている。

 

 

『夜の闇は夢魔にとっても有利だからねぇ……例えば、こうやって君の精神を捻じ曲げたりとか!』

 

 

ペラドンナの角が雅な紫色に発光し……次の瞬間、ファイアフライの精神が悲鳴を上げた!浮遊するドローンが墜落、火花を上げて震え出す!

 

『ヘぇ……君、脊髄に金属を入れて精神をフラットにしているんだ………お陰で入り込むのが楽だな。』

 

 

『ぬぅぅぅぅぅぅぅぅ……っ!』

 

一瞬だけ映る、白装束を次々と赤く染める仮面の男………壊れた仮面の下は、砂漠が広がっ    ナ墓  ム虫

 $HJ      G    兜兜       方向    岩

   金   F % 薇     アヲP      罰

 

 

手を繋いで輪になる人々が、いつの間にか紫色の花に変わっている……バイオリンと笑い声は聞こえたままだ、美しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい

 

 

  

 

 

『はぁっ………ぁ……』

 

絡み合ったコードがミミズのように暴れ回り、ヘルムから火花を散らして悶絶!墜落したドローンが突如として浮かび上がり、痙攣するファイアフライに銃口を向けた。

 

『まずい………!』

 

インドルジェンスが敵に向かって駆け出した!神経が鋭敏なファイアフライは精神干渉の影響を受け易い……しかしペラドンナも能力の維持に体力を消費している。鍔迫り合いに持ち込むべく、両刃の大剣が迫る!

 

(シールドスペルを張って攻撃を弾き、その隙にファイアフライを自滅させて逃げる、完璧だ。)

 

 

上段からの一撃をシールドスペルで防御、翼を広げて後退する準備を始めるが……

 

『…………今だ!』

 

その翼に大量の鱗が突き刺さり、ズタズタに引き裂かれた!更に地面から飛び出した影が刀を構え、ペラドンナの喉元を狙う!

 

『なっ……』

 

翼を瞬時に消滅させて重心を変え回避するが、首筋に赤い筋が走る!

 

『よくやったな、シノビスケイル。』

 

影が形を取り残心する……その装束は逆立ち、脈動していた。頭巾に包まれた顔から感情は読み取れない。

 

『………落ちぬか、残念だ。』

 

ペラドンナの首筋は黒ずんでいる。毒が刀に塗られていたのだ……意識が朦朧とする。ただでさえギフトブレイズの麻痺毒で免疫が落ちていたのだ、おかしくはない。

 

『………ぁ…………』

 

『介錯する……力を入れるな、苦しむだけだ。』

 

 

振り下ろされた刀がスローモーションに見える……引き伸ばされた主観時間で、死神の足音をしっかりと聞いた。

 

 

 

尤も、彼にとっての死神ではなかったが。

 

『おや、誰かと思えば………思わぬ所で縁があるな。』

 

デスペラードは呪術杖から帯電する赤い刃を抜き放ち、刀を弾き返す!

黒い蝙蝠が彼の意識を覆った……蝙蝠は影の塊となり、彼の身体を何処かへ運んでゆく。

 

『折角教え子が訪ねて来たというのに、茶も出せないとはね。君達には粗相の責任を取って貰おう……』

 

『奴等が吸血鬼と既に和平を結んでいただと!?そんな情報は知らんぞ……』

 

『少し違うね……以前、暇潰しに付き合って貰ったんだよ。』

 

狼狽えるインドルジェンスとは対極に、デスペラードはアルカイックな笑みを浮かべ、芝居がかった動きで一礼する。

 

 

『忍者は確か挨拶をすると聞いた……初めまして、デスペラードです。』

 

『シノビスケイル……参る。』

 

二人の影が大量に分身し、鱗と蝙蝠が飛び交う!

 

 

『シノビスケイル殿、我々も加勢致す!』

 

インドルジェンスも大剣を片手で構え、聖属性を纏わせた一閃を放つが……これを同じ聖属性が相殺!

 

『異教徒ですか……しかも穏やかではないタイプの。』

 

 

 

『素晴らしい!これぞ神が与えし試練にして聖餐!主よ、今日の糧に感謝致します!』

 

『な………なっ………!』

 

 

血塗れの狼牙棒を構えたシスター服の吸血鬼に、インドルジェンスは絶句!

 

『久しいですね、姉妹よ………!』

 

『今日は善い日だ、まさか君まで蘇るとは!』

 

『幸運にも、敬虔かつ善良な若者に救われました……我らが命運が未だ尽きぬならば、弱者の為に再び武器を取り、戦うまでです。それが神の御意志!』

 

 

『神の意志だと……我が神は自らの手で我らを救済なされた!偽りの神、時代遅れの偶像崇拝者どもが!真なる神の勇者たる我々が、貴様に天誅をくれてやろう!兄弟達よ、剣を抜けぇ!我が旗に集うのだ!』

 

インドルジェンスは激昂、増援を要請すると自身も大剣で斬り掛かる!吸血鬼は狼牙棒を振り回して地面を打ち、白い衝撃波で敵の足元を掬う!

 

『ぬぅ!?』

 

よろけた隙を狙い、狼牙棒で脇腹を突く!しかしインドルジェンスの肉体は高密度のカーボン強化骨格によって強化されている!狼牙棒は火花を散らし、急所を逸れた!

 

『その程度の攻撃など、この聖なる鋼で強化された我が肉体には無意味よ!』

 

強引に回転斬撃を繰り出す!無論肉体の強度も高いが、真に恐ろしいのはその体幹!吸血鬼は狼牙棒で受けるが、武器ごと弾き飛ばされた!巧みな防御姿勢によりダメージは無いが、その威力に警戒を高める!

 

『だが見事な防御だ。名を名乗れ、殺す前に聞いておきたい……』

 

 

『元王国聖騎士団、11代目団長……”血の錫杖のオイフェ”』

 

その名を聞いた瞬間、インドルジェンスの目の色が変わる……

 

血の錫杖のオイフェ……旧王家の精鋭部隊を率いた隊長にして列聖の勇士、近代回復奇跡の母とまで言われた女傑。

 

捕虜を逃す為に大橋の上で殿を務め、狼牙棒一本で追手の蛮族を皆殺しにして生還し、行軍中、川のように流れる蟻の群れに遭遇した時は仲間が蟻を殺めぬように自分の背中を踏ませたという王国の英雄。

 

最期は吸血鬼を迫害する王国に反旗を翻し、数百の敵兵に囲まれながらもその九割近くを殺害して討死した反逆者……死に際まで握っていた愛用の狼牙棒は持ち手の先端まで返り血で真っ赤に染まっていたという。

 

 

『しかし、すぐに墓泥棒に遭って死体は売られた筈………!』

 

良く知っている……彼は他ならぬオイフェに憧れて聖騎士団に入ったのだから。今や元老院の下請けに成り下がった、英雄の古巣に………そして大義を求め、アイアンクロスと共に教団に飛び込んだ。

 

『………冒涜者として伝わっているでしょうが、それでも理想に殉じた事を恥じてはいませんよ。』

 

『英雄の名を騙るか………愚か者が!やはり貴様ら冒涜者は徹底的に壊滅させ処刑だ!千年王国の礎になるが良い!』

 

『若い騎士よ、貴方も同じく理想の為に戦うのですね………来なさい!』

 

『私は……私は、真の神に仕えし勇者だ!吸血鬼よ、成仏しろ!』

 

インドルジェンスは大剣を片手で持ち、絶叫と同時に薙ぎ払う!聖属性の衝撃波が壁を裂き、石柱を斬り倒す!

 

『………喝!』

 

オイフェの白く光る狼牙棒が風を切り、衝撃波をゼリーのように砕きながらインドルジェンスに迫る!

 

『天誅ーッ!』

 

インドルジェンスは大剣を下段で構え、目にも止まらぬ速さで斬り上げる!しかし斬撃がオイフェを……すり抜けたのだ!

 

『何……!?』

 

確かに斬撃は”当たった”筈……剣に血も付着している、だが手応えは異常そのものだ。まるで液体を斬っているような感触。

 

『ぐっ……抜かったわぁ………』

 

赤い狼牙棒が火花を散らしながら脇腹を抉り取る!医療用ナノマシンで辛うじて致命傷は塞いだが、一発だけで最新式の砲弾に匹敵する威力! 

 

『危なかったですよ、今のは……』

 

その装束が一瞬だけ白色に変わり、流体化する………高位の治療魔法を応用し、内臓を除く自身の肉体を一度完全に分解して攻撃を擬似的に回避していた!

 

『ここまで高度な奇跡の使い手とはな………英雄を自称するだけはある……!』

 

『周りが勝手に殉教した英雄に仕立て上げただけでしょう。私は融通が効かないだけの、只の兵士です……』

 

オイフェは狼牙棒を片手で持ち、高く掲げる……

 

『主よ、一時だけこの肉体を貴方の半身と化す事をお赦し下さい……』

 

その背中に光を放つ巨大な翼が生じる!その翼が羽ばたき、オイフェが宙を舞う……鋼の翼ではなく、神の翼で!

 

『お、おぉ………!』

 

その姿を見たインドルジェンスは本能的に跪きそうになりながらも、震える手で大剣を構えた……本来なら大剣を投げ捨て、祈りを捧げていただろう。だが伝説の騎士を、神を侮辱した以上、その道は閉ざされたと同義!ここで意思を曲げれば更なる侮辱となる!

 

『………せめて、せめて一太刀!ウオォォォーッ!』

 

咆哮と同時に光り輝く大剣を構え、倒れた柱を蹴って空中戦を挑む!最大出力の聖属性攻撃で、仮に流体化しても肉体ごと消し飛ばすつもりだ!

 

『その構えは騎士団の……!』

 

抜け落ちた記憶、高度に機械化された肉体、だがそれが何の問題か?太平の世を実現する為ならば自分は何度でも蘇る!聖騎士の技で、最強の聖騎士に挑むのだ!

 

『データのバックアップ送信、開始……ニューロンAIの排出処理、完了………体内爆弾、起動開始………この身体では短い人生だったが、よもや最期に神の奇跡に勝るものが見られるとはなぁ!』

 

インドルジェンスは獰猛に笑い、宮殿を真っ二つに斬り裂き粉砕する覚悟の一撃を放つ!

 

『主よ、この剣に貴方の威光を………!』

 

 

『天、罰、具、現!』

 

光の刃が天空から降り注ぎ、辺り一面を焦土と化した!

 

十戒打(テン・コマンドメント)!』

 

 

オイフェは全身を切り裂かれながら、致命打だけを的確に打ち砕き……千切れかけた腕を!狼牙棒ごと投げ飛ばした!

 

『ぐ、ぐぅ……これが、血の錫杖の…………本物の……!』

 

狼牙棒が鎧を、強化骨格を、圧縮強化筋肉を!完全に貫いた!

 

『……主よ、この痛みをどうか癒やし、再び戦いへ赴く力を!』

 

更に回復呪文で千切れた腕を一瞬で再生させた!接合ではなく、再生させたのだ!無論魔力の消費は凄まじいが、強靭な精神力で消費の反動に耐え跳躍!自身の、そしてストゥーピストの血を触媒に直剣を生成し……一気に貫いた!

 

『本物の聖騎士の……力か………願わくば、貴女のような聖騎士と………もっと早く………に!』

 

インドルジェンスは最期の力を振り絞り、オイフェを蹴り返す!

 

『せめて……貴女だけでも!』

 

体内爆弾が爆発し、彼の意識は消し飛んだ。

 

 

 

 

第81幕 完

 

 

 

 

 

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