『天誅!』
白装束の冒険者がロングソードを構え、低い姿勢から一気に斬り上げる!
『死ねーッ!』
デスペラードはその剣を無造作に硬化させた翼で叩き落とし、後ずさる冒険者の喉を食い千切った。
『不味い……こんな淡白で味が無い血は飲んだ事がない!肉も筋だらけで最悪だ!酷い作り物の匂いがする!』
更に溢れ出る血のスプリンクラーを全身で吸収し魔力を補充する!味は兎も角、冒険者の血は高い魔力量を持っている……雑魚では相手にならないどころか、彼女の喉を潤す事になるのだ。既に彼女の足元には一個小隊がミイラになって転がっていた。
『食事は終わりだ、野獣めが!』
『狼藉もここまでと心得よ!』
雇われていた冒険者がカバーに出る!
『アレを見て逃げないとはね。装備から見るに、狩人かな?分別のある狩人なら私を見逃すのだが………こんな集団に雇われている時点で分別はないに等しいか。』
デスペラードは杖から赤く帯電する剣を抜き、片手持ちの下段で構える……赤い目が愉悦に歪む。
『雷よ……血を纏う雷よ………我が敵を引き裂き、更に血を浴びよ……溢れる程に。』
腕から放たれた赤い雷が収束、バチバチと音を立てて歪んだ両刃剣の形を取る!武器のエンチャントはありふれた魔術だが、金属魔法でもない通常の属性魔術で一から武器を生成するとは……
目の前にいる冒険者、ヴィジルとシルバーバレッツは幾人も吸血鬼を狩って来た経験があるが、このデスペラードという吸血鬼は間違いなく最強の相手だ!
『浄化の光!食らって燃え尽きよ!』
先手必勝!ヴィジルは両腕を地面に突き立て、光の柱を幾つも打ち上げた!聖属性のダメージは吸血鬼にとって致命傷になりうるが、デスペラードは大量の蝙蝠に姿を変えてこれを凌いだ!
『貰った!ミンチ肉になるが良い!』
シルバーバレッツは背中に下げたソードオフショットガンを乱射!銀を混ぜた弾丸が蝙蝠を次々と撃墜!
『ハハハハ!痛いじゃないか!』
蝙蝠の群れからひときわ巨大な個体が飛び出し、雷の剣を咥えて飛び掛かる!
『そんな馬鹿な……』
シルバーバレッツが言い終えた頃には、彼の肩の肉がごっそりと抉られていた。傷口からは一滴の血も流れない……
『えっ……』
その隙に再構築されたデスペラードの身体は分身体が倒された為、片腕が欠損した状態だ……だが大きな蝙蝠を隻腕で掴んで断面に埋め込むと、その腕は一瞬で元通りになった。
『厄介な術を使う……その赤い雷、単なる電気エネルギーの塊ではないな!』
『斬撃と同時に電気で血液を引き寄せ、吸収する……便利だろう?』
『悪趣味な……だが不死身じゃねぇ!』
シルバーバレッツが再びソードオフショットガンを乱射!
『もっと狙って撃ち給えよ!無理だろうがなぁ!?』
当然避けられる!避けられる為の射撃だからだ!ヴィジルは再び地面に両腕を突き立てて光の柱で銃弾を弾き、跳弾が辺りを飛び交う!
『熱いな!ハハハハハハハッ!』
デスペラードは翼で全方面から襲い来る弾丸をガード!翼に次々と穴が空き、ドロドロに溶けた傷口から煙が昇る!
『中々に良い弾丸だ……これだけ穴が空いてしまったら、もう飛んでは逃げられないな!』
『シルバーバレッツ!伏せろーッ!』
『了解!』
ヴィジルは両腕を合わせ、巨大な光柱をデスペラードに向けて放つ!穴だらけの地面では走って回避する事も難しい……これで敵は死ぬ!シルバーバレッツは確信した。
『グゥ……ア………ァ……!』
だが悲鳴を上げたのはヴィジル!その身体には矢が大量に突き刺さっている!
『き、貴様………ガ!』
ハリネズミめいたヴィジルの身体の中で、唯一無事だった頭に矢が刺さり即死!
『多少無理をさせて貰ったよ………吸血鬼ハンターにはやはりこの戦法が一番だな。面白いように引っ掛かってくれる!腸で首を締めでもしない限り、そう簡単に私が倒れる事はない……』
『馬鹿な……魔法で洗脳した崇拝者ごと背後から撃てば済む話だろうが!』
『そんな勿体無い事はしないさ。大体、魔法で洗脳するなんてつまらないだろう?領民は我々に血を捧げ、我々は領民に庇護と愛を捧げる………私は見ての通りの残虐な
『俺の見て来た奴等は皆そうしていた……何故だ、何故ここまで違う……!』
シルバーバレッツはソードオフショットガンを構えたまま聞き返す……純粋な疑問だった。
『私は……人間がそれほど憎くない。仲間を殺された怒りに任せて定命の者を虐げたのでは、単なる同族嫌悪で終わってしまうからね。知っているかい?我々の起源を……』
『吸血鬼が突然現れて、人々を襲った……激しい争いの末、幾つかに分かれた吸血鬼は自分達の土地に住み着いた。分かっているのはそれだけだ……神学校では、確かにそう言っていた。』
『やはりか………千年も経てば予想はつくが、ショックだな。オイフェが聞いたらきっと悲しむだろう………』
『………降伏だ、嘘には聞こえん。崇拝者とはいえ、ただ平和に暮らしているだけの人間を殺す所だった………それでは奴等と同じよな。』
バシュウ!
『な……何故………』
帯電する剣がシルバーバレッツの胸を貫き……ゆっくりと引き抜かれた。
『何故俺の身体に………こんな物が……!?』
剣はシルバーバレッツの体内に仕込まれた小型爆弾を破壊、一瞬で彼の身体から引き剥がしていた!
『君の血は変な味がした。こんなものが入っていれば調子も狂うというもの。血液というのは非常に多弁だ………これは自慢だが、私は人間の血を舐めるだけで性別と年齢、健康状態、持病や障害の有無が判断出来る。身体に異物が入っている事には気づいたが、まさか爆弾とは!』
『まさかヴィジルも……』
『安心し給え、そちらの聖職者には入っていないようだ……奇跡の使い手なら回復魔法を使用する際に看破される可能性がある、それを考慮した上での事だろう。』
『何故助けた、逃げれば良かっただろう。それが敵陣にでも放り込めば……うぐっ!』
『強いて言うなら………そうだな、この爆弾が欲しかった。』
デスペラードは機能停止した小型の爆弾を蝙蝠に運ばせると、シルバーバレッツの胸に手を当て、血を編んだ糸で傷口を塞いだ。
『暫く動かない方が良い。本当なら城内まで君を庇いながら移動したいが、私もやる事があるので失礼する!』
無数の蝙蝠と化して闇の中に消えたデスペラードを、シルバーバレッツはただ眺めていた……彼の能力なら後ろから撃つ事も出来た筈だ。しかし、この吸血鬼を殺せばあの時の自分のように悲しむ人間がいるのでは……?そう思うと引き金に指を傾ける事は出来なかった。
『さて、この爆弾でどう遊ぶか……何か策はお有りで?』
『そう急ぐな、もう何人か殺してからじゃ………儂らの庭をこんなに荒らしおって、そう簡単に許してやる道理もあるまい!?何百年もの間飲まず食わずじゃ、絡繰共の血液ですら美味いというものよ!』
『あんまり怒ると皺が増えますよ……って、散々苦しんだ挙句にあんな起き方すれば無理もありませんか。大体領民の葬式だの結婚式だの、挙句の果てに一人一人の誕生日まで分身を使って出席しなければ十人殺す程度で済んだ筈……』
既にスカアハの殺した天使兵は50人近く、彼女はその首を腰から大量に吊り下げ、時折喰らっている……
『バリバリバリバリッ……そう言うな、子の誕生日を祝わん親などいないじゃろう……お前も食うか?流石に骨には金属が入っていないからのぅ、牙を研ぐのに丁度良いぞ……』
『相変わらず悪趣味で安心しましたよ……正直、あの子を連れて来るまでに呆けたんじゃないかと心配していた。呆けた貴女など、誰も止められないですからね。』
『…………何百年も心配を掛けたの………済まんかった。』
『あれ、やっぱり呆けた………?貴女が自分から謝るなんて珍しい。』
『……お前の機嫌を取る必要がある。厄介な相手が控えておるのでな………見ろ、連中あんなものまで引っ張り出して来おった……』
スカアハが指差した先に居たのは、全長3メートル近いプラスチール製ゴーレムの大群……200体は下らない。その200体が一斉に武器を構える!
『ありゃあ搭乗型だ………説明書があれば子供でも動かせる。俺も作業用のやつに乗った事があるが、やっぱり軍事利用されちまったな……』
『私は護民官ミラージェネラル!お前達……テロリストを匿っているな!降伏して奴の身柄を差し出せ!拒否した場合は正当な法律に則り、我々護民官による徹底的粛清の対象になるぞ!』
青い軍服姿の冒険者が拡声器で呼びかけるが………
『人の庭に踏み込んでおいて、儂らの大切な客人を差し出せと?法律ではなく道理を勉強したらどうじゃ………しかし、最近のガキは偉そうになったのぅ……』
『全くその通りだ………羊の分際で、狼の棲む森まで入り込むとはね……君達の脳味噌は食いでがなさそうだ。』
『クソッ……この三人でやれるかよ……!』
『余程死にたいらしい……その無意味に長い人生を終わらせてやろう!全軍、攻撃を許可する!自治領の尖兵たる我々を愚弄した事を地獄で後悔するが良い!』
『来るぞ……いや来い、何としても生き残ってやる………!』
ヒルビリーは小型のクロスボウを構え、二体のゴーレムに隣を守らせる……恐怖はある、だからこそ生き残る!
『俺はもう臆病者じゃない。”まだ”弱いし小物だがよ、二度と逃げたりはしねぇ……必ず生きて帰ってやる!』
帽子を深く被り、威圧的にリロード!
『だがお前らは殺す………お前らの下らん政治が俺の家族を、仲間を傷つけた!』
『三下が……粋がっているのも今のうちよ、やれ!』
ゴーレム兵団の間を縫い、複数人の冒険者が現れた……全員が自治領の紋章を胸に着けている!
『我等の名誉に泥を塗ったカスにしては、それなりに人望があるようだな………埃だらけの棺桶に引き篭もっていれば良いものを。』
ミスリルの甲冑に覆われた細身の冒険者が長剣を抜き放ち、流麗な構えを取る……
『だが名乗ってやる……地獄で奴と傷を舐め合う時、誰に殺されたか分からんのでは困るからな。護民官、ドゥームフロスト……』
更にその隣の冒険者も名乗りを上げる……彼の右肘から先は鋭い刀に改造されていた。
『護民官……ツヴァイ。』
『この三人は元々ペラドンナを捕縛する為に送り込まれた精鋭……忠誠心、技術、判断力、経歴、装備、全てに於いて平均以上だ……ピンチベックが殺される所、ここで指を咥えて見ているが良い!』
『ほう……あの子もここに来ているのか!後で茶を入れねばなぁ……会うのは久しぶりじゃ、どれ程いい男になっておるか楽しみじゃのう!お前達を殺してさっさと会うとしようか!』
『彼を殺すだと……なんと勿体無い事をするのかね君達は!?私は彼の血がもっと飲みたい………邪魔をするなら神だろうが嬲り殺してやる!』
『あの人何したんだよ……たらふく麻でも吸ってから血を分けたのか?』
『馬鹿を言え、薬中とアル中の血は不味い。君のも後で飲んであげよう………代わりに何をして欲しいか考えておき給え……考えておかないと、私が勝手に決めてしまうからね。』
『……アンタ達に比べたら、コイツらなんて大して怖くもないな……』
『ハハハハハハハッ!それで良い……多勢に頼んで子供一人を狙う臆病者に比べれば余程良い……!』
『そういう事じゃ……儂らも無駄に年を取っておる訳ではない、存分に頼れよ!』
スカアハは担いだ斧槍を片手で振り回し血糊を払う。その目が赤く光り、眼前に迫るゴーレムの丸太めいた腕をまるで豆腐のように切り落とした!
『滾って来たのう!良い目覚めだ………お前のお陰で楽しめそうじゃ、絶対に死ぬなよ!』
彼女には、鈍い金色の仮面が城の窓から覗くのが確かに見えた。
第84幕 完