ピンチベック   作:あほずらもぐら

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過去編第一幕 : 隕石落下の始まり

「成程。精鋭二人を失い、ピンチベックを殺し損ねた……クラリドンの指輪も行方知れず………吸血鬼まで手懐けていたか、あの少女………侮れんな。」

 

彼の足元には焼け跡と血黙りが広がっている。何年も前から、ずっとそうだった……

 

「だが侮れんだけだ……三賢人の力で”塔”は完成した。」

 

 

 

“最初の司祭”

 

一つ目の最も神聖な塔、その資格を持つ大幹部……人間を冒険者に変える秘儀の発見者にして、大焔塔の巫女を発見した偉大なる指導者。

 

 

“大焔塔の巫女 “

 

裏切り者たるピンチベック唯一の功績にして最も偉大で強大な塔、その資格の持ち主。

 

 

“宝石の貴人”

 

自治領での布教と内部粛清を担当する強大な冒険者、幻術と催眠術の達人であり最も残虐で厳格な塔の資格を持つ者。

 

 

三賢人を認める”指環”も一つだけ残っている……起動まで一週間、敵将ピンチベックは常人なら再起不能レベルの重傷を負い、吸血鬼も襲撃を警戒して自陣からは出られない。監視こそ厳しいが、クローン兵と信者達の犠牲は決して無駄ではなかったのだ。

 

 

「………クロス、今回は間違いなく俺の失策だ。功を焦ったばかりに冷静な判断を欠き、その焦りがバンディーアまで伝わった……済まん……!」

 

メテオリット……王国領でも屈指の使い手にして教団の筆頭、そんな男が、地面に頭をつけて詫びている。

 

『頭を上げてくれメテオ………アンタは……最善を尽くしたさ。』

 

「そんな事はない!俺は……罪のない子供をまた………」

 

 

『止めろよ……事実上のトップであるアンタが頭を下げれば、それは教団が誤った事になりかねない………ここまでついて来てくれた人達を裏切るつもりか!?まだ二人が死んだとは限らない……』

 

「だが道理を曲げれば、いずれ綻びが!」

 

 

『俺がまたピンチベックを殺せば良い!俺が風魔法でバラバラに引き裂き、アンタが爆破する。オーファンの隊長としてアイツらの仇、取る時じゃねぇのか!?』

 

 

オーファン部隊……かつてメテオリットが創設した冒険者小隊。メンバー5人のうち3人はピンチベックに殺害された……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

隕石落下に喩えられる爆破魔法でBランク最年少の快挙を成し遂げた冒険者がいた………強かったが故に破滅した。

 

 

『隕石を落としたのが君ではないという証拠を出せ。』

 

役人は確かにそう言った………出来ないと分かっているだろう。結局、証拠不十分で処刑は免れたがギルドは除名………家族を皆殺しにしたあの蒼い隕石には明らかに魔術の類が施されていたのに、“何故か”捜査は打ち切られた。

 

 

彼は爆破魔法で砕いた隕石を溶かし、一本の刀にした……熱い鉄をハンマーで打つ度に、家族の悲鳴が脳裏に響く。鉄盾すら切り裂く魔性の剣、汚名を削ぎ落とす怒りの剣、ただそれだけを目指して打ち続ける。

 

 

そうして生まれたのは、骸の峰を越える致命の剣。

 

「峰遥」の銘を持つその刀は、後の英雄の聖剣となる……峰遥がその身に最初に映した蒼い影、それは修羅に斬られる男の断末魔だった。

 

 

 

 

ー10年前ー

 

 

 

 

『知らない……知らないんだ俺は!ただ証言するように言われて、金を渡されただけなんだよ!』

 

「不正解だ。」

 

蒼い刃が音も無く男の指を落とした。

 

『わっ、分かった言う!ソイツの名前は』

 

白い刃が音もなく男の首を落とした。

 

 

「こうして暴れていれば、お前のようなバカが慌ててすっ飛んで来る。」

 

 

『お前の浅はかな考えをボスは読んでいた……恨みはないが死んで貰う!』

 

ミスリル製の軍刀を構えたまま、その冒険者は少年を睨みつけた……

 

「出来るものなら、やってみるが良い………!」

 

血塗れた蒼い刃が暗闇で鈍く光り、紫色に輝く。

 

『お前は殺人者として死ぬのだ………あのまま田舎に帰っていれば助かっていたものを、下らん敵討ちなどでふいにするとはな。やはり木端の稚児よ!』

 

 

「その木端の稚児が何を成し遂げるかお前に見せてやる!」

 

少年は両掌を合わせ赤熱する光球を生成、冒険者に向かって投げつける!激しい爆発が辺りを真昼のように照らす!

 

 

『噂通り出鱈目な威力だな……だが当てられなければただのコケ脅しよ!』

 

冒険者の刀が閃き、遅れて肉の裂ける嫌な音が鳴った。しかし悲鳴は聞こえない!先程彼が斬ったのは尋問されていた哀れな男だ………未だ宙を舞う死体が突如爆発し、その血煙に紛れて蒼い刃が冒険者の心臓を狙う!

 

『は、速……』

 

心臓の真横を刀が貫通した冒険者がへたり込む。

 

 

「誰の差し金だ………言え!」

 

『待ってくれ、俺には家族が』

 

冒険者は命乞いを終える前に上半身が真っ二つに裂けて死んだ。

 

「良い気味だな……お前の家族も孤独を味わう!」

 

 

少年は頭蓋を踏み砕いて蘇生を封じ、内臓が絡みついた刀で石壁に文字を刻む……

 

いつから豚が人を飼うようになった?

 

 

星は天から堕ち始めた、もう輝く事はない……引力によって何倍にも膨れ上がった怒りが全てを踏み潰すだろう。

 

  

『貴様の首だけで金貨2000枚、安い仕事だ!』

 

『悪く思うなよ……俺達にも生活がある。』

 

 

銀の鎖帷子に金糸装飾の白布を被せた鎧……エストックを構えた長身の冒険者とハルバードを背負った小柄な冒険者の二人組、どちらもCランク程度の実力はあるか。

 

 

『やれるよな、クロス?』

 

『あぁ……やらなきゃあ死ぬ………グリントソード。』

 

 

「……お前らの家族にも、独りになって貰う。」

 

 

少年は鞘を掴み、橙に光る目で敵を睨む。

 

『アナキスト風情が、偉そうに!マナ適性を得ただけで調子に乗っているようだが、一人で二人に勝てるとでも?』

 

「勝てるかどうかではない、”ビッグバン”は必ず勝つ……」

 

 

『その風変わりな刀……素人が隕石を打っただけのナマクラだな、そのまま売り払えば金になったものを。』

 

「ナマクラだと……?」

 

『あぁそうだ、鉄屑以外の何物でもない……今この場で叩き割ってやる!クロスには悪いが、今ここで殺す!』

 

グリントソードと呼ばれた長身の冒険者が白く光るエストックを薙ぎ払うと、光波を伴う斬撃が飛んだ!

 

 

「この剣は俺の家族そのもの、そして誇りだ……聖剣にも比肩する最強の剣だ!」

 

正確無比な斬撃が飛んで来た真空波を両断!一度納刀して魔力を充填する………

 

「居………合ィッ!」

 

爆炎を引きながら降り下ろす!グリントソードはフルーレを斜めに傾けて弾こうとした……避けるべきだった。鋼のフルーレは容易く焼き切られ、彼の脳味噌は綺麗にスライスされた。

 

『へ?』

 

べちゃ、という湿った音と同時に自分の脳味噌が落ちる………無理矢理いい所探しをするのであれば、その光景を見て絶望しようとする前に彼が死んだ事だろうか。

 

 

『あ、あぁぁぁッ……!?』

 

小柄な冒険者は思わず腰を抜かし、小さく震える事しか出来なかった……年はビッグバンより一回り下か。

 

「俺を殺すんじゃないのか?」

 

『無理だ………俺には無理だったんだ……こちらの負けだ、降参する!』

 

「生きたいか?」

 

『あぁ何だってやる!アイシャの顔が見れないなら死んだ方がマシだ!』

 

「………俺の家族は俺を陥れる為だけに殺された、お前も殺してやる。」

 

ビッグバンは刀を少年の喉に突き立てると、

 

 

『済まないが、ソイツを殺させる訳には行かんなァ……!』

 

抜き身のサーベルを持った黒いターバンの青年が煙を吐き出しながら二人に接近する……先のグリントソードよりも明らかに格上、恐らくはギルドや企業に所属しないフリーランスの冒険者だろう。

 

「雇われが何をしに来た?」

 

『分かるだろ、ビジネス。だから冒険者に金貸すなって言ったんだよ……あの金貸しには近いうちケジメを取らせる、だがその前にお前だ。』

 

「もうじきコイツは死ぬ……こちらも無闇な争いは嫌いだ、諦めてはくれないか?」

 

『ソイツは生命保険に入ってない……勝手に殺すのは俺様が許さねぇ。なんならテメェが返すか?その首に金貨2000枚、結構な額だなぁ?』

 

「賞金稼ぎか……帰らないなら死んで貰うぞ。」

 

『ガキが無理するもんじゃねぇよ、大人しく差し出せ……所詮は借金まみれのクズ、庇う価値もないだろ。』

 

 

青年は首を鳴らし、筋肉と血管の盛り上がった腕を見せる………褐色の肌に描かれた蠍が暴れ、二人を威嚇した!

 

『妹さん達も可哀想になァ……兄貴が甲斐性無しな所為で売られちまう。利子つけて金貨1000枚、ガキ一人500枚、ビョーキ持ちも抱き合わせて精々800がいいトコか……まぁお前さんが銀行強盗でもして賞金首になれば、冒険者だし死体で200万くらいにはなるかねぇ。』

 

「お前、家を潰した隕石について知らないか……」

 

 

『さぁ……酒の一杯でも飲めば口も滑るかもなぁ!?お前の首で2000万稼いで、いい酒飲んでやらァ!』

 

「問答無用か、狂人め!」

 

黒ターバンが二刀を低姿勢で構え、素早い踏み込みで石畳を砕きながら突っ込む!音速を遥かに凌駕した一撃………蒼い刀が音を立てて火花を散らす!

 

『いい刀、そしていい技だ……お前ハメられたろ?』

 

「それを知って挑むか!」

 

『あぁそうだ、うまい飯と女に人殺し!このスコルピオは楽しく生きる為に努力を惜しまない………その為ならどんな聖人だってぶっ殺す!旧時代では決してあり得ねぇ個人での大殺戮!』

 

 

男が掲げるサーベルは白い光を発しており、この男が堕落した神職だと一目で分かる……ここまでネジの外れた男が神職を志していた事にも驚きだが、冒険者ギルドならAランク上位は間違いない手練れだ。

 

『やべぇ、喧嘩売る相手間違えたって顔だな……別に恥ずかしい事じゃねぇ、最終的にみんなその顔になる。』

 

「居ィ………」

 

ビッグバンは刀を納め、スコルピオを睨む。一撃だ、一撃で致命傷を与える……仮に殺せたとして、半ば刺し違える形になるだろう。少年は動かない……

 

『サムライかよ、ジパングの奴等はまだ5人しか斬ってないんだ……来いよ。』

 

「合ィッ!」

 

赤と蒼の閃光がスコルピオのシルエットを引き裂く!

 

『速いねぇ………投資するか。次会うまでにもっと殺せよな、じゃ!』

 

 

裂かれた腹に腸を押し戻しながらスコルピオが笑う……跳躍して追い討ちを回避、風と砂を纏いながら消えた。

 

 

 

 

(ま、親父には殺すなと言われてるからな………小銭稼ぎで指名に遅れるのも癪だ。帰りにフルーツの一つや二つでも買って帰るか……薬草も補充しねぇと……)

 

 

 

スコルピオは宿に向かって走り出すと、小声で呟いた。

 

『あと一ヶ月だけだぜ、それまで待ってやるからよ………』

 

 

 

 

 

過去編第一幕 完

 

 

 

 

 

 

 

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