ピンチベック   作:あほずらもぐら

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最終決戦の対戦カードとか次回作の短編集と世界観繋げるかどうかとか考えてる間は過去編とか番外編をたまに挟んでお茶を濁す事に致しました……

本当に、申し訳ない。メテオリットやストゥーピスト、ハーヴェスター辺りの掘り下げをしっかりやるいい機会だと思ったんです。私は私でバイトとかがあるのでほどほどに頑張ります…本編どうぞ。







過去編第二幕 : 戦場にて蠍は蘇る 前編

「やっぱ水煙草じゃ物足りねぇな……麻と芥子が恋しいぜ。」

 

青年は路地裏で黒いターバンを外し、ドレッドヘアの手入れをしながら白い服に着替え始めた……小さな二階建ての家に黒装束で入れば強盗に見えるからだ。

 

 

(魚人って思ったより体温高いんだな、また指名しよ………)

 

 

少年は気絶させて拘束し、一目のない場所に引き摺り込んだ。あの冒険者に殺させるのは生命保険をかけた後にしよう………そんな事を考えながら窓をノックした。

 

『あっ!』

 

ベッドの上にいる少女が笑顔で彼を出迎えた……心労で債務者に死なれでもしたら投資が無駄になる、少なくとも最初はそんな義務感からだった。

 

「悪いな、買い物してたらちょっと遅れちまって……メロン食えるか?」

 

しかし、家族の愛を知る前に両親を失った彼には無理な話だ……無償で他者に尽くす事に全くもって共感は出来ない。それでも、かつて自分が憧れた、温かい家族を壊す訳にはいかなかった。

 

『食べる!』

 

「じゃ、見てろよ………」

 

スコルピオは背中のサーベルを引き抜き、空中に放り投げたメロンを一瞬で八等分にする!突き出したサーベルを食器代わりにしてメロンを受け止めると、峰を少女に向けて差し出す。

 

『凄い凄い!手品みたいだね!』

 

「手品ねぇ……俺より凄い奴等なんて外には幾らでもいるぞ。お前さん、それ見たらビビってショック死するんじゃあねぇか?」

 

『見れるかな?私こんな身体だから。お医者さんの話だと13が峠だって……運が悪かったらあと4年で私は……』

 

「つまり運が良かったら100年だ!お前もお前の兄貴も頑張ってんだ、必ず助かる……ほら、長生きしたかったら食えよ!」

 

『うん……!』

 

少女がメロンをゆっくり食べる所をスコルピオはただ黙って見ていた……小さい頃から身寄りがなく、犯罪に手を染めて来た彼が暴力を忘れられる貴重な時間だ……そして彼はこの時間が嫌いではない。

 

「……美味いか?」

 

『美味しい!』

 

少女がベッドの上で立ち上がり、両腕を振り回した。

 

『見て!元気出たよ!』

 

「ハハッ、お前なら300年くらい生きられるかもな………俺が奇跡で治してやれればいいんだが、聖オイフェ辺りを天国から連れて来ないと無理か……もっと真面目に勉強するんだったぜ。」 

 

 

『お医者様がね、私の病気には私の名前をつけてくれるって……だから早く元気になってみんなに自慢する!』

 

「…………そうか、そりゃあ………良かったな。」

 

 

少女の笑顔とは裏腹に、青年の顔が一瞬で青ざめた。

 

(おいおいおいおいおいおいおいおいおいおい、クソッタレ神サマがよぉ………またやってくれたな。なんだってお前さんはそうガキに対して当たりがキツいんだ?)

 

 

 

『どうしたの、顔が青いよ………具合悪いの?』

 

「いや、大丈夫だ……心配させちまったな、何でもないんだ。」

 

(目の前にいるのに何も出来ねぇだと………これじゃあ少年兵の頃に逆戻りだ!ふざけるんじゃあねぇぞ……この娘のどこに落ち度がある!?)

 

『絶対病気治すから!それでね、お兄ちゃん達とジャックと一瞬に旅行に行くの!お兄ちゃんも”病気”治したから……次は私の番だよね!』

 

「俺のは自業自得さ、お前さんは腐らずによくやってるよ。だからよ………お前さんは絶対に報われなきゃダメなんだ。」

 

『私も海が好きだったから………好きなもの我慢するのって辛いし、凄い事だと思う!お兄ちゃんのお陰で頑張れそうだよ!』

 

 

「ありがとよ………だがお前さんがいたから、俺の手は震えなくなったんだ。盗みと殺し、クスリしか知らない俺に………まぁ色々と教えてくれた、本当に感謝してるぜ。」

 

 

 

 

 

ー数ヶ月前ー

 

 

 

 

 

 

『こ、こんのクソエルフ!ガキから小銭巻き上げる為だけに俺達の支部一つ潰す!?テメェだって元々筋モンだったろうが!』

 

「確かに俺はキャナーズに居た………だが組が潰れちまった今はしがない金貸しのチンピラでな、あの冒険者のガキにはお前達より俺様の方が先に貸してるんだよ……今すぐ取り立てをやめて、俺様に迷惑料として金貨500枚を寄越すんだな。」

 

『んだとォ!?大体テメェはキャナーズ首領直属の幹部だったろうが!稼げる同業者のスカウトくらい幾らでも来る筈だ!』

 

「馬鹿言え、俺がボスと呼ぶのはビッグキャナーただ1人よ!」

 

『そうかい、ならビッグキャナーの所に行くが良いさ………下衆が!天下のグルーマーファミリーを、このアイアンアームズを舐めるんじゃねぇ!』

 

 

鉄兜と籠手を身につけた派手なシャツ姿の男が威圧的に拳骨を鳴らすと、その両腕が鉛色に輝く。

 

「テメェも冒険者かよ………」

 

『ビビったか、気持ちは分かる。俺たちはデコピン一発で人間の手足を吹き飛ばせるんだからなぁ………そんな力があるのに、何で恐竜やゾンビと戦う必要がある?金が欲しいだけなら雑魚から搾り取ればいい。』

 

「確かに、雑魚専の雑魚野郎が言うと説得力がある。」

 

『今に後悔するぜ!』

 

アイアンアームズはジグザグにステップを踏み、鉛色の右ストレートで殴り掛かる!スコルピオは白く光るサーベルで拳を受け止め、左肘でレバーブローを弾く!

 

 

「パワーは中々……全くの見せ筋じゃねぇようだ。見た所その籠手は魔鉄だな、その両腕ごと質に入れてやるよ!で、その金で女の子にも」

 

『黙れ変態野郎が……殺す!海の藻屑にしてやる!』

 

アイアンアームズはシャツを脱ぎ捨て傷だらけの上半身を露にする!その両肩には鞭のエンブレムが刻まれ、この男が暴力のプロである事を証明していた……

 

 

「それカッコイイと思ってんの?お前の仲間、何人か殺ったけど皆同じ刺青してんのな……顔潰したら組員の判別無理じゃね?従業員の個性を尊重しやがれ、ブラック企業が。」

 

 

スコルピオの右肩には刺々しい蠍が刻まれ、筋肉の脈動に合わせて敵を威嚇する……

 

飛び散る血すら一瞬で蒸発する灼熱の地にて、野心ある少年兵の頭目がいた。内戦で政治機能が麻痺、野放しになっていたマナ適性者を効率よく次々と配下に置いて勢力を拡大していく手腕、常人を遥かに凌ぐ異能者集団を力で従える暴力性、何より飛び抜けたカリスマ性。

 

内戦が生んだ怪物にして旧時代崩壊後最強のギャング………それがビッグキャナーだ。彗星の如く裏社会のトップに君臨した伝説の男。今の大規模な名門を率いる頭目や幹部は全員がビッグキャナーの側近だったという噂すらある程だ。

 

そしてその男が数年前に死んだ。誰かに殺されたという噂だ………少年兵時代からの側近であるスコルピオは敵の腸でバルーンアートを作るような狂人、好き好んで幹部にしたい組織などいる訳がない………そして一度頂点を経験したこの男には、ビッグキャナー以外の誰かに仕えるなど想像すら出来なかった。

 

 

『他所を貶めて自尊心を維持するか、見る影もなく落ちぶれたな。』

 

「………弱い奴に言われたくねぇよ、金と薬だけ残して死ねや!」

 

スコルピオはサーベルを片手で持ち、恐ろしい勢いで回転させる……サーベルが纏う白い光が霧散し、薄緑の風が纏わりついた。

 

(手が震えて、補助動作無しじゃあエンチャントも出来ねぇ………クソが、さっさと薬を手に入れねぇと!)

 

『死ぬのはお前だ!』

 

アイアンアームズの雨のような連打がスコルピオの体幹を削る。反撃の横薙ぎをしゃがんで躱し、腹部に正拳突き!質量とスピードを伴った重撃が彼を打ち据えた!吹き飛んだ敵に右の貫手を突き刺し、壁に縫い付ける!

 

 

「こうなるか、お前如きに……」

 

スコルピオは……腹部を貫いた拳を見てにやりと笑った。筋肉が瞬く間に再生を始め、アイアンアームズの拳を取り込んだのだ!

 

『何だ……!?』

 

「分からねぇか?テメェの負けだよ、三下が。」

 

彼は動揺し、ガラ空きになった敵の胴体にサーベルを突き刺した。自身の肉体を一瞬だけ泥のように変える奇跡……拳を使う冒険者をこれで何人も仕留めて来た。

 

『坊主が……な……ぜ……』

 

アイアンアームズは血を吐きながらスコルピオを睨む。その両脚が鋼鉄化を始めている………彼はまだ諦めていない!

 

『いや、そんな事は、どうでも良い………死ぬのはお前だ!』

 

腕ごとスコルピオの胴体を引き剥がし、距離を取って反撃する。生き残るにはこれしかない……当然ながら腕は犠牲になるが、ビジネスで売り捌く内臓と同じで人から奪えば良いのだ。アイアンアームズは左腕のチョップで右腕を斬り落とす!

 

『グワアアァァァァァッ!死ねぇ!スコルピオォォォォォッ!』

 

素早くサーベルを引き抜き、宙返りで移動し壁を蹴って、残る左腕の拳を固め全力の正拳突きを見舞う!遅れて頭蓋骨が砕ける音が倉庫に響く……

 

『ぇ………』

 

アイアンアームズの突き出した腕はスコルピオの肘と膝で挟まれてへし折られ、その顔面は白い光を纏う拳で砕かれていた。一部の聖職者は敵を殺めぬ為に徒手の鍛錬をする。医療で人体の虚弱性を知り尽くしている故に、拳闘に長けた聖職者は非常に危険だ……そしてその技術を金目当ての殺人に使うこの男は更に危険だ。

 

「4年前の俺なら15秒で殺してたな……早い所金とクスリだけ貰って逃げる………か………ん?」

 

扉の向こうから不穏な物音が耳に入り込む。先程までは気にする暇も無かったが、珍しい動物でも飼っているのだろうか……彼は震える手を止め、鍵穴にロックピックを差し込むと僅か数秒で解錠した。

 

 

「………すげぇな、全部で何人いるんだ?」

 

 

檻、檻、檻……そして子供と女。気配と呼吸音からして10人程度か……それなりの上玉が揃っている。

 

『やめて………乱暴……しないで……』

 

両腕に拘束具を嵌められたエルフが細い声を上げる……

 

(服の質からして低所得層か。下着のサイズが合ってないな、飯も満足に食えてないようだ………おおかた男娼にでも入れ込んで金を使い込んだか。)

 

 

「たった一時間前にスッキリして来たんでな……変な事はしねぇよ。」

 

 

サーベルで鎖を叩き斬り、虜囚を解放していく。ビッグキャナーならこんなシノギは許さない筈だ………本部が焼かれたあの日、彼が第二の家族と認めた男は殺された。

 

「若………」

 

男の中の男、ビッグキャナーは真にこの街を守っていた……拘束具を全て外し、血に汚れたターバンの上から白いローブを羽織ってその下に緑色のブロックと注射器を隠す。この落ち込んだ気持ちも、きっと30分後には忘れる筈だ………

 

『う、ぅ……』

 

それは、今にも消えそうな声だった。

 

瓦礫に潰され死んでいった、仲間の少年兵達……川に流された麻痺毒で目を開けたまま浮かんでいる魚人……死体が撒き散らす疫病と亡霊が放つ魔素に冒され、生きながらに腐ってゆく家畜……その檻からは何度も嗅いだ、静かで恐ろしい死の匂いがした。

 

 

『けほっ……誰か……いるの………お兄ちゃんの……取り立ての人?』

 

震える身体は冷たく、小さく、軽い……医療用の麻酔薬で感覚が麻痺しているのか声も弱々しく不明瞭だ。

 

「…………こりゃあ悪い夢だ、家は何処にある?近くまで送ってやるよ。」

 

『あったかい………やっぱり夢じゃないよ。こわい人達から助けてくれたの?』

 

「喋るなよ、具合悪いんだろ………それから俺はただの落ちぶれたチンピラだ。誰に雇われたでもなく、自分の仕事を邪魔されたから仕返しに

来ただけだよ。」

 

『それでも……いい………けほっ!』

 

少女の吐き出した血でローブが汚れる……スコルピオはその首に手をかけ、力を込めた。

 

『ご、ごめんなさい……許して……』

 

「傷、塞がったかな?それだけ声が出るなら平気か。喉が裂けて、しかも凍傷の初期症状が出るまでかよ。病人に酷い事するねぇ………兄貴は何やってる?」

 

『冒険者……でも私の病気のせいで、ずっと貧乏。親も戦争で心が壊れちゃって働けないから………』

 

「………そうか。」

 

 

『ねぇ、内臓って高く売れるんでしょ………お兄ちゃん、私のせいで倒れるまで働いて………だから』

 

そこまで言った所で、青年の怒号が少女を震え上がらせた。

 

「もしかして馬鹿か、お前は………いや馬鹿だな。兄妹揃ってとんでもねぇ馬鹿だ!」

 

『えっ……』

 

「お前の兄貴は、何故俺のようなクズの半グレに金を借りた?若すぎると街金や銀行が渋ったからか………それとも、時代遅れの粗大ゴミを有難がるような変人どもの集まりに金を払う為か…………どれも間違っちゃあいないが、もっとデカい理由がある。」

 

『でもそれじゃあお兄ちゃんが』

 

 

「黙れよ。俺には理解なんか出来ねぇが………家族とやらが大事なんだろ。家族ってのが何なのかは分からん、多分金じゃ買えねぇんだ、ソイツは……絵と同じだよ、額縁にしまった所で出来るのは手入れだけ、破れたらもう二度と手に入らない………で、持ってた時間が長い程手放し辛い。」

 

『貴方には、いないの……?』

 

 

 

「……俺はな、絵を持ってる時間が短かったんだ。価値を知る前に、誰かが火を点けて焼いちまった………別に焼いた奴を恨んじゃいねぇよ、だがその後守ってくれたのは兄弟、いや……ボスだけだった。」

 

『お兄ちゃん?やっぱりいるの?』

 

 

「兄弟は……組はな……まぁ何というか、子供には難しい関係だ。家族が絵なら、組は写真っていうか………同じに見えるが根っこが違う。自分が描いた絵じゃなくて、誰かの絵に後から俺を描き込む感じだな。」

 

『何がいけないの、守ってくれるなら一緒じゃない。』

 

「組ってのはな、皆が親や兄貴になりたいんだよ………勿論家族想いな兄貴や親父は大勢いるが、上に立つ為に喧嘩をする輩もいる。つまり強い奴が親になる………兄貴を差し置いて。」

 

『うーん……?』

 

「親ってのは子供の小遣いとか飯の献立を、いちいち伺いなんか立てたりせずに勝手に決めるだろ?お前ん所だって、母ちゃんが飯作ってるらしいじゃねぇか。」

 

『お母さんはお皿も洗ってるよ!』

 

「いい事言ったなお前!それだよ……たまに皿洗わずに献立決めようとする悪い奴がいるんだ!」

 

『でも貴方とお兄ちゃん?は洗ったと思う。そんな感じがする……』

 

 

「洗ったさ、それはもう念入りに洗った……前の奴が洗ってなかった分まで。」

 

『洗わなかった人をちゃんと叱った?』

 

 

 

迂闊なスコルピオがここ数ヶ月で一番焦ったのは間違いなく、この無邪気で残酷な質問だろう……

 

”子供を商売に巻き込むな”

 

“子供を泣かせるな”

 

“子供を傷つけるな”

 

“子供を騙すな”

 

後にこの掟を作ったビッグキャナーと共に組織に入ってから、それぞれが一番目と二番目の椅子に座るまでにどれだけの血が流れたか。掟を守りながら自己顕示欲を満たすにはどうすれば良い?薬切れだというのに、彼の頭は異様に冴えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『俺様はな、ずっと昔は正義の味方だったんだよ。』

 

 

 

 

 

過去編第二幕 完

 

 

 

 

 

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