インフィニット・ストラトス~~ロボッツハート~~ 作:ユウキ003
~~~前回のあらすじ~~~
一夏や鈴が参戦するクラス対抗戦が幕を開けた。しかしそれもつかの間。突如として襲来した謎のIS。それによって演習場はパニックに陥ってしまった。鋼司は閉じ込められた生徒たちを助けるために尽力するも、一夏を鼓舞するために残っていた箒を助けるために身を挺し、結果的に負傷してしまうのだった。
謎のISによる襲撃の翌日。俺は今もベッドの上で療養していた。あの戦いで出来た傷の処置自体は終わっており、今は回復と経過観察をしている状況だった。鎮痛剤のおかげで痛みは無いが、如何せんやる事も無い。片手では本や端末も満足に動かせない。退屈な時間が続いていたが、午後の事だった。
「鋼司ッ!」
半ば呆然としていた所に響いた一夏の声。ドアが開く音がして、制服姿の一夏や箒さん、鈴さんにセシリアが病室へと入って来た。
「おぉ、一夏。それに箒さん達もお揃いで」
4人を出迎えるように笑みを浮かべると、一拍間をおいて、一夏が安堵するように息をついた。
「よ、良かったぁ~。思ったより元気そうだな、鋼司」
「まぁ、何とかな。やる事無くて暇すぎるくらいだが」
お互い軽口をたたき合う一夏と俺。
「傷は、大丈夫なのか?千冬姉は数日も安静にしてれば治る、としか教えてくれなくてさ」
「まぁ、一応な。幸いな事に、皮膚と肉を貫かれただけだ。……あと少し威力が高かったら、骨と神経をやられてた、って聞いた時は冷や汗ものだったけどな」
「ッ!!」
俺の言葉に箒さんが息を飲み、目を見開くのを俺は見逃さなかった。
「鋼司さん、退院は何時頃になる予定なのですか?」
しかしセシリアが声をかけてきた事で、意識がそちらに向いてしまう。
「分からない、って言うか俺も聞いてないんだ。治療はもう済んでるけど、今は経過観察って事らしいから。まぁ後数日はここにいる事になる、のかなぁ」
「そう、ですか」
しゅん、と悲しそうに目を伏せるセシリア。よく見ると彼女の目元に僅かに隈があった。もしかして、相当心配かけてしまったのだろうか?となると、少しでも元気づけないとな。
「だ、大丈夫だよっ!傷が塞がればすぐに復帰できるさっ!」
「鋼司さん」
少しでも彼女を元気づけたくて、俺は出来るだけ笑みを浮かべながら、元気に見せられるようにふるまう。まぁいつ授業に復帰できるのかはまだ分からないけど。
「それよりセシリアに一つお願いがあるんだけど、良いかな?」
「お願い、ですか?何でしょう?」
「俺が復帰できたらさ、授業のノート写させてもらって良いかな?流石に1年の今の時期から授業について行けない、なんてのはシャレにならないし。良いかな?」
俺は気恥ずかしそうに頬をポリポリと掻きながら問いかけた。
「えぇっ、えぇもちろんっ!私にお任せくださいっ!」
すると彼女は嬉しそうに笑みを浮かべながら頷いた。頼られて嬉しかったのだろうか?まぁ、なんにせよ喜んでくれているのならそれでいい。俺も、彼女の暗い顔は見たくないから。
「では、私はこれで。幸い、お元気そうな姿を見る事が出来ましたし、私も安堵する事が出来ました」
「うん、ごめんね。なんか心配させちゃったみたいで」
「いいえ。では、失礼します」
セシリアは一礼をすると踵を返して歩き出した。けれど俺は見逃さなかった。去り際、セシリアが鋭い目で箒さんを一瞥するのを。箒さんも、それに気づいているのか俯いたままそれを見送った。今の箒さんの表情はかなり暗い。しかもよく見ると、セシリアに負けず劣らず目元のクマが酷い。
こりゃまずいなぁ。セシリアにフォロー入れるのもそうだけど、箒さんの表情も優れない。さて、どうしたもんか、と考えていると。
「にしても鋼司、その腕じゃ大変だろ?何か俺に出来る事無いか?」
「一夏。そうだなぁ」
一夏に声をかけられ、俺はそっちの質問に意識を向けた。しかし、何か、ねぇ?と思いつつ周囲を見回すと、飲料水のボトルが目に映った。
「あっ、じゃあ自販機で何か、ジュースとか炭酸飲料買ってきてくれないか?昨日から飲んでるの水だけでさ」
「OK分かった。んじゃちょっくら行ってくる」
一夏は笑みを浮かべると足早に病室を出ていった。
「あ、一夏っ」
それを箒さんが追おうとして踵を返した。が。
「待ちなさいよ」
それを遮った者がいた。鈴さんだ。
「アンタ、中條に何も言わずに行く気?」
「ッ」
鈴さんの鋭い目が箒さんを射抜く。その表情はさっき見えた、セシリアの険しい表情に似ていた。
「散々千冬さんに怒られたのは聞いてるけど、だからってこいつに謝罪の一つも無し、ってのは流石に見逃せないわね」
「ッ。……わ、分かって、いる」
箒さんは絞る出すような声を上げると、踵を返して俺の傍に歩み寄った。だが、その足取りは遅い。まるで、刑の執行を恐れる罪人のような遅さだ。
しかしそれでも、歩みは進み彼女は俺の前に立った。
「ちゅ、中條。今回の事は、本当に申し訳ない。すまなかったっ!すまないっ!」
箒さんは俺の前で深々と頭を下げたまま動かない。
「私の身勝手な行動のせいで、私はお前を傷つけてしまったっ!許してくれ、とは言わないっ!好きなだけ、罵ってくれて、構わない……ッ!」
構わないと、そういいつつも箒さんの肩は震えていた。
その様子からして、箒さんもかなり大変な思いをしたようだ。そう思うと俺自身怒る気にはなれなかった。
というか最初から怒ってないし。全員無事で俺もそこまで後遺症残らないって話だしなぁ。
「えっと、とりあえず箒さん、顔を上げてください。俺は別にそこまで怒ってませんから」
「ッ、ほ、本当に?」
おずおずと言った様子で顔を上げる箒さん。しかしその表情は今も怯える小動物のようだ。困惑し、こちらの言葉を疑っているようにも見える。
「えぇ、本当です。そりゃ確かに痛い想いはしましたけど、幸い後遺症などは残らないそうです。傷跡くらいは残るかもしれませんが、まぁこれは名誉の負傷って奴ですよ。はは、いっ!?」
少しでもフォローしようとして、腕上げようとしたら痛みがっ!?いててっ!!
「ちゅ、中條ッ!?」
「あっ、いやっ!大丈夫ですよこれくらいっ!いててっ」
箒さんが今にも泣きだしそうな表情で声を上げるもんだから、思わず制止しちゃったけど、いてて。……う~、腕は痛いけど、今は……。
「箒さん。改めて言いますけど、俺は怒ってません。少なくとも俺は、あの時の自分の行動が間違いだったなんて思ってません。俺はあなたを守れた。その事実が、今の俺にとっては一番大事な事なんです」
「中條。だが、お前は怪我を……」
「えぇ。……正直、あと少し威力が高かったらと織斑先生から言われた時は、背筋が凍る思いでした」
思い出すだけでも体が震える。この腕の、肘から先が使い物にならなくなっていたらと思うと、恐ろしい。
「でも、思うんです。じゃあもし、あの場で俺が箒さんを庇って居なかったら、どうなっていたかと。それを考えるのもまた恐ろしいんです」
「……」
もしあの時、俺が箒さんの盾にならなければ、彼女はどうなっていたか。その先は、考えたくない。箒さんも最悪の未来を考えたのか、その表情は暗い。だがその未来はやってこなかった。俺が文字通り体を張って阻止したのだから。
「でも現実は違う。俺は箒さんを守りきれたし、結果的に俺の傷も大した事はありませんでした。それなら俺の傷も、決して無駄じゃないって思えるんです」
そうだ。この腕の傷は、名誉の負傷だ。痛みはある。恐怖もある。けれど誰かを守るために付いた傷ならば。それは俺が箒さんを守れた『証』だ。
「だからどうか、笑ってください箒さん。それが今の俺にとって、何よりも代えがたい、あなたを守り抜いた勝利の証なのですから」
「ッ。……中條、お前は本当に優しいな」
そう言って箒さんは、目尻に涙を浮かべながらも、笑みを浮かべていた。
「ありがとうございます。今はその言葉だけで十分です」
彼女の微笑みが、今の俺には最高の勲章だ。っと、どうせだ。気にしてはいないが、ちょっとだけ揶揄ってやろう。と俺は内心悪い笑みを浮かべた。
「まぁ、箒さんはあんな所で危険な目に遭ってる場合じゃありませんもんね」
「?それはどういう意味だ?」
目尻に涙を貯めつつも、キョトンとした表情で首を傾げる箒さん。っと、ここには鈴さんも居たな。俺はチョイチョイ、と手招きをして箒さんを近づけさせ、耳打ちをした。
「まだまだ恋の争奪戦は始まったばかりなんですから、あんなことで怪我してる場合じゃないですよね?恋のライバルだっているんですから」
「なっ!?なななななっ!?」
俺の言葉を聞くと、箒さんは耳まで顔を赤くした。と、そこへ。
「お~い鋼司、とりあえずオレンジジュース買ってきたけど……」
「い、一夏ッ!?」
タイミングが良いのか悪いのか、戻って来た一夏。
「えっ!?どうしたんだよ箒っ!?なんかメッチャ顔赤いぞっ!?」
一夏が来たタイミングで振り返ったもんだから、箒さんは真っ赤になった顔を見られてしまった。更に一夏が、顔の赤い箒さんを心配して彼女に近づく。
「もしかして風邪かっ?なんか目元のクマも酷いし……」
「う、あっ、あぁっ!み、見るなバカァッ!」
すると、顔を真っ赤にした箒さんが駆けだした。いや、逃げ出した。
「ちょっ!?箒ッ!?と、とりあえず鋼司これ、置いとくからなっ!」
一夏は戸惑った様子で買ってきたジュースを俺の傍の椅子の上に置くと、箒さんを追いかけ始めた。
「どこ行くんだよ箒~!って言うかお前鋼司と仲直りできたのかよ~!?」
「な、仲直りは出来たからッ!追いかけてくるなバカ~!」
遠ざかって行く2人の声が面白いのなんの。
「く、くくっ!あはははははっ!!」
ダメだッ、笑いが堪えられねぇっ!
「ひ~ひ~!イててっ!」
笑うと傷に響くが面白過ぎてダメだっ!
「笑いすぎでしょ」
すると、今までの事を見守っていた鈴さんが呆れた様子で声をかけて来た。
「ったく、怒ってないって言っておきながらちゃっかり仕返ししてるじゃない?ねぇ?」
「仕返しって、ハハッ。人聞き悪いなぁ。俺は事実を言っただけですから」
「あっそう」
鈴さんは呆れた様子のまま息をついた。
しかし、すぐにその表情が笑みに代わる。
「まっ、それくらい悪ふざけが出来るのなら心配無さそうね。安心したわ」
「ははっ。まぁそうですね」
その言葉に相槌を打ちつつ、ふとある事を俺は思い出した。
「そう言えば、試合とか手紙の件、どうなったんですかっ?」
試合はあの無人機のせいで台無しだ。しかし手紙の件は鈴さんや一夏の今後に関わる物だ。何より俺もそれに関わっている人間として気になった。
「あぁ、あれなら白紙よ。あんなことがあった後だしね」
「えっ!?良かったんですかっ!?一世一代の手紙を渡すチャンスなのにっ!?」
「良いのよ、別に今じゃなくて」
驚く俺とは対照的に鈴さんの声色や表情は軽い。少なくとも嘘を言っているようには見えない。その様子に俺が内心戸惑っていると、鈴さんは笑みを浮かべながら話し始めた。
「そりゃね、手紙とは言えそれを渡すだけでも私にとっちゃ一世一代の告白な訳だし。今を逃せばもう二度とチャンスは巡ってこないんじゃないかって思うところもあるわ」
ならどうして?という言葉を俺が呟く前に、鈴さんは真っすぐな瞳で俺を見つめた。
「でもね。手紙を渡すのは、私が一夏に勝ったらって話だったじゃない。でもあの試合は流れちゃったし。だからまたの機会にするわ。……あいつの事で、約束を破りたくないから」
「鈴さん」
彼女の目は、表情は、真剣そのものだった。一夏の事で約束を破りたくない。それこそが、鈴さんの一夏への思いの強さを表しているように見えた。……それが彼女の選択なら、俺は何も言わない。
「分かりました。それが鈴さんの選択だというのなら、俺は何も言いません。俺はあくまでも協力者ですからね」
俺はただの協力者だ。これ以上の口出しは野暮ってもんだろう。
「そう。まぁとにかく、元気そうな姿が見られて良かったわ。んじゃ、しっかり休んで早く復帰しなさいよ?まだまだ頼らせてもらうんだからね」
「はい、分かりました」
「じゃあね」
鈴さんはそう言って笑みを浮かべると部屋を出ていった。
さて、これでとりあえず一夏たちとは話せたな。とはいえ、まだまだ腕の痛みがあるのも事実。ハァ、俺が退院できるのはいつかなぁ?
俺はベッドの上で暇な時間を過ごす事しか出来なかった。
~~~~~~
一夏たちが病室を訪れたその翌日の午後。俺は退院する事が出来た。流石はIS学園。治療設備なども凄まじい。詳しい説明は覚えていないが、どうやら医療用のナノマシンを使ったようだ。……とはいえ、今もまだ鈍い痛みが続いているし、下手に触るな。運動も禁止。お風呂もまだダメ、と色々言われてしまった。
「それじゃあ中條君。私はこの後も授業がありますので教室の方に戻りますが、1人で部屋に戻れそうですか?」
「はい、大丈夫です」
退院の事を告げに来てくれた山田先生。一夏たちはまだ授業中だが、今のこの腕ではまだ授業には復帰できそうに無い。
「では、私はこれで」
「はい。っと、そうだ山田先生ッ!一つ聞いて良いですかっ?」
ふとある事を思い出し、俺は咄嗟に山田先生を呼び止めた。
「はい?何でしょう?」
「俺の相棒、黄匠は今どこにいますか?」
俺はまだ、会わなければならない相手が居た。
その後、山田先生から黄匠がアリーナの格納庫に居る事を教えられ、中に入る許可を貰うと足早に黄匠の元に向かった。
教えられた格納庫の扉を開け、中へ入る。中は薄暗く、明かりもついていない。俺は壁際のタッチパネルを操作し、明かりをともした。そこには訓練用の打鉄などが並べられており、それらに混じって黄匠が鎮座していた。
俺はすぐに黄匠の傍に歩み寄る。今の黄匠は待機状態のまま、ただ静かにそこに座っていた。俺は彼女の前に歩み寄り、優しく装甲版に右手を添えた。
≪黄匠。黄匠≫
手を添え、目を閉じ、心の中で彼女に呼びかける。最初は、何の反応も無かった。けれど、だからって諦めてたまるか。今俺は、彼女と話がしたいんだ。
≪黄匠。頼む、答えてくれ。俺は君と、話がしたいんだっ!≫
願った。彼女と話がしたいと。と、次の瞬間、まるで意識が黄匠の中に吸い込まれるような、そんな感覚に襲われた。
~~~~~~
「はっ!?」
一瞬の暗転の後に覚醒する意識。咄嗟に周囲を見回すと、そこは真っ暗な場所だった。ここは?と思いつつ周囲を見回した時、見つけた。真っ暗な世界に1人で佇む、白いワンピースを着た女の子を。その子の髪色は、黒く一部に黄色いメッシュが入っていた。
その子を俺は知っている。
「黄匠ッ」
その子は、黄匠だ。直観的にそれを理解した俺は彼女の元に駆け寄った。しかし……。
「ごめんね、コージ」
「えっ?」
彼女はその瞳に、空のように蒼い瞳に、涙を貯めていた。
「私が、私が弱いせいで、コージが、怪我、しちゃって。私の、せいで。う、うぅ」
彼女は泣いていた。俺の傷を、自分のせいだと思って居るのか。……あの夢と同じだ。でも今は違う。俺のこの手は、彼女に届く。
俺は静かに黄匠の前に歩み寄る。それだけで彼女はビクッと体を震わせた。俺が怒っていると思って居るのか?叩かれる、とでも思って居るのだろうか?
だがそんな事はしない。俺はただ……。
「えっ?」
彼女を優しく抱きしめた。
「それは違うよ黄匠。この傷は黄匠のせいじゃないさ」
「ッ!で、でもっ!私がもっと強かったら、コージは傷つかずに済んだかもしれないっ!私が、戦闘タイプのISだったらっ!」
「そんな悲しい事、言わないでくれよ、相棒」
「え?」
戦闘タイプだったら、という言葉に俺は、悲しくなった。俺が彼女に求めるのは、そんなものじゃない。
「俺は、今のままの黄匠が良いんだ。誰かを守るために、誰かを助けるために生まれた、そんな黄匠が好きなんだ。だから、そんな悲しい事、言わないでくれよ」
彼女にそんな事を言わせてしまった弱い自分へのやるせなさと後悔で、俺の表情も歪む。
「コージ。……ごめん」
彼女は泣きそうな俺の顔を見ると、目を伏せ謝罪した。あぁ、ダメだ。今は彼女にそんな事を言わせたいんじゃない。
「良いんだ、黄匠」
今は彼女の暗く沈んだ彼女を、いつものように元気な彼女に戻す。それが今、俺のやるべき事。彼女のパートナーである俺の務めだ。
「それにな、黄匠。もし君が戦闘タイプのISだったら、俺はもっとひどい事になっていたかもしれないんだ」
「えっ?ど、どういう事っ!?」
彼女は驚いた様子で問いかけてくる。
「黄匠はさ。誰かを守るために、元々防御性能が高めに設定されているんだろう?」
「う、うん。だからシールドとかの強度には自信があるよっ!ある、けど。でもあの無人機の子には、貫かれちゃった、けど……」
「いや、むしろ俺は黄匠の高い、その防御性能に助けられたんだ」
「え?」
「……もし、今の黄匠より防御性能が劣るISだったら。あの時以上にビームの威力を殺しきれなくて、下手をすれば俺の左腕はレーザーで千切れ飛んでいたかもしれないんだ。そうでなくても、骨と神経をやられて左腕は使い物にならなくなったかもしれないんだ」
「そ、それじゃあ……」
「あぁ。この傷は黄匠のせいじゃない。いやむしろ、黄匠が俺の相棒でいてくれたから、この程度で済んだって、俺は思ってる」
俺の腕があの程度で済んだのは、黄匠のおかげだと俺は思って居る。だから俺は、感謝の言葉を伝えないと。
「だから黄匠。『ありがとう』。君が俺のパートナーでいてくれたから、俺は皆を助けて、箒さんを守る事が出来たんだ。そして今、落ち込んでいる黄匠に俺の想いを伝えたい」
あぁ、これから言おうとする言葉は、正直恥ずかしい。けれど伝えなければ。俺の想いを。大切な相棒に。
「俺は君と出会えた事を、後悔なんかしていない。こんな傷の事だって気にしてない。それよりも、黄匠が居てくれたからあの時俺は皆を助ける事が出来たんだ。そのことを俺は感謝しているし、俺に君以上の相棒が見つかるなんて思ってない。だから黄匠」
あぁ、このセリフは告白じみてる、なんて頭の片隅で思いながらも、俺はその場に膝をつき、言葉を続ける。
「これからも俺の相棒として、一緒に空を飛んでくれるか?」
目線の高さを合わせ、真っすぐ彼女を見つめる。そして彼女の返答は……。
「ッ!コージッ!コージッ!」
「っと」
彼女は大粒の涙を流しながら、俺に飛びついて来た。俺はそれを受け止め、優しく頭を撫でる。
「私も、私もッ!コージと一緒が良いっ!コージ以外の人はヤだっ!」
「そっか。じゃあ、これからも一緒だな。相棒」
「うんっ!うんうんっ!コージの相棒は、私なんだからっ!」
彼女は涙で頬を濡らしながらも確かに笑みを浮かべていた。まるで夏に咲くひまわりのような屈託のない笑みこそが、彼女には相応しい。
「これからもよろしくな、黄匠」
「うんっ!コージッ!」
これで、彼女の中にある不安は取り除けたはずだ。それから俺は、少しばかり黄匠と話をしてから、意識が現実世界へと戻った。
~~~~~~
「ッ!」
不意に、意識や視界が現実世界へと戻る。驚きながらも目の前には待機状態の黄匠が。意識が現実世界に戻って来たのか。ふぅ、いきなりはちょっとびっくりしたが。まぁ黄匠を元気づける事が出来て良かった。
俺は、目の前にある黄匠の装甲版を優しく指先で撫でながら言葉を続ける。
「これからもよろしくな、相棒」
そう言って彼女を優しく撫でると、次いで『明日辺りには迎えに来れると思うから』とも告げ、その場を後にした。
しかし寮への帰り道。何故か少しだけあの夢の中での黄匠の言葉が、もっと強くなる、という彼女の言葉が妙に引っ掛かっていた。
だがすぐに俺は頭を被り振った。あれは俺が見た悪夢のはずだ。実際黄匠は元気になったんだし、あれはただの夢だ。俺は、そう頭の中で何度も言い聞かせ、これ以上あの夢の事は、考えないように将と心に決めた。
~~~~~~
鋼司が去った後の格納庫内部。そこに置かれた黄匠のコアは……。
「コージ、コージ。大好きだよコージ。私は、そんなコージを守りたいの。だから私は……」
「もっと、もっと、強くなるからね?コージ」
誰に聞かれる事の無い独り言をつぶやき続けているのだった。
第9話 END