インフィニット・ストラトス~~ロボッツハート~~ 作:ユウキ003
~~~前回のあらすじ~~~
ごく普通の中学生であった中條鋼司。彼は祖父の影響から整備士やメカニックの職業に憧れを持ち、日々周囲から修理を依頼されそれを直しつつもごく普通の日常を送っていた。しかしある日、女性しか動かせないと言う点から女尊男卑の思想を生み出す元となった超常兵器、『IS』の男性パイロットが見つかったと言うニュースが世界中に拡散された。次いで、第2の男性ISパイロットを探すための検査が行われ、鋼司もこれに参加する事に。しかし彼は会場で検査に使われたIS、打鉄が壊れている事を見抜き、これを応急的な処置だが修理を施す。しかし直後、彼はなぜかIS、打鉄を起動してしまうのだった。
会場で、俺がISを纏った一件から早数週間。俺は今、日本政府の保護下に置かれていた。あの時俺は、なぜかISの打鉄を起動、正確には纏ってしまった。それから1時間もしない内に、俺は黒いスーツのおっさん達に周囲を固められながら、リムジンに乗せられどことも
知れぬ某所へと連行された。そこで待っていたのは、訳も分からず連れてこられた俺の両親と祖父母。俺は父さんたちに事の次第を話した。最初は皆信じてくれなかったけど、あの会場で俺が打鉄を纏う様子を映した動画を見たら、あんぐりと口を開けて呆然としていた。
その後、政府のお偉い役人さんが来て俺等に色々説明してくれた。まぁ当然だと俺は内心思った。男のISパイロットなんて、それこそ各国の政府や企業から見れば、貴重なんてレベルじゃないくらい重要な『サンプル』だ。下手すりゃ人体実験に生きたまま解剖なんてのも……。お~やだやだ。俺はまだ死にたくないっつ~の。
で、結局俺は今世界で一番か二番目くらいに狙われてる最重要人物だから、国民の安全を守る為に日本政府が保護した、とか言ってたが。要は日本政府も俺を早々他国や企業なんかに渡したくないんだろう。
結局、俺達は外部との一切の連絡手段を絶たれ、1箇所に纏まってるのは危険だからと、別々の場所に分けて保護された。そして、世間の様子を新聞で見れば、またしても色々荒れていた。国際的な物も、世論もだ。
まず第1に、各国は男のISパイロットを二人も持っている日本を非難し、二人目については国の所属にするのはおかしいと言って居る。これ、要は自分の所に引き込みたいだけだろ。一方の日本政府は、二人とも日本国民だからこそ日本政府が守る事になんの問題も無いと言って反論している。まぁこっちも、みすみす二人目の男性ISパイロットを手放したくないんだろう。どっちも見え見えだなぁ。
次に世論の方だが、こっちも大盛り上がりだ。男達は、ISが女にしか動かせない、と言う事実が女尊男卑主義を生むための『やらせ』で、実は男にも少なからず適性があるのでは?と疑う者まで居る。一方の女たちは、男性ISパイロットの方がやらせだと言う。しまいにはその論争が激化していると言う。
ハァ、どうしてこうなったんだ。俺は別に、普通の整備士になれれば良いと思って居た。アニメやドラマの主人公みたいに波瀾万丈な人生を望んでる訳じゃない。俺が望んでいたのは、普通な生活だった。
……だけど、人生は思い通りに行かないか。
「ハァ。俺、これからどうなんのかなぁ」
俺は、誰も居ない部屋で一人そう呟いたのだった。
そして、人とまともに会えない日々が続いたある日。
俺の所に二人の女性が会いに来た。一人はあの会場に居た緑色の髪と眼鏡が特徴的な、確か山田先生とか呼ばれてた人だ。で、問題はもう一人だ。
その人は、かつて開催されたISパイロットの頂点を決める大会、モンド・グロッソ第1回大会で優勝し、『ブリュンヒルデ』の二つ名を持っている、正真正銘『人類最強』と呼べる
女性、『織斑千冬』さんだ。ISに疎い男でも、その名前を知らない奴はいないだろうって位の有名人であり、ISのパイロットを目指す女子達の憧れの的。それが今俺の目の前にいるって訳だ。
「単刀直入に言わせて貰おう」
やがて、その千冬さんが真っ先に口を開いた。
「お前には、『IS学園』に入学して貰う」
「は、はぁ」
IS学園。そこは、日本の海上に創られた人工島にある、ISのパイロットやメカニックを育成する国立の学校だ。
「理由は、まぁ聞かなくても分かりますけど、俺の保護、みたいな物ですか?」
「ほう?察しが良いな」
「えぇまぁ。ここってオフラインなんでネットゲームとかも出来なくて、やることと言えば延々何かを考えるか本を読むくらいしかやる事なくて。で、俺って一応、パイロット適性があったみたいですし……。IS学園は如何なる国や組織の干渉も受けない、でしたよね?だから、ですか?」
「そうだ。お前にはまず何よりも後ろ盾が無い。外に居たのではまず間違い無く命を狙われるだろう」
「で、ですよね~。ハァ、どうしてこんな事に。俺は普通の生活さえあれば良かったんだけどな~」
俺はため息交じりに項垂れる。
「……たらればの話になるが、ならば何故あの会場で打鉄を修理した?」
「え?」
「あそこでお前が打鉄を修理しなければ、お前に適性があったとしてもこうして最重要人物になる事は無かったはずだ」
それもそうか。けど……。
「いやぁ、俺自身、適性があるなんて微塵も思ってなかったですし、それに……」
「それに?」
「あの子は怪我をしてました。だから俺は機械の医者、メカニック志望の人間として、あの子の痛みを少しでも和らげてあげたかったんすよ。ただ、それだけっす」
これが、俺の本心だ。紛う事なき意思だ。目の前に怪我をしている人が居たら助ける。同じ事だ。壊れた機械があるのなら、直してやりたい。整備士、メカニックとして、人として当たり前に思う事を実行しただけだ。
「では、お前は打鉄を修理した事に後悔は無いと?」
「無いです」
織斑さんの言葉に、俺は即答する。
「例え半人前でも、俺は整備士、メカニック志望です。そして、俺はメカニックとして当然のことをしたまでです」
確かに、現状に『不満が』無いと言えば嘘になる。俺はこんな人生を望んでいた訳じゃない。だがそれでも、俺はあの選択を『後悔は』していない。それだけはしない。
「そうか。……ISをあの子、などと表現する男は初めて見たよ。私も」
そう言って、少しばかり苦笑を浮かべる織斑さん。
「で、結局俺、IS学園に入るんですけど、どうするんですか?学力試験とか。確かIS学園って普通の学校とかと試験の内容全然違いますよね?」
「あぁ。なので、これからお前には筆記試験とISの実技試験等々を受けてもらう」
「あぁやっぱりっすか」
そりゃ、ISの学園だからISの実技試験とかあるよなぁ。けど、俺ISの実技関係はからっきしだ。と言うか学ぶ機会なんて男なら無いしな。精々ハード面での知識とシステム面で知識が少しあるだけだ。自信ねぇなぁ。
などと考えながら、俺は今後の細かい日程を聞いていた。
そして、その話が終わった時だった。
「中條」
「え?はい」
何故か織斑先生に呼び止められた。ちなみに織斑さんを先生と内心呼ぶのは、学校で織斑先生のクラスに配属になるだろうから、との事だ。そしてここに居るのは俺と織斑先生だけ。山田先生は連絡が入ったとかで今は席を外している。
「お前に、個人的に聞いておきたい。男のお前から見て、ISとは何だ?」
「……何だ、とは?」
「今のは大雑把な質問だったな。ISについてお前の主観的な意見を答えろ。……世の男達にとってISとは、例えば、女尊男卑主義の象徴。そう捉えている者が多いだろう。或いは、今と言う歪な社会を形成した大本と言っても良いかもしれない」
「……」
女尊男卑主義の象徴、か。俺は無言で考え込む。確かに、その考えは理解出来る。だが、それでも……。
「そう、ですね。俺にとって、ISは『人類の新しいパートナー』、ですかね」
「パートナー、だと?なぜそう思う」
織斑先生は俺の答えが予想外だったのか、少し驚いたような表情を浮かべている。
「……近代、人類史の発展は技術の発展と隣り合わせでした。技術の発展が人々の生活を豊かにし、今では冷蔵庫などの家電までもがネットに繋がる時代です。そして、今の社会はそう言った情報技術の上に創られた物です。PC、スマホ、タブレット。人はそれらを通して世界や人と繋がっている。今の人類社会は、技術、もっと言えばシステムがあって初めて成立します。ISしかり。鉄道や車、飛行機。家もです。機械という『パートナー達』の力を借りて、今俺達は生きている。そして、俺は思うんです。ISは、そんな中でも一番新しい、人類を支えてくれるパートナーなんじゃないかって」
「……。ISが、パートナーか。だが、それが原因で女尊男卑主義が誕生したのも事実だろう?」
「確かに、そこにISが無関係という訳ではありません。でもその大本はISじゃない」
そう言って、俺は静かに首を振る。
「『人のエゴ』です。道具自体に善悪はありません。それを悪にも善にも変えるのは人です。そもそもISは誰かを傷付けるために生まれてきた訳じゃないはずです。……本当は、俺達人類と一緒に、空を駆ける相棒だったはずなのに……」
人のエゴが、ISと言う存在のあり方を歪めてしまったんだ。『他者よりも強く』。そんな人の闘争心が、エゴが、ISを『道具』から『兵器』に変えてしまった。
じいちゃんが言ってったっけな。
「人間の側が間違いをおこさなけりゃ、決して機械も悪さはしねぇもんさ」ってな。
「本当に悪いのは、人ですよ。ISじゃない。ISを、自分達の欲望のために利用する奴らこそが、俺は本当の悪だと思ってます」
俺は、真っ直ぐ織斑先生を見つめながら語った。自分の意思を。考えを。
すると……。
「……お前のような人間が、もっと早く束と出会って居たなら、もう少しましな未来になっていたかもしれないな」
「え?」
不意に、織斑先生が小さな声で呟いたが、俺には良く聞こえなかった。
「何でも無い。話し合いはこれで終わりだ。もう部屋に戻れ」
「は、はい」
その後、俺は部屋に戻ったが、最後に織斑先生は何を呟いていたのか、少し気になった。
それから数日。勉強のための時間が与えられた。ただしISの方は無し。なぜならISはその貴重性ゆえ、IS学園入学を最初から考えていた者でも試験で初めてISに触るからだ。
そして、数週間後。俺は学力テストを受けたがこちらは何とかクリアした。一方のISの実技試験の方はと言うと……。
「どうせだ。私が相手をしてやろう」
何故か試験会場に行くと、そこには打鉄を纏った『最強』、ブリュンヒルデが立っていた。
「あ、部屋間違えました」
俺はすぐさま部屋を出て行こうとするが……。
「間違ってません!間違ってませんから!」
同行していた山田先生に止められた。
「え?俺に死ねと?え?俺死刑宣告されるような事しました?」
意味が分からない。なぜ俺が最強に戦いを挑む事になるんだ?俺に死ねと?
「何が死刑宣告だ馬鹿者」
すると、織斑先生が俺の方に声を掛けてきた。
「いや、だってド素人の俺に最強と戦えなんて、死刑宣告以外の何者でもないじゃないですか」
「馬鹿者。誰が本気で行くと言った。それにこれは試験だ。お前のISに対する適応度を見るための物だ」
「マジですか?獅子は兎を狩るにも全力、みたいなノリで俺を仕留めに来ませんよね?」
「何だ?本気で行った方が良いのか?」
「いやダメでしょ!俺死ぬ!死にますよ!ブリュンヒルデに本気出されたらペーペーの俺が生き残れる訳ないじゃないですか!」
「分かっている。だから貴様の力を見るだけだと言って居るだろう。適当に相手をしてやるから、さっさと準備をしろ」
「は、はいぃ」
その後、俺は急造の男性用ISスーツを着て、打鉄を纏う事になったのだが……。
「あれ?」
目の前に座る打鉄を見た時、ふとある事に気づいた。
「もしかして、この子ってあの時の」
それは、あの日俺が修理した打鉄だった。
「ほう?やはり分かるか?」
「え、えぇまぁ。曲がりなりにも、自分が修理したISですから」
「そうか。では、早速試験だ。早くそれを纏え」
「あ、はい」
織斑先生に促されるまま、俺は打鉄に触れた。
何かが流れ込んでくる感覚。その時。
≪また、会えた!≫
ッ、まただ。
装着を終え、目を開けた俺は周囲を見回す。確かに聞こえた。今も、あの時みたいに。
「……どうした?」
そんな俺の様子を訝しんだ織斑先生が声を掛けてきた。
「あ、いや。……今、誰かの声が聞こえた気がしたんですけど……」
「そうか?私は何も聞こえなかったが。気のせいじゃないのか?」
「そう、ですよね」
その後、改めて試験を行ったが……。
やっぱり敵うわけ無かった。
「ぜぇ!ぜぇ!やっぱり、ダメ、か」
俺は、荒い呼吸のまま地面の上に四つん這いになっている。
初めてISに乗ったのもそうだが、相手が相手だ。どれだけ攻撃しても、涼しい顔して躱されるかいなされる。しまいにはアサルトライフルぶっ放したのに銃弾全部、ISサイズの剣でたたき落としてたし……。
「ふむ。こんな物か」
今だって汗一つかいてねぇし!って言うか残念そうな顔しないでくださいよ!ド素人に何期待してるんですか最強が!
「機械系に詳しいから、どんな物かと思って居たが……」
「あ、あのね先生。機械に詳しいからって、それがパイロットやったって強く、ハァ、ハァ、なれる訳ないじゃないですか、ぜぇ、ぜぇ。……あぁ、もうダメだ」
何だか四つん這いで居るにも億劫になったので、俺は大の字に寝っ転がった。
「だ、大丈夫ですか?中條君」
「だ、ダメです。ぜぇ、ぜぇ。ち、ちょっと休ませて下さい」
俺は仰向けのまま、しばし呼吸を整えていた。深呼吸し、上がった息を落ち着けていた時。
≪お疲れ様≫
ッ。また、どこからか声が聞こえた。俺は左右を見回した。そして気づいた。俺の左隣に、女の子が立っていた。顔を見ようと視線を上に上げるが、次の瞬間天井のライトの光が目に飛び込んできて、俺は慌てて目を瞑った。そして、もう一度目を開けてみるが……。
そこには誰も居なかった。
「……。疲れてんのかなぁ、俺」
この歳で幻覚見るとか。……今度、病院行ってMRI取って貰った方が良いのかなぁ。などと考えながら、俺は明るい天井を見上げているのだった。
そして月日は流れ、春。俺は世界でたった二人の男性ISパイロットとして、ISの扱う者を育成する学園。『IS学園』に入学する事になった。
ふと窓の外に目をやれば、そこには青空が広がっている。あぁ~。綺麗な空だな~。などと考えながら、俺は現実逃避をする。え?何で現実逃避してるのかって?……辛いんだよ。視線が。
ちらりと周囲を見回せば、周りは女子女子女子。
女子だけ。唯一俺の右隣にもう一人の男が居るだけで、あとは全員女子ばっか。
もうね、視線の集中砲火だよ。背中に視線と言う名の槍が何本も突き刺さってるんだよ。ちょっとでも動くとこっちに視線が集中するんだよ!辛いんだよ畜生!お願い見ないで!緊張で腹痛くなりそう!だからこそ!全力で現実逃避をするっきゃ無い!けど現実逃避したって何も変わらない!お願い誰かこの状況なんとかしてぇぇ!
「みなさん、おはようございます」
その時、教室の扉が開いて山田先生が入ってきた。あぁ!これで朝のHRが始まる!少しは
俺への視線の槍も減るだろう!俺は、何の根拠も無くそう思った。
数分後。結論。ダメでした。
ガン無視だよ!先生何言っても生徒が反応しないんだよ!もうちょっと反応してあげようよ!ほらもう山田先生泣きそうになってるよ!俺も緊張で何も言えなかったけどさぁ!
そんなこんなで生徒達の自己紹介が始まる。そして、その順番が俺の隣の男へ行く。何やら山田先生とやり取りをした後、徐に立ち上がる男子。
「えー……えっと、織斑一夏です。よろしくお願いします」
直後に沈黙する男子改め織斑。そうか。こいつが織斑先生の弟の。等と俺は内心納得していた。していたのだが。
…………。って、え?それだけ?きっと、俺だけじゃない。他の女子達もそう思っただろう。
他にも何か喋ってよ、って言いたげな女子の視線が織斑に突き刺さる。
しかし……。
「以上です」
それだけだった。
ずっこける女子達が数名。
俺は苦笑を浮かべていた。しかし、次の瞬間。
『パァン!!』
甲高い音が響いた。
それは出席簿で織斑の頭をひっぱたいた織斑先生の物理攻撃だった。俺は内心「うわぁ痛そぉ」とか思っていた。すると織斑は、何を思ったのか自分の姉を三国志の英雄の関羽と勘違いしてもう一発出席簿アタックを食らっていた。
何やってんだか、と思う俺だったが、次の瞬間にはクラスメイト(女子)たちの黄色い悲鳴の嵐によって慌てて耳を塞ぐハメになった。っつか、北九州から来たとか言ってた子がいたな、今。
俺は織斑と織斑先生のやり取りを見ながらふと、先生ってやっぱ女子からの人気高ぇんだなぁと思って居た。
のだが……。
「さて、時間も差し迫っているので、最後は。中條」
っと、俺が呼ばれた。
「はいっ」
名を呼ばれたのもあって、咄嗟に立ち上がる。するとまぁ再び視線が俺に集まる集まる。俺の隣に位置している織斑一夏も興味津々って感じで俺を見てるし。
「お前はここにいる織斑と同じ第2の男性ISパイロットだ。もう1人の男として一応挨拶をしておけ」
「は、はいっ」
頷き、俺は後ろを向くが、やはり集まる視線の雨あられ。うぅ、緊張で腹が痛くなりそうだが、やるしかねぇなぁもう!
「えっと、はじめまして。中條 鋼司と申します。しゅ、趣味兼特技は機械弄りです。これでも電話、テレビ、エアコンとかの修理経験があるんで、まぁ、そっち系で困ってたら相談受け付けます。はい」
「「「「「………………」」」」」
し~ん。
そんな擬音が俺には聞こえた。
「い、以上です」
俺は戸惑いながらもいそいそと席に着く。……分かってたよ!織斑の前例があったから!でも自己紹介して無言ってちょっと無いんじゃないの!?
とか俺は思っていた。
こうして、俺の波瀾万丈の高校生活が始まったのだった。
そんなこんなで早速1限目の授業が終わった時。ついて行ける。授業自体にはついて行けている。元々ISには興味があったから少し調べていたし入学にあたって勉強もしたからその辺は問題なさそうだ。だが周囲の状況が問題だ。
周囲のクラスメイト達もそうだが、廊下にも上級生の2、3年生を始め多くの女子が詰めかけている。これじゃあ動物園の珍獣扱いじゃねぇか。
「ハァ」
そんな現状に戸惑いを覚える俺。その時。
「あ、あの~」
ん?隣に居た織斑が立ち上がって俺の傍に近づいてくる。
「えっと、その、中條、って呼んで良いか?」
「え?あ、あぁ。別に構わないぞ」
いきなり話しかけてきたもんだからちょっと戸惑ったが、ふと思えば、仕方の無い事かもしれない。
周囲は見知らぬ女子だらけ。しかもこの扱いだ。同性の生徒はまず俺だけだからな。少なくとも女子よりは話しかけやすいんだろう。
そう思うと、俺は織斑に右手を差し出した。
「改めて、中條鋼司だ。たった二人の男同士、仲良くやろうじゃないか」
「っ!あ、あぁ!」
すると織斑も笑みを浮かべながら俺の手を取った。
「俺の事は好きに呼んでくれ。中條でも鋼司でもどっちでも良いぞ」
「そっか。じゃあ俺も一夏で良いぜ。織斑じゃ、千冬姉と被ってるし」
「OK。まぁこれからよろしくな、一夏」
「あぁ。こちらこそ、鋼司」
と言う訳で、俺にIS学園初の友人が出来ました。
「しかし、お互い大変だな。色々と」
「まぁなぁ。この状況とかもう訳分かんねぇよ。何で男の俺等にISの適性があるんだよ」
そう言って項垂れる一夏。
「色々急すぎるからな~。一夏が発見されて、大々的な検査する事になって。俺なんか適性あるなんて微塵も思ってなかったのによ。……お互い、人生設計が大変な事になっちまったな」
「全くだ」
俺達はたった二人の男、って事もあって俺等の会話は進むが、やはり周囲の視線が気になる。
と、そこへ。
「ちょっと良いか?」
「ん?」
誰かが後ろから声を掛けてきた。振り返るとそこには、黒髪ポニーテールで少々鋭い視線の少女が立っていた。
「……箒?」
ん?あれ?
「一夏、知り合いか?」
「え?あぁ、まぁうん」
おいおい、何だその曖昧な返事は。
「……中條、だったな。少しこいつを借りていくが、構わないか?」
「え?あ、あぁ。俺は別に構わないけど」
「そうか」
そして、そう言うと、箒、と呼ばれた少女は一夏を連れていってしまった。
何だ。一夏の奴知り合いがいたのか。あれかな?予想外の再会、的な奴か?積もる話がある、って奴かな。まぁ、折角の再会を邪魔する程俺は無粋じゃ無いし。次の授業の準備でもするか~。
とか思って居たが、俺は失念していた。
たった二人の男子の内の一人がいない、と言う事は俺に視線が集まる事を。
ぐぅっ!また視線の槍が俺に突き刺さってる!しかも廊下の女子達のもあるから凄まじい数の集中砲火だ!某ロボットアニメの中将が「戦いは数だよ兄貴!」とか言ってたが、成程。
確かにその通りだな。この数は凄まじい程の圧、プレッシャーを生み出している。
は、ハハハ。……一夏、出来れば早く戻って来てくれ。俺はそんな事を考えながら机に突っ伏すのだった。
ちなみに一夏は授業開始に間に合わなくて織斑先生から本日3度目の出席簿攻撃を食らっていたのだった。
その後、普通に授業が始まった。目の前にはバカみたいに厚い教科書5冊。今はISに関する法律の部分だ。正直、ISの整備やシステムに関してはそこそこ知識があったから問題無かった。法律関係の方も、まぁまぁついて行けてはいる。じゃあ何が問題なのかと言うと……。隣に座る一夏がメッチャ難しい顔をしてるんだよなぁ。
やがて、俺の方を向く一夏。
「な、なぁ。鋼司は大丈夫なのかよ?これ、分かってるのか?」
「あぁ、これでも趣味でちょっと調べたりしてたからな」
「ま、マジかよ」
小声で話していると、一夏が絶望にも似た表情を浮かべる。
その後、山田先生に聞かれた一夏曰く、「殆ど全部分かりません」、だそうだ。
「え?えぇ?全部ですか?えと、同じ男子として中條君の方はどうでしょうか?」
戸惑い気味に俺に視線を向ける山田先生。
「あ、俺の方は大丈夫です。今のところはついて行けてるので」
「そ、そうですか」
と言うと、山田先生は困り顔で俺と一夏を交互に見やっていた。
その時教壇の脇の椅子に座っていた織斑先生が立ち上がる。
「織斑、入学前の参考書は読んだか?」
参考書?あぁ、あのバカみたいに分厚い奴ね。と、俺が思っていると……。
「古い電話帳と間違えて捨てました」
『パァンッ!』
次の瞬間、織斑先生の出席簿攻撃が一夏の頭に炸裂し、俺はずっこけそうになった体勢を何とか戻す。
いやまぁ確かに電話帳みたいだけどもさぁ。捨てるのは流石に無いだろぉ。俺は、織斑先生から『一週間でやれ』命令を受けている一夏に苦笑を浮かべる事しか出来ないのだった。
ちなみにその後のやり取りで山田先生と一夏が盛大に色々かましていたが俺は飛び火を恐れて無視するのだった。
そして授業終了後。
「しかしお前、アレを捨てるってどんだけだよ。そりゃまぁ電話帳並みの分厚さだけどさぁ」
「いやまぁ、それはその……」
相変わらず周囲の女子達は寄ってこないので、男2人で揃って談笑していた。
「ちょっとよろしくて?」
「へ?」
「ん?」
不意に人影が近づいてきたのでそちらに目を向けると、そこには金髪縦ロールの女子がいた。その女子は一夏とのやり取りを始めるが、やれ『話しかけられただけでも光栄』とか、自分で入試主席とか言っちゃう辺り、自信家の女尊男卑主義者って奴だな。まぁ一夏に知らないって言われて戸惑ってるけど。
「あ、貴方はどうなのです?」
すると、今度は俺に話題を振ってきた。その目はまるで男を値踏みしているかのようで嫌いだが、仕方が無い。
「……まぁ、雑誌で少々ね」
俺はため息交じりに答え始めた。
「え?鋼司は知ってるのか?」
「あぁ。『セリシア・オルコット』。イギリスの代表候補生。同国の第3世代試作IS、 ブルー・ティアーズのパイロット。ってのが俺の知ってる情報なんだけど……」
「ふふんっ。そちらの貴方はまだマシなようですわね」
何がマシだ何が。と、俺は心の中で悪態をつく。
「なぁ鋼司、お前男なのに何でその辺り詳しいんだ?」
「俺は整備士、メカニック志望でね。昔っからそっち系の雑誌を色々買ったりしてたのさ。んで、雑誌の一部でIS特集やってたのに載ってたんだよ。現在開発が進んでいる最新鋭の第3世代機とそのパイロットとなりゃ、注目度は高いからな」
俺の言葉に、褒め言葉とでも思ったのか腰に手を当てて胸を張る女子改め、セシリア・オルコット。
「へぇ。じゃあ鋼司って将来的にISの整備士とかになるのか?」
「いや~その辺は全く考えてなかったからな~。まぁ、IS学園に来た以上はISに触れておくのも経験の内かなって思ってるが。実際、男でISに触れる機会なんて一生あるか無いかってくらいだし。いっそそっち系も視野に入れて勉強始めるかな~」
と、駄弁る俺と一夏。
「って!わたくしを無視しないでいただけます!?」
そこに割り込んでくるオルコット。ってまだ居たのかよ。
「それで、イギリスの代表候補生さんが俺達に何か用ですか?」
俺は個人的に言って女尊男卑主義者が嫌いだ。だからさっさと話を切り上げたかったんでとりあえず話題をそっちに向ける。
「わたくしはエリート中のエリートですわ。本来ならわたくしのような選ばれた人間とクラスを同じくするだけでも幸運、いえ、奇跡なのです」
…………。ハァ、何だこいつ。選民主義者?しかもナルシスト?お~やだやだ。俺が一番嫌いな手合いの人間だわこいつ。
俺はため息をつき、オルコットは一夏と色々話している。
「ISのことで分からない事があれば、まぁ泣いて頼まれたら教えて差し上げてもよくってよ?何せわたくし、入試で唯一教官を倒したエリート中のエリートですから」
ッ。……成程、大口を叩くだけの事はあるって訳か。入試で教官を倒すって事は、自分よりもパイロットとしてのキャリアが上の相手を倒したって事。正直、性格的には好かんが実力はあるって事か。
とか思ってたら、何と一夏も教官を倒したらしい。それに食ってかかるオルコット。
「あ、あなたはどうなのですか!?貴方もまさか教官を!?」
「ハァ?俺が?まさか」
そう言っておどける俺に、オルコットはどこか安堵したような表情を浮かべるが……。
「勝てるわけないだろ。何でか知らないが、俺の相手は『あの』織斑先生だぞ?」
すると、俺の言葉に周囲の生徒達が一斉にざわめき、オルコットも驚き表情を引きつらせる。
「え?鋼司お前、千冬姉と戦ったのか?」
「アレが戦いって言えるかどうか分かんねぇが、一応な。理由は知らねぇ。まぁ、あの人は涼しい顔して銃弾をブレードでたたき落とすは後ろから奇襲掛けても普通~にカウンター返してくるは。手も足も出ないとは正にこのこと、って感じな位にボッコボコにされたからな、俺」
「やっぱ強いんだな千冬姉」
「そりゃお前、世界最強のIS乗りだからな。俺みたいなズブのド素人相手じゃ敵う訳無いっての。軽くあしらわれ続けて終わりさ」
そう言って俺は降参するように両手をバンザイしてから椅子の背もたれに体を預ける。
っといけね。またオルコットの事忘れてた。そして俺達が視線を戻すと、そこではアイツがワナワナと震えていた。
「きょ、教官を倒したのならまだしも、ブリュンヒルデである、織斑先生と試合をしたですって?」
何に驚いてるんだこいつ。あれか?『男如きが織斑先生と手合わせするなんて!』的な?
「最初に言っとくが、あれは試合なんて呼べる物じゃなかったからな?俺が一方的に負けただけだぞ?」
って言うか、ホントなんで織斑先生が出張って来たんだ?未だにその事が謎だ。ワナワナと震えるオルコットだったが、鳴り響く予鈴の音を聞くと自分の席へと戻っていってしまった。
そしてその後、授業が始まった、かと思いきや、授業の前にクラスの代表を決める事になった。大体は普通の学校のクラス委員長と変わらないが、大きく違う部分もある。ここはIS学園ってだけあって、ISを使ってのクラス別の対抗戦なんかもあるから、クラス代表は、文字通りクラスの代表として対抗戦に参加する事になる。
「自薦他薦は問わん。誰か居ないか?」
そう言って周囲を見回す織斑先生。最初はみんなザワザワとしていた。俺や一夏も含め、皆自薦はしない。まぁ、それは時と場合によってはただのうぬぼれに見えるだろうからなぁ。
とか、俺が考えていると……。
「はいっ!織斑君を推薦しますっ!」
「私もっ!」
女子達数人が一夏を推薦し出した。
「お、俺ぇっ!?」
「じゃあ私は中條君でっ!」
「機械に詳しいって言ってたし、私も中條君でっ!」
驚く一夏。すると今度は俺に飛び火して来たぞ。
「マジか~」
一夏が織斑先生に抗議している隣で俺は頭を抱えてしまう。いや、確かに機械弄りは好きだし得意だが、それで俺が強いってのを=で考えるのはおかしいだろ。
とか、思ってると……。
「納得行きませんわっ!」
今度はオルコットが声を荒らげた。そのままオルコットは、俺や一夏を猿だとか、日本を極東の島国だとか、後進的だとか言って侮辱していた。そして、明らかに一夏が何か言おうとしていた。ここは止めるかぁ。
「そこら辺にしておいた方が良いんじゃ無いのか?」
俺は席を立ってオルコットを止めに入った。
「何ですの?何か言いたいことでも?」
「別に。ただ忠告しておくと、代表候補生って言うのは、国家代表の卵だろ?だとしたら、国の顔と言っても過言じゃない奴が、そんな気安く他国を侮辱して良い物かと思ってな」
そこまで言うと、オルコットは数秒してからその顔を青くし、押し黙った。どうやら俺の発言の意図を理解出来たらしい。今の発言、下手をすれば外交問題に発展しかねないからな。
とは言え、女子達が興味本位で俺達を推したのにも問題はある。そこにはオルコットの発言にも同意出来る物があるし、ここは……。
「織斑先生、ちょっと良いですか?」
「何だ?」
「クラス代表は今、推薦で俺と一夏で。あと、オルコットさんの発言から自薦って事でどうでしょう?」
と、俺が発言すると俯いていたオルコットが顔を上げた。
「そうなればクラス代表の候補が3人。なので俺達3人で総当たり戦をやって、一番勝率の高い奴がクラス代表って事でどうです?」
「ほう?そう考えた理由は?」
「さっきオルコットさんは、俺達の選出を興味本位だと言った。こいつは多分間違ってないと俺は思いましてね。実際、女子たちが俺達を選んだのも、男のパイロットって言う珍しさが理由でしょうし」
そう言って周囲を見回すと、女子達が一斉に俺から視線を逸らした。やっぱりな。
「それに、クラス代表は対抗戦などにも出るんだとしたら、やっぱりクラスで一番強い奴の方が良いと思いましてね。それに、口であ~だこ~だ言うよりは、実際に戦って相手を理解したり、或いは逆に相手に自分を理解させた方が手っ取り早いと思いましてね」
「だ、そうだが?どうなんだ。織斑、オルコット」
「俺は別に。それでも良いぜ。確かに四の五の言い合ってるよりはシンプルで分かりやすいし」
「わ、私も別に構いませんわ!イギリスの代表候補生の力、男に見せつける良い機会ですしっ!」
どうやら一夏とオルコットも異存は無いようだ。
「よし。では後日。織斑、中條、オルコットの3名によるクラス代表決定のための総当たり戦をやってもらう。そして、その中で戦績が最も優秀な者を代表とする」
こうして、俺は入学してから早速、トラブルに見舞われ、何の因果かクラスメイトと戦う事になったのだった。
第2話 END
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