インフィニット・ストラトス~~ロボッツハート~~   作:ユウキ003

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楽しんでいただければ幸いです


第2話

~~~前回のあらすじ~~~

ISの適性を見いだされてしまった男、中條鋼司。彼は保護という名目で監禁され、やがてIS学園に強制的に入学させられる事に。そんな中で彼は世界最強のIS乗り、織斑千冬と出会う。その後、試験などがあり、そして春。中條はIS学園へと入学。そこで千冬の弟であり同じく男性ISパイロットである一夏と出会う中條。しかし、入学早々、彼等はイギリスの代表候補生であるセシリア・オルコットと、クラス代表の座を賭けて総当たり戦を行う事になってしまうのだった。

 

 

そんなこんなで放課後。俺は教室に残って一夏に勉強を教えていた。理由は簡単。一夏に頼まれたからだ。と言っても、俺も理解してる限度があるから大して教えられている訳ではないが……。

 

と、そこへ。

「あっ。良かった~。織斑君も中條君もまだ残っていたんですね」

すっかり外が夕暮れでオレンジ色に染まり始めていた頃、教室に山田先生がやってきた。

「山田先生。俺と一夏に何か用ですか?」

「はい。二人の寮での部屋が決まりました」

「「え?」」

山田先生の言葉に、俺と一夏は戸惑った。

 

「あの、山田先生?俺ってしばらくは自宅から通うんじゃ?と言うか鋼司は?」

「俺も学園島向かいの町にあるホテルから、らしい。自宅からじゃここまで距離があるからな。……でも?俺もですか?」

お互いに説明し、俺達は山田先生の方へ視線を向けた。

 

先生曰く、俺達の事情を鑑みた結果、最優先されたらしい。

 

まぁ、確かに今の俺と一夏は、世界中の人間が欲しがるモルモットだ。ISに男が乗れない謎の解明へのモルモット。当然あちこちが欲しがってる。そしてそれは、他国の中でも非合法な活動を辞さない連中が出張ってきてもおかしくない。そんなのに攫われたらどうなるか。うぅっ、考えただけで寒気がするぜ。

 

って事で、俺と一夏は急遽学園の寮で生活する事になった。ちなみに、その時の一夏と山田先生のやり取りのせいで一夏にBL疑惑が掛けられ一部の女子達が盛り上がっていた。

 

そして俺は関係無いと言わんばかりにずっとそっぽを向いて黙っていたのだった。

 

 

んでもって下校後。俺達は渡された部屋の番号が書かれたメモとカードキー型の部屋の鍵を手に寮の廊下を歩いていた。

 

「え~っと。俺は1025室だな。鋼司は?」

「俺は1020室。少し離れるが近いな。っつか、男2人なんだから、俺等2人で相部屋じゃないのか?なんで男1人ずつ女子と相部屋なんだよ」

「確かになぁ」

と、そんな話をしながら歩いていると、一夏の部屋にたどり着いた。

「おっ。ここか」

「んじゃ、俺はここで。じゃあな一夏」

「おう。また明日な」

と、簡単な挨拶をして俺達は別れた。そして俺は更に数歩歩いて1020室を発見。……念のためノックするかぁ。いきなり部屋に入ったら女子が風呂上がりで、何てシーンに遭遇して訴えられても事だし。

 

まぁそんな偶然あるとは思ってないけど……

『コンコンッ』

「は~い?」

俺がノックすると、中から声が。しかも女子のだ。……やっぱり女子と同衾するのかよっ!

「あ~えっと。今日からルームメイトになりました、中條鋼司です」

「あ~はいはい。ルームメイトね~。どうぞ入って~。……ん?中條?…………えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

一拍の間を置いての絶叫。そりゃそうなるよなぁ。学園でたった2人の男の片割れが、自分のルームメイトなんだもん。

 

「あ~えっと。入っても良いですか?」

「ふぇっ!?あっ、ど、ど~ぞ~」

「お、お邪魔しま~す」

お互いどこか戦々恐々としつつも、俺はドアノブを捻って中に入った。

 

そして、中に入ると、そこには既にパジャマ姿の女子がいたのだが……。

 

「あ、あれ?」

俺には彼女に既視感があった。確か……。

「えと、もしかして同じクラスに居たよね?ごめん、まだ名前までは覚えて無いんだけど、確か席順で1番だったような」

「あ、う、うん。そうだよ。改めまして。私は『相川清香』。よろしくね、中條君」

「よろしく、相川さん。俺の事は中條でも鋼司でも、好きな方で呼んでくれて良いから」

「うん。じゃあ私の事は清香って呼んで。中條君」

「あぁ。よろしく清香。あ、ちゃん付けとかさん付けの方が良いかな?」

 

同世代の女性を下の名前で呼ぶのって、あんまり経験無いからそんな事を聞いてしまう俺。

「ううん。普通に清香で良いよ。私の方は中條君って呼ばせて貰うけど」

「そっか。分かったよ清香。改めて、今日からよろしく」

そう言って俺は右手を差し出した。

 

「う、うん。よろしく」

すると清香は少し顔を赤くしながら俺の右手を取った。後々考えれば、異性と握手なんてそうそう無いから戸惑ってるんだろうって俺は思った。

 

と、そんな事をしていた時。

 

「うわぁぁぁぁぁっ!!」

 

廊下から聞こえてくる男の悲鳴。ここで男の悲鳴って言ったら、俺以外1人しかいない。

「今の声、一夏か?」

「だ、だよね?」

 

何だろう?と野次馬根性で部屋の外を覗く俺と清香。

 

「あっ!?ねぇ皆ッ!こっちにもう1人の男子がいるよっ!」

「えっ!?マジマジッ!?」

えっ!?すると廊下には、何やらラフな格好の女子達が集まっていた。ちょっ!?皆部屋着なんだろうけど男の前でその服装は不味いだろ!?

 

俺は慌てて部屋の中に戻った。ったく、目の毒だなありゃ。とか思いながら、俺はため息を漏らすのだった。

 

ともかく、男と女の同棲になるので、清香とは色々話し合って決めたりしつつ、その日は色々疲れていたので早めに休んだ。

 

翌朝、食堂で朝食を取ったあと、朝のHRの時に一夏に色々聞いてみた。昨日の夜なんで騒いでたのか、とか。で聞いてみると……。

 

「へ~。じゃあのポニーテールの女子って一夏の幼馴染みなのか?」

「あぁ。小学生の頃のな。中学上がる前に引っ越ししてたから、もう6年ぶりくらいになるけどな」

「へ~。で、その幼馴染みが同室だったと」

「あぁ。まぁ、おかげで色々酷い目にあったが」

「それが昨日の夜の騒動って訳か。……まぁ、初対面じゃないだけまだマシじゃねぇの?じゃないとお互い気を使って部屋でも休めないだろ?」

「あぁ~。だから俺、箒と同じ部屋になったのかぁ」

「まぁ可能性の話だけどな」

 

何て事を話していると、予鈴がなって授業が始まった。

 

と、その前に。

「織斑、中條。お前達についてだが、お前達にはそれぞれ専用機が手配される運びとなった」

「「え?」」

 

突然の話に俺と一夏は異口同音の疑問符を口にした。

 

「織斑については既に専用機の選定は行われているが、中條。お前の方についてはお前自身に決めて貰う」

「え?俺自身にですか?」

「そうだ。お前は織斑より発見が遅れた為、こいつのIS以上に用意が遅れている。なので、現在学園に提出されているプランの中から、お前が自分で合うと思った物を選んで貰いたい。と言っても、今すぐ用意出来る機体として上がっているプランは二つだけだがな」

そう言うと、織斑先生はどこからかタブレットを取り出して俺に差し出した。

 

「ど、どうも」

それを受け取ると、画面の中にISのデータが映し出された。

 

「一つ目は日本の国産第2世代IS、打鉄の改修型だ。……機体についての解説は必要か?」

「え、えと、一応分からない事もあるので、出来ればお願いします」

「そうか。……その改修型は、防御に優れた打鉄を更に強化し、射撃能力を強化した機体だ。主に射撃や後方からの支援攻撃に力を発揮する機体だ」

「は、はぁ」

 

と、説明を受けてもイマイチピンとこない。いや、どういった機体なのかは理解出来たけど、『こいつを使いたい』とは思わなかった。それが俺の率直な感想だ。

 

とりあえずもう1機のデータも見よう。って事で早速タブレットをスワイプしてもう1機のデータを映し出すけど……。

 

こっちには専用機らしく、機体名があった。えっと、漢字の上にローマ字でルビがふってるが、こいつは……。

 

「『黄匠(こうしょう)』?」

 

黄色の匠、か。けどどういう機体なんだ?

「あの、織斑先生。こっちの黄匠ってどんな機体なんですか?」

と、俺が聞くと、何やら織斑先生は少しばかり眉をひそめてから、ため息をついた。え?何故に?

 

「あ~その黄匠という機体だが、そいつは本来戦闘用に作られたISではない」

「え?」

 

「戦闘用に転用可能な装備も搭載しているから、戦闘も出来るには出来る。しかしその黄匠の本分は、味方ISの修理や災害時に災害現場へ急行し、負傷者の救助や障害物の撤去。更に生身では危険とされる危険地帯での活動を前提に作られている。つまり、戦闘よりも救助などを前提としたISと言う事だ」

 

『ドクンッ』

 

その話を聞いた途端、俺の中で一瞬、鼓動が強くなった気がした。

 

人を助けるために作られたIS、か。だったら……。

「じゃあ織斑先生。俺、決めました。俺の専用機は、この黄匠を希望します」

 

『『『『ザワザワッ!』』』』

すると、クラスの女子達が一斉にざわめく。

 

「お待ちなさいっ!」

その時、オルコットが声を荒らげながら立ち上がった。

 

「あなた、分かっているのですか!?私は専用機を持つ代表候補生ですのよ!?それに対して、そのような機体で挑む事の愚かさをっ!それは私に対する侮辱ですかっ!?」

 

どうやら、俺が戦闘に向かない黄匠を選んだ事を、『自分を舐めている』と判断したのかもしれないが……。

 

「……俺は、別に試合で勝ちたい訳じゃない。勝ち残って強い奴が学級委員をやれば良いって思ってる。だから、勝敗なんてどうでも良いのさ」

そう言って、タブレットに映る黄匠に目を向ける。

 

「俺は別に、ここで戦い方を学んで代表候補生になろうとか、最強になろうなんて思ってない。ISを見て、触れて、学ぶ機会が貰えてラッキー、程度の認識だ。だから純粋な戦闘技術を学ぶつもりは、あんまりない。……それに、『戦う為のIS』より、俺はこう言う『人を助けるためのIS』みたいなのが好みだからな」

 

「ッ!あなたには、勝負に勝とうと言うプライドは無いのですかっ!」

「プライド、か。無い訳じゃないが」

 

そう言って、俺は立ち上がり、オルコットを真っ直ぐ見つめる。

 

「少なくとも俺は、兵器で誰か傷付けるより、道具で誰かを助ける力の方が欲しい。そう思っただけだ」

 

それが俺の意思だ。すると何やら織斑先生が笑みを浮かべている。しかし……。

「呆れて物も言えませんわね。ISとは本来国家の抑止力。防衛の要。戦う兵器。そしてこのIS学園はそれらを扱う術を学ぶ場所。そこで戦う覚悟を持たないのなら、ここに居る意味は無いのではなくて?」

 

「……兵器、か」

 

「ッ、何ですの?」

 

「いや。ただふと、ISが可哀想だなって思っただけだ」

 

「ッ、それはどう言う意味ですの?」

 

「ISは本来、篠ノ之博士が宇宙開発の為に生み出した物だった。けど、誰にもそれを認められず、大勢の大人たちがその存在を笑った。そして白騎士事件だ。その事件で、大勢の人間がISに対する認識を180度改めた。……酷い掌返しだなって俺は思ったよ」

 

ただ最初は、人の力に、希望になるはずの存在だったISが、今では人殺しの兵器として、国家防衛の要となる兵器として、日々強化と改造、開発が続いている。本当に酷い掌返しだ。

 

「そして、宇宙開発の道具としてのISは否定され、兵器としてのISは肯定された。本来の役目を否定され、歪められたあり方、兵器としてのISが普通になった。……そう言う意味じゃISって言うのは、悲しい存在で、そして可哀想って思った。それだけの事だ」

 

自分の生まれた意味を否定され、そして、人々を、社会を豊かにするはずだったISは、人々を殺せる兵器となってしまった。本当に、悲しい存在だと俺は思う。だからこそ……。

 

「だから、俺は兵器として、『戦う為に生み出された』ISよりも、『人を助ける為に生み出された』ISを肯定する。肯定したい。だからこそ、俺はこいつを、黄匠をパートナーとして選ぶ」

 

それこそが俺の選択だ。しかし……。

 

「更に呆れますわね。ISが兵器として使われている昨今。そんな中で兵器としての性能が低いISを選ぶなど。開発者と言いあなたと言い。その判断を疑いますわ」

 

その言葉に俺が反論しようとした時。

 

「ほう?つまり貴様は、他人を救う事などよりも、他人を蹴落とす力の方が良いと。そう言いたいわけか?」

「え?」

突然の織斑先生の言葉に、俺は疑問符を浮かべながら振り返った。オルコットや一夏、他の生徒達も、先生の方に視線を向けている。

 

「どうした?違うのか?貴様は黄匠を選んだ中條と、その製作に関わった者の判断を疑い、更に今の発言からは貴様が優先しているのは、ISの戦闘力のようだが?」

「そ、それはその通りですが。な、何が仰りたいのですか?」

 

「ふむ。ならば表現を変えよう。お前は今、兵器として他人を傷付けるISを肯定し、人を助けるISを否定した。そう言う事で間違い無いんだな?」

「ッ!?そ、それは……」

 

織斑先生の表現に慌て出すオルコット。正直、女尊男卑の世界とは言え命を軽視する発言はいつでも炎上発言に繋がる。ましてや国家の代表候補ならこの前の差別発言もそうだが、下手なことを言うと後々大きくなるので、オルコットも戸惑っているんだろう。

 

「人のエゴが、道具を善にも悪にも変える、か。これはお前の言葉だったな、中條」

「え?」

織斑先生の言葉に一夏が俺の方に視線を向ける。

 

「……えぇ」

俺は静かに頷いた。

 

すると……。

「よし。この際だから今この場にいる全員に私から言っておく事がある。お前達がこれから扱うISは、兵器だ。軍事兵器だ。武装し、他者を攻撃し、そして殺傷する事を目的として作られた存在だ」

 

「で、ですが先生。ISはアラスカ条約で軍事兵器としての使用は原則禁止に」

と、生徒の1人が声を上げる。

 

「では貴様は、戦争が始まったとして、国が暢気にそんな条約を守っていると、本気で思うか?」

「うっ」

先生の言葉に彼女は声を詰まらせた。

「条約で禁止した所で、ISは日々、兵器として進化を続けている。当然、敵のISや敵軍の戦車や戦闘機との戦いを想定してな。例え誰が、何かで規制しようとしても、無理がある。そしてある日どこかの誰かが一発の銃弾を放っただけで、誰か1人を殺しただけで、戦争というのは始まる事だってある。そして戦争が始まったとして、最前線に立つ兵器は何だと思う?そうだ。ISだ。今現在、ISはどう取り繕っても兵器に他ならない。要は、お前達がこれから学ぶ存在は、簡単に他人を傷付け、そして殺す事が出来る存在だと言う事だ。それをまずは、肝に銘じておけ」

そう言って教室を見回す織斑先生。

 

更に……。

「そしてオルコット」

「は、はいっ!」

「お前の先ほどの発言は、そう言った兵器としてのISのあり方を肯定する物だ。まぁ、国家の代表候補である以上、戦闘力を第1に考えるのは分からなくも無い。だが私は敢えてこの場で、この中條が選んだ黄匠というISのあり方について、 こう述べておきたい」

そう言って、一旦息をついた織斑先生は……。

 

「この黄匠のようなISこそが、『ISの本来あるべき姿』だと、私は思う」

 

『『『ザワザワッ!』』』

織斑先生の言葉に、生徒達はざわめき、一夏も、

そして俺も驚いた表情を浮かべていた。

 

当然だ。ISに乗って、その『戦闘力で』世界一になった女性が、戦う力を否定したようなものなのだから。

 

「人を助けることと、人を傷付けること。そのどちらかが尊いか、分からぬ程貴様等は子供ではあるまい?要は、そう言う事だ」

その言葉に、皆が呆然とする。が……。

 

「まぁ、こんな世界にしてしまった原因の1人である私に、偉そうに言う資格なんて、無いのだがな」

 

織斑先生が何かを呟いていたが、俺達には声が小さくて聞こえないのだった。

 

結局、それ以降皆黙り込んでしまい、授業が始まっても皆、どこか呆然としていた。

 

でも、ちゃくちゃくと時間は進んでいく。俺とオルコット、一夏の総当たり戦まで時間はあまりない。一夏は何やら幼馴染みの篠ノ之さんに鍛えられているみたいだが、俺はそれを他所にとにかく知識を集めた。

 

出来れば実機、黄匠で無くても打鉄に乗っておきたかったが、何せISは数が少ない。訓練に使える機体の総数だってたかがしれている。そしてその、ものほんの機体を使っての訓練は教習所みたいな予約制で、もう既にスケジュールはビッシリ埋まってる。だから俺も、実機を使っての訓練は出来なかった。

 

結局、俺が黄匠を受け取ったのは、模擬戦当日の早朝だった。

 

昨日の夜に、黄匠が到着することを教えられていた俺は、織斑先生に頼んで早朝からアリーナ、模擬戦などが行われる会場を使わせて貰った。

 

運び込まれていたコンテナの前に立つ俺。傍には織斑先生と山田先生がいる。そして俺も、既に支給されている男性用のISスーツを纏っていた。

「それでは中條君。いよいよご対面ですよ」

「はい。お願いします」

 

俺が頷くと、山田先生がコンテナのパネルを操作する。ゴゥンと言う重低音を響かせながらコンテナの扉がゆっくりと開いている。

 

そしてそこから現れた機体を見た時。俺は『おぉ』と感嘆の声を漏らした。

 

そこにあったのは、灰色の機体だった。特徴的なのは、機体の両肩に接続された長方形のボックス型の、盾のようなアイテムだった。後ろに回ると、背には大型のバックパックがあった。しかしスラスターそのものは小さく、何やら可動式と思われる部位があるが傍目には良く分からない。

打鉄の体つきというか、構造はどこかシャープな曲線だった。対してこの黄匠は、防御力を重視しているのか、角張った装甲が目立つ。装甲の厚みもかなりのものだ。これは、確かに危険な環境での運用を想定してるって訳だ。

 

と、俺が黄匠を見とれていると……。

「中條。これからお前と黄匠のフィッティング作業を始める。早く乗れ」

「あ、はいっ」

俺は織斑先生に促されるまま、待機状態の黄匠へと登り、体を預けるようにして黄匠を『装着』した。すると、何とも不思議な感覚と共に俺が黄匠と一体化していくのが分かる。原理は分からない。でも、何となくだけど今俺は黄匠と1つになってるんだって、感じる事が出来るんだ。

そしてそのまま、俺と黄匠が馴染むようにフィッティングを行っていく。山田先生は、近くにあるガラス窓の部屋からそれを見ている。織斑先生は俺の近くにいた。

 

「ッ!あ、あのっ!織斑先生っ!」

「ん?どうした山田先生」

何やら山田先生が慌てた様子で織斑先生を呼んでいる。織斑先生が部屋に行くと、山田先生と何かを話している。しかし完全防音なのかISのハイパーセンサー越しでも声は聞こえない。それに口元も見えないから何を喋っているから分からない。

 

なんかちょっと不安になってきたぞ?

「あ、あの。先生。何かありましたか?問題、とか?」

『ん?あ、あぁいや。違う。そうじゃない。何でも無いから気にするな。お前はそのままパーソナライズを続けろ』

俺が声を掛けると、マイク越しに織斑先生の声が聞こえる。

正直、織斑先生が珍しく言い淀んだ事で不安もあったが、あの人は嘘を付くような人じゃないのは俺も分かる。だから、深呼吸して意識を落ち着けた。

 

そして、パーソナライズ、つまり所有者に合わせた『最適化』を行っていた時だった。時間が経てば経つほど、何故か俺は『懐かしさ』を覚えて居た。

 

俺は今日、初めて黄匠に『出会った』。でも、何故か初対面な気がしない。まさか……。

 

「あの、織斑先生」

『ん?どうした?』

「もしかして、何ですけど、この黄匠に使われてるコアって、俺があの時修理した打鉄のコアが使われてます?」

『ッ』

 

俺の言葉に対して、織斑先生が僅かに息を呑むがマイク越しに聞こえた。

『ど、どうしてそれを!?』

次いで、山田先生の驚愕の声も聞こえる。けど、そうやって驚くって事はやっぱりか。

 

「あ、いや。なんて言うか感覚的な話になっちゃうんですけど、黄匠を纏っていると、懐かしさを感じるんですよね。初対面じゃないって言うか。どうしてISにこんな気持ちを抱くのか、俺自身分からないけど、でもそう感じるんです」

『……そうか。……お前の言っている事は当たりだ中條。確かに今、お前が纏っている黄匠に使われているコアは、元々お前が試験会場で修理し、私と戦った時に乗っていた打鉄のコアだ』

「やっぱり」

 

と、そんな話をしている内にパーソナライズが完了した。そして俺の黄匠は、初期状態から変化し『一次移行(ファーストシフト)』が完了した。

 

俺は黄匠を見る。先ほどの灰色とはうって変わって、黄の文字に違わない、黄色をベースにした機体カラー。更に白や黒のラインが機体の各部を走っている。なんて言うか、重機のようなカラーだなって俺は思った。

 

『中條』

「あ、はい」

『幸いまだ少し時間がある。今のうちにアリーナに出て黄匠になれておけ。時間は10分程度だが、慣しくらいにはなるだろう』

「はいっ」

 

俺は頷き、歩みを進める。最初は慣れない感覚に戸惑ったが、アリーナに降りて数分もすれば次第に動きの感覚は掴めてきた。出来れば武装を使って見たかったけど、織斑先生から『今はデータを見るだけにしておけ』と言われてしまったので、データを閲覧するだけにしておいた。

 

で、今の黄匠の持ってる武器、正確には『戦闘にも転用可能な道具』は3つほど。1つは長大な釘を打ち出す『ネイルマシンガン』。本来は何かを応急的に固定するための道具らしい。あとは『ヒートチェーンソー』と『ヒートピッケル』。どちらも物体を熱で切断したり破砕したりするためのものだ。それ以外のアイテムも黄匠の中に格納されていたけど、それはもっぱらISの応急修理なんかに使う道具だったりして、戦闘で使えそうな物はなかった。

 

でも俺は今、黄匠に乗って空を飛んでる。それが楽しくて、俺は夢中になっていた。

 

 

~~~~

中條が黄匠に乗って飛んでいるのに夢中になっている頃、アリーナにあるISの出撃のための場所、ピットの管制室で彼の様子を見ていた千冬と真耶。しかし、2人とも表情は優れない。と言うより、戸惑いを覚えて居る様子だった。

 

「織斑先生。どうしましょう。このことは……」

「悪いが山田先生。データの改竄をお願いしたい」

「えぇっ!?そ、それって虚偽の報告になるんじゃ!?」

「ならばこのデータを上に報告出来ますか?」

「うっ」

 

千冬の言葉に真耶は唸り、手元の端末へと視線を落とす。

「……彼の安全を考えれば、これは報告出来ないですよね」

「えぇ。このデータ1つで、アイツは私の弟以上に狙われる結果となるでしょう」

「……分かりました」

しばし悩んだ後、真耶は頷いた。そしてそのままPCを操作し、データを改竄する用意を始める。

 

「それにしても、まさかこれほどの数値を見せるなんて。中條君は、何者なんでしょうね?」

「アイツに関して、私から何か言える事はない。経歴や家族構成を見ても、ごく普通の少年だ。いや、だったと言うべきか。……そんなアイツが、他人より特筆すべき所があるとすれば、機械や道具に対する思いの強さでしょう」

「まさか、その思いの強さがこの結果を生んだと?」

「流石にそこまでは今の私の口からは言えんな。非科学的過ぎる。……ただ」

「ただ?」

 

「アイツが治した打鉄のコアがこうして、アイツの専用機のコアとなって再びアイツと巡り会った。……そこにはどこか、作為的な、或いは運命的な繋がりを感じざるを得ない」

 

そう言って千冬は真耶の手元の端末に目を向けた。

 

その端末内部のデータが改竄される寸前に、彼女は見た。端末の一角にある文字列。

 

『IS適性、SSS』と言う、半ば異様な文字列を。

 

この適正値を持つ事の意味を、鋼司本人が知る由は無い。今は、まだ。

 

     第3話 END

 




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