インフィニット・ストラトス~~ロボッツハート~~ 作:ユウキ003
楽しんでいただければ幸いです。
~~~前回までのあらすじ~~~
突然の事ながらIS学園の学生寮で生活する事になった鋼司と一夏。一夏は幼馴染みの箒と。鋼司はクラスメイトの清香と同衾する事に。女性ばかりの学校に慣れない2人。そんな中で一夏と鋼司には学園から専用ISが提供される事になった。その際、鋼司は戦闘には向かない、災害派遣などを前提としたIS、黄匠を自らのパートナーとして選んだ。そして、来たるべき一夏、鋼司、オルコットの3人による総当たり戦の当日。その早朝に届いた黄匠を纏ってならしをする鋼司。しかし、彼は知らぬ間にISに対する現在確認出来る中で最高位の適正値であるSSSをたたき出していた。
俺は黄匠を受領後、いつも通り朝飯を食べて、そして試合の時間になった。のだが……。
「中條」
「ッ、はい」
一夏と篠ノ之さんの2人と一緒にピットで待機していると、織斑先生に声を掛けられた。
「すまんがお前の試合を繰り上げる。織斑の機体の到着が遅れていてな。すまんが頼むぞ」
「はい。分かりました」
「では、すぐに準備を」
そう言われ、俺はすぐさま更衣室で男性用ISスーツを纏ってピットへ戻る。
そして、自分の左手首に目を向ける。そこにあるのは黄色い腕時計型の待機状態の黄匠。今の俺の相棒だ。俺はそれを右手で優しく包み込み、静かに目をつぶる。
「……行くぞ、黄匠」
そして静かに呟いた次の瞬間、俺の体を光が包み込み、光が収まった時。俺は黄匠を纏っていた。右手にはネイルマシンガンが握られている。改めて自分の手足や周囲を確認する。やっぱり作業を目的としているだけあって手や指周りもかなり作り込まれている。一般的なISの指ってメッチャ尖ってるんだよなぁ。あれ、やろうと思えば手刀による刺突さえ出来そうなんだよなぁ。なんて思って居ると……。
『中條。時間が惜しい。出撃しろ』
「あっ、りょ、了解です」
織斑先生からの通信を聞き、俺は一度深呼吸をする。いよいよだ。相手は代表候補生。対して俺はISの搭乗時間は10時間にも満たない素人。……負けるかもしれない。いや、それでも全力で戦うだけだ。俺は決心を固めながら、頭の上にあったスライド式のゴーグルを下ろす。黄匠はパイロットの安全性を考えてか、本来ならばあまり装備が無い頭部をヘルメットのような物が覆っている。
「っしっ!中條鋼司っ!黄匠!行きますっ!」
俺は自分自身を鼓舞するように叫び、ピットから飛び出した。そして空中に出て制止すると、俺を見下ろしている青い機体があった。
「来ましたわね?」
そしてそれに乗っているのは、当然セシリア・オルコット。あいつが乗っているのは、イギリス製の第3世代試作機、『ブルー・ティアーズ』。見たところ、武装は右手にしている長大な狙撃銃らしきライフル。それ以外に武装らしきものは見当たらないが、俺は雑誌を読んで知っている。
ブルー・ティアーズには、機体名と同じ名前の遠隔操作式の兵器が搭載されている。ロボ好きの俺にしてみれば『ガン○ム』の『ファン○ル』って所だ。それが搭載されている事自体は俺も知っている。だが、数や詳細なデータなどは知らない。その辺は気をつけておかないとな。
既に試合開始のブザーは鳴っている。お互い、睨み遭ったまま動かない。
「……本当に、そのような機体で出てくるとは。理解に苦しみますわ」
やれやれ、と言わんばかりに首を振るオルコット。
「ですがこれは試合。手加減など致しませんわっ!」
そう叫んだ直後、レーザーライフルが俺に向けられるっ!
「ッ!」
俺はすぐさま空間を蹴った。直後、俺の居た場所をレーザーの光が薙ぐ。幸い初弾は避けた。だが直後、俺に向かって何発も放たれるレーザー。俺は慣れない感覚に戸惑いながらも、『空間を蹴る』という動作で、何とか回避機動に動きを加えていく。しかしそれが持ったのも数秒。
『ジュッ!』
「ぐっ!?」
動いていた黄匠の左肩にあるボックスをレーザーが掠める。それだけでISの体力とも言うべきシールドエネルギーが僅かに減少する。こいつのメーターが0になれば試合は終了だ。
0になった方が負け。それだけだ。
「どうしました?逃げてばかりではつまらないですわよっ!」
「っなろうっ!」
俺は咄嗟に機体を反転させ、右手に持ったネイルガンを構え、放った。『ドパパパパッ!』という射撃音と共に、無数の長大なネイル、釘が放たれるが、オルコットは余裕綽々と言った表情でそれを軽く避ける。
「どうしました?それだけですの?」
明らかにこちらを見下したような表情に苛立ちを覚えるが、俺はすぐに頭をかぶり振った。ここで怒りに身を任せて我を忘れたら、相手の思うつぼだ。落ち着け、落ち着くんだ、俺。
そう、考えていた時だった。
「行きなさいっ!ブルー・ティアーズ!」
オルコットが叫んだ直後、アイツの機体背面に浮かぶパーツから菱形に近い物体が合計4つ、切り離された。そしてそれは俺を囲うように配置され、次の瞬間レーザーが放たれたっ!あれが遠隔式の攻撃端末、BT兵器かっ!
俺は咄嗟にレーザーの網をくぐり抜ける。しかしそれもオルコットの策略だった。わざと抜けやすい道を創り、相手をそこに誘い込んで本命を撃つ。それがアイツのやり方だった。それにまんまと嵌まった俺。咄嗟に右肩のボックスシールドで攻撃を防ぐが、シールドエネルギーが削られる。
「ぐっ!?」
「さぁ、どこまで耐えられるか、見せて貰いますわよっ!」
そこから俺は、防戦一方だった。何とかビットを撃ち落とそうとネイルガンをぶっ放すが、素人の俺にあんな小さい物体を高速移動中に当てる技術なんて無い。無駄弾をばらまくばかりで、ジリジリとシールドエネルギーを削られていく。
そして、約10分にわたる攻防の末、今の俺はシールドエネルギーがほぼ半分。対してオルコットは無傷。
このままじゃ、俺は確実に負ける。そして……。
「ふふっ、どれほどの物かと思って居れば、所詮この程度ですか」
アイツは俺を見下ろしながら嘲笑を浮かべている。
「所詮男は男。そのような機体でエリートである私に勝とうなど、100年早いですわっ!」
直後、周囲に滞空していたビットが俺を囲むように展開され、同時に銃口から光が見える。あとほんの数コンマの後にレーザーが放たれるっ!
そう、思った時。
≪あなたは、勝ちたい?≫
どこからか声が聞こえてきた。
≪あなたは、負けたくない?≫
『俺、は……』
誰かからの問いかけ。誰の物なのかは分からない。でも不思議と、警戒心は覚えなかった。
そして俺は、スローモーションの視界の中で、こちらを見下したように嘲笑するオルコットを見上げる。直後、俺の中で思いがこみ上げてきた。
『俺は、あんな風に誰かを見下す奴には、絶対に負けたくないっ!』
俺はその思いを声にして叫ぶ。
すると……。
≪そっか。なら、大丈夫≫
『え?』
何が大丈夫なのか?そう思った時、ふと俺は、『後ろから誰かに抱きしめられている』ような感覚になった。
≪だって、あなたは1人じゃないから≫
その言葉を聞いたとき、俺は直感した。あの検査会場で聞こえた女の子の声も。織斑先生との模擬戦の時に聞こえた声も。そして今聞こえる声も。誰がその持ち主なのか。
今、ようやく分かった。
『そうだな。俺は今、君と一緒に戦ってるんだ。≪黄匠≫!』
≪うんっ!≫
俺が名を呼べば、相棒の元気な返事が聞こえる。
『俺に、俺に力を貸してくれ、黄匠!』
≪うんっ!行くよっ!コージ!≫
黄匠の声が響いた、刹那。
『『『『ガコォンッ!』』』』
黄匠の背部バックパックの一部が稼働し、起立した。その数4。それら全てが自我を持った蛇のように鋼司の意思を介せず動き出す。そして……。
『『『『ビシュッ!』』』』
ビットから4つの光が放たれた。それと同時に……。
『『『『ビィッ!』』』』
バックパックから起立したアームの先端から放たれた光。それがビットの光を相殺してしまった。
「なっ!?」
~~~~
これには驚くセリシア。しかし驚いたのは彼女だけではない。ピットの管制室で事の次第を見守っていた一夏に箒、千冬と真耶もだ。
「な、何だっ?今何が起こったんだ?」
状況が理解出来ずに一夏が戸惑う中。
「あれは……。黄匠のバックパックに搭載されていた『第3の腕』か」
「第3の腕、ですか?それは一体」
千冬の呟きに箒が反応する。
「本来あの黄匠は、戦闘用ではなく救助作業や味方ISの支援と言った目的で開発された。中でも災害時の救助活動などを想定し、パイロットをサポートするユニットとして開発されたのが第3の腕だ。人間の指先ほど器用な動きは出来ないが、物を掴む事や、内蔵されたバーナーを利用して物体を焼き切る事も出来る。更に戦闘時、このバーナーはリミッターを解除する事で射程・威力ともに劣るが、トーチガンとしても使用可能になる」
「成程。つまり今、あいつはそのトーチガンでオルコットのビットから放たれたレーザーを相殺した。と言う訳ですね?」
「あぁ」
と、説明する千冬と納得している箒。その隣で一夏はモニターに映る黄匠、つまり鋼司を見つめていた。
「にしても、すげぇな鋼司の奴。土壇場でその第3の腕っての使いこなしてるぞ」
モニターを見つめながら純粋に感心している一夏。しかし、そのすぐ傍では……。
『いや、おかしい』
千冬が内心疑問符を浮かべていた。それには理由があった。
『予め学園側に提出された書類によれば、あれはパイロットの脳波信号を受信して動く。つまり、今オルコットが操っているBT兵器と似たような存在。それをISに乗って僅か数分の素人である中條が、あそこまで完璧にコントロール出来る訳がない。ましてや、レーザーでレーザーを撃ち落とすなど、完璧すぎるコントロールだ。そんなことが素人の中條に出来る訳がない。ならば……。まさか……!?』
千冬は1つの結論に至る。そして彼女は出来るだけポーカーフィエスを浮かべながらも内心驚いていた。
『これは、お前の持つ適正値の高さ故なのか。中條』
彼女は心の中でモニター越しに見える中條へと、聞こえる事の無い問いを投げかけた。
~~~~
場面と時間は少し戻って、黄匠がビットのレーザーを第3の腕、『サブアーム』で迎撃した直後。
≪コージ。コージは私が守るから。だからコージは目の前の相手だけを見て≫
『あぁ!分かったぜ黄匠っ!』
さっき、4つのサブアームが動いたのは俺が指示を出したからじゃない。『黄匠』だ。黄匠が動かしたんだ。
今の俺は、正しく『人馬一体』。そうだ。俺は今1人でアイツと戦ってるんじゃない。黄匠って言う、『パートナー』と一緒に戦ってるんだ!
俺はパイルガンを握りしめ、飛び出した。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
雄叫びを上げながら俺は前に出る。パイルガンから放たれた釘の雨がセシリアのブルー・ティアーズに襲いかかる。
「っ!このっ!」
セシリアはそれを回避しながらビットに指示を飛ばし、黄匠を背後から狙撃させようとした。しかし……。
『『『『ビィッ!』』』』
完全な背後からの奇襲。しかしそれよりも早く、サブアームが稼働してレーザーを放った。放たれたレーザーは、ビットを完全に撃破する事は出来なかった。しかし、レーザーの熱で装甲が溶け、内部構造が晒されてしまったビットはブスブスと黒煙を上げながらアリーナの大地に落ちていった。
「っ!?そんなっ!?」
ビットが迎撃された事に内心驚くセシリア。
「おぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
セシリアの機体が、近接戦に弱いと判断したのか一気に距離を詰めに行く鋼司の黄匠。しかし、その行動にセシリアは内心ほくそ笑んだ。
「お生憎様!ブルー・ティアーズは、6機ありましてよっ!」
そして彼女が叫んだ直後、機体のサイドスカートが稼働し、これまでのビットとは違い追尾式のミサイルが放たれた。しかし黄匠はセシリアのブルー・ティアーズに真っ正面から突進する形になっていた。
これにはピットで見ていた一夏たちも。更には観客席で観戦していた生徒達も。『直撃は免れない』と考えた。
そして……。
『『ドドォォォォォォォンッ!』』
着弾、と同時に爆発音が響いた。ビリビリと空気を震わせる爆音。観客席にいた生徒達は爆発の閃光から目を守ろうと咄嗟に視線を背けた。
『ふふ、これが直撃すれば如何に防御力に優れる機体と言えど。事前にシールドエネルギーを半分ほど削っていましたし、流石に……』
そう、セシリアが安堵した直後。
『ゴウゥッ!!!』
爆煙を貫いて、あちこちを汚しながらも黄匠がブルー・ティアーズの前に躍り出た。
「ッ!?!?」
突然の事で、セシリアの反応が追いつかない。更に……。
「おらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
鋼司が振りかぶる『それ』は、近接戦闘の武器として転用可能とされていた『ヒートチェーンソー』だった。
『ギュウルアァァァァァァァァァッ!』と凶暴な機械の咆哮を上げるそれが、ブルー・ティアーズに叩き付けられた。シールドを削る赤熱化した刃によって盛大に火花が飛び散る。
「あぁぁぁぁぁっ!」
ISには、搭乗者を守る為に『絶対防御』というシステムがある。これが稼働していればパイロットが致命的な傷を負う事は無い。しかし通常時よりもかなりシールドエネルギーを消耗するのだ。オルコットは咄嗟に離れようとするが、それも黄匠のサブアームが可動し、ブルー・ティアーズのあちこちを掴んで離さない。そのため逃れられない。
「くっ!インターセプター!」
セシリアは咄嗟に、ナイフ型の近接武装を呼び出す。だが……。
≪コール!パワークロー!≫
直後、俺の左手に黄匠が呼び出した巨大なパーツ、ショベルカーが物を掴む時に使うような、巨大なフックが付いたアイテム、『パワークロー』が左手に装着される。
≪コージ!≫
『おぉっ!』
不思議と、これで何をするべきなのかが分かる。
「させるかぁっ!」
パワークローの爪が、オルコットの右手を捉え、抑え込む。ブルー・ティアーズの右手からバキバキ、ミシミシと嫌な音が響く。その間にもヒートチェーンソーがシールドエネルギーを削っていき……。
『ビーッ!試合終了!』
唐突に鳴り響く試合終了のアナウンス。それを聞いた俺は、すぐさまオルコットのブルー・ティアーズから離れた。
『勝者、中條鋼司!』
俺は息を荒くしながらも聞こえたアナウンスに安堵し、『ハァァァ』と深く息をついた。そして、ピットに戻ろうとした時。
「お、お待ちなさいっ!なぜ、なぜ無事だったのですか!?先ほど、確かにミサイルが直撃したはず!?」
オルコットが酷く狼狽していた。負けた事に戸惑っているのもあるだろうが……。
「……こいつのおかげだよ」
俺は小さく、自分の両肩のボックスシールドを指さした。シールドの表面は、着弾の影響で黒く汚れていた。しかし破壊されていない事からも、このシールドの強度の高さを物語っていた。
「ふ、防いだと言うのですか!?ミサイルを!?」
「元々、この黄匠は災害救助などの危険な現場での活動を想定されている。だから、高い防御力を付与されている。いざとなれば、『自分が誰かの盾になるために』な」
「ッ!?そ、そんな、まさか……」
「オルコット」
俺が名を呼べば、奴はハッとなって俺を見つめている。
「お前は散々、この黄匠をバカにしていたが、はっきり言わせて貰う」
そう言って俺は、俺と黄匠を指さす。
「お前が思って居る以上にこの機体は強いって事だっ!今度俺の相棒をバカにしやがったら、承知しねぇからなっ!」
俺の怒気交じりの叫びに、オルコットはビクッと体を震わせる。俺はオルコットを一瞥すると、ピットへと戻っていった。その時。
≪ありがとコージ。私のために怒ってくれて≫
『黄匠は俺の大事なパートナーだからな。当たり前だろ?』
≪そっか。えへへ♪≫
そう言って黄匠の笑う声が聞こえるが……。
『それより、肩は大丈夫か?ミサイルを喰らってたし』
≪大丈夫。今の私は頑丈だから≫
『そうか。……でも心配だからな。あとで確認させて貰うぞ?』
≪うんっ≫
俺は、誰にも聞こえる事のない会話をしながらピットへと戻った。そして戻ると……。
「やったな鋼司」
一夏が出迎えてくれた。後ろには篠ノ之さんや先生達の姿もある。
「すげぇなお前。初戦で専用機持ちに勝っちまったな」
「いや。たまたまだよ。相手が俺を見下して油断してたのもあるし、何より、機体に助けられた」
そう言って俺は黄匠を見つめる。
すると、そこに織斑先生が歩み寄ってくる。
「さて、これで中條が一勝した訳だ。早速次の試合に、と行きたい所だが織斑の機体はまだ届いていない。加えて先ほど、オルコットの方から修理に時間を欲しいと打診があった」
「修理?そりゃまたなんで?」
「分からんか一夏。奴のISは、中條との試合でBT兵器を4機落とされている。それに最後に組み合った時、右手から嫌な音も聞こえていた。今のまま一夏と戦った場合、オルコットはかなりのハンデを背負う事になるからだ」
と、首をかしげる一夏に篠ノ之さんが説明している。
しかしつまり次の試合まで時間があるって事か。
「織斑先生、どこかISを展開出来る部屋ってありますか?黄匠の様子を見ておきたいんです」
「む?様子を見たい、とは?」
「勝ったとは言え、レーザーやミサイルを食らいましたからね。どこかに問題でもあるといけませんし、黄匠の様子を見ておきたいんですよ」
「分かった。山田先生、手配をお願い出来ますか?」
「はい。あ、でも中條君?工具類は……」
「あぁ、それなら大丈夫です」
そう言って俺は持ってきてピットの中に置いておいた鞄を手にする。
「自前のを持ってきてるんで」
「「えぇ?」」
俺の言葉に一夏と篠ノ之さんが若干引いてた気がするが、まぁ良いや。
その後、俺はアリーナの一角にある部屋を貸して貰うと黄匠を展開して待機状態のまま立たせる。そしてすぐにあちこちの点検を始めた。装甲板を開けて、異常が無いかを確認する。シールドボックスはかなり攻撃を受けたからな。シールド表面を掃除し、更に肩との接続部を覗く。ミサイルの直撃を食らったんだ。接続部が衝撃で歪んでしまう可能性だってある。
そして歪んでしまうと本来の動きを発揮出来ない可能性もある。
で、そうやって黄匠のチェックをしていると……。
「お邪魔しま~す」
「ん?」
声が聞こえて一夏と篠ノ之さんがやってきた。
「どうした?何か用か?」
「あぁいや、用って訳じゃないんだけど、暇でさ」
「あ?暇?」
と俺が首をかしげた時、一夏の左手にさっきまで無かった白いガントレットのような物を見つけた。
「一夏、それって?」
「あぁ、これか。これ、実はさっき届いた俺の専用機の待機形態なんだよ。今はファーストシフト、ってのが終わってる所だ」
「へ~。それが。名前はなんて言うんだ?」
「『白式』だ。紅白の白に数式の式と書いて白式だって」
「白式か、良い名前だな」
そう言って俺は一夏の左手首に目を向ける。……一応、言っておくか。
「一夏」
「ん?」
「その白式は、こっから先お前と多くを共にする相棒だ。だからこれだけは言っておく。『大切にしろよ』。メカニック志望の友人からの言葉だ」
「あぁ」
一夏は、俺の言葉を聞いて笑みを浮かべる。
「っと、そうだ。折角だから紹介しておくよ。俺の幼馴染みの箒だ」
「はじめまして、だな。篠ノ之箒だ。よろしく」
「改めまして、中條鋼司だ。俺の事は中條でも鋼司でも、好きに読んでくれ」
「分かった。ならば私も気軽に箒で構わない。これからよろしく頼む」
俺の言葉に箒さんはそう言って笑みを浮かべる。
「所で鋼司はまだ整備してたのか?あれからもう30分以上経ってるけど?」
そう言って首をかしげる一夏。
「むしろ、まだまだって所だな」
そう言うと俺は黄匠の方へ歩み寄る。
「ISに限らず、俺達が使ってるスマホやPC。そう言った機器は精密機械の塊だ。物ってのは、値段が高いのはそれだけ製作コストが高いって事だ。コストが高いって事はそれだけ高性能な反面、維持や修理に掛かる費用やパーツの数も多い。更に、パーツ1つがお釈迦になるだけで、本来の性能を維持するのも難しい。つまり、検査には相当の時間が掛かるって事だ」
「は~~。つまりお前はそれだけ入念に機体を調べてるって事か?」
「そうだな。これでもメカニック志望だ。ともすれば、いい加減な検査は出来ないさ。加えてこいつは、黄匠は、この学園での唯一無二の俺の相棒だ。検査にも力が入るって物さ」
そう言って俺は黄匠の装甲板を撫でる。
「とは言え、黄匠は万全の状態で搬入されたのだろう?いくら戦闘があったとは言え、こうもすぐに検査する必要はあるのか?」
「確かに。まぁ箒さんの言ってる事も分かるが、精密機械ってのは割と脆いんだよ。いくら表面の装甲が強固でも、中の電子機器にダメージが入って無いと断言するのは、ちょっと早計だな。……それに、人間だって気づかぬ内に難病煩ってる事だってあるだろ?ガンとか。そう言うのは専門の機械で調べないと分からないし、機械だって見た目は大丈夫でも、中身が無事とは限らないからな。それに……」
俺はそっと開いていた装甲板を閉じる。
「こいつらには口は無い。どこが痛いとか。あそこが壊れてるとか。そう言う事を俺達に伝える術を持たない。だからこそ、俺みたいなメカニックがこいつらの傷を見つけて、修理してやらなきゃいけないんだ」
「だから、たった一戦交えた後だと言うのにこうして検査を?」
「あぁ。こいつは俺の、大切な相棒だからな」
俺は箒さんの言葉に頷く。
「そっか。にしても大変だな。メカニックって」
「まぁな。検査や修理する相手によって必要とされる知識は千差万別。ISを修理するのならISの知識を。車を検査するなら車の知識を。って具合に覚える事や気をつける事は多い。ただ、それでも俺達みたいなメカニックが丹精込めて修理して、元通りにしてやれば、こいつらは必ず俺達人間の思いに答えてくれる」
そう言って、俺は黄匠を見つめる。
道具は確かに人の生活を豊かにする。でも、使い続ければ必ずどこか壊れるし、摩耗する。だからその時は、俺達人間の出番だ。機械は独りでには治らない。俺達人間が修理してやるしかない。
道具に生活を支えられる人間の、たった1つの恩返し。それがこいつらを治す事だって、俺は思ってる。
俺は優しく、黄匠の装甲を左手で撫でる。
と、その時だった。
『織斑。これを聞いたらすぐにピットへ戻れ。オルコットの準備が整った。急いで来い。以上だ』
近くにあったスピーカーから織斑先生の声が聞こえた。
「っと、そういうわけだ。じゃあな鋼司。俺試合に行くわ!」
「あぁ。俺ももう少し黄匠をチェックしたらピットに戻る。試合、頑張れよ~!」
「あぁ!分かってるって~!」
そう言って走り去っていく一夏と俺に一礼してそれを追っていく箒さん。
1人残された俺は、タブレット端末を黄匠に繋げて内部の様子を調べていく。その最中。
≪あの子、勝てるかな?≫
タブレットの上に浮かび上がる文字。でも俺は驚かない。この問いの主は、黄匠だ。『彼女』がタブレットを通して俺に話しかけている『だけ』だ。
「あの子って、一夏の事か?さぁ、どうだろうな」
≪コージは、どっちが勝つと思う?≫
「う~ん、経験値はオルコットの方が上だからなぁ。それに、一夏の白式の武器とか分からないし、アイツは俺以上にIS乗った事無いみたいだから、危ないかもな。それにオルコットも俺に負けて気を引き締めてるだろうし」
≪じゃあ、あのブルー・ティアーズの子が勝つの?≫
「かもしれないな。でも、そう言うのは案外どうなるか分からないぞ?」
≪どうして?≫
「数字だけで語れる程、人間って生き物は合理的じゃないって事さ。良い意味でも、悪い意味でもな」
≪そうなんだ~≫
そうやって、俺達は誰にも聞かれる事のない、俺達だけの会話を続けながら、俺は黄匠の検査を進めた。
幸い、破損箇所などは一切無し。検査終了、問題無しって事で俺は待機状態になった黄匠を回収。検査に使った工具を鞄に戻してピットに戻ると、ちょうど試合は中盤に差し掛かっていた。
織斑先生に状況を聞くと、最初はビットを前に苦戦していた一夏だけど、オルコットの『ビットを操作しているときは他の武器が使えない』という弱点に気づいた。そこからは一夏が白式の機動性を生かしてビットをたたき落とし、今は正にブレードにエネルギーを纏わせ、エネルギーブレードとなった装備で斬りかかった。
しかし直後に鳴り響くブザー。そして鳴り響くアナウンス。勝者は、セシリア・オルコットだった。
だがその時、大勢の人々は首をかしげていた。『何故?』と。肝心の一夏も、オルコットも。俺も、箒さんも。その傍で、織斑先生が『やれやれ』と言いたげな表情をしている。
≪あの子、結局負けちゃったね≫
『あ、あははは』
黄匠の声に、俺は頭の中で小さく笑みを浮かべる事しか出来なかったのだった。
第3話 END
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