インフィニット・ストラトス~~ロボッツハート~~ 作:ユウキ003
~~~前回のあらすじ~~~
一夏、鋼司、セシリアによるクラス代表を決める総当たり戦が行われる当日。第1試合は一夏の白式の到着が遅れた事から鋼司VSセシリアの試合に。序盤、鋼司は圧されるが黄匠が覚醒した事で『彼女』のサポートもあって鋼司はセシリアとの戦いに勝利するのだった。その後、一夏とセシリアの試合が行われるも、一夏は負けてしまうのだった。
試合の後、ピットに戻ってきた一夏。しかし一夏自身は訳が分からないと言わんばかりの表情だ。まぁそりゃそうだよなぁ。ホントに突然勝敗が決まったんだからなぁ。そして今、肝心の一夏はと言うと……。
「よくもまぁ、持ち上げてくれたものだ。それであの結果か?大馬鹿者」
織斑先生の呆れた表情から繰り出される言葉の一撃を食らっていた。
実は一夏は試合中に『俺は世界で最高の姉さんを持ったよ』とか『千冬姉の名前は守るさ』とか言ってた。まぁ、それで負けたんだから恥ずかしいわなぁ。
ちなみに、なんで一夏にこんな事を言ったのか聞いてみると、白式の装備していたあのブレード、名前は『雪片弐型』って言うらしい。その雪片ってのが元々織斑先生が現役時代に使っていたブレードらしい。つまりその後継となるブレードを自分が持っている事から、ここで恥をさらして姉である先生の名前に泥を塗らないように、って事らしいんだが、ご覧の通りである。
さて、話を戻すと最後に俺と一夏の試合な訳で、一夏の白式へのエネルギーチャージが終了すると、俺と一夏はそれぞれ別のピットから出撃。上空で向かい合う。
「まさか入学早々、お前と戦う事になるとは思わなかったぜ鋼司」
「そいつはお互い様だ一夏。俺だってお前と試合するとは思っても居なかったよ」
お互い苦笑を浮かべながら向かい合う。
「けど、これ以上負けて、千冬姉の名前に泥を塗るわけには行かないからな。悪いが、本気で行かせて貰うぜ」
「望むところだよ」
お互い、武器の雪片弐型とネイルガンを構える。
『ブーーーッ!』
『試合開始っ!』
始まりを告げるブザーとアナウンスが流れた直後。
「おぉぉぉぉぉぉぉっ!」
やっぱり一夏は真っ直ぐ向かって来た。
「やっぱり……!」
その事は俺も予測できていた。だから手にしたネイルガンからネイルを撃ちまくる。しかし一夏はそれを危なげながらも回避し、更に向かってくる。
「ッ!?」
正直、避けられるとは思ってなかった。一夏も俺も、ISに関しては素人だ。だから、素人な俺の腕でも当てられると思ったんだ。でも違った。俺は驚きながらも回避機動を取ろうとした。でも……。
『『ガコォンッ』』
背中のバックパックからサブアームが勝手に動き出して、トーチガンで一夏を迎撃した。
「うっ!?」
攻撃を食らって足が止まる一夏。だが、トーチガンの威力は低い。精々牽制にしかならない。
それでも……。
≪大丈夫。コージは私が守るから。ね?≫
『あぁ。ありがとう黄匠』
≪迎撃は任せて。だからコージの好きなように戦って。私がコージの動きに合わせるから≫
『そっか。ありがとう黄匠。でもな』
≪ん?≫
『絶対、自分に負荷を掛けるような無理だけはするなよ?』
≪うんっ!≫
『よし、勝ちに行くぞ!黄匠!』
≪分かってる!絶対に負けないからっ!≫
黄匠がトーチガンによる支援を始めてくれたおかげで、俺も強気に出られるようになった。トーチガンによる牽制と、更に俺のネイルガンによる射撃で一夏を追い詰めていく。ただし近接戦には絶対持ち込まない。それは一夏の距離だからだ。更に俺にはヒートチェーンソーやヒートピッケルと言った近接装備があるが、あのブレード、エネルギーを纏った状態が良く分からない以上、下手に仕掛ける気にはなれなかった。だから俺は、一夏からあまり距離を取らず、かといって近すぎない位置に居ながら射撃を続けた。
そして、位置取りに関しては……。
≪コージ!これじゃ近すぎっ!もう少し間合いを取って!≫
『分かったっ!』
黄匠が的確に指示を出してくれた。おかげで俺は、自分の間合いで戦えていた。
でも、だからといって有利って訳じゃない。一夏も数分でネイルガンの弾速に慣れたのか次々とネイルを避けては斬りかかってくる。黄匠のサブアームによる迎撃がそれを防ぐが、ずっとその繰り返しだ。サブアームのトーチガンは威力が小さいから、仮に当っても僅かにダメージが入るくらいだ。こいつで白式のシールドエネルギーを削りきるとなると、どれだけ時間が掛かる事か。
このままじゃお互いジリ貧だ。だから、俺は仕掛ける事にした。
『ドパパパッ!カチカチッ!』
不意に、撃ちまくっていたネイルガンからネイルが出なくなった。そしてカチカチと引き金を引く空しい音だけが響く。そしてそれは、ISのハイパーセンサーならば容易に拾える音だった。
「ッ!弾切れかっ!?チャンス!」
案の定、こちらの弾切れを察してか斬りかかってくる一夏。俺は咄嗟に機体を翻し逃走を図る。
「逃がすかっ!」
俺の読み通り、追ってくる一夏。
何とかジグザクに飛行し、更にサブアームで迎撃するが、一夏の白式は物ともせずに迫る。と言うかそもそものスペックが違いすぎる。だからこそ、一夏はジリジリと距離を詰めてきた。あと少しでブレードの距離に届くと言うその時。
俺は笑みを浮かべながら叫んだ。
「今だっ!黄匠!」
≪はぁいっ!コール!≫
黄匠がコールをした次の瞬間。
『バサァァァァァァッ!!!』
「へ!?」
一夏の前面、つまり黄匠の後ろから現れたそれが白式を飲み込むように大きく広がる。そして黄匠を追って加速していた白式は現れたそれ、『耐火・耐熱シート』に頭から突っ込む形になってしまった。
突然の事に、一夏はちょっとしたパニック状態だった。バタバタと暴れる一夏の白式。シートの下からモゴモゴと一夏の声が聞こえる。そして、俺はその隙に反転し、オルコット戦でも使ったパワークローを左手にコール。
「おぉぉぉぉぉっ!」
『ドガゴォンッ』という音を響かせながら、パワークローで殴られ、吹き飛ばされた白式が地面に叩き付けられる。
更に俺はもう一つのアイテムをコールする。それは『ドリル』だった。元々は災害現場で落石などを砕くために装備されていた代物だ。そのアイテムの名は、『ドリルフィスト』。パワークローとは逆に右手に装備されたドリルフィストは、ヒートチェーンソーにも増して『ギュウルアァァァァァァッ!』と咆哮にも似た回転音を響かせる。
そして一夏は何とか耐火・耐熱シートを払った。だが遅いっ!
「削れぇぇぇぇぇぇぇっ!」
俺の叫びと共に繰り出される一撃。それは間違い無く白式の胴体を捕えた。ギャギャギャギャッという凄まじい音と共に火花が飛び散る。
「ぐあぁぁぁぁっ!」
そして殴られた衝撃で弾き飛ばされる一夏。だがアイツは飛ばされた空中で体勢を立て直すと俺目がけて突進してきた。俺は右腕を振り抜いたモーションのおかげで動けない。だが……。
≪コージに、手は出させない!≫
黄匠がサブアームで一夏を迎撃する。
「ッ!?」
一夏は反射的にブレードでそれをガードしてしまうが、それがこの試合の分水嶺となった。
アイツが防御を解いた直後、眼前にはパワークローを解除した左手でネイルガンを握る俺がいたのだから……。
そして一夏の表情が強ばった直後。
『ドパパパパパパパパッ!』
無数のネイルが白式に命中し、瞬く間に残り僅かだったシールドエネルギーを削り取った。そして……。
『ビーッ!』
試合終了を告げるサイレンが鳴り響いた。
『試合終了!勝者、中條鋼司!』
こうして、俺は何の因果か総当たり戦を勝ち抜いてしまったのだった。
その後、俺と一夏は織斑先生達が居る同じピットに戻った。で、戻ったら戻ったで一夏は……。
「全く。偉そうな事を言っていてまた負けるとはな。流石私の愚弟だよ」
「うぐぅっ!?」
実の姉である織斑先生から残念な感想を貰っていた。それを見て苦笑している俺の傍で箒さんもやれやれ、と言わんばかりの態度だ。
その後、一夏と箒は寮へと戻っていった。俺は、念のためにもう一度黄匠の検査をしてから、と言って一夏たちと別れて再び部屋を借りて検査をしていた。
~~~
今、1人シャワー室を使う女子の姿があった。セシリアだ。彼女自身は今、あの戦いの結果を重く受け止めていた。1つは、中條に負けた事。もう一つは、一夏との試合が実質自分の負けであった事。一夏の攻撃は、あと少しで確実にセシリアに届いていた。しかし何故か一夏のシールドエネルギーが尽き、セシリアが勝ってしまった。その勝利に彼女は納得していなかった。そして、更に言えば……。
「中條、鋼司」
今、彼女が鋼司の名を呟いたように、今のセシリアには疑問があった。
元々、彼女の家は名家と呼ばれるような家であり、今の女尊男卑社会以前から、セシリアの母は成功した女性として注目を集めていたし、セシリアにとって憧れの人だった。対して、父親は名家であるオルコット家の婿養子であり、セシリアの母親であり自分の妻である女性に対して顔色をうかがうような男だった。それが、セシリアの父親に対する態度であった。だからか、セシリアは情けない男とは結婚しない、と言う決意を持つと共に弱い男性に対する軽蔑のような物を覚えていった。そんな両親も3年前に事故で失ったセシリア。彼女は自身の家の財を守る為に必死に勉強し、代表候補生まで上り詰めた。
そして結果的に、それが彼女の中の女尊男卑主義を、そしてエリート意識を悪化させてしまった。その結果が、いつぞやの暴言や一夏たちを見下したような発言を生んでしまったのだ。
そんな中で、セシリアにとって中條は最初、弱い男に見えた。しかし今日の戦いの中で、中條は諦めずに戦い、結果セシリアに勝利して見せた。中條は、その戦いの中でセシリアに強烈なインパクトを与えた。だからか、セシリアは彼の事が『気になり始めていた』。セシリア自身、自分でも良く分からない。それでも何故か、彼の事を知りたいと、強く思うようになっていたのだ。
そして、彼女がシャワー室を後にして制服に着替え、寮に戻ろうとした時だった。
「あ」
「ん?」
曲がり角を曲がったその時。彼女の数歩前に鋼司が現れたのだ。
「「…………」」
突然の遭遇に、2人とも言葉が出ないのかお互い黙り込んでしまう。が……。
「なぁ」
「ッ、な、何ですの?」
突然声を掛けられ、セシリアは反射的に少し棘のある声で返事を返してしまう。しかし鋼司はそれを気にした様子も無く。
「時間が無いなら明日でも構わないが、ブルー・ティアーズの右足周り、ちゃんと調べて修理しておいた方が良いぞ?」
「え?」
「アンタが一夏と戦ってる試合を見てたが、どうにも俺の時より動きが鈍かったからな。恐らくその前の俺との試合でダメージを負ったからだろう。アンタが治すのか、別の誰かが修理するのかは知らないが、ちゃんと見てやれよ。でなきゃ、ブルー・ティアーズが可哀想だ」
鋼司は、それだけ言うとその場を後にしようとした。が……。
「お、お待ちなさい!」
それを咄嗟にセシリアが呼び止めた。だが、それはセリシア自身も驚いていた。なぜなら、自分でも何故鋼司を呼び止めたのか、良く分からないからだ。声を上げたのも、殆ど反射的な行動だった。
「何だ?」
「あ、え、えと。ど、どうしてあなたは、ブルー・ティアーズのことを、そんなに気に掛けるのですか?私に対する、情けだとでも言うつもりですか!?」
「……アンタへの情けとか、そんなんじゃないさ」
「で、では何故?!」
「……俺個人は、確かにアンタの事を好きになれない。エリート意識丸出しで、他人を下に見てるような態度は見ててイライラする」
鋼司の言葉に、セシリアは戸惑いながらも唇を噛みしめる。が……。
「けど、だからってそれでアンタの愛機の、ブルー・ティアーズまで恨むのはお門違いだろ?」
「え?」
「俺はただ、メカニック志望としてするべき助言をしたまでだ。今、アンタの愛機は間違い無く怪我をしてる。でもアンタがそれに気づいて無かったら?そしたらブルー・ティアーズは次の検査までずっと怪我をしたままだ。だから教えただけだ」
「まさか、ブルー・ティアーズを思って?」
「それが殆どだ。……でも、もう一つ理由はある」
「理由?」
「もし、お前がそのブルー・ティアーズの怪我が原因で、更に大けがしたらどうなる?俺はそれを止められる立場にあった。でもそれを止めずにお前が大けがしたら。そんなの、メカニック失格だ」
「ッ」
鋼司の言葉に、セシリアは少しばかり息を呑んだ。
「ま、まさか、私を心配して……?」
「そんなんじゃない。ただ、俺はメカニックとして防げる事故を防ぐ。お前が大けがをしたとして、それをブルー・ティアーズのせいにされるのはメカニックとして許せないからな。だから警告しただけだ」
「……変わっていますのね、あなたは」
「ん?」
その時、鋼司はセシリアの声から棘が消えたような気がして首をかしげた。
そして……。
「1つ、お聞きしてもよろしいですか?」
「俺にか?何だ?」
「あなたにとって、強さとは何ですか?」
「……どうしてそんな事を俺に聞く?」
「知りたいのです。私は、強い男性という物を」
『そして、あなたのことを』。そんな小さな呟きは、しかし鋼司には聞こえない。
彼女の理想である男性は『情けない男』の反対。つまり『強い男性』なのだ。その事について、今正に自分が気になっている彼の口から聞きたかったのだ。しかし……。
「……じゃあ、逆に聞くけど。オルコットさんにとっての強さって何?」
「え?」
「単純な腕力?覚悟?それとも頭の良さ?或いは他者よりも秀でた能力やスキルを持っている事?」
「そ、それは……」
指摘され、セシリアは言い淀んだ。彼女が漠然と持っているのは、強い男性のイメージだ。しかしじゃあ強さとは何かと指摘されれば、簡単には答えられない。なぜならば漠然としたイメージなのだから。
「分からない、か。……いや、まぁそれは俺も同じだけどさ」
「え?」
「強さって言葉や単語の漠然としたイメージは分かるよ。でもそれは、漠然としているからこそ簡単には説明出来ない事だって、俺は思う。だから、俺は俺個人の強さについて話すよ。って事で、他の人が言う強さとは違うだろうから、参考になるかはあんまり期待しないでくれるとありがたいんだけど」
そう語る鋼司も、いつの間にかセシリアに対して棘のある態度を柔らかい物へと変えていた。
「か、構いません。それでも、あなたの思う強さを、教えて下さい」
「分かった」
鋼司は静かに頷くと、近くのベンチに気づいて『とりあえず座って話そうか』とセシリアを誘い、少し間隔を空けながらも並んで腰を下ろす2人。
「俺にとって、強さってのは努力とイコールなんだ」
「努力と?」
「そう。俺の国、つまり日本の諺に『継続は力なり』ってのがある。継続は続ける事。つまり、努力し続ける事。それは力って意味だと俺は思ってる。……大抵の人はさ、何かを頑張るのは当たり前だって言うかもしれない。でも、それは決して楽な事じゃないよ。楽に頑張れる事なんて、絶対にない。いくら楽しい事を頑張りながら続けたって、必ず辛い事や苦しい事はある。その上で、楽しくも無い事を頑張り続けるのって、大変な事だと俺は思う。誰だって楽しくない事を続けて、それが好きになれればそれはまだ良いさ。でも、そうじゃなければ、努力は苦痛でしかない。好きでも無い事を続けなきゃいけないのって、大変だからな」
俺は、メカニックになる事に憧れがある。だからメカニック関係の勉強はむしろ趣味みたいなもんだ。でも、そうじゃ無い人がメカニックになろうとして勉強したら、それは楽しい事か?絶対に違う。苦痛でしか無いだろう。……でも、何かを身につけるのなら、その苦痛を覚悟で学び続けるしかない。つまり、努力し続けるしかない。
それは、とっても大変な事で、苦しい事だろう。
でも……。
「でも、俺は思う。そうやって苦しい事や大変な事に立ち向かっていける事。努力し続ける事は、簡単じゃない。簡単じゃ無いからこそ、『努力し続ける事が出来る人は、強い人だ』って俺は思う」
「ッ!」
~~~~
努力を続ける人が、強い人だという言葉は、セシリアに響くものがあった。実際、彼女の母もそうであった。だからこそ、強い人として彼女は母に憧れたのだ。
そして、彼女は……。
「私は、そんな風に、強い人に、努力を続けられる人になれるでしょうか?」
不意に呟くセシリアの独白。それは、鋼司に対する問いかけという訳ではなかった。
だが……。
「もう、なってるんじゃないか?オルコットは」
「え?」
「……今のご時世、ISのパイロットなんて女性の憧れの職業だろ?そんな中で国の代表候補になるのなんて、どれだけ高い倍率の競争を勝ち抜いてきたのか、男の俺には想像も付かない。でもさ」
その時、鋼司は真っ直ぐセシリアを見つめ……。
「オルコットは、これまで努力してきたから自分の力で代表候補生の席を掴み取ったんだろ?その肩書きは、お前の『努力の証』だろ?それは、俺でも分かる」
「ッ!!!」
鋼司の言葉を聞いた瞬間、セシリアは顔を真っ赤にして俯いてしまった。彼女の胸の中で心臓が早鐘を打ち、顔が熱くなる。彼女自身、今にも火が出そうなほど顔が熱いと自覚していた。
今の言葉は、彼女自身が気になり始めていた鋼司からの、セシリアに向けての『肯定』の言葉だった。それによる恥ずかしさと戸惑い。そして、これまでの努力を、肯定された事による『嬉しさ』。そんな思いがない交ぜになってしまった結果。
「う、うぅ、うぅ」
「え、えぇっ!?」
突然セシリアは感極まって泣き出してしまった。突然の事に驚く鋼司。
「どど、どうした!?まさかどこか痛いのか!?」
鋼司が問いかけるが、セシリアは無言で首を左右に振るだけだ。それで慌てた鋼司はポケットをまさぐり……。
「と、とりあえず涙を拭けって。ほら」
持っていたハンカチを彼女に差し出した。
「ちゅ、ちゅうじょう、さん」
しかしセシリアは涙を流しながらも、彼を見上げるばかりだ。
「何か、俺に言いたい事があるのか?でもまずは、泣きたいのなら思いっきり泣け。涙は心の洗濯って言うくらいだからな」
そう言って、中條は涙に濡れる彼女の頬を優しく拭いてあげる。やがて数分後。セシリアはようやく泣き止んだ。
「すみません、お見苦しい所を……」
「良いさ。気にするな。人間誰しも泣きたい時はある。それを、誰も責める事は出来ないって」
そう言って中條はセシリアを優しく宥めるように笑みを浮かべる。
「さて、もう大丈夫そうか?なら、俺は……」
そう言って中條が立ち上がろうとすると……。
『グッ』
セシリアが中條の服の裾を掴んだ。
「あ、あの。もう、少しだけ、お話、したい事が」
中條は振り返り、縋るような目をしているセシリアをそのままにしておく事が出来なかった。だから、もう一度彼女の隣に腰を下ろした。
やがて、セシリアは語った。自分の両親が、どんな人だったのか。母に憧れた事。父を良く思って居なかった事。それ故に、強い男性を探していた事。その二人も、3年前に事故で失い、オルコット家の当主として家を、両親の財産を守る為に努力してきた事。
その話を聞いた中條は、静かに男泣きをしていた。
「え?ど、どうして……」
それに戸惑ったのは、セシリア自身だった。
「悪い。安っぽい同情って思われるかもしれないけど、でも。……その歳で、両親と死別なんて、悲しすぎるって思って。悪い」
そう言って頭を下げる中條。
しかしセシリアは一切不快に思っていなかった。むしろ、誰かの為に涙を流せる中條のその姿に、心をときめかせていた。
先ほどからの、中條の誰かを肯定する姿勢。そして、誰かの為に涙を流せる優しさ。その姿がセシリアの脳裏に焼き付いて離れない。
それから、数秒して涙を拭う中條。
「なんか、ごめん。こっちこそ、情けない姿見せちゃって」
「い、いえ。そのような事は、ありませんわ」
むしろ、セシリアは情けないなどと思って居ない。誰かのために涙を流せる優しさ。誰かの気持ちに、思いに、共感出来る優しさの表れを前にした彼女は、更に心臓を高鳴らせていた。
やがて……。
「あの。先日は、申し訳ありませんでした。お二人のことを、悪く言ってしまって」
「あぁ。あのことか」
思いだして頷く中條。
「それだけではありません。お二人の祖国である日本の事なども、色々と」
申し訳なさそうに呟くセシリア。
「私は、愚かな間違いをしてしまいました」
彼女はそう言って俯く。
「そうだな。確かに、周囲を侮辱するのは愚かな行為だと俺は思う」
「ッ」
中條の言葉に、セシリアは小さく唇を噛んだ。彼女自身、分かっていた。彼から罵倒される事も覚悟していた。だが……。
「でも、本人が間違いだって気づいたのなら、俺から何かを言うつもりはない」
「え?」
「人間、誰だって間違う事はあるだろ?それを後から俺がネチネチ言うのは違うと思うし。
本人が自分で間違ってるって気づけたのなら、それは前進じゃないのか?」
「ッ」
鋼司の言葉に、セシリアは再びときめく。鋼司の言葉は、良い意味で一々セシリアの心に刺さる。
「まぁ、皆に頭を下げるくらいの事はした方が良いと思うけど、少なくとも、俺からこれ以上何かを言う気は無いよ」
「そ、そう、ですか」
セシリアは顔を赤くしながら頷いた。
「さて、それじゃあ俺はそろそろ戻るよ。もう、良いかな?」
鋼司の言葉に、セシリアはコクンと頷く。
「分かった。じゃあ、試合で疲れてるだろうからしっかり休んだ方が良いよ?じゃあ、また明日」
そう言って、鋼司は歩き去って行った。セシリアは、しばし彼の背中を見つめていた。そして彼が歩き去った後、彼女はふと手元に視線を落とし、彼のハンカチを手にしたままだった事に気づいた。
やがて、セシリアはそれを両手で自分の胸に抱く。
それだけで、今さっきまでの中條の事が、彼の言葉が、表情が、優しさが。頭の中でリピートされる。そして、彼女は一言。
「ありがとう」
誰も居ない廊下で、小さく消えそうな言葉でポツリと、その言葉を呟くのだった。
第4話 END
って事でセシリアは中條のヒロイン決定です。
最初は、中條のヒロインを特に設けてなかったんですが、ストーリーとかを書いててこうなりました。