小ロンドで死んだはずの俺は、気付いたらロスリックとかいう場所にいた   作:青ニートの小説を出したい人

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 日曜日なので。



1話 目覚め

 ここからどうするか。先に進み続けようと決意はしたが、ここがどこで、目的が何なのかが分からない以上はどうにもならない。とりあえず持ち物を確認するが、特に失っていたり、逆に増えているものもない。エスト瓶と、幾つかの火炎壺、緑花草などといった基本的なアイテムに加え、生命の指輪といったかつてから着けていた指輪だけだ。

 

 仕方なしに歩くと、黒いローブを羽織った小柄な男の姿が目に映った。砂利を踏む音を聞き付けたその男はぐるりと振り向く。眼窩にはあるべきものがなく、頬は痩せこけ、剣を握るその腕は酷く細い。眠る前幾度となく目にした亡者そのものだった。

 

 勢いよく突進してくる亡者がショートソードを振りかざす。勢いの強い突きは、当たれば酷く痛い。下手をすれば致命傷に成りうるほどだ。しかし、それは俺にとってカモと言える。

 盾を構え、タイミングを合わせて盾を剣の軌道に割り込ませて弾く。行き場の無くなった剣先に踊らされて、亡者は腕を大きく挙げ、よろめいた。そこにロングソードを突き刺し、致命的な一撃を見舞う。腹部に致命傷を負った亡者は、仰向けに倒れる。幾度か起き上がろうと試みるようだったが、そのうち動かなくなった。

 

「......まあ、不死人がいりゃ亡者もいる、そりゃそうだよな」

 

 もはや当たり前となった認識を再確認したあと、その先、左へ続く道を見据える。亡者がまた膝を抱えてしゃがんでおり、その奥にある石で出来た水盆の前に、身なりの良さそうな騎士の遺体が座り込んでいる。

 

 先手を打って亡者の前まで走って近付き、ロングソードを横に振り抜く。座っていた亡者の胸元を大きく抉り取り、そのまま亡者は沈黙した。しゃがんで騎士の遺体を確認すると、その格好はかつて滅びの危機に瀕していたという、貴族の国アストラの騎士だった。防具は既に所々が錆び、腐り落ちて使い物にならなくなっている。剣も中ほどから刃こぼれが酷く、盾も大きく損傷していて、こちらも持っていって使うのは間違いなく無理だろう。

 

 だが、そんな中彼の遺体の懐から光るものがあった。何だろうと探ってみれば、それはエスト瓶に近く、だが灰色のガラス瓶であり、エスト瓶とはまた違う種類の中身だった。エスト瓶の紛い物だと感じたそれを、俺は手違いで割らないよう、ゆっくりと遺体の懐に戻した。

 

 先にはクロスボウを持った亡者がおり、ボルトを番えこちらを見つめている。盾を構えながら近付く。ローリング回避をするまでもないだろう。

 

 ワン!ワン!と犬の鳴き声が聞こえる。それは、この亡者が存在する世界において、脅威度などで表せば間違いなく上位に位置するであろう、亡者の犬だ。亡者犬は真っ直ぐこちらへ向かって来、またクロスボウを持つ亡者も照準をこちらに合わせている。どうするか。

 

「喰らいやがれ、この犬っころ!」

 

 火炎壺を投げつけ、亡者犬に見事命中させる。これはある意味常識だが、皮膚を露出させている相手に対して炎はとてもよく効くのだ。亡者犬は大きく怯み、延焼する身体を治すため地面を転げ回っている。その内に飛んできたクロスボウを盾で防ぎ、全力で近付いて飛び上がって、渾身の力を込めて身体にロングソードを突き刺した。振り向きざまに剣を振るい、立ち直ってこっちに近付いてきていた亡者犬を剣の腹で殴り飛ばした。亡者犬が完全に動かなくなったのを見てから、更にその先を走る。

 

 眩しかった。目の前は崖で、雲で白くなった空を見上げて思わず目を細める。崖に近付いて下を見下げてみれば、文字通り何も見えない奈落の果てがそこにあった。左手を見てみれば、そこには篝火があった。

 

 篝火。不死人全ての、安寧と最後の希望。この存在に幾度となく助けられてきた身としては、もう一度拝むことが出来て嬉しく思う。盾を尻に敷いて座り込む。火は、とても温かった。そこにいるだけで安心感を抱かせるほどに。

 

「おっと......ずっと進み続けるって決めたんだったな」

 

 無精髭を歪ませて自嘲気味の笑みを浮かべると、すくりと立ち上がり、盾を左手に嵌め直す。

 

 更に奥に道が続いており、その先には剣を握りしめてこちらに鈍くかつ真っ直ぐに向かってくる亡者がいた。亡者はこちらを視認するや否や、剣を構えてこちらに走ってくる。盾を構えてじっと待つ。

 亡者が剣を振りかざし、鋭い突きを放とうと突進してくる。それを、剣と体の軸をズラす事で回避し、がら空きとなった背中にロングソードをざっくりと刺し込む。背中を足で押して剣を抜くと、亡者は前のめりに倒れ動かなくなる。

 

 ちょっとした段差があり、見下ろしてみると、棺の上になにやら光るものがあった。このくらいなら飛んで棺の上に降りられるだろうか。

 

「よっ」

 

 鎖帷子がじゃらりと音を上げる。光っていたものは、楔石の原盤、その僅かな欠片だった。こんなものでも役に立つか、と仕舞い込む。

 棺を降り、崖を下ると、そこは少し広く、クロスボウを構えた亡者がこちらを見て構えた。そのまま流れるようにボルトを撃ち込んで来、反応して咄嗟のところで前転して回避する。そのままもう一度ローリングし、接近して下から上にロングソードを力いっぱいに振り抜いた。

 そのまま前に行くと、そこは円形に広く、一方は崖、もう一方は棺が収められた、まるで共同の墓地のようだった。奥には扉が見えるが、最も目立つのは、その中央に佇む大男だった。放置して扉の先へ向かおうとするが、肝心の扉は開かない。

 仕方なしに大男に近付くと、色々な事がわかった。ひとつは、この鎧の意匠はロードランで見られたものではないという事。ロードランには生来数百年ほどに渡ってああしながら(心折れながら)各地からやってくる数多の不死を見届けていたが、あのような意匠の重甲冑は見た事がないという事だ。右手側に落ちている槍もまた、石のような材質で出来ている。

 ふたつめは、大男の陰に隠れて見えなかったが、腹の部分に深く剣が突き刺さっているという事。それは螺旋を描く刃であり、篝火に突き刺さる螺旋剣であるとわかった。そしてその剣が腹に深々と刺さっているにも関わらず、こいつは生きている。

 みっつめ。この男、文字通り腹に一物抱えている。内側を何者かが支配していると言うべきか。とにかく長く生きてきた勘で言えば、こいつは既に正気でないだろう。誰かがこいつを螺旋剣で封じたか、あるいは自ら自刃したか。とにかくこいつが動き出せば、戦いになるのは間違いない。

 

 力を込めて、螺旋剣を引っ張り抜く。ズリュ、とドロドロの黒い血が剣を伝う。傷口からはどす黒い血の他に、真っ黒な触手の様なものが見え隠れしていた。そのうち傷口が塞がり触手が引っ込むと、その男の指先がぴくりと震えた。距離を取り、起き上がる様子を遠巻きに見つめる。付いていた膝を真っ直ぐに伸ばし、斧槍を手に立ち上がった大男は、こちらを見つけると同時に得物を構えてこちらに歩んできた。

 

「門番ってか......クソ、ついてないな!」

 

 ロングソードと盾を構えて、不本意な戦いに身を投じた。

 

 




 灰の墓所

 灰と呼ばれる者達が、初めに目覚める地
 例外はあれど、何処かの世界でも
 ここで目覚める者は少なからずいるだろう

 もとより心折れたような亡者しかおらず
 戦いを知る者にとっては、苦戦すら論外である

 灰は皆、やり残した使命を胸に一時蘇る者達であり
 使命を終えた者は例外なく消えゆく運命なのだ
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