小ロンドで死んだはずの俺は、気付いたらロスリックとかいう場所にいた   作:青ニートの小説を出したい人

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 更新できそうだったので(建前)
 不死の使命です(本音)




2話 戦士と魔術師

 

 

 既のところで、斧槍の突きを躱す。タダでさえ短い髪の毛を少しかすった感触がして、恐ろしくなった。この鎧の男は、動きがぎこちない。しかしそれを加味しても凄まじく正確かつ早い突きを繰り出してくる。まるで操られていながらも身体が戦い方を覚えているような。

 二度目の突きをどうにか盾で逸らし、流れるまま繰り出される叩きつけを、横方向にローリングして回避する。大地に突き刺さった斧槍を引き抜こうとした瞬間に接近してロングソードを二度、力のままに殴りつけるが、あまり効いている様子はない。

 

「化け物か、コイツ!」

 

 戦いの最中の興奮ということもあってか、隠しもせず暴言を吐く。何時だか戦った山羊頭のデーモンや牛頭のデーモンなどとは比べ物にならない。体格こそあちらの方が上だが、技量、経験、単純な腕力でさえこの大男の方がずっと強い。

 単身で退けるには、無理があるか。だが、やるしかないぞ。

 

 心を奮わせて大男に向かう。

 

「おおおぉぉぉぉぉっ!」

 

 雄叫びを挙げて突進する俺に大男は冷静さと斧槍による薙ぎ払いを持って対処する。これはまだ避けやすかった。気持ち早めに前転し、腕で地面を迎えてやり、背中をつける。そこで斧槍が真上を通り過ぎ、そのまま突きへ移行しようとする。

 その合間にローリングから立ち直り、刺突を喰らわせると、次にくる敵の突きを盾で弾き返した。パリィだ。

 怯んだそこへ、ロングソードを首筋に刺し込み、上から下に流れるよう斬った。にも関わらず、大男は傷を抑えようともせず立ち上がり、殴りかかってくる。

 

「ぐっ!?」

 

 武器を使わぬ徒手による攻撃に思わず驚き、一撃目を盾で受けてしまい、打撃に弾かれた所に二撃目のタックルを打ち込まれ、大きく吹き飛ばされてしまう。

 口の中に水が入り込むが、全て吐き捨てて呼吸を整える。吐き出したものの中に赤いものが混ざっていて、それは血なのだとわかった。もちろん風貌からしても、侮っているなどという事は無いが、それでも既に強すぎる。連撃をいなし、隙をついて何度かの攻撃を叩き込む。ただそれだけなのに、恐ろしく消耗していくのがわかる。

 

 既に幾度と無く死地を渡り歩いてきたと自負しているが、こいつもかなりのやり手だ。本気で行かないと潰されかねん。そう判断し、身体の()()を上げる。文字通り本気で集中して、反応出来うる全てに過敏になるのだ。神経を研ぎ澄まし、目を光らせ、鎧が擦れる微かな音に耳を澄ませ、常に紙一重を意識する。早い話が、回避に専念する事だ。反撃の隙を見逃さず。

 

 大男が呻き声を上げて低い突きを繰り出してくる。姿勢を下げて盾を上に構え、ローリングして後ろに回り込み、まだ硬直している足の関節にロングソードの切っ先を突き刺す。生身でなくチェーンに覆われたそこを刺すと、足の筋を切ったのか、刃を通して手に肉の割ける感触が伝わった。それによってか、動きに隙が見られるようになる。左が利き足だったのだろうか。左足を軸にしていた大男の戦い方が、崩れた。

 軸にする足を左から右へと変え、踏み込む足も左に変わった。そのおかげか動きが幾分か鈍重になった。これを隙と見て構え、懐まで一挙に踏み込む。両手でヒルト*1を握りしめて、重く体重と勢いの乗った強力な突きを腹に喰らわせた。強烈な踏み込み突きは、大男を確実に怯ませる。遂に膝を着いたのだ。

 

「やったぞ.....よし、これで終わ...り......?」

 

 大男の上半身が黒い膿に覆われていく。

 

「おい、ウソだろ」

 

 本性を表した。この大男の内側に巣食う怪物が姿を見せたのだ。その姿はインクよりも黒い、黒。人間性のそれと同じ性質を、コレから感じた。

 

「やるだけやるしか、って奴かよ」

 

 盾を構えて離れ、様子を伺う。膿が大男の斧槍を持つ手に強く絡みつく。腕の間接を無視するような挙動を見せ、既に腕はあらぬ方向に曲がりながらも、刃は明確に目の前の俺に向いている。

 

 折れた腕が上がり、斧槍が高く振り上げられる。獣のような剛力をそのまま叩きつけるような振り下ろしをどうにかして避ける。横にローリングしてどうにか攻撃の軌道から逸れるが、顔を上げた瞬間には大男はどこにもいなかった。

 不意に太陽の明かりが隠れ、上を向くと高くまで飛び上がっていた大男が斧槍を向けて地面ごとえぐろうとしてきた。その圧倒的な攻勢に怯み、思わず後ろに跳び退いて距離を取る。

 地面に手を着いて受け身を取り、顔を上げると、斧槍がすぐ目の前まで追ってきていた。

 

「ッ!?」

 

 盾で凌ごうとするが、金属盾ではないただの木盾では、強靭かつ無慈悲な一撃を凌ぎ切る事は出来なかった。盾の中ほどが割られ、貫通した刃先は俺の指から腕までを殆ど削ぎ落とす。

 苦痛で声にならない悲鳴をあげる。咄嗟にエスト瓶を取り出し、一口ぶん口に含むと傷が塞がり、削げ落とされた左腕が再生していく。不死の異形の力、そのひとつだ。即死級のダメージを受けてさえいなければ......正確には、不死の全てに潜む何者かが死亡すると判定しなければだが、傷を瞬時に癒し、どれだけ重い怪我人ですらすぐさま戦線に復帰できるのだ。

 

 だが、失った盾は戻ってこない。冷や汗をかく。まさか素手でこいつの攻撃を弾く訳にも行くまい。実質選択肢はひとつだった。剣を両手に握りしめる。剣にかかる力を強めた、攻撃的なフォームだ。片手より体重を乗せた攻撃が可能なので、文字通り守りを捨てた決死の戦闘方法とも取れる。

 

「やってやる......負けられるかよ。幾ら心折れていたからといって、舐めるなよ、怪物風情が!」

 

 斧槍の突きをロングソードの腹で受け流し、軌道を逸らして突撃する。剣の半ばから大男に当てるように、勢いよく叩きつけ、切りつけ、切り返す。墓所の一角で、金属と金属がぶつかり合う音が響いていた。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「これは......うん、多分こっちだろう」

 

 間の抜けた声を出す青年は、かつてヴィンハイムの魔術師、その優秀なうちの一人として名を知られていた。彼もまた、男と同じくその身体に不死の証たるダークリングが刻まれている。

 目覚めたばかりの彼は、いまいち状況がよくわかっていないが、自分がどこへ行くべきかは大体検討がついていた。こっちの方角かだとか、そういう大まかなものだけで動いている。

 だが、そういった感のような能力に関しては、この男は天才的だった。魔術の扱いにも長け、占い術のようなものも取り扱う。

 

 ヴィンハイムを捨てた男のその名を、ハリスという。

 

 ハリスはただ勘にだけ従って灰の墓所を歩いている。黒いローブの男たちが道中で倒れているが、それが亡者であること、既に死んでいることを確認して興味を無くし、ただ明るい方に進み続けている。倒れている騎士から灰色のエスト瓶を拾ったが、これは生命力とは違い、何か力を行使する際の集中力のようなものを回復させる効果だとわかった。篝火に到着すれば、そこでしゃがみこんで一息つく。

 

「ふう........ん?」

 

 篝火で休んでいる間、何かの音が聞こえてきている。甲高い音。金属を打つ音か、はたまた......

 

 そこまで考えて、ハリスは走った。倒れている死体を放って、襲ってくる亡者をレイピアでいなして。目の前に霧が浮かび、彼はその霧の奥に手を伸ばした。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 男と膿の戦いは、その体格差ながらかなり拮抗していると言ってよかった。切り合いになるが男が一方的に距離を放すなどして回避したり、逆に懐に潜り込むことで攻撃を避けたりなど、男は長年培った技量で戦っていた。

 

「だが、こいつはキツいか...?」

 

 しかし、無尽蔵の体力と馬鹿力に気圧されてか、男もかなり追い詰められた状態だった。ローリングや軸をずらす独特の歩法を多用して回避を繰り返すのだが、膿の攻撃がチェインメイルにかする事が増えてきたのだ。

 先程から火炎壺や緑花草のようなアイテムを使ってはいるが、小手先の道具でカバーできないほど拮抗状態を続けている。

 

 突如、戦局は変化した。攻撃のチャンスだと見誤った男が、咄嗟に身を守るためにロングソードで斧槍の一撃を弾き、剣が弾き飛ばされたのだ。

 

「しまった......!」

 

 男は剣の方まで走るが目の前に斧槍が落ちてくる。石畳にめり込むほどの威力を見せ、男を萎縮させる。絶体絶命だ、そう思った。

 

 

 突然男の目の前が青く輝いた。強いソウルの太矢と呼ばれる、槍を扱えぬものにとっての切り札とも言うべき射撃魔術が、大男の膿を打ち払ったのだ。怯んでいる間に剣の刺さった場所まで走り込み、剣を引き抜いてしっかりと握りしめる。幸運にも先の一撃で剣が折れたなどということはなかった。

 攻撃が飛んできた方向である後ろを振り向けば、白いローブを着て剣と杖を持った魔術師が次なる魔術を放とうとしていた。

 

「誰だ!」

「私は...いや、今はいい、今はその化け物を!援護する!」

「......悪い、助かる!」

 

 魔術が放たれ、強力なソウルの業が膿を大きく穿つ。その隙を逃さず剣を無理やり突き刺す。

 

「やれ!」

 

 男の叫ぶような合図と共に魔術師が走りよって来、杖を自身の目の前にかざす。集束されたソウルは大剣の形を象り、振り抜かれたソウルの大剣は膿と大男を切り裂いた。

 膿が急速に萎んでいき、姿が見えなくなったところで大男の上半身が顕になる。鎧は人間性に濡れ、もはや血のようだった。大男は大きな音を上げながら力無く倒れ、ソウルとなって男と魔術師の身体に吸い込まれていった。

 

 グンダ。それが、その大男の名だった。

 

 かつて英雄と呼ばれた男は、火継ぎの使命を帯びた。しかし鐘の鳴らぬ祭祀場を前に立ち尽くし、螺旋剣の鞘となるを選んだのだった。

 

 男は、鼻でフンと笑った。

「救いのねぇ。これが英雄サマの末路か」

 

 悲しく寂しく笑う男を見兼ねてか、魔術師は男に話しかける。レイピアを鞘に収めて杖を腰に仕舞い、男の肩を叩いた。

 

「あんた、大丈夫だったか?間に合ってよかった」

「ああ、お前は助けてくれた......ありがとうよ。俺も助かったし、多分こいつも助けられたと思うぜ」

「この男......グンダ、がか?」

 

 魔術師が聞くと、男はこくりと頷いた。

 

「そうだ。こいつも多分、鞘としての終わりを、求めていただろうからな。あんな膿に埋もれる事なぞ、誰が本意だというのかね...」

 

 右手にロングソードを、左手にグンダの残した螺旋剣を握って、男は呟くように話した。

 

「ああ、そうだ。私はハリス。不死の魔術師だ。あんたは?」

「俺は......」

 

 男は名前を言おうとして、言葉に詰まった。

 

「俺は......悪ぃな、忘れちまった。死にすぎたのかね。自分の名前すら思い出せないほどに」

 

 ハリスはしばらく黙っていたが、口を開くと共に奥の大扉へと足を歩めた。

 

「まあ、こうしてここにいる以上、また会うこともあるだろう。その時には、また共に」

「そう、だな......俺が忘れていなきゃあな。ハッハッハ」

 

 扉を押していく動きを見せて、ハリスは扉をすり抜けて消えた。かつてのロードランでは、時空のあらゆる箇所が捻れ曲っていた。動き回れば、他人にとって過去に行くこともあるし、未来に行くこともある。今回も、偶然男とハリスの世界が重なっていたのだろう、それ以降ハリスの声が聞こえるようなことは無かった。

 

 扉を開こうとすると、取り込んだグンダのソウルが強く燃え上がるような感覚を覚えた。身体の内が暖まるような感じだ。温もりを身体の内から感じる事など、不死となってからは一度もなかった。

 

「暖かいってのは、こういうもんだったか...な」

 

 温もりに止めていた足を動かし、改めて扉を開く。目の前には、聖堂のようにも見える巨大な建造物があった。それが直感するに、グンダのソウルから感じた『祭祀場』なのだろう。

 誘われるように、足を踏み入れた。

 

 

 

*1
柄頭(ポンメル)、握り(グリップ)、鍔(ガード)の三つからなる部位。これの扱い方によって、剣の威力も大きく変わるが、本人の技量に寄るところが大きい





 灰の審判者、グンダ

 グンダは、その身に違わず精強な戦士であり
 英雄と呼ばれ、彼もまた火継ぎの使命を帯びた

 しかしどのような理由か、彼は間に合わず
 鐘は鳴り、灰達が目覚め、グンダは選ばれなかった
 そして自ら、螺旋剣の鞘となるに至ったのだ

 そこにどんな因果があるにせよ
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