小ロンドで死んだはずの俺は、気付いたらロスリックとかいう場所にいた 作:青ニートの小説を出したい人
気付いたら日曜日だったので。
大扉を開いた俺を迎えたのは、崖に鎮座している巨大な祭祀場だった。左右に塔があり、うち左は鐘楼だろうか。草葉に隠れて見え辛いが、奥に亡者が座っていて、頭を抱え込んでいるように見える。
真っ直ぐ祭祀場へと向かう。途中で襲い掛かってくる亡者を剣で蹴散らし、坂を上る。霧がかった祭祀場の入口を通ると、中には灰が積もり積もって死ぬほど埃臭く、だがそれでいて懐かしい雰囲気を匂わせた。
階段を下ると、一人の男が座り込んでいる。奥に見えにくいが玉座に一人の小人が座っており、その下、王の器に酷似した何かの傍に一人の女性が佇んでいるのが見えた。
「ようこそ、灰の......?」
「......?どうしたんだ、あんた?」
紫の頭冠を被ったその女性は、目が見えないにもかかわらずこちらの方をじっと見つめてくる。首を傾げられるが、こちらに思い当たりはない。しばらく思案した後か、女性はゆっくりと口を開いた。
「こんな...事は、初めてです......英雄様......」
「あ...?」
「火の無い灰ではない、普遍な不死の方が、残り火を内に秘めるなんて......」
残り火。初めて聞く単語だ。それに、火の無い灰。どれも聞いた事のない単語だが、火を内に秘めるというものには心当たりがある。
【火継ぎ】
かつての大王グウィンを殺し、神のソウルと原初の火を肉体に取り入れ、己を薪として燃やすというもの。大王グウィンの、世界中にいる選ばれた不死を薪となった自身の後継とする目論見は成功したのだろう。この延命させられた世界の終わり際になって目覚めたのが、恐らくその灰達だろうか。使命を背負い目覚める。その身を新たに火継ぎの苗とするために。
「なら、なんだ。俺は偶然目覚めたってだけか?」
「それは......私には........」
わかりかねます、とはこの女性は言わなかった。口を結んで俯いてしまう。ある意味仕方がなかった。イレギュラーに対応できるほどではないのだろう。言ってしまえば、俺が目覚めたのは偶然とだけで全く説明はついてしまうのだが。
その話を聞いていた、座り込んでいた男が鼻を鳴らして笑った。
「フン...フッフッフ......哀れな事だ。使命も得られず、ただの不死として生きる羽目になるとはな。しかも、よりにもよってこの時世だ。俺が心折れたんだ、お前に何が出来るというのかね......それも、ただの不死に」
「時世......?」
俺がそう聞くと、この男は下を向いていた顔をこちらに向ける。その目元は隈が目立ち、無精髭が......それは俺も同じだったか。とにかく酷い有様だった。だったが、その表情には見覚えがある。それは悲観。何かを諦めるような、見ているだけで心苦しいものだ。
「......教えてやる。この世界は、終わる。名も無き不死が継いだ最初の火が、燃え尽きようとしているんだ。俺は他の奴とは違うが......その最初の火を継ぐための延命として、最初に燃やされた薪達が目覚めた。再度の火継ぎを拒否したそいつらを連れ戻すため、鐘の音と共に元々不死だった、そして今も不死たる火の無い灰が目覚めたんだ。...........この下らん世界の延命措置の為にな」
はあ、と目の前の男はため息をつく。
「一人は、神喰らいのエルドリッチ。一人は巨人の王ヨーム。一人は小人の王ルドレス。一人はファランの不死隊。そして、最後は双王子の片割れ、ロスリック。そいつらは、薪の王と呼ばれている」
五つの王が揃った時、火の炉への道が開け、王となる資格を得るのだそう。目の前の男はフッ、と鼻で笑う。ポケットから大きな石を取り出して両の手で転がして遊ばせている。転がしていた石を真上に投げて、落ちてきたところをキャッチすると、懐に石をしまい、男は名乗った。
「俺はホークウッド。かつて不死隊の一人だった」
脱走者ホークウッドはまた俯いてしまった。
「なあ、君」
ふと声をかけられた。
「こちらだよ。こっちだ」
声のする方を見てみれば、そこは玉座の上、その中に収まるように小人がいた。
「やあ、私はルドレス。こんな身なりでも、一応薪の王だ」
「あんたが薪の王の一人?......って事は、強いのか?何か力が?あんたは、自分の意思で玉座に座っているのか?」
「いいや、何か強い力を持っている訳では無いよ。ただ、私には技術があった。ソウルの業、凝固し個性を持ったソウルから、そのソウルの元の持ち主に起因する装備やらを創り出す、錬成という技術をね。それと......そうだね。私は、自ら薪の王となった。それを私は誇りに思っているのだよ。それだけだ」
ルドレスはそう言ったあとに手のひらを開き、続けた。
「まあ、先に言った錬成炉も、今は無いがね。君、錬成炉を持ってきたら私に渡してくれたまえよ。良ければ、君の旅路に役立つ何かを、創ってやれるやもしれないからね」
彼は話を終えた後に手を組み、何やら思案する様子だった。何をするでもなく、祭祀場の段差に腰を落ち着けようとしてかがもうとしたら、目の前に先程の紫の頭冠を被った女性が、こちらの手を取ってきた。
「英雄様。その螺旋剣を、器にお刺しください。それが、良くも悪くも始まりなのです」
言われた通りに、器に螺旋剣を刺し込む。すると、灰を掻き分け進む螺旋剣とその器から、火の温もりが伝わってくる。完全に刺さると螺旋剣はぼうっと燃え、周囲は火の暖かさに包まれた。
そのまま流れるままに篝火となった螺旋剣に手を翳し、次なる場を想像する。
「改めて、私は火防女。篝火を守る者。行ってらっしゃいませ、英雄様」
意識は途絶えた。
◇◇◇◇◇◇
目を開けると、そこは狭い部屋だった。歩き回るだけのスペースもなく、ただぽつんと扉があるだけだった。埃臭いこの部屋を抜け出すべく扉を開けようと手をかけ、強く押すと。
そこかしこから鬨の声が聞こえ、遠く国の兵士を打ち倒し歓声を上げる兵士たちの幻影が写ったかと思えば、それも過去の栄光が如く亡者が跋扈するこの地の名を、俺は本能的に記憶した。
【ロスリックの高壁】
頭を抑えて呻く。この頭の中に重々しい音と共に地名の記憶が流れ込んでくる感覚は、どうにも慣れない。
そして近くの篝火を探すべく高い段差の前まで歩いて、下を見下ろしてみると。
『うーん、うーん......ああでもないし、こっちからは無理だし......どうしたものか、まったく......』
騎士の格好をした男が篝火の前で悩んでいるのが見えた。
ロスリックの高壁
かつて堅牢を誇った、王子ロスリックの盾
長い歴史を絶対的な盾として台頭し続けたこの壁は
だが亡者によって内から崩壊しつつある
ロスリックの高壁は、人を喰う
いつの時代からかは定かでないが
いつからか、人々の間で噂されるようになった