ドールズフロントライン ~ネゲヴちゃんの新婚日誌~ 作:弱音御前
どうも、弱音御前です。
比較的、短めな新婚ネゲヴちゃんのお話ですが、最後までお楽しみいただければ嬉しいです。
それでは、今週もどうぞごゆるりと~
ごきげんよう。私はネゲヴ。戦闘のスペシャリストであり、このグリフィン基地で唯一、指揮官と誓約している戦術人形よ。
私たちの日々の活躍が認められ、当グリフィン基地に7日間の休暇が与えられることになった。
誓約したはいいものの、これまで忙しさにかまけてそれらしいことができなかった私にとっては絶好のイベント到来である。
初日は、まず肩慣らしという事で指揮官の部屋のお掃除。最中、ちょっとしたトラブルがあったのだが、思い出すとメンタルがオーバーヒートしそうなのでそれは置いておこう。
本日からが本番。さあ、スイートな一日の幕開けといきましょう。
2日目 午前
朝食を終え、今は午前のフリータイム。本日の私と指揮官は2人揃ってお部屋で読書に没頭していた。
もっとみんなの事を知りたいという事で、勉強タイムに突入した指揮官に私がお付き合いした
という次第である。
「・・・」
「・・・」
デスクに座る指揮官と、その後ろでテーブルに頬杖を付く私。お互いが部屋にいるのに無言の
ままで1時間近く過ぎるなんて、未だかつてなかったことである。
どうせすぐに飽きて私に絡みついてくるんだろうとタカをくくっていたので、ちょっと驚き。
むしろ私の方がもう飽きてしまって、いつのまにか指揮官の背中観察になってしまっていたり
する。
「ん~・・・いよぉ~し」
パタン、と本を閉じて指揮官が大きく伸びをする。
よし、これでもうお勉強は終了! と思いきや、指揮官は今まで読んでいた本をデスク横の棚にしまい、また新しい本を取り出す。
その様子を目の当たりにして、心底ガッカリした私はテーブルに思いっきり突っ伏してしまう。
私たちの事、つまり、銃器に関しての事をもっと知りたいと言って勉強してくれているというのはとても嬉しい。
どれだけ勉強してくれても構わない・・・と言いたいところなのだが。
(寂しい! さみしいさみしいさみしいさみしい! さ~み~し~い~!)
もう私が限界だ。指揮官に構ってほしくて仕方がない。
お勉強が終わったら一緒に出掛けるという約束をしているが、何時からという話までしていなかったのは私のミスだった。
だって、指揮官がこんなに集中して勉強に取り組むだなんて思っていなかったのだ。私の予定
ではもうとっくに2人で外のマーケットに移動中である。
(はぁ~・・・負けた気分だけど、仕方ないか)
私の方が折れる事になってしまうのは悔しいが、人形の私にだって欲求というものはある。
せっかくの休暇の最中にまで我慢するなんてそれこそ愚かしい行為だ。という言い訳で自分自身を納得させて立ち上がる。
「随分と熱心に勉強してるじゃない」
ちょっと偉そうに声をかけてみるが、内心は裏腹。ようやく指揮官とお話できるきっかけが
できた事が超嬉しい。
「うん。やっぱり、履歴書だけじゃ分からないことって沢山あるのね。今まで知らずに話を聞いたり編成を組んだりしてて反省だわ」
私たちの分身ともいえる銃器は、世界各地で数えきれないほどの種類が生み出され、千差万別の道を歩んできた。
もっとも輝かしい功績を残したと称えられるものもいれば、ライバルに蹴落とされて表舞台から姿を消してしまったもの、果ては、計画段階で開発が中止されて幻のモデルとなったものも存在する。
この基地に在籍する100名近い娘達の事を完全に理解しようだなんて、それはいくら私の最愛の指揮官であってもおこがましい事だと思う。
資料には書かれない、私達だけが知る事実というのも沢山あるのだから。
「休暇明けからは、もっとみんなに頼られる指揮官になれるよう頑張らないとね」
でも、例え私達の過去の全てを知らなくたって、指揮官は今の私達を誰よりも理解して想ってくれている。
私も、きっと他の娘達もその事実だけで十分。それだけで私たちの疑似感情モジュールは彼女のもとで最高のパフォーマンスを発揮することが出来るのだ。
だから・・・もう勉強は終わりにしてお出かけの時間にしませんかね?
「そっちは読むもの無くなっちゃったの? じゃあ、一緒にお勉強する?」
「ふん、スペシャリストの私がなんの勉強をするっていうのよ? ・・・でも、指揮官の指導、
っていう事なら付き合ってあげてもいいわ」
お勉強続行というのは残念だが、指揮官からご同伴のお誘いをいただけたのは僥倖。心の中でガッツポーズである。
「で、どんな本を見てるの?」
指揮官の胸の前、デスクの上には5.56ミリ弾30連装マガジンくらいの厚さの本が一冊。
どうせ、〝世界の名銃とその歴史〟とかいう月並みな題名の資料集なのだろう。
そんな風に予想をたてつつ指揮官の肩越しに表紙を覗き込んでみる。
そこには〝変態銃図鑑〟の文字が。
「なんて本読んでんのよ!?」
今までの綺麗な気分を台無しにしてくれた題名を目の当たりにして、思わず指揮官の後ろ頭を引っぱたいてしまった。
スパ~ン、と軽やかな音が室内に木霊する。
「いった~!? い、いきなり何するのよ!」
「そんな本で私たちの歩んできた道が分かるものか!」
「これはさっきまで読んでたのじゃないもの。ちょっと気分転換で読もうと思っただけ
なのにぃ~」
思いのほか力を入れすぎてしまったので結構痛かったのだろう、頭を押さえながら抗議の眼を
向けられ、つい怯んでしまう。
冷静に考えてみれば確かに、デスクの上の本は読み終えた本と入れ替わりに出したものだった。実際、本を戻した棚に目を向けてみれば、そこには私が思い浮かべていたような題名の本が戻されている。
手を出したのは少しやりすぎてしまったかもしれない。
「もう怒った! お返しっ!」
言葉と共に指揮官が繰り出した閃光の平手が私のおでこに直撃した。
「あだっ!!?」
ぺち~~ん! と、やや情けない音が室内にエコー。私はヒリヒリとするおでこを押さえながらたたらを踏んでしまう。
私がおでこを嫌がると知ってから、指揮官は私へのお仕置きに〝おでこの刑〟を用いるようになってしまった。
今のように1撃で済むのは良い方で、ヒドイ時は身体をホールドされ、それはもう拷問みたいなおでこ責めを浴びせられたこともある。
とにかく、私にとってはかなり効果的なお仕置きなのだ。
「はい、これでおあいこ。いいね?」
「うぅ~・・・はい」
指揮官がトンデモナイ本を読もうとしていたのが原因とはいえ、先に手をだしてしまったのは
私だ。大人しく終戦協定に同意して頷いておく。
「うん。じゃあ、こっちおいで。仲直りしよ」
可愛らしい怒り顔から一変、指揮官が笑顔で自分の膝をぽんぽんと叩いてお招きする。
これは、お膝に座って良いよ、という私が大好きなヤツである。
大好きだからといって、あからさまにはしゃいで駆け寄っていったりしない。犬や猫じゃないんだし、私。
「むぅ~・・・」
まだちょっと拗ねています感を醸しつつ、でも、素直に指揮官のもとに歩み寄ると少し乱暴に
お膝の上に腰を降ろす。
本当は上機嫌でお座りしたいところだが、機嫌を直していると分かったら指揮官は調子づくに
決まっている。なので、不機嫌に見せているのはちょっとした駆け引きというやつだ。
「仲直りのぎゅ~~~っ♪」
幸せそうに言いつつ、指揮官が私のことを背後からぎゅっと抱きしめてくれる。
柔らかい感触と仄かな温もりと優しい香りに包まれ、どうにかなってしまいそうな心地よさに
自然と頬が緩んでしまう。
・・・うん、いい。心底気持ちいんだから、もう駆け引きとかどうでもいい事は気にしないで
素直に喜んでおけばいいのである。
「機嫌直してくれた?」
口を開いたら気の抜けた声が出ちゃいそうだったので、頷いて答えを返しておく。
悦楽の海に浸って物言わぬ私は、今や指揮官のぬいぐるみ状態だ。
「よしよし。このままお勉強の続きやろっか?」
「このまま? 私は良いんだけど、その位置から見えるの?」
「頭をちょっと横にズラせば平気よ」
お母さんに本を読んでもらっている子供のような状態になっているが、私は一向に構わない。
むしろなんか、新しい境地に足を踏み入れてしまったような気すらしてくる。
「指揮官がそう言うならいいけど」
「それじゃあ、変態銃図鑑はっじまっるよ~」
お気楽な掛け声と共に私を抱くように回された指揮官の手が図鑑を開く。
目次のようなページをペラペラと捲り、まず現れた銃は、ハンドガン〝Thunder〟だ。
・・・今更ながら、もし自分がこの本に掲載されていたらどうしようか、という不安に駆られてきてしまう。
「おぉ~、サンダーちゃんだ。確かに、ちょっと変わった見た目の銃だなって思うけど、そんなに他の娘達と違うの?」
「まあ、あの娘はハンドの中でも抜きん出て変わり種よね」
「ふ~ん、どんなところが?」
本にはその説明がイラスト付きで丁寧に載せられているので、それを読めばいいじゃんか、
というところだが説明を求められては仕方がない。
指揮官への指導開始だ。
「あの娘は使用している弾丸が別格なのよ。弾丸の種類に関しては勉強したかしら?」
「ん~・・・大きく分けて拳銃弾とアサルト弾とライフル弾の3種類っていうくらいしか
知らない」
それは、以前に私が教えてあげた話だ。その時は私が忙しかったので簡略化して答えたのだが、今にして思うとちょっと粗すぎる説明だったかな、と思えなくもない。
「ハンドっていう枠ぐりから見ると拳銃弾を使うところなんだけど、あの娘はライフル弾を使用するのよ」
それも、最大クラスの50BMG弾である。本来なら、DSRをはじめとする対物ライフルの
奴らが使う弾をあの小さい銃身で撃とうというのだから、規格外と呼ぶ他にない。
「たしか、コンちゃんもそうだったよね。2人とも親戚みたいな?」
指揮官がコンちゃんと呼んでいるのはコンテンダーの事である。
「高威力の弾丸を使用する単発拳銃っていうコンセプトは同じだけど、弾のサイズも機構も出身も全然違うわよ」
特に目立つ違いは給弾方式か。
コンテンダーはトップブレイク式で、ブレイクしたバレル内から薬莢を直接引き抜いてリロードを行う。
かたや、サンダーはバレルの最後尾に蓋が付いており、そこを開いてバレル内に薬莢を装填
する。さながら、旧世代の戦車主砲のような感じだ。
可動部を極力減らした、見るからに頑強そうなあのフレームは発砲時の衝撃に耐えるためのものに他ならない。
「ふと思ったんだけど。DSRなんかと同じ弾丸なのよね? にしては2人の火力に大きな差が
出ているような気がするんだけど」
「それはバレルの長さが違うからね」
「バレル長で弾丸の威力も変わってくるの?」
「弾っていうのは火薬の炸裂で推力を得ているわけなんだけれど、その炸裂によって弾が加速されるのはバレルの中を通過している時だけなの。50BMG弾のような大口径弾をしっかりと速度を乗せて撃ち出すには、ライフルくらいのバレル長が最適なのよ。拳銃サイズとして開発された
サンダーはどうしてもバレル長を短くせざるを得なくて、その分、弾の速度が落ちて威力も
下がってしまうの」
おそらくは、そういった無理を抱えてしまったニッチな設計がこんな本に載ってしまった原因なのだろう。
「そっか・・・じゃあ、本当は戦闘が苦手な娘なのかな?」
「ハンターのサイドアームとして使われることが多かったみたいね。そんな出自だから、今は
あの娘なりに頑張ってるのよ」
そもそも、大火力の単発拳銃というもの自体が対人には不向きな銃である。
サンダーは技量と立ち回りでソツ無く戦闘をこなしているが、これからはその事も踏まえた編成で彼女をフォローしてもらえればいいだろう。
「サンダーに関しての説明はこんなものかしらね」
「おっけ~。お次は・・・と」
指揮官が次のページをめくり現れたのは、これまた独特のフォルムをもつ銃である。
「ヴィヴィちゃんだ! スリムな見た目でカッコいいよね」
指揮官がヴェクターの事を褒めているのはちょっと気にくわないが、彼女とは何度か同じ部隊で出撃したことがあるので実力はよく知っている。
褒められるのに値する相手に対してとやかく言うほど私は傍若無人なつもりはないので、これは黙認としておく。
「んで、ヴィヴィちゃんはどう変わった銃なの?」
「あの娘は発砲時の反動を軽減する機構が付いてるんだけど、それが特殊ね」
発砲によるマズルの跳ね上がり、マズルジャンプは銃火器にとっては付きものの現象であり、
精確な射撃を妨げる要因の一つでもある。
銃本体のウェイトバランスを調整したり、コンペンセイターと呼ばれる、燃焼ガス圧で跳ね上がりを抑える部品を取り付けたりと、マズルジャンプを抑制する方法はいくつかあるが、ヴェクターは銃の機構としてマズルジャンプ対策が織り込まれているのだ。
「45口径弾だと、ガバ子ちゃんと同じだったよね? 訓練で使ったことあるけど、あれだけの
反動が抑えられるならすごく楽になるね」
「身を以って知っているのなら話は早いわね。あの娘の戦績が優秀なのはそういうことよ」
「それで、どういう構造で反動を軽減しているの?」
そう指揮官に言われれば、喜び勇んで答えを返したいところなのだが、残念ながらそれはでき
ない相談だ。
ヴェクターがどうやって反動を軽減しているかなんて、私はこれっぽっちも知らないのである。
だって、私が日頃から気にしているのは指揮官だけなのだし。
「そこに書いてあるでしょ? たまには自分で読解してみなさいよ」
「そうね。勉強しようって言いだしたのは私だし、少しは自分で理解しないとだよね」
いかにも知っている雰囲気を醸しつつ話を逸らした私にあっさりと流される指揮官。ちょっと
悪い事をしたような気になってしまうが、私のプライドの為だ。仕方ない。
私の肩越しから図鑑にじっくりと目を通す指揮官に並び、私もこっそりとページに目を通す。
本来、炸裂反動は弾が発射される方向と反対側に発生するものだが、ヴェクターは、平べったいフレームに内蔵されたスライダーという特殊な部品で反動のベクトルを下方向に逃がしている
らしい。
銃を構えた際にトリガーを握る手の位置が銃身とほぼ同一線上に位置しているというのも、
サブマシンガンにしてはやたらと精密な射撃ができる理由の一つになっているようだ。
なるほどね~、と思わず口からこぼれてしまいそうになるほど独特の構造をもったヴェクターは先ほどのサンダーとは違った意味でとても稀有な銃だといえるだろう。
・・・それにしても、この反動軽減機構の名前〝クリス・スーパーVシステム〟とか、いちいち名前がカッコよすぎてちょっと羨ましい。
この後に続き、G11、キャリコ等々・・・クセのある銃が軒を連ねていたが、指揮官と一緒に読み進めていく中で私はこの図鑑を少しだけ見直してあげた。
この図鑑は特異な部分を持つ銃をけなすのではなく、それを長所として取り上げてくれていたのだ。図解も分かりやすいしスペックも歴史も正確だし、これなら勉強するのにとても良い資料になるだろう。
まったくもって、こんなタイトルになってしまっているのがとても惜しい図鑑である。
「ふぁ~・・・気が付いたらこんな時間か。マジで読み耽っちゃったわね」
本を閉じたところで時計に目を向けてみれば、もうお昼ご飯真っただ中の時間だった。
レストランエリアはこの時間になると大混雑必至なので、早めに行こうと指揮官と話していたのだが・・・これではもう時間を遅らせて混雑を回避するのが賢明だろう。
「みんなが掃けるまでもう少しゆっくりしていましょうよ。慌ただしい中で食事なんてしたくないわ」
言って、指揮官の身体に背中を預ける。
机の上に置かれていた指揮官の両腕が私の優しく抱いてくれて、それはもう私にとってはまさに至福の瞬間である。
「また、カリンちゃんに本を頼んでおこうかな。目標はうちにいる娘全員のスペック全部記憶!」
「はいはい、頑張ってみなさいな。私の事はまっさきに記憶してよね」
「ああ、ネゲヴの事なら既にバッチリ記憶済み」
「言うじゃない。なら、本人の前で発表してみなさいよ」
能天気指揮官のくせに自信満々でのたまうものだから、どの程度のものかけしかけてみる。
「えっと~・・・5.56ミリ弾を使用する軽機関銃で、名前は砂漠地帯の名に由来する。
バリエーションはスタンダードモデル、伸縮ストック仕様のアサルト又はコマンド、フルサイズ弾モデルのNG7、5.56ミリ弾の特殊部隊モデルNG7SF。基本設計は別の軽機関銃をベースに
しているが、砂漠地域での使用に合わせたオリジナル機能を搭載する。フルオート射撃に3つの
モードが存在し、ポジション1はマガジン給弾用でファイアレートは分速850-1050発。
ポジション2はベルト給弾用でファイアレートはポジション1と同等。ポジション3はガス圧を
高めて砂まみれの状態でも使えるようにした悪環境モードでファイアレートは分速950-1150発。サイズは、スタンダードモデルが全長1020mm。重量は」
「もういいもういい! 私の事よ~く理解してるって分かったから!」
放っておいたら余計なことまで言われそうなので、早めにストップをかけておく。
指揮官に私の事を理解してもらえるのはとても嬉しい事なのだが・・・ここまでいくと
ストーカーじみていてちょっとキモイな~とか思ったり。
そんな、連休2日目の午前である。
銃知識編、といった感じの内容になりました今作。
ガンオタな当方なので、ちょくちょくこういった回を挟んでおります。
ちょっとした戯言なので、ゴマ塩程度に覚えておいてくれればと思います。
次週の投稿も、どうぞお楽しみに。
弱音御前でした~